【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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1.災厄~プロローグ~

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「大変です!陛下達が!」

その国の宰相の息子が騎士から呼び出され、最初に目にしたものは変わり果てた国王達と自分の父の姿────。
そこにあったのは完全なる死体ではなかったが、衝撃的なものだった。
この国の中枢ともいえる者たちが、広間で氷柱に閉じ込められている姿に身が震えるほどの恐怖を感じてしまう。
一体誰が何のためにこんな凶行に及んだというのだろうか?
生きているのか死んでいるのか判別はつかないが、この国の行く末を思うと慄くなというほうがおかしいだろう。
けれど周囲はそんな自分など知らぬと言わんばかりにこちらの指示を仰いでくる。
「ヴェルガー様!どうぞご指示を!」
公爵家の嫡男である自分がこの場で一番地位が高いのだ。
それ故に気持ちもわかるし、一概にそれを責めるわけにはいかない。
だから動揺し固まっていた思考を戻すためフルリと頭を振り、震える身体を叱咤してグッと腹に力を込めた。
「至急魔道士達を搔き集めろ!この兇状は恐らく魔王が復活したことを表しているに違いない!勇者召喚の儀を執り行う!すぐさま場を整えるのだ!」
「はっ!」
何が何だかわからないが、自分ではどうしようもないのだということだけは確かだった。
だから、焦燥感に苛まれながらも縋るような思いでこの国の未来を一人の勇者に託すべく指示を出した。





それから半年後─────。
ここ水の都とも呼ばれるアクアブロンシュタルト王国王宮内で今、大問題が起こっていた。

「聖女が異世界に帰っただと?!どういうことだ!」

父の跡を継ぎこの国の宰相とならざるを得なかったヴェルガーは、忌々しそうに吐き捨てるように口を開いた。
試行錯誤しながら全ての采配をふるい、無理矢理国政を回して仕事をこなしていた中での突然の報告だ。
イライラが頂点に達するには十分すぎる案件だった。

『聖女』────それは癒しの力をもって世界を平和に導くいと尊き存在。
そんな聖女は半年前、召喚の儀により勇者と共に異世界から呼び出した者でもあった。
けれど元々呼び出したかったのは『勇者』の方だったので、正直聖女はどちらでも良かった。
自分達の目的はあくまでも国王達を氷漬けにしたであろう【魔王】の討伐だったから─────。
言ってみればおまけでここに来た聖女は勇者のサポート要員の一人でしかない。
聖女一人では魔王を倒せないのだから当然そう思うのは当たり前の話だ。
だからこそ勇者の方を優遇し、聖女の方をおざなりにする者がいたと言っても過言ではないだろう。
そしてそれに対して勇者も特に何も言うことはなかったし、ついて来たいならついて来ればいいけれど、嫌なら王宮に留まればいいんじゃないかという態度だったと聞く。
回復魔法が使える魔道士は国にいくらでもいるし、わざわざ聖女が嫌々同行する必要はないというのが彼の言い分だったのだ。
それにより益々周囲は聖女に対する気遣いを忘れ、もはや邪魔者扱いと言っていいような態度をとるようになっていたらしい。
そんな周囲に彼女も思うことが多々あったのだろう。
部下からの報告によると、つい先ほど聖女は怒り心頭というさまで勇者や皆に向かってこう言い放ったのだそうだ。

「私はもうこの国に対して何かを為す気は一切ありません!このまま日本に帰らせていただきます!」

その言葉に驚いたのは周囲の者達ではなく誰あろう『勇者』その者だった。
「え?え?ちょっと待て!帰るってなんだ?!魔王を倒さないと帰れないんじゃないのか?!」
正直帰る方法があるなんて自分達の誰もが知らなかったし、ただ漠然と魔王を倒したら帰れるんじゃないですかと勇者には伝えていたという。
まさか『聖女』が帰るための魔法を知っているなんて思いもよらなかったのだ。
けれどそんな風に唖然とする自分達に、聖女はクッと冷たい笑みを浮かべて言い放ったのだとか。

「ご愁傷様。『聖女』が使える聖魔法がレベル70を超えたら使える魔法のようよ。今度もし私と違う聖女を召喚することがあれば、必死にレベルを上げさせて土下座して『どうか帰してください』とお願いするのね。さようなら」

そしてその言葉と同時に聖女が魔法を発動させ、その身を淡く白い光が包み込み、ふわりと風が吹いたと思った瞬間にはその姿はもうどこにもなかったという話だった。
そこからはもう大変だったらしい。
勇者がどういうことだと激高し、これまでの聖女に対する仕打ち───役立たずだの邪魔者だのの陰口、食事は使用人のまかないのあまり物を用意、掃除洗濯等身の回りのこともすべて本人任せで放置等々────を聞き出したところでもういいと蒼白になってそのまま部屋に籠ってしまったのだとか。
この王宮に居る者達のストレス値は自分も含めてだがこの半年かなりMAXに近かった。
その捌け口が聖女に向いてしまったのだろうと容易に想像することができた。
けれどそれはこちら側の事情なだけで、聖女からすればたまったものではなかっただろう。
むしろよく半年も我慢したものだと感心してしまう。
知らなかったとはいえ気づいてやれなくて申し訳なかったと少々胸が痛んだ。
仕事に追われ全く余裕のなかった自分が嫌になる。

「それで勇者様は…?」
そうだ。取り乱している場合ではない。
兎に角現状を把握しなければならないと思い直し、報告に来た部下へとそう尋ねると、頭が痛くなるようなことを言われてしまった。
「勇者様はお食事も摂られず、もう元の国に戻れないのなら魔王の討伐になど行かない…と仰せになって」
「なんだと?!」

どうやらこの件ですっかり意気消沈して使い物にならなくなってしまったらしい。
折角この半年で勇者としてのレベルが上がってきたというのに、これでは魔王を倒すどころではない。
これでは召喚した意味がないではないか。
次々に襲い掛かるこの惨状にヴェルガーは泣きたい気持ちになった。

「大至急魔道士達を集めろ!召喚の儀を早急に執り行う準備を!」

とは言え泣いている場合でないことは確かなので、すぐさま声を上げ指示を飛ばす。
正直こんなことに振り回されることになるとは思っていなかっただけに、苦々しい気持ちでいっぱいだ。
(もうなんでもいいからこの状況を改善させ、俺を助けてくれる人材が欲しい!)
そんなことを考えていたからだろうか?
まさか思いもよらない人物が現れるなんて露とも思ってみなかった。




大至急準備が整えられた大広間で、20数名の魔道士から朗々と紡がれる呪文が反響し魔法陣を淡く発光させていく。
そして大魔道士の一言でその呪文は完成された。

『いざ我らが前に現れ給え!救国の聖女よ!』

その言葉と共に部屋は白銀の光に包まれ、その光がおさまったところで皆が魔法陣の中心へと視線を向ける─────。

「…………え?」

けれどそこに現れたのは、『聖女』ではなく、どこからどう見ても普通の、一人の『男』の姿だった。


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