王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第三章 戴冠式は波乱含み

49.サプライズ発表 Side.レオナルド皇王

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「本日は息子ディオの戴冠祝いにお集まりいただき、ありがとうございます。少々トラブルはありましたが、無事に譲位することができ感無量です。そんなめでたい席で今日は皆様へ発表したいことがあります」

そう言ってロキは二人の名を呼んだ。
言わずもがな、その相手はヴィオレッタ王女とルーセウス王子だ。
特におかしなことはない。
誰もがそう思ったはずだ。
だって壇上にはディア王女の姿もあるし、ここで婚約者のお披露目があるんだな程度にしか思わないだろう。普通。
でも彼らが壇上に立ったところで、ロキは満面の笑みでこう言い放った。

「本日王位に就いたディオの王配を紹介します」
「え?!」
「ゴッドハルトの王太子、ルーセウス王子です!」

その言葉に誰もが驚きすぎて場がシンと静まり返る。
でもロキは全く動じることなく笑顔で既に二人は一年以上前にガヴァム式で結婚済みだと発表。
その衝撃たるやかなりのものだった。

「二人は遠距離婚になるので、それぞれ側妃を迎える予定です」

そう言って今度はディア王女とヴィオレッタ王女を紹介。
既に合意済みとばかりの笑みでそれぞれ笑顔で挨拶を行なっていく。
これは完全に予想外だ。
誰が王太子同士で既に結婚済みだと予想できただろう?

つまりニッヒガングの件は、ディオ陛下がゴッドハルトの王太子妃の立場で対処した、ということらしい。

(か、完全に盲点だった…)

通りで婚約発表ではないとルーセウス王子が言うはずだ。
婚約発表じゃなくて、婚姻発表だったんだから嘘はついていない。

とは言えカリン陛下でさえこの件は把握していなかったんじゃないだろうか?
思わずそう思ってしまうくらいに、ガヴァム側も動揺が広がっていて、カリン陛下はじめ顔色が悪い者もチラホラ見受けられた。

「無事に退位もできたことですし、これからはフォルティエンヌに移住して兄と仲良く暮らす予定です。どうか皆様、新王ディオをよろしくお願いします」

そんな風に挨拶を終えたロキは清々しい笑みだけど、俺からしたらビックリだ。

「ロキぃいい?!」

後はディオ陛下に丸投げしてフォルティエンヌに行っちゃうからよろしくねって、本当に酷すぎる。
ここまで爆弾発言をしておいて、あっさり『さよなら』はいくらなんでもないだろう。
鬼畜仕様のトラブルメーカーにも程がある。

「ロキ!聞いてないぞ?!どういうことだ?!」

ほら。カリン陛下も問い詰めにかかった。

「え?フォルティエンヌに行くのはずっと言っていたじゃありませんか。兄上も承知してくれて、いつでも向こうに行けるよう準備もしっかりしましたよね?」

キョトンとしたように言い放つロキに、カリン陛下が叫ぶ。

「問題はそこじゃない!どうしてディオが勝手に結婚してるんだ?!俺は何も聞いてないぞ?!」
「言ってませんからね。だって兄上に言ったらややこしくなるじゃありませんか。退位できなくなったら困るので、黙ってました。すみません」
「すみませんじゃない!」

な、なるほど?
ロキにとっては問題なく退位するのが第一だったから黙っていたと。
それならわからなくはない。
寧ろ納得だ。

「ロキ!俺も聞いてないぞ?!」

そこでアンシャンテのシャイナー陛下が割り込んでくる。

「俺の時はお互い王だから結婚できないって言ってたくせに!どうしてディオ王子とルーセウス王子の結婚は認めたんだ!おかしいだろう?!」

(そこ?!)

まさかの言葉に思わずシャイナー陛下を見つめてしまう。
ケチをつけるならヴィオレッタ王女が正妃じゃなかった点かと思ったのに。
予想外過ぎる。

「え?だってシャイナーのことは別に好きでもなんでもなかったし」
「酷い!!」
「どうとでも。ディオとルーセウス王子はちゃんと相思相愛だから、ケチはつけないであげてほしいな」
「ロキ…」

(うわぁ…シャイナー陛下、ロキにドSな目で見られてメチャクチャ興奮してる)

あれではきっとこれ以上文句も言わないだろう。
もっと虐めてくれと言わんばかりだ。

「兎に角俺は認めん!」

そんなシャイナー陛下を横目にカリン陛下だけは頑張ってるけど、これは無理だろうな。
だって…。

「残念。今のガヴァムの最高権力者は俺じゃなくディオですよ?そして王配はルーセウス王子です。二人が別れるって言わない限り、兄上が認めようと認めなかろうと何も変わりません。ついでに言うと婚姻無効の申し立ては婚儀から一年以内だったはず。もう一年はとっくに過ぎてますし、議会に議題を上げることすら難しいでしょうね」

こういう時、ロキはもう手を打った後なんだ。

「だ、誰も認めないぞ?それでもいいのか?!苦労が目に見えている!ディオが可哀想だろう?!」
「ディオなら大丈夫ですよ。少なくともルーセウス王子がここ半年で既に行った実績があれば認められるんじゃありませんか?ガヴァムの騎士団の正常化に、有休制度の導入。ワイバーン連隊の採用に訓練協力。他にもチラホラ認めてもらえそうな案件はありますよ?」
「なっ…何だと?!アレはゴッドハルトの暗部育成協力のお返しだとか、ディオがルーセウス王子とツンナガールで話してたらなんとなく話がまとまったとか、軽く言っていたじゃないか!」
「お互い内政に介入しまくってるのに、誰もツッコまなかったからすごく面白かったですよね。アハハッ!」
「お前のせいだろう?!」

うん。気持ちはわかる。
冷静に考えたらわかるんだけど、ロキが間に入るとどうしても『普通』を見誤る羽目になるんだ。
これまで何度驚かされてきたことか。

そしてそんなロキを殊の外気に入っているのが────。

「ロキ。お前は本当に最後の最後まで楽しませてくれるな。実に面白い余興だった」
「セドリック王子」

そう。大国ブルーグレイのセドリック王子はロキと非常に親しいのだ。
そしてブルーグレイは、ロキにとって大きな後ろ盾でもある。

「ディオ陛下。さっきルーセウスにも言ったが、お前達の結婚を心から祝おう。ゴッドハルトからなら海を渡ればすぐブルーグレイだ。いつでも遊びに来るといい」
「ありがとうございます。ではまた是非、腕試しでお邪魔させていただきます」

にこやかにそう言い放つディオ陛下。

(腕試しって、え?まさか違うよね?!)

ディオ陛下には警備体制チェックに随分協力してもらったけど、まさか鉄壁のブルーグレイに潜入を試みたりはいくらなんでもしないはず。

「ハハハッ!国王自ら単身やってくる気か?いいだろう。無事に俺のところまで来れたなら、引き続きこの俺自らがお前達の後ろ盾になってやる。どうだ?」
「光栄です。若輩者ですが、全力で挑ませていただきます」

その言葉はセドリック王子を楽しませることに一役買ったらしく、とっても機嫌が良くなった。

ブルーグレイももうそろそろ代替わりが近いと言われているけど、現状国王の仕事はほぼ全部セドリック王子がやっているとは言え、王位はルカ王子にと公言して憚らない。
けれどルカ王子が王位に就いたとしても、セドリック王子の権力が衰えるとは誰も思っていない。
彼の影響力は絶大だ。

だから今のセリフが持つ威力は、相当のものと言えるだろう。
これならディオ陛下とルーセウス王子の結婚に口出しする輩もそうは出てこないはず。
そもそもセドリック王子を苦手とするカリン陛下がその筆頭だから。

そしてそんなセドリック王子のお陰でパーティーは無事に始まり、ディオ陛下の乾杯の合図と共にグラスを傾けて、皆思い思いの相手と話しながら今後の付き合いや身の振り方などを考え始めた。
それは自分も例外ではない。

だから────うっかりしてたんだ。
ディア王女が正妃じゃなく、側妃となると聞いたブランがどう思うかとか、どう動くかなんて完全に失念していたのは俺の落ち度でしかなかった。



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