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14.宰相はとことんツイてないー宰相視点ー
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勇者トモと一緒に賢者マナが一週間の旅に出てしまった。
宰相は今日何度目かわからない溜息を吐きながら今日も仕事に励んでいるが、先ほどから遅々として仕事が進まない。
ここ最近はサクサク片付いていたというのに、これでは元の木阿弥だ。
何が違うのだろう?
たった一人違うだけで仕事とはこうも進捗状況が変わってしまうものなのだろうか?
そう思ってまた重い溜息を吐いたところで、部下の一人が勢いよくやってきた。
「宰相!先日各地にお送りした文の返信が届いております!」
どうやらマナに言われ手配した各所への人材派遣の返答がき始めたらしい。
これで一人でも二人でも優秀な者達がここに来てくれたら御の字だ。
もしダメでも現状より悪くなることもないのだしその時はその時でまた別な対策を取ればいいと口にしていたマナの姿を思い出し、気楽な気持ちでその返答書を開封した。
それは王都から一番近い領主からの返答で、事情は分かったから優秀な者を二人ほど送ると書かれてあった。
非情にありがたいことだ。
だから素直に感謝の気持ちを込めて返信をしたためた。
そうこうしているうちに一つ二つと次々に他の地域からも返書が届けられる。
意外なことにそれのいずれも一人ないしは二人送り届けると書かれてあり、これほど協力してもらえるのならもっと早くにこうしておけばよかったと思うほどに人材確保は順調にいった。
けれど─────。
「何故カテオロスから人が来ない?」
他はいい。
けれど何故か所有している領地から人が派遣されてこないのだ。
自慢ではないがカテオロスは収益も他領よりは多く、この国の中でも豊かな方だ。
それは勿論恵まれた土地であると言うことも大きいが、それ以上にできる優秀な補佐に恵まれているというのもあった。
だから自分がこうして王宮で仕事から離れることが出来なくとも、彼等だけでなんとか領主代理の仕事をこなせていると信じていた。
それにあの地には今自分の婚約者であるアーデルハイトがおり、王宮から離れられなくなったと文を送った際に『カテオロスのことは全て自分に任せて大丈夫だから仕事を頑張ってください』と言ってくれていた。
普段から無駄遣いせず堅実で健気な女性であることから、きっとしっかりと補佐達を支えてくれているはず。
自分がここに来て半年─────。
特にカテオロスで何か問題が起きたと連絡もなかったし、あれだけ優秀な者達ばかりなのだから一人くらいは来てくれても何も問題はないはずなのだ。
それなのに何も連絡がないと言うのはどういうことなのだろうか?
まさか文が届いていないのではないかと不安になり、念のため早馬で届けてもらうついでに様子を見てきてもらうことにしたのだが……。
「ヴェルガー様…」
数日して早馬の者と一緒にやってきた自分の補佐の一人、アダムは蒼白になりながら予想外のことを口にした。
「……この半年、アーデルハイト様とご連絡を取り合っておられましたよね?」
「…?ハイジと文をやり取りしたのは半年前の一度だけだが?」
仕事が忙しく、文はそう送れないかもしれないと最初の手紙で伝えた時、アーデルハイトは国政の方が大事なのだからこちらのことは気にしなくてもいい。何かあったらこちらから連絡するからと優しい言葉を綴ってくれていた。
だから今日までその言葉を疑ったことはなかったし、素晴らしい婚約者に恵まれて自分は幸せだと思っていた。
それなのに─────。
「……申し訳ありません」
そうしてアダムが話したことによると、アーデルハイトはこの半年、カテオロスで好き放題していたのだとか。
曰く、義父である宰相が陛下達と氷漬けになり身罷ったからにはこの領の領主はヴェルガーで、その婚約者である自分は言うなれば領主夫人も同然だ。ヴェルガーにも領のことは頼むと言われているのだから、逆らうことは許さない────と。
そして地味に見えつつも高価なドレスや宝飾品を買い漁り、苦言を呈する補佐達にはヴェルガーから許可は貰っていると言い続けていたのだとか。
そんな散財の日々が半年も続けば金は当然回らなくなってくる。
これではダメだと王宮に文を書くも、自分からの返事は一切届かなかったのだと言う。
「私はそのような手紙は一通も受け取っていないぞ?」
それは確かなことだった。
恐らくアーデルハイトがどの時点でかはわからないが握りつぶしていたのだろう。
けれど補佐達は返事がないのは自分が怒っているからだと考えたらしい。
『婚約者の好きにさせろ』────つまりはそういうことなのだと受け取ったのだとか。
そんな中での今回の補佐の要請に、アーデルハイトはどうやら焦ったらしい。
補佐の一人が王宮へと向かえば、自分がしていることがばれてしまう。
それなら補佐を派遣しなければいいと考え、返事をどう書くか考えている最中だったようだ。
その中でのまさかの早馬による手紙────。
全てが露見しては自分は破滅だとでも思ったのか、自分に憧れを抱いていた使用人の一人を唆し、慰謝料だと言って5000万イェン持ってそのまま逃亡を図ったのだとか。
ドレスや宝飾品等含めると相当な額が彼女の手によって失われたらしいことが分かり唖然とした。
まさかそんなことになっているとは思いもよらなかった。
「……そんな。アーデルハイトは慎ましくて優しくて…そんなことができるような女性では…」
「……すべてはそう見せ掛けていただけの上辺だけのものでございました。看破し速やかに対処することができず、申し訳ございませんでした」
まんまと掌で転がされてしまい、申し訳なかったと謝罪する補佐の言葉が素直に耳に入ってこない。
「婚約破棄の手続きは後の者に任せてまいりましたし、損害分を取り戻すための対策も改めて考えなければなりません。すぐにこちらに来たい気持ちはあるのですが、申し訳ありませんがカテオロスの方が落ち着いてからとさせてください」
そうして申し訳なさそうにアダムは頭を下げカテオロスへと帰っていった。
後に残されたヴェルガーはただただ呆然とするばかり─────。
────────────────────
※ハイジはアーデルハイトの愛称です。
裏設定:宰相とは8才違いの19才。元々は彼女が20才になったら結婚する予定だった。
宰相は今日何度目かわからない溜息を吐きながら今日も仕事に励んでいるが、先ほどから遅々として仕事が進まない。
ここ最近はサクサク片付いていたというのに、これでは元の木阿弥だ。
何が違うのだろう?
たった一人違うだけで仕事とはこうも進捗状況が変わってしまうものなのだろうか?
そう思ってまた重い溜息を吐いたところで、部下の一人が勢いよくやってきた。
「宰相!先日各地にお送りした文の返信が届いております!」
どうやらマナに言われ手配した各所への人材派遣の返答がき始めたらしい。
これで一人でも二人でも優秀な者達がここに来てくれたら御の字だ。
もしダメでも現状より悪くなることもないのだしその時はその時でまた別な対策を取ればいいと口にしていたマナの姿を思い出し、気楽な気持ちでその返答書を開封した。
それは王都から一番近い領主からの返答で、事情は分かったから優秀な者を二人ほど送ると書かれてあった。
非情にありがたいことだ。
だから素直に感謝の気持ちを込めて返信をしたためた。
そうこうしているうちに一つ二つと次々に他の地域からも返書が届けられる。
意外なことにそれのいずれも一人ないしは二人送り届けると書かれてあり、これほど協力してもらえるのならもっと早くにこうしておけばよかったと思うほどに人材確保は順調にいった。
けれど─────。
「何故カテオロスから人が来ない?」
他はいい。
けれど何故か所有している領地から人が派遣されてこないのだ。
自慢ではないがカテオロスは収益も他領よりは多く、この国の中でも豊かな方だ。
それは勿論恵まれた土地であると言うことも大きいが、それ以上にできる優秀な補佐に恵まれているというのもあった。
だから自分がこうして王宮で仕事から離れることが出来なくとも、彼等だけでなんとか領主代理の仕事をこなせていると信じていた。
それにあの地には今自分の婚約者であるアーデルハイトがおり、王宮から離れられなくなったと文を送った際に『カテオロスのことは全て自分に任せて大丈夫だから仕事を頑張ってください』と言ってくれていた。
普段から無駄遣いせず堅実で健気な女性であることから、きっとしっかりと補佐達を支えてくれているはず。
自分がここに来て半年─────。
特にカテオロスで何か問題が起きたと連絡もなかったし、あれだけ優秀な者達ばかりなのだから一人くらいは来てくれても何も問題はないはずなのだ。
それなのに何も連絡がないと言うのはどういうことなのだろうか?
まさか文が届いていないのではないかと不安になり、念のため早馬で届けてもらうついでに様子を見てきてもらうことにしたのだが……。
「ヴェルガー様…」
数日して早馬の者と一緒にやってきた自分の補佐の一人、アダムは蒼白になりながら予想外のことを口にした。
「……この半年、アーデルハイト様とご連絡を取り合っておられましたよね?」
「…?ハイジと文をやり取りしたのは半年前の一度だけだが?」
仕事が忙しく、文はそう送れないかもしれないと最初の手紙で伝えた時、アーデルハイトは国政の方が大事なのだからこちらのことは気にしなくてもいい。何かあったらこちらから連絡するからと優しい言葉を綴ってくれていた。
だから今日までその言葉を疑ったことはなかったし、素晴らしい婚約者に恵まれて自分は幸せだと思っていた。
それなのに─────。
「……申し訳ありません」
そうしてアダムが話したことによると、アーデルハイトはこの半年、カテオロスで好き放題していたのだとか。
曰く、義父である宰相が陛下達と氷漬けになり身罷ったからにはこの領の領主はヴェルガーで、その婚約者である自分は言うなれば領主夫人も同然だ。ヴェルガーにも領のことは頼むと言われているのだから、逆らうことは許さない────と。
そして地味に見えつつも高価なドレスや宝飾品を買い漁り、苦言を呈する補佐達にはヴェルガーから許可は貰っていると言い続けていたのだとか。
そんな散財の日々が半年も続けば金は当然回らなくなってくる。
これではダメだと王宮に文を書くも、自分からの返事は一切届かなかったのだと言う。
「私はそのような手紙は一通も受け取っていないぞ?」
それは確かなことだった。
恐らくアーデルハイトがどの時点でかはわからないが握りつぶしていたのだろう。
けれど補佐達は返事がないのは自分が怒っているからだと考えたらしい。
『婚約者の好きにさせろ』────つまりはそういうことなのだと受け取ったのだとか。
そんな中での今回の補佐の要請に、アーデルハイトはどうやら焦ったらしい。
補佐の一人が王宮へと向かえば、自分がしていることがばれてしまう。
それなら補佐を派遣しなければいいと考え、返事をどう書くか考えている最中だったようだ。
その中でのまさかの早馬による手紙────。
全てが露見しては自分は破滅だとでも思ったのか、自分に憧れを抱いていた使用人の一人を唆し、慰謝料だと言って5000万イェン持ってそのまま逃亡を図ったのだとか。
ドレスや宝飾品等含めると相当な額が彼女の手によって失われたらしいことが分かり唖然とした。
まさかそんなことになっているとは思いもよらなかった。
「……そんな。アーデルハイトは慎ましくて優しくて…そんなことができるような女性では…」
「……すべてはそう見せ掛けていただけの上辺だけのものでございました。看破し速やかに対処することができず、申し訳ございませんでした」
まんまと掌で転がされてしまい、申し訳なかったと謝罪する補佐の言葉が素直に耳に入ってこない。
「婚約破棄の手続きは後の者に任せてまいりましたし、損害分を取り戻すための対策も改めて考えなければなりません。すぐにこちらに来たい気持ちはあるのですが、申し訳ありませんがカテオロスの方が落ち着いてからとさせてください」
そうして申し訳なさそうにアダムは頭を下げカテオロスへと帰っていった。
後に残されたヴェルガーはただただ呆然とするばかり─────。
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※ハイジはアーデルハイトの愛称です。
裏設定:宰相とは8才違いの19才。元々は彼女が20才になったら結婚する予定だった。
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