王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第三章 戴冠式は波乱含み

66.見送り

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波乱に満ちた戴冠式を終え、ディオと共に順次国賓達の見送りを済ませていく。
そんな中、ローズマリー皇女が泣きながらブラン皇子の件で謝罪しにやって来た。
彼女からすればとばっちりのようなものだっただろう。
これにはディオも困ったようにハンカチを差し出し、優しく言葉を掛ける。

「ブラン皇子の件はショックだったとは思いますが、私としてはこれからもミラルカと友好的にお付き合いしていきたいと考えています。謝罪は受け取りますが、ローズマリー皇女が必要以上に責任を感じることはありません。落ち着いたらまたそちらへ伺わせてください」

その言葉にローズマリー皇女は小さく頷き、その後、何故か俺へと話を振ってきたから驚いた。

「ルーセウス王子」
「え?!は、はい」

一体何を言われるんだろうとちょっと身構える俺に、ローズマリー皇女は淑やかに微笑んで言葉を紡ぐ。

「悔しいですが、ディオ陛下のことは貴方にお任せします。お願いですから、絶対に泣かせたりしないでください。もし泣かせるようなことがあれば、私は捨て身でお命を頂戴しに行かせていただきますので、どうかそれをお忘れなきようお願いいたしますわ」

(え…?聞き間違いか?)

ディオを俺に任せると言ってくれて、泣かせるなと釘を刺されたのはまあいい。
でも捨て身で殺しにくるって言われたような気がするんだが?!

(…いや。うん。絶対に聞き間違いだな)

彼女は穏やかに笑っている。
殺気は感じられないし。
うん。気のせいだ。

「ディオ陛下。私はたとえ貴方と結婚できなくても、いつまでも貴方の味方です。困った時はどうか一番に私を頼ってくださいませ。どんな手を使ってでも、必ず私は貴方のために誠心誠意尽くすと誓いますわ」
「……頼もしいお言葉をありがとうございます。お気持ちだけ有り難く受け取らせていただきます」
「はい!」

相変わらずディオが大好きなローズマリー皇女。
それでも一応身を引いてくれたらしいことは伝わってきた。
今回はそれで良しとしよう。

(ヴィオレッタ王女もディオの友達って感じだし、シェリル嬢はディオが嫌ってるし、ディア王女に関しても俺が上手く立ち回ればバッチリだ。これでもうライバルは皆無だな)

何も問題はない。
本気でそう思った。




「ルーセウス。ゴッドハルトに戻ったらちゃんと本を送れよ?」

帰り際、ルカにそう言われてそう言えばそれもあったなと思い出す。
閨指導本を貸す約束をしたんだった。
ディア王女だって拉致されたトラウマもあるだろうからいつまでもここに留まりたくはないはず。
そう考えると早めに帰る方がいいのかもしれない。

(でもできればディオともう少し一緒にいたい)

以前なら絶対一週間くらい滞在すると言っただろうし、ディオもヴァレトミュラで送ると言ってくれたかもしれないが、即位してすぐの今、それはまず無理だろう。
ここは我慢だ。

(大丈夫。結婚までの辛抱だ)

ここが正念場だと自分に言い聞かせて、挨拶が全て終わった後、ディオへと提案することにした。

ブラン皇子がセドリック王子の殺気を浴びて半泣きでワイバーンに乗せられ、レオナルド皇王が頑張れよと引き攣った表情で見送り、改めてこちらに謝罪をした後、別途賠償金も用意するからと言って帰っていく。

ちなみにブルーグレイ一行にそのままブラン皇子を託したのは、アルフレッド妃の意向が大きかったらしい。
事情を知ってかなり激怒したらしく、道中から自分の手で鍛え直してやると豪語したらしい。
それを受けてセドリック王子が妃の手を煩わせるまでもないと言い出し、自分がやると乗り気になったんだとか。
多分アルフレッド妃の時間をブラン皇子に取られるのが嫌だったんだろう。
恐らく殺気を浴びせられ、完膚なきまでに短時間で叩きのめされ、邪魔をするなと威圧され続けるんだろうなと想像がついた。
ブルーグレイに着く頃にはブラン皇子は心が折れて再起不能に陥っているんじゃないだろうか?

(あの人ならそれくらいやりそうだ)

兎に角アルフレッド妃を溺愛しているから、さもありなん。
まあ俺もディオが大好きだし、気持ちはわかる。
自分と一緒にいるなら出来るだけ側にいて欲しい。
邪魔者は適度に排除だ。

「ディオ。俺はもう一日居てもいいか?」
「勿論。一日と言わず、時間が許すだけ居てほしい」

(可愛い!)

はにかむように俺を見つめ言ってくるディオが愛し過ぎてたまらない。

「ディオ。この後少し時間は取れるか?」

折角だし、俺がガヴァムに滞在したいと考えている事を伝えておこう。
きっと喜んでもらえるはず。

「大丈夫だ」

そして部屋に戻って俺の考えを話してみた。

「王子と王配だったら王配の方が立場は重要だし、ゴッドハルトでディア王女と挙式さえ終えられれば多分俺がこっちに来て王配の仕事を中心にやって、ゴッドハルトの王太子としての仕事は都度必要に応じてやっても文句は出ないと思うんだ。ディオの意見も聞かせてもらえないか?」

その言葉を受けてディオが暫し考え込む。

「うーん。アリだとは思うし、俺も嬉しいけど、それだとルーセウスが大変じゃないか?」
「全然平気だ!寧ろ行ったり来たりする方が時間の無駄だし大変だと思う。俺だってディオを側で支えたいんだ。だからこっちで腰を落ち着けて手伝いたい」
「ルーセウス」

満たされたように綺麗に微笑むディオがスッと俺に近づき、そのまま唇を重ねてくる。

「ありがとう」

(ダメだ!好き過ぎてずっとキスしたくなる…!)

そう思った時にはもう腰を引き寄せて、何度も唇を重ね、舌を絡め合っていた。
ディオが欲しくて、夢中になって貪ってしまう。

「んっ、ルーセウス。帰るまで俺だけのルーセウスで居てほしい」
「勿論だ。まあ離れていても俺はディオだけの俺だけど」
「本当に?」
「当たり前だろ?俺がディオしか見てないって知ってるくせに」

それから暫くソファーでイチャついていたら、ロキ陛下の遣いがやってきて、明日にはフォルティエンヌに発つから何かあれば今日中に言ってくれと言われ、慌ててディオは確認のため執務室へと向かってしまう。

俺も行こうかと言ったけど、荷造りもあるだろうからと気遣われてしまった。





暫く後、やっと確認作業が終わったと戻ってきたディオは、グッタリとソファーに身を預け、そう言えばと思い出したように言った。

「ルーセウスも正式に王配としてお披露目されたから、暗部を10人程つけるから、後で紹介するよ」

正直ゴッドハルトでも諜報員や護衛を育ててる真っ最中だし、そこまで気を遣ってくれなくてもいいんだが。
とは言え折角の好意だし、ここで断るのも良くないだろう。
素直に感謝して、有り難く受け取ろう。

「わかった。ありがとう」

そしてロキ陛下達とのお別れ晩餐会へと、二人で仲良く向かったのだった。


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