王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第三章 戴冠式は波乱含み

50.それぞれの胸の内

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呼ばれた壇上へと上がると、ロキ陛下が笑顔で俺を紹介してくれた。
ディア王女の婚約者としてではなく、ディオの王配として。

「本日王位に就いたディオの王配を紹介します。ゴッドハルトの王太子、ルーセウス王子です!」

その言葉に誰もが驚きすぎて場がシンと静まり返る。
でもロキ陛下は全く動じることなく笑顔で既に一年以上前にガヴァム式で結婚済みだと発表。

予想通り誰もが絶句していたけど、気にしない。
だって俺はこの日を心待ちにしてたんだから。

俺は皆にスッと礼をしてディオの隣に堂々と立つ。
皆の反応を受けてほんの少し瞳を揺らすディオ。
いくら気丈に見えても、ディオだって緊張くらいするだろう。
強さも弱さも全部ひっくるめて、俺が愛するディオなのだ。
俺が支えてやりたい。
だからディオを見つめて安心させるように笑顔で小さく頷いた。

大丈夫。一人じゃない。俺がいる。
それが伝わっていたら嬉しい。

そんな俺にディオがどこか安心したようにほんの少し笑ってくれた。

「二人は遠距離婚になるので、それぞれ側妃を迎える予定です」

その言葉と共に今度はディア王女とヴィオレッタ王女が紹介される。
既に合意済みだと伝わるように、それぞれ笑顔で挨拶が行われた。

そこからはもうカリン陛下の『聞いてない』発言を皮切りに、一気に騒がしくなる。

そもそもガヴァム側でも殆ど把握されていなかったことで、他国の皆が困惑を露わにしていた。
何と言うか、言ってみれば『ああ、ロキ陛下がまた独断でやらかしたのか』と言った空気が伝わってくる。
普通に考えたら今後の付き合いをどうしようとなりそうなものだが、そこは意外な人物が丸く収めてくれた。
セドリック王子だ。
俺は昔から知ってる人だけど、これほど楽しげにしている姿は見たことがなかった。

噂通りロキ陛下と相当親しいようで、ディオにも好意的に祝いの言葉を言ってくれる。
しかも後ろ盾になってもいいとまで言ってくれたのには驚かされた。
これには各国の賓客達も騒めいていて、あっという間に俺達の関係は受け入れられたと言っていい。

まあルカは後で説明しろよとばかりにこっちを睨んできてるけど。
きっと友達なのにどうして黙ってたんだと怒りたくなったんだろう。
でも結婚済みと知ったのは実際には結構後のことだから、何とも言い難い。
絶対に呆れられるか揶揄われるかのどっちかだろう。
もしくは怒られるか。
予行練習のつもりが本番でした、なんてふざけてるのかと思われてもおかしくはない。

(まあ俺は当時の俺は良い仕事をしたなとしか思ってないけどな)

昔から直感で動けば大抵上手くいくんだ。
何も問題はない。
今だってザッと会場に目をやれば、誰が味方になってくれそうで、誰が不穏な行動に出そうか大体わかる。

そんな中、ディオの挨拶と『乾杯』という声で一斉にグラスが傾けられ、あっという間に場は正常化した。
祝賀パーティーの始まりだ。

セドリック王子のさっきの言葉のお陰か、挨拶に来てくれる者達は俺達の関係を比較的好意的に受け止めてくれている様子。
この際ブルーグレイが怖いからでも、ガヴァムの好景気にあやかろうとしているのでも構わない。
取り敢えず、俺がディオの王配なのだと周知できればそれでいいのだ。
ちゃんと相手の挙動はチェックしているし、顔と名前を覚えながら笑顔で乗り切ろう。


***


【Side.ブラン皇子】

ゴッドハルトでディア王女から直接フラれたものの、俺はどうしても諦められなかった。
妹に相談したら、俺は気持ちを押し付けすぎなんだそうだ。
押してダメなら引かないとと言われたが、これまでもそれは実践してきた。
昔から何年も付き合ってきてるんだから当然だ。
だからこそ言える。
ディア王女相手に引いたらダメなんだと。
引いた途端、彼女はこれ幸いと『やっと諦めてくれたわ』と判断するっぽいのだ。
じゃあもう攻めるしかないだろう?

彼女が興味を持ちそうな事を餌に何度もデートに誘う。
それこそルーセウス王子と結婚してしまう前に振り向いてもらわないといけないから、これまで以上に必死に誘った。
でも全滅だった。
父からだけでなく母からももうやめなさいと言われたけど、今更諦めるなんて絶対に嫌だ。
だから鉱山ホテルに監禁部屋でも作れないかと思って、何度も下見に足を運んだ。

牢屋部屋はあからさま過ぎてバレバレだから、一般客用の一室をこっそり改良して密かにキープする事に。
流石のディア王女も俺の子を孕んだらルーセウス王子に嫁ごうなんて思わないはずだ。

(そうとなったらディア王女の部屋も用意しないと)

多少順序は変わってしまうけど、彼女を王太子妃に迎えられるならそれでいい。
俺がいっぱい想いを伝えたらきっとそのうちわかってもらえる。
愛される喜びに満たされれば、彼女の頑なな心もほぐれてくれるだろう。
自由が欲しいなら、俺を好きになってくれさえすればいくらでも与えてあげるし、好きな事をいくらでもさせてあげよう。
贅沢だってしてくれて良いし、綺麗に着飾った彼女を俺だって愛でたい。

そんな気持ちでディア王女の拉致計画を立てた。
決行日はディオ王子の戴冠式の日。
祝賀パーティーが始まる前にディア王女と二人きりで話して、そこから攫おうと思っていたんだ。

なのにニッヒガングの者達が襲撃なんてしてくるから、計画が崩れてしまった。
悔しい。
このままだとディア王女がルーセウス王子の婚約者として各国の賓客達の前で大々的に披露目されてしまう。

二人が仲睦まじく微笑み合う姿なんか見たくない。
そう思いながら鬱々とした気持ちでパーティーへと参加したのだけど…。

「本日王位に就いたディオの王配を紹介します。ゴッドハルトの王太子、ルーセウス王子です!」

ロキ陛下から発せられたその言葉に俺は驚愕してしまった。

「…は?」

ディオ王子の王配?
ルーセウス王子が?

そして続く言葉に胸がバクバクと弾む。

「二人は遠距離婚になるので、それぞれ側妃を迎える予定です」

その言葉に続き笑顔で挨拶をしたのはアンシャンテのヴィオレッタ王女と、俺が恋焦がれてやまないディア王女。

(どうして……)

何故、彼女が側妃なんだ?
正妃じゃないのに…俺との結婚を断ったのか?
あんな…嬉しそうにディオ王子の隣に立ってる男の方が、俺より良いとでも?
ミラルカの王太子妃より自分を愛してもいないゴッドハルトの王太子の側妃の方を選ぶなんて、そんな事、あっていいはずがない。

(…馬鹿にしてるのか?)

愛しさ余って憎さ百倍とはよく言ったものだ。
元々攫って監禁しようとは思っていたけれど、それはあくまでも愛情からくるもので、優しく優しく抱こうと思っていた。
でも…正直今は怒りの方が強過ぎて、彼女を無茶苦茶にしてやりたくて仕方がなかった。

(許せない)

ロキ陛下やディオ王子の指示だったらまだ許せたかもしれない。
でも、彼女は自分が望んでルーセウス王子を選んだのだと再三言っていた。
誰に言われたわけでもなく、自分の意思で望んだのだと。
口では政略結婚なんて言っていたけど、どう考えても国益を考えてと言うより、彼女とルーセウス王子の利害が一致したからこその婚約だ。
きっとディア王女の方からルーセウス王子へと話を持ちかけたのだろう。

俺との結婚を回避したいが為だけに。

それならいくら迫っても手を取ってもらえなかったのも納得だ。
きっと彼女は心の中で俺を嘲笑っていた事だろう。

(ディア王女。笑っていられるのも今だけだ。後で絶対に泣かせてやるから、楽しみにしていてくれ)

ドス黒い怒りが湧き上がり、計画の変更を冷え切った頭の中で着々と組み立てていく。

そして俺はそっとパーティー会場を抜け出した。
自らが従える者達へと指示を出すために────。



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