王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第三章 戴冠式は波乱含み

67.それぞれが思う事 Side.***(複数視点)

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【Side.ニッヒガング国 外務大臣】

『失敗した上、手の者が全員死んだ、だと?!』
「は、はい。私は何も知らないと言った手前、追求することもできず…」

戴冠式で報復を試みたものの、あっさり制圧され、なんとか逃げおおせた者達を密かに匿い、知らぬ存ぜぬで通そうとしたのに、それがまさか裏目に出るとは思いもよらなかった。

「ガヴァムの警備は他国に比べて緩いと聞いていたため油断しました」

警備は確かに上手く潜り込みさえすればなんとかなった。
だからこその襲撃成功だったのに、蓋を開けてみればその後の対処は文句のつけようがないほど完璧だった。
これでは罠に嵌められたも同然だ。

「ガヴァムの新王は若くとも侮れません。彼者を狙うのは悪手。狙うなら彼の妹であるディア王女でしょう」
『…そうだな。ルーセウス王子はかなり剣の腕が立つようだが、隙をつけば婚約者を始末するのも容易いだろう』
「では?」
『これからゴッドハルトに────グハッ?!』

ツンナガールの向こうから、いきなり剣呑な雰囲気が伝わってくる。

「大臣?!バジッド大臣?!」

恐ろしくなり、必死に呼び掛けるが返事はない。

「まさか…」

嫌な予感に背筋が震えてしまう。
そしてそれは現実のものとなった。

「動くな」
「ひっ?!」

ひたりと頸動脈へと当てられたナイフの冷たさに飛び上がりそうになる。

「ヒィッ?!」
「悪巧みせず、大人しく帰るならこの場で殺しはしない。どうする?」

手慣れた様子で脅す男は、どこか嗜虐的な雰囲気を纏いながらそう尋ねてくる。

「か、か、か、帰ります!大人しくしますから、どうか命ばかりはお助けください…!」

ガヴァムの暗部は裏稼業出身の者が多いと聞く。
凄腕揃いとも言われているが、騎士達の様子から判断して、そちらは他国から舐められない為に意図的に広められた噂だろうと思ってしまったのが間違いだった。

(恐ろし過ぎる…!)

そしてなんとか見逃してもらったはいいものの、男の仲間はどこにでもいるから下手なことはするなよと送り出された。
それはきっと真実その通りなのだろう。
本国にいる先程ツンナガールで話していた大臣はきっともう生きてはいない。

(国に帰ったら、ガヴァムとゴッドハルトには手出し無用と伝えなければ)

パーティーでゴッドハルトのルーセウス王子とディオ陛下は結婚済みだと発表があった。
それはつまりゴッドハルトはガヴァムに吸収されたとみていい。
下手に手を出せば必ず報復される。
それを今回肌で感じた。

こうして戦々恐々としながら、帰国の途に着いたのだった。


***


【Side.バロン国 第一王子】

ニッヒガングから話を持ち掛けられ、ゴッドハルトへと攻め入る話を詰めていた父王と第一騎士団長が突然病死した。
同時ではなかったが、二人とも徐々に体調が悪くなり、数日で亡くなったのだ。

父は胸が痛いと言っていたし、騎士団長の方は頭が痛いのと手が上手く動かなくなってきたと言っていたから、医師の見立てでは病気の種類は違うと言われていた。
けれどどう考えてもおかしい。
父も騎士団長もまだ40代だ。
本当に病死だったのかと疑いたくもなる。
そんな中、ニッヒガングでも関係者が全員死んだと知って暗殺されたのだと思った。
父と騎士団長は殺されたのだ。

誰に?

ゴッドハルトは動機としては十分考えられるが、あそこの王は良くも悪くも真っ直ぐな性格だ。
こんな風に裏で暗躍して手を打つタイプではない。
仕掛けるなら正面から堂々と宣戦布告し、愚直にぶつかってくることだろう。
ある意味わかりやすく、武力のみとも言える狙いやすい国。
それがゴッドハルトだった。
しかも改革から20年以上が経ち、戦で名を馳せた者達も衰え、若手は強さはピカ一だが、戦を知らない平和ボケした者達ばかり。
だからその武力を上回る戦力さえあれば、容易に叩き伏せられる国でもあったはずなのに────。

(どこのどいつがやったんだ?!)

あそこの王太子だって、腕は立つが戦略が得意なタイプではなく、父王そっくりで真っ直ぐな性格だ。
間違っても毒を盛ってくるようなタイプではない。

だからすぐに調べさせた。
そして浮かんできたのがガヴァム国の兄妹だ。
ルーセウス王子はディオ王子と随分仲が良く、二人で街歩きをするほど親密な関係で、その繋がりからか、彼の妹であるディア王女がルーセウス王子の婚約者へと収まっていた。

つまり、ディア王女が憂いなくゴッドハルトに嫁げるよう、ディオ王子が指示を出し、戦争回避に動いたのだろう。
あそこは裏の者達が活発で、闇が深い国だと有名だ。
暗殺者を送り込むなどお手のもの。
可能性は非常に高い。

そう思い引き続き調査を進めると共に、密かに近衛騎士団長を務める従兄弟叔父へと相談した。
従兄弟叔父はそれを聞き、それならガヴァムに潜伏して情報を集め、戴冠式の場で報復をしようと言ってくれた。
今ならまだ潜入は容易いはずだと。

それからすぐ、商人や旅行者を装い、いくつかのグループでガヴァムへと入国を果たした。

そして情報を得て、疑いは確信へと変わり、戴冠式の隙を狙って報復をと方針が決まったところまでは良かった。
どこぞの馬鹿な皇太子から掠め取り、ディア王女の身柄を確保したとの連絡も受けていた。
それなのに────。

結果から言うと作戦は失敗に終わった。

連絡がつかなくなった時から嫌な予感はしていたのだ。

『命だけは助けますが、二度目はありませんのであしからず』

そんな伝言と共に送り返されてきた者達は全員恐慌状態か虚脱状態。
幻覚剤でも盛られたのか、まともに話せる者は一人もいなかった。

しかも従兄弟叔父に至っては片腕がなくなっている。
これではたとえ正気に返れたとしても近衛騎士団長は引退せざるを得ないだろう。
少々好戦的な性格ではあったが、その強さだけは本物だったのに。

「…つまりはガヴァムにもゴッドハルトにも手は出すなと言うことか」

ゴッドハルトも自国とは真逆な相手をよくも内に取り込んだものだ。
これでは手も足も出すことができない。

「くそっ!…いつか報復してやる」

どうせ父王亡き後、このバロン国の王になるのは自分なのだ。
同じく即位したディオ王子とは長い付き合いになることだろう。

そして言葉にし難い悔しさと共に、人生初の完敗を味わわされたのだった。


***


【Side.ルーセウス】

「ルーセウス王子。ディアとディオを宜しくお願いしますわ。まさかお一人で二人共貰ってもらうなんて思っていなかったので、もう本当に驚いてしまって。でもきっとあちらがお上手なのね!うふふ」
「アンヌ。俺は認めてないぞ!」
「まあカリン陛下。あれ程羨まし…いえ、責め立てられ、ゴホゴホ、ええと…何でしたかしら?そう!お仕置きされながらたっぷり言い含められてもまだ懲りずに反対なさいますの?それはつまり、愛するロキ陛下にもっとお仕置きされたいと言うアピールですわね!」

ニッコニコしながらアンヌ妃が誤魔化し誤魔化し言ってるけど、全く隠せていない。
寧ろはっきり言ってしまっている。

(アンヌ妃が羨ましいと感じるくらい、ロキ陛下はカリン陛下と夜を愉しんだって言いたいんだな。うん)

ディオとディア王女は慣れているのか淡々とスルーだ。
ここは俺もそれに倣おう。
藪蛇はゴメンだ。

「兄上。明日からは仕事もなく四六時中一緒ですから、いっぱい愛し合いましょうね?」

ロキ陛下はご機嫌だし、問題はないはず。

「ロキ陛下。私もついて行きますからね!」
「アンヌは来なくていいよ。前にあげた別荘で暮らせばいいし、好きに頑張って」

あまりにも冷たい。
アンヌ妃ってロキ陛下の妃だよな?!
あれ?違ったっけ?

(もしかして本当はカリン陛下の妃だったとか?)

そう言えば、ディオとディア王女はカリン陛下とアンヌ妃の子供らしいし、ロキ陛下から見ればアンヌ妃はただのライバルなのかも?

「ロキ陛下!相変わらず冷たいですわ。でもそんなところも大好きです!是非ご一緒させてくださいませ!」

いや。違った。
アンヌ妃はロキ陛下が大好きだった。
物凄く一方通行な感じっぽいけど、あんなに冷たくされても満面の笑顔だ。
このへこたれなさは凄いな。
ブラン皇子とは違って、害のない執着って感じだ。

「ルーセウス王子。この際だから言っておくが、ディオを快楽堕ちさせたなら絶対に責任は取るように」

カリン陛下から厳しい口調で釘を刺される。
でもそんなことは言われなくてもわかっているつもりだ。

「勿論です。きちんと責任は取りますので、どうぞご安心ください」
「本当だな?」
「はい!」
「そこまで言うなら信じるが…もし不適格と判断した場合には絶対に別れてもらうぞ?わかったな」

暗部に見張らせるからなと強く言われ、心配性だなと思わず苦笑してしまう。

「はい。ディア王女との婚儀を終えればガヴァムに腰を落ち着けてディオを支えたいと思っていますから、絶対に大丈夫です。どうか安心していてください」

俺がそこまで言ったらやっとどこかホッとしたようにして引き下がってくれたのだけど…。

「…ディオ。ディア。後でちょっと薬の処方をしておくといいよ。内容は闇医者に聞けばわかるようにしておくから」

今度はロキ陛下がそんな事を言い出した。

「……わかりました」
「私もですか?」
「ディアの方は多分大丈夫だと思うけど、念の為だよ」
「わかりました」

どうやら二人に必要になりそうな薬らしいけど、一体何の薬だろう?
ちょっと気になるけど、この場で言わないって事は、俺には言えない薬なのかもしれない。

「それじゃあ晩餐を楽しもうか」

こうしてロキ陛下達との晩餐を終え、一行は翌朝にはワイバーンに乗り、何の未練も感じさせずフォルティエンヌ国へと発ったのだった。



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