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2.さて。行きますか~プロローグ~
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何の変哲もないビルの屋上で、俺は一人煙草をふかしていた。
真中 悟(まなか さとる)、24才。
そんな俺が真昼間からこんな場所にいるのには理由があった。
どういうことかと言うと、ズバリ死ぬためだ。
簡単に言っているように思うかもしれないが、これには理由がある。
大学を卒業後、少々特殊な就活を経て入った会社は奇特な中小企業だった。
俺の親はいわゆる過干渉な親という奴で、少々度が外れている。
昔は自分が大人になったら変わるだろうと思っていたが、今でも一切変わらないほどひどいものだった。
とは言えそれは行き過ぎた過保護と言うものとも違う。
何と言えばいいのだろう?
俺の人生を邪魔してくるとでも言ったらいいのだろうか?
そうだ。修学旅行の話をすればわかりやすいかもしれない。
親は言う。
「学生が旅行だなんて!きっとふしだらなことが起こるに違いないですわ!」
「そうだ!そんなものうちの子には不要だ!思い出作り?友達は選べと悟には言っている!不特定多数と仲良くする必要などない!」
まあそんな親を持った宿命なのか、就活が物凄く大変だった。
やれ、ここがダメだあそこがダメだという口出しはもちろん、面接会場についてこようとするわ、希望する会社に電話をかけまくるわで、面接を受ける前からお断りされるケースがほとんどだった。
そんな中、自分にはもう働くことなどできないのではないかと思い、高校時代からこっそり転々としていたバイト先のどこかで就職しようかと思い始めていた時に拾ってくれたのが今の会社だった。
正直面接官の中には渋る人だっていた。
けれど一番権限のあった人事部長さんが、社長の息子も凄い問題児だからそれに比べたら問題ないレベルでしょう等々あれこれと言って周囲を笑顔で説き伏せてくれたのだ。
本当に優しくて懐の深い部長さんだった。
そんな彼は会社の良心と言っても過言ではなかった。
過去形なのはそんな彼が昨年末に定年退職してしまったせいだ。
惜しまれながら笑顔で頑張れよと去っていく彼はとてもカッコよくて、自分もあんな風にカッコいい大人になりたいなと思ったものだ。
そしてそんな彼への恩に報いるためにも、自分はこの会社に骨をうずめて見せると気合いを入れて仕事を頑張った。
だから、自分はこの会社で一生働き続けるものだと思っていたのだけれど……それはたった数年で脆くも崩れ去ってしまったのだ。
「あのバカ息子のせいで…」
そう。社長の息子がやらかしたのだ。
会社の金を着服し、女に貢ぎまくった挙句、その女に二股を掛けられた末に捨てられたとかで、よりにもよってその女性を殺害してしまったのだとか。
そこからはもうあっという間だった。
会社の経営は傾き、瞬く間に倒産。
不況のあおりを覿面に食らった感もある。
不幸が不幸を呼んで、坂を転がり落ちるかのようにあっという間に会社は潰れてしまった。
自分を拾ってくれた会社はもうどこにもない。
同僚達は急いで転職活動に入っていたし、皆生活がかかっているのでバタバタと新たな職場を求め動き始めた。
動けなかったのは自分くらいのものではないだろうか?
何と言うか……茫然としたというかなんというか、燃え尽きたような心境に陥ってしまっていた。
自分を拾ってくれた会社が倒産と言うのはかなりショックだと言えるだろう。
最早笑うしかない。
気力が湧かない。
何もする気が起きない。
そんな心境だった。
「あ~あ…」
自分にとっての人生とは一体何なのだろうか?
自分には幸せになることなど夢のまた夢なのかと、思わず重い溜息が出てもおかしくはないではないか。
もうすべてがどうでも良くて、全てを放り出してどこか遠くへ行きたいなと思った。
まあ…それも今日ここに至ってはどうでもいいことではあるのだが。
「よし、行くか」
極論に至ったのは自分の弱さだとは思うが、悲観的な気持ちは何故か一切なかった。
未練はないかと言われたらはっきりと『全くない』と言い切れる自分がいっそ清々しかった。
そうして俺は吸い終わった煙草を携帯灰皿に放り込み、ビルの屋上にある柵をひょいと乗り越え、その死への旅路へと何の躊躇もなく飛び出した。
軽くビルの縁を蹴り、後は万有引力の法則に身を任せるように下へ下へと落下していくだけだ。
これで自分は全てから解き放たれて、やっと自由になれるのだと思うと思わず笑みがこぼれてしまう始末。
もしも生まれ変わりと言うものがあるのなら、今度は制限されない自由があるといいなと思いながらそっと目を閉じた。
けれどあと少しで地上に叩きつけられると思ったその瞬間、思いがけない現象が起こり、俺の身体は突如現れた巨大な光輝くような魔法陣へと吸い込まれるように消えることになったのだった。
真中 悟(まなか さとる)、24才。
そんな俺が真昼間からこんな場所にいるのには理由があった。
どういうことかと言うと、ズバリ死ぬためだ。
簡単に言っているように思うかもしれないが、これには理由がある。
大学を卒業後、少々特殊な就活を経て入った会社は奇特な中小企業だった。
俺の親はいわゆる過干渉な親という奴で、少々度が外れている。
昔は自分が大人になったら変わるだろうと思っていたが、今でも一切変わらないほどひどいものだった。
とは言えそれは行き過ぎた過保護と言うものとも違う。
何と言えばいいのだろう?
俺の人生を邪魔してくるとでも言ったらいいのだろうか?
そうだ。修学旅行の話をすればわかりやすいかもしれない。
親は言う。
「学生が旅行だなんて!きっとふしだらなことが起こるに違いないですわ!」
「そうだ!そんなものうちの子には不要だ!思い出作り?友達は選べと悟には言っている!不特定多数と仲良くする必要などない!」
まあそんな親を持った宿命なのか、就活が物凄く大変だった。
やれ、ここがダメだあそこがダメだという口出しはもちろん、面接会場についてこようとするわ、希望する会社に電話をかけまくるわで、面接を受ける前からお断りされるケースがほとんどだった。
そんな中、自分にはもう働くことなどできないのではないかと思い、高校時代からこっそり転々としていたバイト先のどこかで就職しようかと思い始めていた時に拾ってくれたのが今の会社だった。
正直面接官の中には渋る人だっていた。
けれど一番権限のあった人事部長さんが、社長の息子も凄い問題児だからそれに比べたら問題ないレベルでしょう等々あれこれと言って周囲を笑顔で説き伏せてくれたのだ。
本当に優しくて懐の深い部長さんだった。
そんな彼は会社の良心と言っても過言ではなかった。
過去形なのはそんな彼が昨年末に定年退職してしまったせいだ。
惜しまれながら笑顔で頑張れよと去っていく彼はとてもカッコよくて、自分もあんな風にカッコいい大人になりたいなと思ったものだ。
そしてそんな彼への恩に報いるためにも、自分はこの会社に骨をうずめて見せると気合いを入れて仕事を頑張った。
だから、自分はこの会社で一生働き続けるものだと思っていたのだけれど……それはたった数年で脆くも崩れ去ってしまったのだ。
「あのバカ息子のせいで…」
そう。社長の息子がやらかしたのだ。
会社の金を着服し、女に貢ぎまくった挙句、その女に二股を掛けられた末に捨てられたとかで、よりにもよってその女性を殺害してしまったのだとか。
そこからはもうあっという間だった。
会社の経営は傾き、瞬く間に倒産。
不況のあおりを覿面に食らった感もある。
不幸が不幸を呼んで、坂を転がり落ちるかのようにあっという間に会社は潰れてしまった。
自分を拾ってくれた会社はもうどこにもない。
同僚達は急いで転職活動に入っていたし、皆生活がかかっているのでバタバタと新たな職場を求め動き始めた。
動けなかったのは自分くらいのものではないだろうか?
何と言うか……茫然としたというかなんというか、燃え尽きたような心境に陥ってしまっていた。
自分を拾ってくれた会社が倒産と言うのはかなりショックだと言えるだろう。
最早笑うしかない。
気力が湧かない。
何もする気が起きない。
そんな心境だった。
「あ~あ…」
自分にとっての人生とは一体何なのだろうか?
自分には幸せになることなど夢のまた夢なのかと、思わず重い溜息が出てもおかしくはないではないか。
もうすべてがどうでも良くて、全てを放り出してどこか遠くへ行きたいなと思った。
まあ…それも今日ここに至ってはどうでもいいことではあるのだが。
「よし、行くか」
極論に至ったのは自分の弱さだとは思うが、悲観的な気持ちは何故か一切なかった。
未練はないかと言われたらはっきりと『全くない』と言い切れる自分がいっそ清々しかった。
そうして俺は吸い終わった煙草を携帯灰皿に放り込み、ビルの屋上にある柵をひょいと乗り越え、その死への旅路へと何の躊躇もなく飛び出した。
軽くビルの縁を蹴り、後は万有引力の法則に身を任せるように下へ下へと落下していくだけだ。
これで自分は全てから解き放たれて、やっと自由になれるのだと思うと思わず笑みがこぼれてしまう始末。
もしも生まれ変わりと言うものがあるのなら、今度は制限されない自由があるといいなと思いながらそっと目を閉じた。
けれどあと少しで地上に叩きつけられると思ったその瞬間、思いがけない現象が起こり、俺の身体は突如現れた巨大な光輝くような魔法陣へと吸い込まれるように消えることになったのだった。
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