追放されたから異世界VTuber始めたら魔王もファンになりました

象乃鼻

文字の大きさ
6 / 18

第6話 歌で世界をハック!――“声のリミックス”作戦

しおりを挟む
≪CRITICAL:NEG.SIGMA 占拠率 12 % → 14 %≫
≪非常タイマー:09 : 59…58…≫

スタジオの空気は、ホスピタル消毒液とステージ照明の熱でむせ返るほど。
ショウタは肋骨にまだ痛みを抱えながら、マイクを握り直した。

「残り10分で、世界をミュートにさせない――
歌合戦ライブ、開幕だッ!」


ベッドを押しのけ中央に円形魔法陣。

魔王ゼファリスはペンライト2本をクロスし闇炎ギターへ変形、
勇者リオナは聖剣をフレットに見立てて光属性ベースを召喚。
クレスト司祭は黒鍵だけのオルガンを無言で展開し、
ユウナはチャット欄をミキサー卓代わりに――“♯歌で上書き”を打つとリアルタイムでサンプリングされる仕組みだ。

≪新UI:コーラス・コンバーター起動≫
  コメント1行=♪四分音符1つ
  ポジティブ単語=長調 ネガ単語=短調
  総音数10 万で NEG.SIGMA 上書き完了


「全視聴者へ! 30秒以内に“誰かを励ます言葉”をチャットへ!
ハッシュタグは #SingForFreedom!」

≪エール音数:0 / 100 000≫

魔王が先陣を切り、デスボイスでラップ開始。
「推し! 尊い! 世界! ひとつ!」
コメント欄が一斉に韻を踏み始め、ベースの低音が光を帯びる。

リオナは朗々と賛歌を重ね、聖剣ベースがパワーコードを轟かせる。
ポジ率はぐんぐん上昇。

【視聴者】「推しは命のセーブポイント!」「朝活の友!」「寝落ち配信に救われた!」
≪エール 25 421≫


タイマー 08 : 02。
モニターが一瞬ブラックアウトし、紫ノイズの渦中から“SILENCE_000”が立体化。
無数のエラーSEを連打してビートを崩し始める――ディストーションで聴覚を侵食する“ノイズソロ”だ。

≪占拠率 14 % → 27 %≫
≪ポジ 68 % → 54 %≫

クレスト司祭が顔をしかめつつ、無言のまま黒鍵オルガンで対旋律を奏でた。
静寂を基調にした“マイナーコード”だが、妙に切なく美しい。
チャットがざわめく。

【リスナー】「沈黙も…音楽?」
【沈黙支持】「…………」

ショウタの目がひらめいた。
「そうか、“無音”も波形! なら重ねてハーモニーにできる!」


ショウタは HUD に即興でアルゴリズムを打ち込み、
無音領域を逆位相で包み込み、ノイズを拍子に落とし込むプラグインを構築。

≪SOUND FILTER:Silence → Heartbeat≫

司祭の静かなオルガンとノイズがビートを共有し始め、
ユウナがチャットをスクラッチするようにコメントを切り貼り。
「♯声は鼓動」「♯沈黙も歌」――ポジ単語に転換されるたび音符が変調し、エールカウンターが爆発的に伸びた。

≪エール 78 300≫
≪占拠率 27 % → 19 %≫


タイマー 04 : 45。
カウンターが高鳴る。

≪チャンネル登録者 973 → 996…998…999…1000!≫
≪ULTIMATE:〈ワールドシェア〉解禁≫

病室の天井がプラネタリウムのように開き、
全大陸の空へ巨大ホログラム UI が投影――視聴者が自分の位置と発した“声”を可視化する、銀河図のごとき光点が瞬く。

魔王「推し活の銀河…圧巻!」
リオナ「これが世界の“アルペジオ”か!」

ショウタは新たに現れた〈ワールドシェア〉ボタンを握りしめ、
「行くぞ――世界、合唱!」


クリック。
視聴者のマイクが一斉にオンになり、
獣人は遠吠え、エルフはコーラス、人間はラップ、魔族はデスボイス。
国境も種族も混在した多層ポリフォニーが、雲海の上で万華鏡のように干渉音を産む。

≪エール 100 000 / 100 000≫
≪占拠率 19 % → 0 %≫
≪NEG.SIGMA Overwrite SUCCESS≫

紫ノイズが虹色に崩壊し、裂け目が閉じる——
同時に“SILENCE_000”の文字列が砕け、
そこから幼い声がぽつりと漏れた。

「……きこえる……ぼくの……うた……」

司祭が呆然。「沈黙神の…原音…?」

ユウナの涙声がマイクに乗る。
「声は、絶対に消えなかった……!」


タイマー 00 : 12 でカウントが停止、
モニターは“LIVE SUCCESS”の金文字。
視聴者は 23 , 400 人へ急増、ポジ率は史上最高 88 %。

だがシステムログの最下段に、灰色の警告が残る。

≪BACKUP FILE: SILENCE_CORE.bak を確認≫
≪未知プロセスが再起動待機中≫

ショウタは深い息をつき、
「ハードロックのアンコールみたいなものだ。
——次も盛り上げようぜ?」

魔王と勇者が同時に親指を立て、
司祭は静かに微笑んだまま、しかし袖の下で黒いUSBを握り締めていた。


≪チャンネル登録者 1 043 / ∞≫
≪究極呪文〈ワールドシェア〉使用回数 1 / 3≫
≪次回予告:沈黙神“コア”の正体と、配信インフラ全土ハッキング事件≫

REC ランプは七色に瞬き、
夜空にはまだ、かすかな波形の影が脈打っていた。

To be continued…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...