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13.調査に出発しました
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「じゃあ行ってきます」
そう言って王宮を出発する自分達を宰相が心配げに見送りに来てくれる。
それに反して周囲の者達は実に満足げだ。
「勇者様、賢者様。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
言葉は丁寧だし、何をされたという訳でもないのだが、なんだか追い出されているようにしか感じられないのは何故だろうか?
ちなみに今回の旅の工程は往復で4日。現地調査3日の軽いものだ。
勇者は兎も角、俺は馬には乗れないから馬車の旅になる。
随従は魔道士二名、王宮騎士二名、御者一名となっている。
勇者と騎士は騎馬で馬車の周囲を護衛してくれているので、馬車の中は俺と魔道士二人。
はっきり言って息が詰まる。
どういうことかと言うと─────。
「俺、サトルって言うんだけど…」
取り敢えず相手の名前を教えて貰おうと思い恐る恐る声を掛けてみたのだが、二人は揃って目を閉じており、聞いているのかいないのかと言う感じで完全にスルーされてしまったのだ。
こんな風にされると非常に話しかけづらい。
これでは仲良くなるどころの話ではない。
仕方がないので、昨日図書室で読んだ本の内容でも思い出しながら今後の対策でも考えようと思い直した。
この国は主要な産業がないのは前述したが、決して大地がやせているという訳ではない。
肥沃な土地は少ないが、まあごく普通の土地だ。
ただ大きな水源がないのはあるかもしれない。
低い山から細い川が流れているだけで、これと言って大きな川や湖といったものがないのだ。
ちなみに肥沃な土地は代々公爵領として与えられ、各所でそれなりに利を得て栄えているらしい。
公爵領は三つ。
エリバン、カテオロス、バニシュの三か所になる。
この中には宰相の持つ領地も含まれており、そこでは農業だけではなく産業もそこそこあるのだが、如何せんあくまでも『そこそこ』止まりだった。
特産品と言うものがないのはいただけない。
もっと他国に売り出せるものが欲しいところだ。
帰ったらこのあたりのことをじっくりと話してみたいものである。
そうしてとりとめのないことを考えつつも、今度は自分のステータスを再度確認してみる。
どうやら浄化や鑑定等で魔法だかスキルだかよくわからない力を使っているうちに、少しだけレベルが上がっていたらしい。
まあそれは置いておいて、まず確認しなければならないことを確認しておきたい。
まず、自分は攻撃系の魔法やスキルを持っているのかを知っておきたかったのだ。
どんな魔法が使えるのかというのも重要だ。
咄嗟の時に使えないと意味がない。
一応図書室で魔法に関する本にも目を通してみたのだが、大事なことはイメージ力で、それをより具体的にイメージできるなら手段は問わないのだと書かれてあった。
詠唱をしようが、無詠唱だろうが、本人の好きなようにすればいいと言うざっくばらんな書き方が面白くて、ついつい熱心に読み込んでしまった実に楽しい本だった。
(…眉唾ものの本じゃないといいな、あれ)
今更だがそんな風に考えつつ、とりあえずステータスの詳細を確認しながら使える魔法一覧を見遣る。
そしてそれを素早く確認すると、今度は魔力操作トレーニング(その本に載っていたやり方)を実践してみた。
自分の中にある血の巡りに沿っているかのような力を感じ取り、それをゆっくり身体全体に巡らせるのを意識しながら呼吸をするという至って単純なものだ。
寝る前とかにここ二日ほどやっていたから最早手慣れたもので、今では『掌に移動させてみる』や『指先にそれぞれ集めてみる』等も遊び感覚でできるようになっていた。
コツさえつかめば意外と簡単にできるようだ。
実にいい暇つぶしになるので、こういった移動時など、手持ち無沙汰な時の遊びにしようとこっそりと思った。
けれどその数時間後─────。
「……飽きた」
俺はポツリとそう呟いていた。
馬車の旅は正直辛い。
ガタゴトガタゴトとひたすら揺られながら目的地へと向かっているので、周囲の風景を眺めるのが唯一の楽しみではあるのだが、それさえ今は窓が閉じられてしまっているので見れぬ有様なのだ。
ちなみにその窓が何故閉じられたかと言うと、森に入ったからだ。
万が一にでも弓矢で狙われたら大変だからとヒロが指示を出したので、同乗者がササッと閉じてしまったという……。
そんなわけで余計に閉塞感が凄い。
「……はぁ」
魔道士達もそれは同じようで、やれやれとでも言うように溜息を吐いたが、相変わらずこちらに何かを言ってくる様子はなかった。
それだけでもこれまで会ってきた王宮の者達より多少は好意的なのかもしれない。
とは言え暇は暇だ。
これまでの時間で魔力操作には慣れたし、今度は試しに使ってみるかとこっそり試してみることにした。
(まずはヒール…っと)
馬車に揺られ過ぎて痛くなってきた自分の尻にヒールを掛けてみる。
イメージはクッションに座ってお尻の痛みがスッと引いていく感じにしてみた。
(うん。いい感じ)
どうやら上手くいったようで、痛かった部分があっさりと治ってしまった。
こうなったら他にも何かできないかと思うのが俺だった。
例えばヒールは状態異常や怪我を治すのに使われる魔法だが、バリアやリフレクションなど防御系の魔法の効果はどれくらいの時間持つのか気になる点ではある。
攻撃を受けるその時限りの瞬間的防御なのか、それとも攻撃を受けるまでずっとその身を守る持続型の魔法なのか。
重ね掛けはできるのかや、もしできるならどれくらい重ね掛けが可能なのか。効果は高まるのかなど気になる点はいっぱいだ。
だから…ここはヒロに聞いてみようと思った。
今走っているこの森はそれほど深くはないらしく、今日はこの先にある村で宿を借りて一泊すると聞いているので、その時にでも聞けばいいだろう。
そんなことを考えている旅の間に、まさか宰相の方に思いがけない出来事が起こっているとは思いもよらなかった。
そう言って王宮を出発する自分達を宰相が心配げに見送りに来てくれる。
それに反して周囲の者達は実に満足げだ。
「勇者様、賢者様。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
言葉は丁寧だし、何をされたという訳でもないのだが、なんだか追い出されているようにしか感じられないのは何故だろうか?
ちなみに今回の旅の工程は往復で4日。現地調査3日の軽いものだ。
勇者は兎も角、俺は馬には乗れないから馬車の旅になる。
随従は魔道士二名、王宮騎士二名、御者一名となっている。
勇者と騎士は騎馬で馬車の周囲を護衛してくれているので、馬車の中は俺と魔道士二人。
はっきり言って息が詰まる。
どういうことかと言うと─────。
「俺、サトルって言うんだけど…」
取り敢えず相手の名前を教えて貰おうと思い恐る恐る声を掛けてみたのだが、二人は揃って目を閉じており、聞いているのかいないのかと言う感じで完全にスルーされてしまったのだ。
こんな風にされると非常に話しかけづらい。
これでは仲良くなるどころの話ではない。
仕方がないので、昨日図書室で読んだ本の内容でも思い出しながら今後の対策でも考えようと思い直した。
この国は主要な産業がないのは前述したが、決して大地がやせているという訳ではない。
肥沃な土地は少ないが、まあごく普通の土地だ。
ただ大きな水源がないのはあるかもしれない。
低い山から細い川が流れているだけで、これと言って大きな川や湖といったものがないのだ。
ちなみに肥沃な土地は代々公爵領として与えられ、各所でそれなりに利を得て栄えているらしい。
公爵領は三つ。
エリバン、カテオロス、バニシュの三か所になる。
この中には宰相の持つ領地も含まれており、そこでは農業だけではなく産業もそこそこあるのだが、如何せんあくまでも『そこそこ』止まりだった。
特産品と言うものがないのはいただけない。
もっと他国に売り出せるものが欲しいところだ。
帰ったらこのあたりのことをじっくりと話してみたいものである。
そうしてとりとめのないことを考えつつも、今度は自分のステータスを再度確認してみる。
どうやら浄化や鑑定等で魔法だかスキルだかよくわからない力を使っているうちに、少しだけレベルが上がっていたらしい。
まあそれは置いておいて、まず確認しなければならないことを確認しておきたい。
まず、自分は攻撃系の魔法やスキルを持っているのかを知っておきたかったのだ。
どんな魔法が使えるのかというのも重要だ。
咄嗟の時に使えないと意味がない。
一応図書室で魔法に関する本にも目を通してみたのだが、大事なことはイメージ力で、それをより具体的にイメージできるなら手段は問わないのだと書かれてあった。
詠唱をしようが、無詠唱だろうが、本人の好きなようにすればいいと言うざっくばらんな書き方が面白くて、ついつい熱心に読み込んでしまった実に楽しい本だった。
(…眉唾ものの本じゃないといいな、あれ)
今更だがそんな風に考えつつ、とりあえずステータスの詳細を確認しながら使える魔法一覧を見遣る。
そしてそれを素早く確認すると、今度は魔力操作トレーニング(その本に載っていたやり方)を実践してみた。
自分の中にある血の巡りに沿っているかのような力を感じ取り、それをゆっくり身体全体に巡らせるのを意識しながら呼吸をするという至って単純なものだ。
寝る前とかにここ二日ほどやっていたから最早手慣れたもので、今では『掌に移動させてみる』や『指先にそれぞれ集めてみる』等も遊び感覚でできるようになっていた。
コツさえつかめば意外と簡単にできるようだ。
実にいい暇つぶしになるので、こういった移動時など、手持ち無沙汰な時の遊びにしようとこっそりと思った。
けれどその数時間後─────。
「……飽きた」
俺はポツリとそう呟いていた。
馬車の旅は正直辛い。
ガタゴトガタゴトとひたすら揺られながら目的地へと向かっているので、周囲の風景を眺めるのが唯一の楽しみではあるのだが、それさえ今は窓が閉じられてしまっているので見れぬ有様なのだ。
ちなみにその窓が何故閉じられたかと言うと、森に入ったからだ。
万が一にでも弓矢で狙われたら大変だからとヒロが指示を出したので、同乗者がササッと閉じてしまったという……。
そんなわけで余計に閉塞感が凄い。
「……はぁ」
魔道士達もそれは同じようで、やれやれとでも言うように溜息を吐いたが、相変わらずこちらに何かを言ってくる様子はなかった。
それだけでもこれまで会ってきた王宮の者達より多少は好意的なのかもしれない。
とは言え暇は暇だ。
これまでの時間で魔力操作には慣れたし、今度は試しに使ってみるかとこっそり試してみることにした。
(まずはヒール…っと)
馬車に揺られ過ぎて痛くなってきた自分の尻にヒールを掛けてみる。
イメージはクッションに座ってお尻の痛みがスッと引いていく感じにしてみた。
(うん。いい感じ)
どうやら上手くいったようで、痛かった部分があっさりと治ってしまった。
こうなったら他にも何かできないかと思うのが俺だった。
例えばヒールは状態異常や怪我を治すのに使われる魔法だが、バリアやリフレクションなど防御系の魔法の効果はどれくらいの時間持つのか気になる点ではある。
攻撃を受けるその時限りの瞬間的防御なのか、それとも攻撃を受けるまでずっとその身を守る持続型の魔法なのか。
重ね掛けはできるのかや、もしできるならどれくらい重ね掛けが可能なのか。効果は高まるのかなど気になる点はいっぱいだ。
だから…ここはヒロに聞いてみようと思った。
今走っているこの森はそれほど深くはないらしく、今日はこの先にある村で宿を借りて一泊すると聞いているので、その時にでも聞けばいいだろう。
そんなことを考えている旅の間に、まさか宰相の方に思いがけない出来事が起こっているとは思いもよらなかった。
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