花衣ー皇国の皇姫ー

AQUA☆STAR

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再思編

第30.5話 風来少女

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「まさか、お前から遊びに誘ってくれるなんて、珍しいな」

 日々斗は隣を歩く御剣にそう言う。二人は葦原村出身で、可憐の下で剣術の稽古に励んでいた仲であることから、互いが従者・近衛となった今でも、こうして二人で城下に出歩くことがある。

 大抵は日々斗の方から誘いをすることが多いが、今日は珍しく御剣の方から彼を誘った。

「ついこの間、偶然美味しい麺屋を見つけてな。麺好きのお前に薦めようと思っていたんだ」
「なるほどな。知っていると思うが、俺の舌はそこいらの麺じゃ満足しねぇぞ」
「ふっ、その強気がいつまで続くだろうな」

 結果、一口目で日々斗は麺に心を奪われていた。

「な、なんだこの味は…旨すぎる…」
「ここの店は、汁を作るのに豚の骨と野菜を半日以上煮込んでいる。そして、平打ちの麺が汁と相性が良い」
「それにだ。泡立てることで平打ち麺に汁が絡みやすくしている。普通の麺も旨いが、つけ麺はもっと旨いぞ」

 二人が麺を堪能していると、隣の席に自分たちの倍以上はある器に山盛りに盛られた麺が運ばれてくる。その麺の多さに、思わず吹き出しそうになる。

「は、はぁ!?」

 驚いて隣の席を見ると、そこには小夜と同じくらいの年頃の少女が、目を輝かせて座っていた。

「おおっ、これが噂のつけ麺超特大、添え物増し増しというやつか!旨そうじゃ」
「ちょ、ちょっと待て。嬢ちゃん、まさかこれ一人で食べるつもりなのか?」

 御剣がそう言うと、少女はさも当然の様に首を縦に振る。

「なんじゃ其方ら、まさか、余がこの程度の飯を食えぬと思うとるのか?」
「いや、まぁ」
「本気かよって思うわな」

 すると少女は割り箸を割り、超特大の麺の山を瞬く間に解体していく。その小さな体からは到底想像がつかない程の食べっぷりであった。

「なん、だと?」
「まさか…そんなことが」

 唖然とする二人を他所に、少女は超特大の麺を完食してしまう。麺一本も残りのない、綺麗になった器が目の前に置かれる。

「ふぅ、旨かったのじゃ…」
「本当に食べきりやがった、この娘っ子」
「ふっふっふ、どうじゃ。恐れ入ったか其方ら」
「あぁ、正直引いてしまった」

 少女は満足した顔をすると、突然閃いたのか御剣たちを指差す。

「決めた。其方ら、余の付き人として皇都を案内するのじゃ。余が一人で回るより面白そうじゃ」
「はっ?」

 唐突の命令に、二人は声を合わせた。

 ◇

 ひょんな事から少女カヤの皇都巡りを案内することになった二人であったが、当初予定していた闘鶏、丁半が子どもには早いという事で行けなくなり、行き先を決めあぐねていた。

 元々、皇都には飲食店や雑貨屋はあるものの、娯楽施設は数少ない。歓楽街は飲み屋や大人の店が多く、子どもの遊べるところがほとんどない。

 仕方なく、二人はカヤを皇都の雑貨屋に連れて行く。
 古今東西、さまざまな著者が筆をとった書籍を扱う書店。煌びやかな髪飾りや着物が売られる呉服屋。他国から仕入れた珍味や動植物を扱う行商屋。

 意外にも、カヤはどの店に対しても食いつきが良く、数点ほど気に入ったものを買ってきた。

「ふむ、なかなか良い買い物をしたぞ」
「そりゃ良かった」
「さて、次はどこに連れて行ってくれるのだ?」
「行きつけの甘味屋さんだ」

 御剣たちは、皇都の繁華街の路地に入り、暖簾のない店の入口を開ける。

「あら、いらっしゃい。御剣くん、日々斗くん」
「こんにちは、珠那さん」
「お連れの方は?」
「余はカヤと申す。ここが、御剣と日々斗の言う絶品の甘味屋で、其方がここの女将か?」

 カヤの特徴的な言葉遣いに、珠那はくすりと笑う。

「可愛らしいお嬢さん。此方へどうぞ、絶品と言われる甘味をご用意致しますわ」
「うむ。良きにはからえ」

 この時点で、御剣と日々斗はカヤの違和感について二つの結論にたどりついていた。

・本物の貴族か、王族
・ただの背伸びしたお子ちゃま 

 二人としては、後者であれば全くの問題がないのだが、もしも前者であった場合、問題にならないか心配していた。

「はい。こちらが西洋出身から伝授されました、シュークリームで御座います」
「しゅう、くりぃむ?」
「生地の中にとろとろの甘いクリームと言うものが入っています」
「ふ、ふむ。食べてみるか…」

 カヤは両手で恐る恐るそれを手にとり、小さな口で生地を頬張る。

「こ、これは…旨い、大変美味であるぞ女将!」
「ふふ、喜んでいただけましたでしょうか?」

 ローズ直伝のシュークリームは、子どものカヤの舌を一瞬にして奪ってしまう。御剣たちも口にするが、やはり美味しくて何個でも手をつけてしまう。
 それから幾つもの甘味を堪能したカヤは、両手にありったけの甘味を土産に持ち、店を出る。

「お迎えにあがりました、カヤ様」
「おぉ、シオン。待ってくれておったか」

 店の前にいたのは、黒い眼帯を左目に着けた、長身の麗人であった。その腰に刀を差していることから、彼女が武人であることは御剣たちもすぐに理解した。

「では、御剣、日々斗。とても良い1日じゃったぞ。其方らとまた会えるのを楽しみにしておる」

 ようやく解放された御剣たちは、馬車に乗り込むカヤを見送り皇城への帰途についた。

 ◇

「姫殿下、またそんなに色々買われたのですか…」
「うむ!この甘味、とても美味じゃったぞ。これは父上への土産じゃ」
「では、腐らぬ様冷える呪術でも掛けておきましょうか」
「ひゃっ、冷たいぞシオン!いきなりするのではない!」
「申し訳ありません。話は変わりますが姫殿下、皇国はどうでしたか?」
「ふむ。民も明るく、町も活気に溢れておる。何よりも、人情味のある者たちじゃった。豊葦原瑞穂皇国、良き国じゃ」 
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