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3.誰にとっても予想外
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俺は確かにビルの屋上から飛び降りたはずなのに、気づけばよくわからない異国風の者達に取り囲まれていた。
その時の心境を一体どう言い表せばいいのだろうか?
正直ポカーンといった感じだった。
何故自分はここにいるのだろう?
それがどうにも理解できなかったのだ。
けれどそれは相手にとってもどうやら同じだったようで、暫く驚愕の表情でこちらを見ていたと思ったら、ハッと我に返って大騒ぎし始めた。
「一体何が?!」
「お、おおおおお、男ですよね?!」
「『聖女』じゃない?!失敗したのか?!」
「そんな!呪文は確かに間違っていないはずでは?!」
「まさか『聖女』ではなく再度『勇者』を召喚してしまったのでは?!」
「そんなバカな!それはそれでありではあるが、そうなると勇者様が益々引きこもりになってしまうではないか!それは困る!」
ぎゃあぎゃあと喚きだす面々に正直何がどうなっているのか理解が出来そうにない。
そんな俺の元に魔道士とは違う服装をした人物がそっと近づいてきた。
初めて見るようなアイスブルーの髪色をした20代後半くらいの迫力ある美丈夫だ。
そんな彼が硬質な眼差しでこちらを見下ろしてくる。
「……名は?」
ずいぶん不躾だ。
大人の対応としてまずは自分から名乗ってほしいものだが、どうも見る限りこの場で一番偉そうな相手なのでここは素直に名を名乗ることにする。
「真中 悟(まなか さとる)…です」
「マナカサトル?マナ=カサトルだな。ではマナ、お前に聞きたいことがある」
「へ?」
何やら名前を大きく勘違いされたようだが、質問されたせいでそれを訂正することができない。
「お前は『聖女』の力を持っているか?」
セイジョ…?
せいじょってなんだっけ?
そうして考えたところでやっと『せいじょ』が『聖女』に脳内変換されたのだが、頭が真っ白状態で言われたので素朴な疑問の方が咄嗟に口をついて出てしまった。
「え?俺、男ですけど?」
聖女って女だよな?
男が聖女ってどう考えてもあり得ないよな?
そう思ったからこそそう口にしたのだが、それを聞いた途端目の前の男性は明らかに蒼白になってガックリと項垂れてしまった。
「え…えっと…?」
正直見たらわかるだろうと思わないでもなかったのだが、まさかこんなに落ち込まれるとは思わなかっただけに焦ってしまう。
けれどそんな空気を打ち破る様にどこからかバタバタという音が聞こえてきて、バーンと勢いよく扉が開かれた。
「聖女!俺の聖女はどこだ!」
そこに飛び込んできたのはまだ二十歳になっていないだろうなというような若干幼さを残したようなイケメンだった。
テレビで歌って踊っていてもおかしくないような自分とは住む世界が違うような、ある意味今どきのモテ系男子。
そんな彼がキョロキョロと必死に何かを探すように周囲を見渡し、最後にこちらへと視線を留めた。
互いの目と目がバチッと合って、彼の目が驚愕に見開かれたかと思うと、その場で先程の男と同じようにガックリと項垂れてしまう。
こんなにあからさまに目の前で落胆されたのは生まれて初めてだった。
けれど彼らを見てふと思いついたことがある。
ああ、これはもしかして、同僚が言っていた今流行りの『異世界転生』や『異世界転移』?とかいうものなのではないか…と。
自分は読んだことはないが、その年配の同僚の娘が今ネット小説に嵌っていて、そう言った小説を読み漁っているのだとか言っていた。
「真中君も若いからそう言うの好きなんじゃないの?」と世間話的に話を振られたのだが、残念ながら自分はそういう話には疎くてただ聞くことくらいしかできなかった。
そんなことを思い出していると最初に撃沈していたアイスブルーの男性がショックから立ち直り、こちらに頭を下げた。
「申し訳ない。聖女を召喚したつもりだったのだが恐らくなんらかの不手際で間違いが起こったのだろう。まず間違いなく其方は『勇者』だと思われる。こちらの勇者 トモと共に魔王を倒すため、どうかその力を貸して頂きたい!」
ユウシャ…?
ゆうしゃって『勇者』?
あの、魔王を魔法でぶっ飛ばしたり剣でぶった切るおとぎ話でしか見ないような、あの『勇者』?
「え?いや、無理ですよ」
もうこの際ここが異世界でも何でも構わない。
どうせ死ぬ気だったのだからあっちには何の未練もないし、ここに住めと言われたら住むのも吝かではない。
けれど『勇者』になれというのはちょっと無理があるように思う。
何故なら今現在自分に剣を振る力があるかというと答えはノーだし、魔法が使えるかと問われたらできないとしか答えられないからだ。
やったことがないのにできるはずがないではないか。
とは言えここに来てしまったからには何とか生きていくしかないだろう。
そうなると生活費は自分で稼ぐのが筋だし、その前にここでの常識を学び生きていく知恵を得る必要がでてくる。
魔王討伐なんてこれっぽっちも出来なさそうなことに時間を割いている暇はどこにもない。
だから驚くアイスブルーの男性に淡々とその事実を告げた。
「俺は剣も使えなければ魔法も使えないただの一般人なんです。スポーツだって何もしてこなかったし、アウトドア系の趣味もないからテントすら張れない。だから旅自体ができる気がしない。はっきり言って知識を蓄えて街のどこかであくせく働くのが一番いいと思います」
幸いバイト経験はいくつかあるし、就職を少しでも有利にするために資格もいくつかとった。
親の邪魔が入る日本では色々制限もありはしたが、ここが異世界ならその制限もなくなることだしできることは多い。
なのである意味第二の人生を謳歌できるというものだ。
これがいいのか悪いのかはわからないが、まあなるようになるだろうと決心し素直に自分の気持ちを言葉にした。
「取り敢えず、『勇者』ではなく普通の職につけるよう色々ご教授ください」
そしてきっちり45度の角度でお辞儀をしたら、何故かアイスブルーの男性はフルフルと頭を振って頭が痛いと言って立ち去っていった。
その後を成り行きを見守っていた面々がパタパタと追いかけていく。
そして後に残されたのは、『勇者』と呼ばれていたトモという男だけだった。
その時の心境を一体どう言い表せばいいのだろうか?
正直ポカーンといった感じだった。
何故自分はここにいるのだろう?
それがどうにも理解できなかったのだ。
けれどそれは相手にとってもどうやら同じだったようで、暫く驚愕の表情でこちらを見ていたと思ったら、ハッと我に返って大騒ぎし始めた。
「一体何が?!」
「お、おおおおお、男ですよね?!」
「『聖女』じゃない?!失敗したのか?!」
「そんな!呪文は確かに間違っていないはずでは?!」
「まさか『聖女』ではなく再度『勇者』を召喚してしまったのでは?!」
「そんなバカな!それはそれでありではあるが、そうなると勇者様が益々引きこもりになってしまうではないか!それは困る!」
ぎゃあぎゃあと喚きだす面々に正直何がどうなっているのか理解が出来そうにない。
そんな俺の元に魔道士とは違う服装をした人物がそっと近づいてきた。
初めて見るようなアイスブルーの髪色をした20代後半くらいの迫力ある美丈夫だ。
そんな彼が硬質な眼差しでこちらを見下ろしてくる。
「……名は?」
ずいぶん不躾だ。
大人の対応としてまずは自分から名乗ってほしいものだが、どうも見る限りこの場で一番偉そうな相手なのでここは素直に名を名乗ることにする。
「真中 悟(まなか さとる)…です」
「マナカサトル?マナ=カサトルだな。ではマナ、お前に聞きたいことがある」
「へ?」
何やら名前を大きく勘違いされたようだが、質問されたせいでそれを訂正することができない。
「お前は『聖女』の力を持っているか?」
セイジョ…?
せいじょってなんだっけ?
そうして考えたところでやっと『せいじょ』が『聖女』に脳内変換されたのだが、頭が真っ白状態で言われたので素朴な疑問の方が咄嗟に口をついて出てしまった。
「え?俺、男ですけど?」
聖女って女だよな?
男が聖女ってどう考えてもあり得ないよな?
そう思ったからこそそう口にしたのだが、それを聞いた途端目の前の男性は明らかに蒼白になってガックリと項垂れてしまった。
「え…えっと…?」
正直見たらわかるだろうと思わないでもなかったのだが、まさかこんなに落ち込まれるとは思わなかっただけに焦ってしまう。
けれどそんな空気を打ち破る様にどこからかバタバタという音が聞こえてきて、バーンと勢いよく扉が開かれた。
「聖女!俺の聖女はどこだ!」
そこに飛び込んできたのはまだ二十歳になっていないだろうなというような若干幼さを残したようなイケメンだった。
テレビで歌って踊っていてもおかしくないような自分とは住む世界が違うような、ある意味今どきのモテ系男子。
そんな彼がキョロキョロと必死に何かを探すように周囲を見渡し、最後にこちらへと視線を留めた。
互いの目と目がバチッと合って、彼の目が驚愕に見開かれたかと思うと、その場で先程の男と同じようにガックリと項垂れてしまう。
こんなにあからさまに目の前で落胆されたのは生まれて初めてだった。
けれど彼らを見てふと思いついたことがある。
ああ、これはもしかして、同僚が言っていた今流行りの『異世界転生』や『異世界転移』?とかいうものなのではないか…と。
自分は読んだことはないが、その年配の同僚の娘が今ネット小説に嵌っていて、そう言った小説を読み漁っているのだとか言っていた。
「真中君も若いからそう言うの好きなんじゃないの?」と世間話的に話を振られたのだが、残念ながら自分はそういう話には疎くてただ聞くことくらいしかできなかった。
そんなことを思い出していると最初に撃沈していたアイスブルーの男性がショックから立ち直り、こちらに頭を下げた。
「申し訳ない。聖女を召喚したつもりだったのだが恐らくなんらかの不手際で間違いが起こったのだろう。まず間違いなく其方は『勇者』だと思われる。こちらの勇者 トモと共に魔王を倒すため、どうかその力を貸して頂きたい!」
ユウシャ…?
ゆうしゃって『勇者』?
あの、魔王を魔法でぶっ飛ばしたり剣でぶった切るおとぎ話でしか見ないような、あの『勇者』?
「え?いや、無理ですよ」
もうこの際ここが異世界でも何でも構わない。
どうせ死ぬ気だったのだからあっちには何の未練もないし、ここに住めと言われたら住むのも吝かではない。
けれど『勇者』になれというのはちょっと無理があるように思う。
何故なら今現在自分に剣を振る力があるかというと答えはノーだし、魔法が使えるかと問われたらできないとしか答えられないからだ。
やったことがないのにできるはずがないではないか。
とは言えここに来てしまったからには何とか生きていくしかないだろう。
そうなると生活費は自分で稼ぐのが筋だし、その前にここでの常識を学び生きていく知恵を得る必要がでてくる。
魔王討伐なんてこれっぽっちも出来なさそうなことに時間を割いている暇はどこにもない。
だから驚くアイスブルーの男性に淡々とその事実を告げた。
「俺は剣も使えなければ魔法も使えないただの一般人なんです。スポーツだって何もしてこなかったし、アウトドア系の趣味もないからテントすら張れない。だから旅自体ができる気がしない。はっきり言って知識を蓄えて街のどこかであくせく働くのが一番いいと思います」
幸いバイト経験はいくつかあるし、就職を少しでも有利にするために資格もいくつかとった。
親の邪魔が入る日本では色々制限もありはしたが、ここが異世界ならその制限もなくなることだしできることは多い。
なのである意味第二の人生を謳歌できるというものだ。
これがいいのか悪いのかはわからないが、まあなるようになるだろうと決心し素直に自分の気持ちを言葉にした。
「取り敢えず、『勇者』ではなく普通の職につけるよう色々ご教授ください」
そしてきっちり45度の角度でお辞儀をしたら、何故かアイスブルーの男性はフルフルと頭を振って頭が痛いと言って立ち去っていった。
その後を成り行きを見守っていた面々がパタパタと追いかけていく。
そして後に残されたのは、『勇者』と呼ばれていたトモという男だけだった。
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