花衣ー皇国の皇姫ー

AQUA☆STAR

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総撃編

第47話 託された願い

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 皇国の東方を管轄するのは、皇国軍第4軍である。

 実の所、第4軍のそのほとんどは、第一線から引退を余儀なくされた老兵や、逆に経験不足のために第一線に赴けない新兵や少年兵で構成されている。

 それは、第4軍の守護する東方の地形に由来する。

 皇国の東方は伊勢野灘に面しており、その大半が入り組んだ地形となっている。そのため、海岸から陸地に上がることのできる場所は限られており、万が一水軍が侵攻してくるのであれば、南方の海岸線を上陸してくるとされていた。

 さらに東方には、大軍が容易には超えられない山々が連なっている。万が一敵に侵攻されたとしても、中央からの増援を送り込む時間が確保できるとされている。

 そうした防御向きであり、かつ敵の侵攻が予測されない地の防衛に、費用を割くことは難しく、南の広く低い海岸線を防衛する第5軍に予算を回すことが妥当であった。

 しかし、この方法が裏目に出ることを、この時誰も予想していなかった。


 ◇


 皇国東方 沿岸部 妙和みょうわ


 烈に向けての皇国・斎国・胡ノ国の三国連合軍の侵攻が開始された翌日、ここ妙羽は戦場から程遠く、その影響が感じられない。

「ふぁあ、なぁ千爺さん。今頃連合軍はどうなっていると思う?」

 新兵として皇国兵に成り立ての青年貴十郎は、自らの属する班の班長である老兵、千次郎に話を投げかけた。

 新兵にとって、戦いのない地での暇つぶしは、戦場に出て活躍した老兵の話を聞くこともその一つである。

「そうじゃなぁ。仁様が指揮をとっているとすれば、もう烈を落としているかもしれんなぁ」
「そ、そんなに砦を早く落とせるものなのか!?」
「阿呆、戦を舐めてはならんぞ。戦の勝敗を決めるのは将の質と兵の練度、これらが上手く釣り合ってこそ、最強の軍として出来上がるのじゃ。此度の連合軍は、我らの侍大将殿と、胡ノ国は咲洲将軍がおる。元属国の国境にある烈程度の砦であれば、2日も掛からんじゃろ」
「と、砦を2日かぁ」
「さっすが爺さん、やっぱ言うことが歴戦の兵士って感じだわ」
「ほんとだなぁ」

 沿岸部の櫓では、千次郎率いる海守と呼ばれる見張り番の班員が、担当する時間の見張りを行なっていた。

 彼らは敵が来た場合、その報をいち早く鐘で知らせ、山を越えて本軍と合流することになっていた。

 要するに、敵が来ればそれを知らせ、後は逃げる。ただそれだけが、彼らに与えられた任務である。

「はぁ、俺も早く瑞穂って人と一緒に戦場に出てみたいなぁ」
「これっ、皇様を呼び捨てにするんじゃない」
「千爺さんは羨ましいなぁ。斎国との戦いで瑞穂様の下で戦ったんだろ?」
「まぁ、そうじゃが。しかしあれは…あれは戦と言うには程遠い地獄のような戦いじゃったわ」

 新兵たちは、千次郎の生々しい話を聞いて背筋を凍らせる。千次郎は元々あの百鬼夜行から生き残った一人であり、目の前で無残にも妖に食い殺される仲間の姿を、その目に焼きつけていた。

 そして同時に、その妖に勇敢に立ち向かった仲間と、傷だらけになりながらも妖を倒し続けた皇や近衛大将、巫女たちの事も赤裸々に語った。

 結果、話を聞いた新兵たちは戦に出ることへの期待と、皇たちへの尊敬の意に溢れてしまった。

「おーい、千次郎さんやぁ。そろそろ交代の時間じゃよ!」
「おう源さん、ちと早えが構わんか!?」

 深夜から明朝までの見張りを終えた千次郎たちが、交代にやってきた班と見張りを変わろうとしたときだった。

「ん…んだあれ?」

 貴十郎が水平線に目を凝らす。

「千爺、あ、ありゃ一体なんだ!?」
「ッ!!」

 その声を聞いた千次郎が慌てて櫓から水平線上に目を凝らす。

「貴十郎、鐘を鳴らせぃ」
「千爺さん、あれって…」
「ええから早よせぃ!」

 いつもは穏やかな千次郎が怒声をあげる。彼らの眼前で起こっているのは、それほどまでの危機感を募らせるものなのだ。

 妙和村に鐘の音が鳴り響く。

「お前たち、さっさと年寄り連中を連れて山へ逃げぇ!」
「でも、千爺さん、戦わないのか!?」
「阿呆!あれだけの数、ざっと見積もって1万程度おるわ!わしらが10や20そこら戦ったところで、ただの犬死じゃ!」
「でもよ!」
「急いで本軍に知らせて態勢を立て直すのじゃ!急がんか!」

 妙和の村が慌ただしくなる中、海上を進む宇都見国の船は村の岸に向かって進み続ける。

「間に合うか!?」
「千爺、これで全員だ!」
「ようし、陸に上がるまで時間が掛かるはずじゃ!それまでに山へ逃げるぞ!」

 千次郎たちが村を後にした直後、小舟に乗り移った宇軍兵士たちが、陸へと上がる。

「は、早ぇ、奴らもう陸に!」
「良いから急げ!」

 その先鋒に一際目立つ人物がいた。

「辺鄙な田舎ねぇ」

 人丈はある大鎌を肩に担ぎ、煙管を咥えて砂浜に降り立ったのは、宇都見国の現君主である元王の妃、氷の女王の異名を持つ咲耶波姫であった。

「村の連中は、私たちに気がついて逃げたのね。このもぬけの殻の村を拠点にしなさい。飛龍」
「ここにおります。咲耶波様」

 咲耶波に呼ばれた飛龍という男は、彼女の前に跪く。

「部隊を連れて山狩りをなさい。奴らに援軍を呼ばれるのは面倒よ。皇国人は全員皆殺しに」
「はは!」
「上手くいけばご褒美として今晩はあなたと寝てあげるわ。だから精々、気張ってやりなさい」
「なんたるご好意!この飛龍、謹んで任務を遂行いたします!」

 飛龍は部下たちを連れて千次郎たちが逃げた山へと向かう。その様子を見て、咲耶波は不敵な笑みを浮かべる。

”ほんと、人間って扱いが容易いわ…”

 一方、山へと逃亡を続けていた千次郎たちであったが、元々年寄りの多い村人が山を越えるのには時間が掛かり、山狩りに来た宇軍兵士からは到底逃げ切れないことを暗に悟っていた。

「貴十郎よ、皆を頼むぞ」
「千爺さん、あんた何言って!?」
「わしが殿になる。砦まで止まるな。分かったか?」
「でもよ!」
「案ずるな、わしには大御神様がついておる」

 貴十郎はそれ以上食い下がろうとせず、足の悪い老人を背負うと走り去っていく。

 山道でただ一人残った千次郎は、迫りくる宇軍兵士の影を前に、腰に差した刀を抜いて大きく息を吐く。

「わし一人が戦ったところで、どうこうなるとは思えんが。まぁ、少しの時間稼ぎ程度にはなるじゃろ…」

 しばらくして、追手の飛龍率いる宇軍兵士たちが千次郎の前へと現れる。

「爺ひとりだ、早く始末するぞ」

 2人の兵士が両脇から千次郎へと斬りかかる。その攻撃を千次郎は同時にいなし、2人の腹を斬る。

「舐めるでないわ若造共が!ここを通りたくば、この武人千次郎を倒してから行けぃ!」

 その迫力に、宇軍兵士たちは思わずたじろぐ。そして、何人もの兵士たちが斬りかかるが、千次郎は一太刀も浴びることなく向かってきた兵士たちを斬り伏せていく。

「ったく、見てらんねぇよ。爺一人に何を手間取ってんだか…」
「む…」

 そう言って千次郎の前に現れたのは、鉈を手にした男、飛龍。

「お前らのせいで褒美もらえなくなるのも嫌だから、俺がやってやるよ」
「ぬかせ若造、その性根叩き直してやる…ッ!?」
「こうやるんだよ」

 飛龍は鉈を手に一気に間合いを詰めると、千次郎の首を掻き切る。

「逃げた連中を追うぞ、全員皆殺しだ」
「うっ、がっ…」

 苦しみながら喉を抑えて倒れる千次郎の横を、宇軍兵士たちが通り過ぎていく。
 
”力及ばず、か。申し訳ございません、瑞穂様…”

 千次郎のおかげで貴十郎たちは、何とか夜までに隣の村にまで逃げ切ることが出来た。

 しかし、同じように上陸された他の村では惨劇が巻き起こっていた。上陸した宇軍兵士によって村々は蹂躙される。

 そして、その魔の手は瑞穂たちの故郷、葦原村へ迫っていた。


 ◇


 宇都見国軍による上陸が行われた翌日、葦原村では沿岸部からの避難民たちに対する対応に追われていた。

 葦原村にはすでに、村の東側に位置する煤木村から、村長のイシマキが村人たちを連れて葦原村へと避難しに来ていた。

「御前、この事は瑞穂たちに」
「皇都にはすでに早馬を放っておるが…」

 村の長である信濃とイシマキは、葦原村の広場で手当てを受ける大勢の人々の様子を見る。

「第4軍が宇都見国の侵攻の報を受け、態勢を整えるのに1日、此処に軍勢を派遣するまで2日は見積もっておくべきだろうな。慢心だった…」
「無論、第4軍にはこの報はすでに届いているはずじゃ。しかし、聞くところによれば上陸して来た宇都見国の戦力は主力級が約1万ほどと聞く。これらの相手はそもそも数の少ない第4軍のみでの対処は難しいのぅ」
「と、なるとみそになるのが皇都の第6軍ってわけか」
「しかし、第6軍の主力は宇都見国への遠征中と聞いておる」
「どうすれば…」

 村長の二人が今後の方針について考えているとき、人垣が割れて神獣を連れた一人の女性が二人の前へと歩み寄って来た。

「な、七葉さん!?」
「七葉様…」

 村人たちが七葉に頭を下げる。

「明風の巫女殿、なぜここに?」

 テンを従えた七葉はいつもの温和な印象と違い、その細い目からは怒りを滲ませているように感じられた。

「遅かれ早かれ、こうなることを予見はしておりました。テン」
「キュッ!」
「皆さんを神社へとお連れして」
「七葉さん、あんた一体どうするつもりだ!?」

 信濃の言葉に、七葉はその長い髪を束ねて巫女装束の袖を紐で結ぶことで答える。

「七葉、あなたまさか…」
「私が時間を稼ぎます。皆さんは神社へと逃げてください。神社には、大御神様の御加護がある結界が張られており、他の者が入ることはできません」
「あの軍勢と戦うおつもりか?」
「はい」
「あなたの身を危険に晒すことはできない!」
「心配無用です。私に何かあれば、あの子が私の跡を継いでくれます。さぁ、お早く」

 村人たちがテンに続いて神社へと向かうのを見送った七葉は、遠くから村へと迫り来る宇都見国の軍勢を見据えていた。

“時が来たようですね。私の役目も、今日この時でようやく終わるでしょう”

 七葉は大幣を胸元に持ち、祝詞を詠う。その祝詞は、明風神社の宮司として培って来た彼女の実力を感じさせるものであった。

“明風大結界を維持する力を残しながらでは、少し不安が残りますが構いません”

「ッ!?」

 七葉が振り返ると、そこには信濃たち葦原の防人衆、そして若き日以来、再び刀を手にした睦美が立っていた。

「何をしているのですか、皆さん。早く神社へお逃げになってください」
「七葉さんが一人で戦っているのに、俺たちが尻尾巻いて逃げるなんてどうもな」
「あなたには、沢山の借りがあるの。これだけじゃ、足りないくらいのね」

 そう言って、睦美は鞘から刀を抜く。

「あなたが刀を手にしているを見るのは、久方ぶりですね」
「腕は鈍っていないわ。私もこう見えて武人の端くれだから」
「流石は俺の惚れた女だ」
「馬鹿なこと言ってないで準備しなさい。来るわよ」

 迫りくるのは、鎧に身を包み隊列を組む歩兵衆。掲げられる旗は【宇】の字と鷹の模様。

 相対するのは七葉、そして十数人の葦原防人衆、そして可憐と並ぶ実力と云われた睦美。

「行くぞ!皇たちが助けに来るまで、俺たちで葦原を守るんだ!」

 七葉の放った特大の呪術が、戦いの始まりを告げる合図となった。


 ◇


 東からの早馬が皇城へと到着したのは、それから数刻後のこと。夜通し全力で走り続けたせいで馬は到着とともに絶命するほどであった。

「聖上、至急の報告です!」

 そして早馬の報告を聞いた文官が、軍議の行われている禊ノ間へと飛び込んでくる。

「急報!!東方、伊勢野灘より宇都見国の水軍船が多数出現!水軍船は東方の各地へと到着、約1万の軍勢が上陸しました!」
「何っ!?」
「すでに沿岸部の村は侵攻に遭い壊滅!沿岸部に橋頭堡を備えつつ、皇都に向けて侵攻中とのことです!」

 その報告を聞いた瑞穂は、すぐさま座椅子から立ち上がった。

「すぐに出陣する!即応部隊を召集、非常事態を宣言し全効力を省から宰相へと移譲せよ。東方の首長に対して皇都への民の疎開を指示!第4軍はどうなっているの!」
「はっ!第4軍は防衛を展開しておりますが宇軍の圧倒的戦力を前に各地で敗走をしております!」
「敵の正確な位置を分かる範囲で地図に書き込みなさい!」
「はっ、はい!」
「リュウ、ローズ!部隊を率いて東へと先行して。出来るだけ敵を食い止めて!」
「分かったわ」
「せ、聖上!書き込み終わりました!」

 瑞穂たちは食い入るように地図を見る。宇都見国が約1万の軍勢を一気に移動させることができる規模を持つ水軍を持っていることは、皇国にとって大きな盲点であった。この事態は、情報不足と攻めにくいとしていた地形に胡座をかいてしまった結果、招いた失策だった。

「まずい、このまま進めば、一部が葦原に…」
「はい。それにこのまま東部の山地を確保されると、こちらからの奪還も困難になりつつあります。急ぎ、全戦力を投入してでも敵軍を排除するのが得策かと考えますわ」
「第1から3軍までは西の脅威に対応するため動かせないわ。ユーリ、私たちが第4軍の援軍に向かう必要があるわ」
「戦力から見て、保って3日と言ったところね。守りを疎かにした私の責任よ…」
「そ、そんな。では葦原村が…」
「だから急ぐのよ。全員、準備が出来次第東へ出立する!」


 ◇


 夜がここまで明るい理由は、何かが燃え盛っているからだろう。

「何と言うことじゃ…」

 私たちが宇都見国軍の上陸の報を受け、急いで駆けつけたころには、すでに葦原村は火に包まれていた。

「そんな…村が…私たちの故郷が!?」

 千代は村の様子を見るや、膝をついて泣き崩れる。私は呆然とし言葉を失い、燃え盛る火の手を無心で見つめていた。

「聖上!」
「リュウ、ローズ!?」

 火に包まれる村の中から、リュウとローズ、そして二人の部隊の兵士たちが戻ってくる。

「中は、様子はどう…?」
「敵はすでにここから離れ、沿岸部へと一度戻って夜営していると思われます。敵の姿は、死体以外見当たりません」
「む、村長。村長や」

 草むらから聞き覚えのある声が聞こえる。護衛の兵士たちが草むらを取り囲むが、私は兵士たちに離れるように指示をした。

「芳一、無事だったの!?」

 芳一、葦原村の一員であり、防人衆の一人だ。その身体は血だらけになり、右手に至っては肘から先が無くなり血が流れ出していた。

「千代、早く手当てを!」
「構いやしません。もう、限界です。それよりも、皆早く神社へ…」
「神社!?無事なの!?」
「大結界を守るため、最後は神社の方で戦っておりました。急がれよ村長…」

 その言葉を最後に、芳一は息を引き取った。

 私は無我夢中で馬を走らせ、明風神社へと向かった。

 宇都見国軍の兵士たちの亡骸が積み重なっている神社の石段前、倒れているのは知っている顔ばかりだった。私は、刀を地面に突き刺し、村人たちの遺体に寄りかかり、弱々しく横たわる睦美お姉様を見つけた。

「睦美お姉様!!」
「み、ずほ?」

 倒れていたお姉様の身体を起こす。すると、手に生温かい感触があった。着物からはおびただしい量の血が流れ出している。

 お姉様は血で見えなくなり、焦点が合わない目で私を見つめてくる。

「ごめんね、ごぼっ、かてな、がった…」
「嫌っ、嫌っ、死なないで、死なないでお姉様!置いていかないでください!私を、私を置いていかないでください!」
「最期、に、あなたと、話せて、よか、た。強く、生きな、さい。しなの、に、さきに、まってい、る、つたえて…」

 両手の中で力なく倒れる姿を見て、私は泣き叫んだ。

 子どもの私をずっと優しく育ててくれたお姉様の一人。

 睦美お姉様が死んだ。

 石段を上がると、その背中に何本もの矢が刺さったまま鳥居にもたれる信濃さんがいた。

「親父さん!?」

 御剣が信濃さんの身体を支える。

「来てくれたんだな、瑞穂。神社と皆は守ったぞ…」
「くっ!」
「泣くな泣くな、男前の顔が台無しだぞ。あぁ、そうだ。睦美はどこに?」
「先に待ってる、そう言っていた」
「そうか。かはは、そうか。なら、悔いはねぇな」

 信濃さんは拳を突き出す。御剣は涙を堪えながら、その拳に同じように拳を突き出す。

「俺らの姫さんをしっかり守れよ」
「承知した。今まで世話になりました、親父さん」
「常世で酒飲んで待ってるぜ」

 私の思い出が、私の大切な人が、無くなっていく。
 
「お許しください、瑞穂之命様。皆さんには、最後の言葉を伝えるために、苦しい状態のまま延命の術をかけておりました…」
「お母様!!」

 ぼろぼろになった七葉さんに、千代が飛びつく。いつもは穏やかでありながら厳格な七葉さんが、涙を流しながら飛びつく千代を、優しく抱きしめていた。

「神社と他の皆さんは無事です。結界も、よく耐えてくれました…」

 そう呟く七葉さんの身体が、少しずつ薄くなっていることに私は気がついた。

「千代、シラヌイ様からお話を聞いてもなお、私を母と呼んでくれるのですか?」
「当たり前でございます!私にとって、お母様はたった一人のお母様なんです!」
「それは一体、どういうことですか七葉さん?」
「私は、初代斎ノ巫女である白雪舞花様の元に仕えた巫女でした」
「初代に仕えていた?」
「私は元は人であるも、今は初代様の創られた式神にございます。長き時を生き、大御神様の生まれ変わりが世に生まれるまでの間、見守る役目を担っておりました…」

 段々と薄くなっていることに、千代も気がつく。

「お母様、か、身体が…」
「戦いで初代様の御力を使い切ってしまい、もう私には式神として姿を維持する力が無くなってしまいました。私の運命も、これにて終いとなります…」
「七葉さん…最後に一つだけ聞きたいことがあります」
「何でしょうか?」
「藤香に命じた神滅刀の回収の件、聞いております。母は、私の母は生きているのですか?」
「誠にございます。明日香様は今も、御存命です」

 私の中の疑問の一つが、これで解消された。

「長き時でした。本当に永遠に近い時でした。何人もの人々を見てきて、思ったことが一つだけあります。人の本質は争うこと、それを止める理性もまた人の本質」

 七葉は千代の頭を撫でる。

「千代、斎ノ巫女として、その職務をしかと全うなさい」

 その言葉に、涙を流していた千代は満面の笑みを見せる。

「お母様、いっ、今まで、ありっ、ありがとう、ございました。私は、白雪千代は、一所懸命、斎ノ巫女としての職務を果たしていきたいと思います!」
「良き心がけです。最後に、瑞穂之命様。いえ、大御神様」

 七葉さんは私の手を握る。

「どうか、戦のなき世をお創りください。常世にて、見守っております」
「その願い、しかと聞き届けたわ」
「ありがたき幸せでございます。舞花様、カミコ様、私もようやく役目を終えて、そちらに行くことができます…」
「七葉さん…」
「さようなら、皆さん。そして、千代。あなたのことを、心から愛しています…」

 その言葉を最後に、光の結晶となった七葉さんの身体は消える。

 私は泣き崩れる千代の身体を、優しく抱きしめた。
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