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第二章 新たな決意の下で
意識の変化
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あの飲み会から早くも一週間が過ぎようとしていた。二次会の店を出て各々が帰路につく前に全員参加のトークをアプリで作っていたので、毎日のように雑談をしている。話題は日によって様々で、それがまた面白い。
個人的には桜乃、亜香里、梶川からそれぞれ連絡があったが、そんなに会話が続いているわけではない。どちらかといえばグループのトークで盛り上がっていて、特に個人的に聞きたいことができた場合なんかに個別で連絡をとる、といった状態だ。
というわけで、参加前は単純に「真鍋さんと飲みたい!」とか、「あわよくば出会いを!」とか思っていたのだが、ほんの数時間で異業種の様々な人と顔を合わせたことで、人としてのレベルが上がった気すらしている。そして、影響されやすい性格も相まって亜香里のような「いい女」を目指すべくスキルアップを図ることにした。と言っても具体的な内容は未定なのだが。
「事務さん、手ぇ空いてる人いるー?」
「はい!私空いてます!」
とりあえず仕事へのやる気が急上昇したので、調剤室からのこんな声にいち早く反応するようになった。更に自分の仕事をしながら、周りを良く見るように気をつけている。特に真鍋の声にはできるだけ応えたくなるから、今回も即反応した。
「ごめん、新患の桑元洋太さん、オルメテックの40mg出てるんだけど、いきなり40mgは飲まないから、継続か増量のはずなのよねー。しかも在庫不足なの。今まで飲んでた薬か確認して!お薬手帳ないのよー。継続なら一週間分出せるから残り郵送でいいか聞いて。」
「わかりました、確認してきます!」
新患とは、新規に来局した患者のことである。初めて薬局を利用する時は何の情報もないため、持ってきた処方箋の内容が正しいのかどうか判断するのが難しい。そのため、初回は問診票に記入してもらうのだが、なかなか正確に記入するのは難しいようだ。特に薬局の問診票は面倒くさがられることが多い。病院には強く出ないが薬局には強く出る患者も多かったりして、世知辛い世の中である。
「桑元様、失礼いたします。いくつかご確認させていただきたいことがあるのですが、まず本日のお薬は今までもお飲みになっていたものでしょうか。」
「あー……なんか、増やすとか言ってたような……。今までも薬は飲んでたんですけど。あ、これ書き終わりました。」
「ご記入ありがとうございます。お薬なんですが、何mgのものを使われていたか覚えていらっしゃいますか?」
「いやー、わかんないですね。青いシートでした。」
「かしこまりました、少々お待ちください。」
一旦問診票を持って調剤室に戻る。真鍋に渡して今の会話の内容を伝え指示を仰いだ。
「あー……これだとホントに40mgかわかんないねー。ちょっと確認してみる!ーーーーー桑元様!桑元洋太様ー?あ!桑元様、度々すみません、ちょっと確認なんですが……。」
真鍋が颯爽と待合室に出向き、患者にいくつか確認をしている。が、1、2分程ですぐに戻ってきたと思ったらガバッと電話の子機を掴みながら指示を出した。
「疑義するわ!時間かかりそうだったら声掛けよろしく!」
「わかりました!」
そう言いながらまた処方箋の入力ブースに戻る。ちょっと真鍋と連携が取れているようで嬉しい。仕事が出来る女になってきてるかも!なんて思っていると、真鍋の電話の声が聞こえてきた。
「お世話になっております、私ワタヌキファーマシー薬剤師の真鍋と申します。本日ご受診の桑元洋太様のお薬についてご確認させて頂きたいことがございまして……。」
処方箋の内容について確認する事を疑義照会という。薬剤師は処方箋の内容に不備や疑問があった場合、処方医に問い合わせ、必要に応じてその内容を確認•変更することができる。真鍋は特にこの疑義をスパッと見抜いてササッと確認してくれるので、とにかく格好いい。茜が憧れる要因の一つだった。
それにしてもなかなか医師が電話に出ないのか時間がかかっている。茜はもう少し時間がかかりそうなことを察して、患者に時間がかかる旨とその理由を説明しに向かった。
「疑義したら20mgの間違いだった。変更お願い。」
「了解です!桑元様、お買い物をして1時間後にまた来てくださるそうです。」
「はーい!」
やはり今回も真鍋の疑義が的中だ。後から聞いた話によると、10mgから増量するのに20mgを選ぼうとした際、医師が誤って40mgを選択し処方してしまったらしい。若い患者で、今日の血圧もそこまで高くなかったことから上限の40mgの処方は疑わしいと思ったとのことだ。一枚の紙からこんなことを読み取らないといけないらしい。薬剤師とはなかなか大変な職業である。
備考欄に記載された変更内容を確認しながら再度入力し、調剤室に回す。そこから薬を渡すまで比較的スムーズに流すことができた。
「濱谷ちゃん!今日の疑義のやつありがとね!声かけといてくれて助かったわー!んじゃ、お疲れー!」
茜にサラッとそう告げて真鍋が帰っていく。褒められた。仕事で、真鍋から!助かった、と!!小さくガッツポーズをして、また茜はパソコンに向かうのだった。もちろん、周りに目を光らせながら。
【スキルがアップしました】
【友情ポイントがアップしました】
個人的には桜乃、亜香里、梶川からそれぞれ連絡があったが、そんなに会話が続いているわけではない。どちらかといえばグループのトークで盛り上がっていて、特に個人的に聞きたいことができた場合なんかに個別で連絡をとる、といった状態だ。
というわけで、参加前は単純に「真鍋さんと飲みたい!」とか、「あわよくば出会いを!」とか思っていたのだが、ほんの数時間で異業種の様々な人と顔を合わせたことで、人としてのレベルが上がった気すらしている。そして、影響されやすい性格も相まって亜香里のような「いい女」を目指すべくスキルアップを図ることにした。と言っても具体的な内容は未定なのだが。
「事務さん、手ぇ空いてる人いるー?」
「はい!私空いてます!」
とりあえず仕事へのやる気が急上昇したので、調剤室からのこんな声にいち早く反応するようになった。更に自分の仕事をしながら、周りを良く見るように気をつけている。特に真鍋の声にはできるだけ応えたくなるから、今回も即反応した。
「ごめん、新患の桑元洋太さん、オルメテックの40mg出てるんだけど、いきなり40mgは飲まないから、継続か増量のはずなのよねー。しかも在庫不足なの。今まで飲んでた薬か確認して!お薬手帳ないのよー。継続なら一週間分出せるから残り郵送でいいか聞いて。」
「わかりました、確認してきます!」
新患とは、新規に来局した患者のことである。初めて薬局を利用する時は何の情報もないため、持ってきた処方箋の内容が正しいのかどうか判断するのが難しい。そのため、初回は問診票に記入してもらうのだが、なかなか正確に記入するのは難しいようだ。特に薬局の問診票は面倒くさがられることが多い。病院には強く出ないが薬局には強く出る患者も多かったりして、世知辛い世の中である。
「桑元様、失礼いたします。いくつかご確認させていただきたいことがあるのですが、まず本日のお薬は今までもお飲みになっていたものでしょうか。」
「あー……なんか、増やすとか言ってたような……。今までも薬は飲んでたんですけど。あ、これ書き終わりました。」
「ご記入ありがとうございます。お薬なんですが、何mgのものを使われていたか覚えていらっしゃいますか?」
「いやー、わかんないですね。青いシートでした。」
「かしこまりました、少々お待ちください。」
一旦問診票を持って調剤室に戻る。真鍋に渡して今の会話の内容を伝え指示を仰いだ。
「あー……これだとホントに40mgかわかんないねー。ちょっと確認してみる!ーーーーー桑元様!桑元洋太様ー?あ!桑元様、度々すみません、ちょっと確認なんですが……。」
真鍋が颯爽と待合室に出向き、患者にいくつか確認をしている。が、1、2分程ですぐに戻ってきたと思ったらガバッと電話の子機を掴みながら指示を出した。
「疑義するわ!時間かかりそうだったら声掛けよろしく!」
「わかりました!」
そう言いながらまた処方箋の入力ブースに戻る。ちょっと真鍋と連携が取れているようで嬉しい。仕事が出来る女になってきてるかも!なんて思っていると、真鍋の電話の声が聞こえてきた。
「お世話になっております、私ワタヌキファーマシー薬剤師の真鍋と申します。本日ご受診の桑元洋太様のお薬についてご確認させて頂きたいことがございまして……。」
処方箋の内容について確認する事を疑義照会という。薬剤師は処方箋の内容に不備や疑問があった場合、処方医に問い合わせ、必要に応じてその内容を確認•変更することができる。真鍋は特にこの疑義をスパッと見抜いてササッと確認してくれるので、とにかく格好いい。茜が憧れる要因の一つだった。
それにしてもなかなか医師が電話に出ないのか時間がかかっている。茜はもう少し時間がかかりそうなことを察して、患者に時間がかかる旨とその理由を説明しに向かった。
「疑義したら20mgの間違いだった。変更お願い。」
「了解です!桑元様、お買い物をして1時間後にまた来てくださるそうです。」
「はーい!」
やはり今回も真鍋の疑義が的中だ。後から聞いた話によると、10mgから増量するのに20mgを選ぼうとした際、医師が誤って40mgを選択し処方してしまったらしい。若い患者で、今日の血圧もそこまで高くなかったことから上限の40mgの処方は疑わしいと思ったとのことだ。一枚の紙からこんなことを読み取らないといけないらしい。薬剤師とはなかなか大変な職業である。
備考欄に記載された変更内容を確認しながら再度入力し、調剤室に回す。そこから薬を渡すまで比較的スムーズに流すことができた。
「濱谷ちゃん!今日の疑義のやつありがとね!声かけといてくれて助かったわー!んじゃ、お疲れー!」
茜にサラッとそう告げて真鍋が帰っていく。褒められた。仕事で、真鍋から!助かった、と!!小さくガッツポーズをして、また茜はパソコンに向かうのだった。もちろん、周りに目を光らせながら。
【スキルがアップしました】
【友情ポイントがアップしました】
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