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夏休み
ギルド依頼消化
しおりを挟む「うーむぅ・・・」
ベレー帽を被った一人の少女が机の上に置かれた何十枚か重なった紙を眺め、腕を組んで唸っていた。
ここはルノワール学園の近くにある街、クルトゥのギルド。
屈強な風貌の戦士などが滞在するその中で、明らかに不釣り合いな雰囲気の少女が受付をしていた。
「どうしたの・・・ってああ、それかー・・・」
そんな彼女に近付くもう一人の背が高めの女性がやってくる。
彼女も重なった紙の一番上を見ると顔を歪めると同時に溜息を吐く。
「誰も受けてくれない依頼書ね・・・」
「はい。大体の内容が面倒なものや危険なものだったりする割に報酬があまり良くありませんし、急を要するものだったりで誰もやりたがらないんですよね。期限が近いものや急ぎのものもあるのに・・・」
「そうなのよねぇ・・・」
「そーなのかー」
そう呟いて三人同時に溜息を吐いた。
違和感を感じた女性二人がバッともう一つ溜息がした方へ顔を向ける。
そこには黒ずくめのローブを纏った高身長の男が依頼書を覗くように見ていた。
「アヤトさん!」
「いらっしゃいませ。今回はどのような用件でしょうか?」
(切り替え早っ!?)
一人はアヤトの突然の出現に驚いていたが、もう背の高い方の女性は素早く切り替えていたのにも驚いてしまっていた。
「用件って程の事でもないよ。普通に冒険者として依頼を受けに来たんだ」
「そうですか。アヤト様程の方でしたら、丁度良い内容のものがあちらにーー」
「その依頼、解消できてないんだろ?俺が受けよっか?」
アヤトがそう言うと、その後方で冒険者たちが「おぉ!」と声を上げる。
「えっ!?で、でも・・・」
「内容は薬草採取のものや、少ない報酬での盗賊討伐などもありますがよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない。とりあえず見せてくれ」
ベレー帽の少女が「はい」と言って積まれた依頼書を全て渡す。
アヤトは「ふむ」と呟きながら二つに仕分けしていく。
受付の二人がその行動に疑問を感じつつも見ていると、仕分けし終わったアヤトが後ろを振り返る。
「おーい、お前らも来い!」
アヤトが後方に控えさせていた者たちを呼ぶと数人の少年少女たちがやって来る。
「コレをお前たちでやってくれ。こっちを俺がやるから」
そう言って仕分けした少ない方の依頼書を一人の少年に差し出した。
「え、ちょ、ちょっと待ってください!?」
「ん?何か問題でも?」
「問題も何も・・・この子たちってまだ成人してない冒険者ですよね?保護者がいないと依頼は受けられないんですよ!?」
「ああ、知ってる」
「え?・・・えーっと・・・保護者って貴方じゃないんですか?」
「それくらい把握しといてくれ。保護者は俺と、少し前にこっちのミーナも登録した筈だが?」
「・・・・・・」
アヤトの言葉に目を見開く少女。
するともう一人の女性が分かっていたと言わんばかりに一枚の用紙を少女の目の前に差し出す。
そこの保護者という欄には「アヤト」の下に「ミーナ」とあった。
「ちなみにミーナさんという方は・・・」
「ん」
少し伸びた黒髪に猫耳の付いた少女が一歩前に出る。
「・・・はい。冒険者ランクCのミーナ様ですね、失礼しました・・・ではお気を付けて行ってらっしゃいませ」
申し訳なさそうにしながら頭を下げる少女。
しかしミーナはそんな事を気にせずにアヤトに振り返る。
「じゃ、行ってくるね」
「行ってきます、師匠」
「おう。一応ここら近辺の薬草採取や弱い魔物相手だが気を付けて行け。無理だと判断したらいつも通り全力で逃げとけ」
「了解です」
「俺もアヤトと行きたいんだけど・・・」
「こっちを早く終わらせて合流するから。それまで我慢して雑草でも抜いといてくれ」
アヤトの言葉を聞いたメアは「あいよー」と渋々承諾して、カイトたちと共にギルドから出て行った。
それを確認した受付嬢たちは呆れ気味に溜息を吐く。
「溜息吐いてばっかだな、あんたら」
「ストレスの溜まる職場ですからね。それから大事な薬草を雑草扱いしないでください」
「それにそんな量の依頼を今日中に終わらせられるんですか?」
「ああ、問題ない。どれもここからそんなに離れてないし」
「一つ一つを見たら「ギルドから離れてない」というだけで、全部を回ろうとしたらかなりの距離になりますよ・・・」
すると突然出入り口の扉が勢い良く開き、一人の幼い少女が駆け込んで来た。
その出来事に辺りが一瞬騒然としたが、一人のヘラヘラとした男が少女に近付く。
「おいおい、嬢ちゃん?ここはお前のような子供が来る場所じゃないぞ?」
「助けておじさん!!」
「お、おじ・・・どうしたんだ?」
涙をポロポロと流す少女の尋常じゃない様子に、(おじさんと言われた)叫びに戸惑いながらも男は事情を聞こうとした。
「おねーちゃんが悪いおじさんに連れて行かれちゃったの・・・!」
「悪いおじさんに・・・?それってどんな人だったんだ?」
「えっとね、みんなお顔が分からないの。そのオオカミの人たちが来たらみんなのおとーさんとおかーさんが赤いのがぶしゃーって・・・それでねーー」
「お、おう・・・?」
全員、その幼過ぎる言動が何を伝えようとしているのか理解できなかった。
ただ一人を除いて。
「・・・・・・」
「どうしたら良いのでしょう・・・あら、アヤト様?」
アヤトは神妙な顔付きをして無言で少女に近付き、同じ目線の高さに屈んだ。
「なぁ、その「オオカミの人」ってなんでオオカミなんだ?」
「え?えっとね、ここにオオカミがあったの!」
そう言って少女は自分の左肩を指差した。
「・・・なるほどな」
「何か分かったんですか、旦那!?」
「多分、盗賊か何かだろう。肩に狼のエンブレムを付けた有名な盗賊みたいな奴らっているか?」
「いえ、私は知りませんが・・・」
「・・・まさか」
そう言って受付嬢の一人が奥へと行き、バサバサと紙が散らばるような音が聞こえたと思うとすぐに帰って来た。
そのまま少女の元へ向かい、一枚の紙を見せた。
「もしかしてこんな絵をしてたかな?」
さっきまでの堅い口調を砕いた話し方で語り掛ける女性。
そしてその絵をみた少女はコクリと頷く。
「・・・そう、やっぱり」
「その絵は?」
「少し昔に暴れていた名のある盗賊団の紋章です。通称「ウルフズ」」
ざわりと周囲が動揺する。
その中からは「マジか」「嘘だろ・・・」という声が飛び交う。
「数年前にとある国から依頼が舞い込み、ギルド内にて大規模な討伐隊が組まれたのです。そしてその国の騎士と合同で向かったのです」
「随分大掛かりだったんだな。それだけ向こうも大人数だったってことか?」
「はい。それこそ街一つ分の・・・いえ、事実盗賊たちだけの街が作られていました。そこに向かわせましたが・・・結果は痛み分け。向こうにも相当の被害を与えましたが、こちらも甚大なものを受け、しかも頭領を逃がしてしまいましたのです。実質、討伐は失敗。しかし最近は鳴りを潜めていたのですが・・・」
「動き出したって事は・・・まさか準備が整ったって事ですか!?」
受付の少女の一言で騒めく声が更に大きくなる。
「ふーん、ウルフズねぇ・・・ちなみにその盗賊たちがねぐらにしてたって場所は?」
「え?・・・ここです、けど・・・?」
聞かれた女性は地図を取り出して指を指すと、アヤトは「おっ」と声を漏らす。
「あんま遠くないな。じゃあ、ついでに行ってくるか」
「「えぇっ!?」」
今度はアヤトの一言で全員が驚き、さっきまでの喧騒がなくなり静まり返る。
「なんでそんな近所に買い物に行く軽さなんですか!?」
「しょうがないだろ、近いんだから。それに必ずそこにいるとは限らないんだし」
「そうでしょうけども・・・」
「おにーさん!」
立ち上がったアヤトの足元で少女が何かを訴えるように見つめる。
「どうした?」
「コレ!ほしゅー!」
少女はそう言っていくつかのビー玉を差し出した。
アヤトはその中の一つを摘み取り、ニッと笑って少女の頭を撫でた。
「報酬な。補習なんて絶対学生に聞かせちゃダメだぞ?・・・じゃ、俺も行ってくるかな」
アヤトはそう言ってギルドを出て行った。
「ほとんど報酬無しでウルフズ討伐を請け負うなんて・・・やっぱ流石だぜ、旦那は!!」
誰かがそう言った次の瞬間、ギルド内の冒険者たちが叫び盛り上がりお祭りのような活気に包まれ、受付嬢たちは呆れていた。
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