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御礼閑話2.ロキ
※気づけばお気に入り数400を超えていましたので、御礼を込めてロキのお話を上げておきます。
特にRな話ではないんですが、ロキの過去と嫉妬について少し触れてみました。
宜しくお願いします。
****************
とある公爵邸の一室で、一人の令嬢が苛立たし気に父に声を荒げていた。
「お父様!どうして私に王太子妃になれないなんて仰いますの?!カリン王子の妃として一番ふさわしいと、そう仰ってくださっていたではありませんか!」
「だがカリン王子は今は王太子の座を引き、ロキ王子が王太子となった」
「相手があの無能なら尚更可能でしょう?!」
「許せ…。私にはとても無理だし、お前を他の家の娘達のように怯えさせたり苦しめたりしたくはないんだ」
「意味が分かりませんわ!」
こうして話していても埒が明かない。
王太子妃になるのは自分だとほぼ決まっていたというのに、突然それがなくなっただなんて納得できるはずがない。
けれど父は話は終わりだとばかりに部屋を出て行ってしまう。
「大体カリン王子が失脚したのだっておかしいのよ」
誰も教えてはくれないが、他国で病気になってしまったらしいという話は小耳に挟んだ。
けれどそんなカリン王子も今は病状が落ち着き、ロキ王子の補佐官についたと聞く。
ならばロキ王子さえその座を引けばまたカリン王子が王太子になって元通りになるのではないだろうか?
(あの無能のクズ王子ごとき、私がその座から引きずり降ろして差し上げますわ)
そして日を改め、父に会うという名目で意気揚々と城へと乗り込んだ。
***
兄と相思相愛になって半年が過ぎた。
妃候補にと言ってくる相手もほぼいなくなったので周囲も非常に平和だ。
王太子の仕事も兄が手伝ってくれるし、わからないことも親切に教えてくれる。
昔と比べたら天地程の違いだと思う。
そんな幸せな日々を送っていた最中、回廊を歩いていると前からやってきた令嬢にキッと睨みつけられた。
「ロキ王子。ご機嫌麗しゅう」
彼女は確か……公爵家の令嬢だっただろうか?
確かいつだったか兄の婚約者候補の筆頭に名前が挙がっていたような気がする。
名前は……なんだったかな?忘れた。
そんなことを考えていたら向こうもわかったのだろう。
自分から自己紹介してきた。
「スカーレット=イルバ=フランシスですわ。流石無能と言われた王子ですわね。私の名を覚えていらっしゃらないなんて」
「ああ、失礼。興味のない相手のことなんて知りたくもないので」
本当のことだったのでサラッとそう口にしたらどうやら怒らせてしまったらしく、そのまま悪しざまに罵られた。
「なんて不快な人なの?!こんな方がカリン王子のスペアだなんてとても信じられませんわ!一体どんな教育をされてきたんでしょう?カリン王子と同じ教育を受けてきたのだとしたら無能の極みとしか言えませんわ!王太子の座は返上されてはいかがです?カリン王子の方がずっとその座に相応しいですわ!」
俺の教育係────か。
特に最初の教育係。あれは最悪だったな。
兄と比べ、大して教えても来ないくせに無能と罵りスペアに過ぎないのだから頑張らなくていいですよとしょっちゅう馬鹿にしてくる女だった。
そのくせ機嫌が悪い時には鞭を手に俺の手を打ったりヒステリックに叫んだりしてたっけ。
正直図書室で一人で勉強する方が得られることは多かったように思う。
その教育係も最悪だったがもう一人も酷かった。
こっちは剣や体術を教えてくれる教育係だったのだが、暴言暴力当たり前。
指導と言う名のサンドバッグだった。
しかも見えない場所を狙って暴力を振るってくるからたちが悪い。
当時は心身共にズタボロで、助けを求めようにも誰にも助けてもらえない状況だった。
こんな自分に生きている価値なんてないんだと毎日のように考えていたし、そこに両親や兄の冷たい態度が重なり心が追い込まれて限界になって……ある日逃げるようにふらふらと城を飛び出したら人攫いに攫われそうになった。
本当に笑える人生だ。
こんな自分なんか攫ってどうなるっていうんだ?
誰が必要としてくれる?
そう考えるだけでおかしくなって、箍が外れたように笑いが込み上げてきたんだっけ。
どうやらその時点で俺はかなりおかしくなっていたらしい。
あの時出会ってカウンセリングをし、薬を処方して助けてくれたのが闇医者だった。彼には正直感謝しかない。
因みにその時にそういうのは不敬罪に問えばいいのだと教えてもらったんだけど、両親がそもそも味方ではないからどうしようもないのだと返した覚えがある。
じゃあ個人的な仕返しでもしたらどうだと言われてそれを実行に移そうと思った。
目には目を歯には歯をという言葉があるらしいし、少しくらい反抗してもいいよなと思ったのをよく覚えている。
だから城に戻ってから牢の方に足を運んで、尋問官とかに話を聞いてみた。
不敬罪に問われた相手はどうなるのか?と。
そうしたら具体的に色々教えてくれて、ニタニタしながらそのやり方まで懇切丁寧に説明してくれた。
子供相手にそこまで詳しく教えてくれなくてもいいのになと思いながら淡々と聞いていたせいか、最後の方は相手に面白くなさそうに舌打ちされてしまったけど、まあまあ有意義な時間だったと思う。
「ああ、教育係ならその罪の数だけ爪を剥がしてやろうかって言ってやったら蒼白になって辞職していったな。不敬罪って言うのがあるんだって親切な人が教えてくれたから尋問官から教わった方法で実行しようと思ったんだけど…狂ってるとか何とか言いながら逃げられたんだよ。確か。あれは残念だったな」
クスクスクスと笑ってやったらたちまち目の前の令嬢が顔色を変えて後ずさった。
「わ…私、気分がすぐれませんの。これで失礼させて頂きますわ」
「そう。お大事に」
そしてスカーレット嬢は逃げるようにその場から早歩きで去って行く。
ほぼ小走りと言っても過言ではない。
あれで本当に体調がすぐれないのなら凄い話だなと思った。
それにしても随分久しぶりに無能とか不快だとか面と向かって言われた気がする。
昔は散々言われていたけど、いつからか面と向かってではなく陰でこそこそ言われるようになって、最近では聞かなくなった。
言われるたびに自分の価値が失われていく気がして気持ちが落ち込んでいたっけ…。
闇医者から『そういう輩はできる限り無視するに限る』『無価値なのは相手の方だと思い込め』そんな風に言われて、なるべく実践するようにした。
そうしたら随分気が楽になって、今ではほとんど全てがどうでもいいように感じられるまでになった。
新しくつけられた教育係達も酷かったが、それでも最初の者達よりはマシだったし、まだ耐えられる範囲だった。
学ぶべきは学ぶけど、彼らに興味を持たなければ傷つくこともない。
傷つかなければ壊れるほど思い詰めるようなことにはならない。
人に興味を持つな。
興味を持つなら人以外のものにすればいいのだ。
できる限りそう思い込むようにして、城の者達に助けや温かな何かを期待することもやめた。
ただそれは家族以外の話。
家族だけはどうしても意識せずにはいられなかった。
結局自分は、家族にこそ必要だと言って欲しかったのだ。
温かなものを与えて欲しかった。
だから兄が俺を必要としてくれたのは素直に嬉しかったし、今は凄く幸せだと感じられている。
「ロキ」
兄が前からやってきて笑顔を向けてくれる。
それが何よりも嬉しい。
「兄上」
「遅いからどうしたのかと思った。何かあったのか?」
「いえ。兄上の婚約者候補だったスカーレット嬢と少し話していただけです」
「ああ、彼女か」
兄の目には特に何の感情も見られないように思う。
けれど……こんな関係になっていなかったらきっと彼女は兄と結婚して将来は王妃として兄の隣に立っていたのだろうと思う。
そう考えるとなんだか胸がキュッと締め付けられるような気持ちになった。
仄かに胸に燻ぶるのは嫉妬だろうか?それとも罪悪感だろうか?
「兄上…彼女と、結婚したかったですか?」
ふと訊いてみたくなりそんな風に溢すと、兄は意外にもあっけらかんと答えをくれた。
「いや。全く」
「でも婚約者候補としては一番有力だったんですよね?」
「ああ」
確かにそうだと言われて胸がズキズキと痛みだす。
でもそんな俺に気づいた兄は少し困ったように笑って俺を抱き寄せてくれた。
「ロキ。そんな顔をしてどうした?俺がお前のものなのは不満か?」
「いいえ」
「ならそんな顔をするな」
「でも…兄上の幸せを奪ってしまったのは俺なんじゃないかって…」
「それは違うぞ?どうせブルーグレイで壊されていたんだからな」
どうせ婚約者候補と言ってもそこには政略的意味合いしかなかったと兄は言う。
そして俺のせいじゃないと言って優しく頭を撫でてくれたから、その優しさにジワッと涙が浮かんでしまった。
「兄上…」
「泣くな。俺はお前に治してもらえたからこそ今ここにいる。お前に抱かれるのも大好きだ。それは女にはできないことだし、お前だからこそ俺を満足させてくれるんだと思ってる」
だから泣く必要はないんだと言って何度も宥めるようにキスを落としてくれる。
「夜のドSなお前も好きだが、繊細なお前を慰めるのもたまにはいいな」
「……兄上だってギャップが凄いじゃないですか」
「そうだな。お前に抱かれて奔放に乱れて快楽に堕ちるのはたまらなく好きだ」
「昼間は以前とあまり変わらないのに」
「ああ。でもお前を愛しているのは昼も夜も変わらないぞ?」
「…………っ!!」
「お前の絶妙な責め方がたまらなく好きだ。今日も沢山可愛がってくれ」
「……わかりました」
きっと兄は絶妙な責めの見極めが上手いな程度にしか思ってないんだろうけど、あれは実は過去の自分に学んだからだと言ってやったらどうするだろう?
少し違うと言えば違うが、剣と体術を教えてくれた教育係はまさにそのあたりが絶妙で、骨を完全に折ったりはせず血を吐くほどには痛めつけたりはしてこなかった。
あくまでもバレない範囲で最大の痛みをという感じでサンドバッグにしてくれた。
その時に知ったのだが、ある程度の臨界点に到達したら痛みも辛さも苦しみも麻痺してくると俺は自分自身の経験から嫌という程知ってしまっている。
だからこそ兄の状態の見極めができるのだ。
これくらいが限界というのは見たらわかる。
でもそんな過去を兄に教える気はない。
あの日々は好んで思い出したいとは思わないし、嫌な過去は忘れて今は兄を悦ばせるための糧にだけしたいと思う。
きっとその方がいいだろう。
(もちろん痛みよりも快感を追及して責めますけどね?)
俺は兄の至福の顔が見たい。ただそれだけなのだ。
そんなことを思っていると、兄がそっと身を離し「行こうか」って声を掛けてきた。
「兄上。手を繋いでいいですか?」
ふとその温もりを感じたくなって、思わずそんな言葉が口から零れ落ちる。
断られるだろうか?
そう思ったのは一瞬で────。
「ほら」
迷いなく繋がれた手の温もりに胸が弾む。
じわりじわりと喜びが湧き上がって、思わず笑みがこぼれ落ちた。
「兄上、大好きです」
「そうか」
「今日は兄上の好きなことを沢山してあげたいです」
「それは嬉しいな」
「複数プレイにしますか?3Pがいいですか?」
「……お前と二人が一番嬉しいに決まっている」
「照れなくてもいいのに」
「照れてない!お前だけが好きだと何度も言っているだろう?」
それは確かにそうだけど、正直言って兄は俺なんかに一人で抱かれるよりも沢山に抱かれたいんじゃないのかなと思ってそう溢したら、何故か苦虫を噛み潰したような顔で何やら呟かれた。
「ちっ…。もしかして性癖だけじゃなく自己肯定感が低すぎるからそうなるのか?厄介な…」
「兄上?」
「わかった!ちょっと一度じっくりきっちりお前に向き合おう」
「はあ」
「俺がどれだけお前だけが好きで、お前しかいないのか今日はしっかり教えてやる!」
「…?兄上が俺に挿れるんですか?」
「違う!どうしてそうなる!俺はお前に貫かれてアンアン啼かされるのが大好きなんだぞ?」
「ですよね」
「二人で愛し合うのに邪魔者は必要ないってことを教えてやると言っているんだ」
そう言って立ち止まって、怒ったように俺の胸を指でトンと突いてきた兄にきゅんとしてしまう。
自分に向き合って真っ直ぐに見てくれる姿に俺の心はあっさりと撃ち抜かれてしまった。
「兄上。少しだけ甘えていいですか?」
そう言って許可を取り抱き着いたら兄の温もりが伝わってきて、さっきよりももっと幸せな気持ちでいっぱいになった。
「兄上。今日はやっぱり兄上を独り占めしたいです」
「いつもそうしてくれ」
「でもそれだと兄上がつまらないでしょう?」
「つまらなくはない。寧ろ普通だ」
「ふふっ。普通じゃ満足しないくせに」
「いいんだ。お前が焼きもちを焼くならたまにしてくれてもいいが、違うだろう?」
「え?焼きもちは焼いてますよ?」
「嘘だな」
「本当です。兄上が乱れている姿を見ながら自分ならこう乱してやるのにとか、もっとこうしてやったらもっと乱れて素敵なのにとか色々考えてジレンマに陥りながら視姦してるんです。それに俺はいつだって兄上のことしか考えてないし、兄上が俺以外に抱かれて気持ちよさそうにしてると嫉妬もしますよ?」
「そ…そうか」
「そうなんです」
「じゃあ、もう複数プレイとか言い出すのはやめような?」
「え?嫌ですよ」
「何故だ?!」
嫉妬するならやめたらいいだろうと言われるけど、それはそれ、これはこれなのだ。
兄の喜ぶ顔は見たいのだ。
それに白濁塗れになる可愛い姿を見るのも大好きだし…。
でもあまり可愛い兄を不特定多数の男達の前に晒して誰かに惚れられて取られても困るから、やっぱり3Pのままいくのがベストなのかもしれない。
「それなら複数でやりたい時はこれまで通りリヒターと三人でしましょう。リヒターなら兄上を好きになる事はなさそうですし。後はそうですね…。どうしてもの時はミュゼでも混ぜましょうか。すっかり変態になってしまったので気乗りはしませんけど」
「そこが妥協点なのか」
「そうですね」
「全く…俺はお前だけで充分満足してるのに」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、今日も無能だって言われたから自信がないんですよ」
「誰がそんなことを言ったんだ?」
「スカーレット嬢です」
「あいつは出禁にしておいてやるから気にするな。お前は無能なんかじゃない。最高の弟だ」
「そうですか?」
「そうだ」
そんな力強い肯定に思わず笑みがこぼれ落ちる。
やっぱり俺は幸せ者だ。
(少しだけ…ほんの少しだけ兄上の言葉を信じてみようか)
『無能じゃない』
他の誰でもなく、大好きな兄上がそう言ってくれたから────。
そして俺達は仲良く連れ立って歩き始めた。
きっと大丈夫。
だってこれからも兄は俺の隣にいてくれるのだから。
Fin.
特にRな話ではないんですが、ロキの過去と嫉妬について少し触れてみました。
宜しくお願いします。
****************
とある公爵邸の一室で、一人の令嬢が苛立たし気に父に声を荒げていた。
「お父様!どうして私に王太子妃になれないなんて仰いますの?!カリン王子の妃として一番ふさわしいと、そう仰ってくださっていたではありませんか!」
「だがカリン王子は今は王太子の座を引き、ロキ王子が王太子となった」
「相手があの無能なら尚更可能でしょう?!」
「許せ…。私にはとても無理だし、お前を他の家の娘達のように怯えさせたり苦しめたりしたくはないんだ」
「意味が分かりませんわ!」
こうして話していても埒が明かない。
王太子妃になるのは自分だとほぼ決まっていたというのに、突然それがなくなっただなんて納得できるはずがない。
けれど父は話は終わりだとばかりに部屋を出て行ってしまう。
「大体カリン王子が失脚したのだっておかしいのよ」
誰も教えてはくれないが、他国で病気になってしまったらしいという話は小耳に挟んだ。
けれどそんなカリン王子も今は病状が落ち着き、ロキ王子の補佐官についたと聞く。
ならばロキ王子さえその座を引けばまたカリン王子が王太子になって元通りになるのではないだろうか?
(あの無能のクズ王子ごとき、私がその座から引きずり降ろして差し上げますわ)
そして日を改め、父に会うという名目で意気揚々と城へと乗り込んだ。
***
兄と相思相愛になって半年が過ぎた。
妃候補にと言ってくる相手もほぼいなくなったので周囲も非常に平和だ。
王太子の仕事も兄が手伝ってくれるし、わからないことも親切に教えてくれる。
昔と比べたら天地程の違いだと思う。
そんな幸せな日々を送っていた最中、回廊を歩いていると前からやってきた令嬢にキッと睨みつけられた。
「ロキ王子。ご機嫌麗しゅう」
彼女は確か……公爵家の令嬢だっただろうか?
確かいつだったか兄の婚約者候補の筆頭に名前が挙がっていたような気がする。
名前は……なんだったかな?忘れた。
そんなことを考えていたら向こうもわかったのだろう。
自分から自己紹介してきた。
「スカーレット=イルバ=フランシスですわ。流石無能と言われた王子ですわね。私の名を覚えていらっしゃらないなんて」
「ああ、失礼。興味のない相手のことなんて知りたくもないので」
本当のことだったのでサラッとそう口にしたらどうやら怒らせてしまったらしく、そのまま悪しざまに罵られた。
「なんて不快な人なの?!こんな方がカリン王子のスペアだなんてとても信じられませんわ!一体どんな教育をされてきたんでしょう?カリン王子と同じ教育を受けてきたのだとしたら無能の極みとしか言えませんわ!王太子の座は返上されてはいかがです?カリン王子の方がずっとその座に相応しいですわ!」
俺の教育係────か。
特に最初の教育係。あれは最悪だったな。
兄と比べ、大して教えても来ないくせに無能と罵りスペアに過ぎないのだから頑張らなくていいですよとしょっちゅう馬鹿にしてくる女だった。
そのくせ機嫌が悪い時には鞭を手に俺の手を打ったりヒステリックに叫んだりしてたっけ。
正直図書室で一人で勉強する方が得られることは多かったように思う。
その教育係も最悪だったがもう一人も酷かった。
こっちは剣や体術を教えてくれる教育係だったのだが、暴言暴力当たり前。
指導と言う名のサンドバッグだった。
しかも見えない場所を狙って暴力を振るってくるからたちが悪い。
当時は心身共にズタボロで、助けを求めようにも誰にも助けてもらえない状況だった。
こんな自分に生きている価値なんてないんだと毎日のように考えていたし、そこに両親や兄の冷たい態度が重なり心が追い込まれて限界になって……ある日逃げるようにふらふらと城を飛び出したら人攫いに攫われそうになった。
本当に笑える人生だ。
こんな自分なんか攫ってどうなるっていうんだ?
誰が必要としてくれる?
そう考えるだけでおかしくなって、箍が外れたように笑いが込み上げてきたんだっけ。
どうやらその時点で俺はかなりおかしくなっていたらしい。
あの時出会ってカウンセリングをし、薬を処方して助けてくれたのが闇医者だった。彼には正直感謝しかない。
因みにその時にそういうのは不敬罪に問えばいいのだと教えてもらったんだけど、両親がそもそも味方ではないからどうしようもないのだと返した覚えがある。
じゃあ個人的な仕返しでもしたらどうだと言われてそれを実行に移そうと思った。
目には目を歯には歯をという言葉があるらしいし、少しくらい反抗してもいいよなと思ったのをよく覚えている。
だから城に戻ってから牢の方に足を運んで、尋問官とかに話を聞いてみた。
不敬罪に問われた相手はどうなるのか?と。
そうしたら具体的に色々教えてくれて、ニタニタしながらそのやり方まで懇切丁寧に説明してくれた。
子供相手にそこまで詳しく教えてくれなくてもいいのになと思いながら淡々と聞いていたせいか、最後の方は相手に面白くなさそうに舌打ちされてしまったけど、まあまあ有意義な時間だったと思う。
「ああ、教育係ならその罪の数だけ爪を剥がしてやろうかって言ってやったら蒼白になって辞職していったな。不敬罪って言うのがあるんだって親切な人が教えてくれたから尋問官から教わった方法で実行しようと思ったんだけど…狂ってるとか何とか言いながら逃げられたんだよ。確か。あれは残念だったな」
クスクスクスと笑ってやったらたちまち目の前の令嬢が顔色を変えて後ずさった。
「わ…私、気分がすぐれませんの。これで失礼させて頂きますわ」
「そう。お大事に」
そしてスカーレット嬢は逃げるようにその場から早歩きで去って行く。
ほぼ小走りと言っても過言ではない。
あれで本当に体調がすぐれないのなら凄い話だなと思った。
それにしても随分久しぶりに無能とか不快だとか面と向かって言われた気がする。
昔は散々言われていたけど、いつからか面と向かってではなく陰でこそこそ言われるようになって、最近では聞かなくなった。
言われるたびに自分の価値が失われていく気がして気持ちが落ち込んでいたっけ…。
闇医者から『そういう輩はできる限り無視するに限る』『無価値なのは相手の方だと思い込め』そんな風に言われて、なるべく実践するようにした。
そうしたら随分気が楽になって、今ではほとんど全てがどうでもいいように感じられるまでになった。
新しくつけられた教育係達も酷かったが、それでも最初の者達よりはマシだったし、まだ耐えられる範囲だった。
学ぶべきは学ぶけど、彼らに興味を持たなければ傷つくこともない。
傷つかなければ壊れるほど思い詰めるようなことにはならない。
人に興味を持つな。
興味を持つなら人以外のものにすればいいのだ。
できる限りそう思い込むようにして、城の者達に助けや温かな何かを期待することもやめた。
ただそれは家族以外の話。
家族だけはどうしても意識せずにはいられなかった。
結局自分は、家族にこそ必要だと言って欲しかったのだ。
温かなものを与えて欲しかった。
だから兄が俺を必要としてくれたのは素直に嬉しかったし、今は凄く幸せだと感じられている。
「ロキ」
兄が前からやってきて笑顔を向けてくれる。
それが何よりも嬉しい。
「兄上」
「遅いからどうしたのかと思った。何かあったのか?」
「いえ。兄上の婚約者候補だったスカーレット嬢と少し話していただけです」
「ああ、彼女か」
兄の目には特に何の感情も見られないように思う。
けれど……こんな関係になっていなかったらきっと彼女は兄と結婚して将来は王妃として兄の隣に立っていたのだろうと思う。
そう考えるとなんだか胸がキュッと締め付けられるような気持ちになった。
仄かに胸に燻ぶるのは嫉妬だろうか?それとも罪悪感だろうか?
「兄上…彼女と、結婚したかったですか?」
ふと訊いてみたくなりそんな風に溢すと、兄は意外にもあっけらかんと答えをくれた。
「いや。全く」
「でも婚約者候補としては一番有力だったんですよね?」
「ああ」
確かにそうだと言われて胸がズキズキと痛みだす。
でもそんな俺に気づいた兄は少し困ったように笑って俺を抱き寄せてくれた。
「ロキ。そんな顔をしてどうした?俺がお前のものなのは不満か?」
「いいえ」
「ならそんな顔をするな」
「でも…兄上の幸せを奪ってしまったのは俺なんじゃないかって…」
「それは違うぞ?どうせブルーグレイで壊されていたんだからな」
どうせ婚約者候補と言ってもそこには政略的意味合いしかなかったと兄は言う。
そして俺のせいじゃないと言って優しく頭を撫でてくれたから、その優しさにジワッと涙が浮かんでしまった。
「兄上…」
「泣くな。俺はお前に治してもらえたからこそ今ここにいる。お前に抱かれるのも大好きだ。それは女にはできないことだし、お前だからこそ俺を満足させてくれるんだと思ってる」
だから泣く必要はないんだと言って何度も宥めるようにキスを落としてくれる。
「夜のドSなお前も好きだが、繊細なお前を慰めるのもたまにはいいな」
「……兄上だってギャップが凄いじゃないですか」
「そうだな。お前に抱かれて奔放に乱れて快楽に堕ちるのはたまらなく好きだ」
「昼間は以前とあまり変わらないのに」
「ああ。でもお前を愛しているのは昼も夜も変わらないぞ?」
「…………っ!!」
「お前の絶妙な責め方がたまらなく好きだ。今日も沢山可愛がってくれ」
「……わかりました」
きっと兄は絶妙な責めの見極めが上手いな程度にしか思ってないんだろうけど、あれは実は過去の自分に学んだからだと言ってやったらどうするだろう?
少し違うと言えば違うが、剣と体術を教えてくれた教育係はまさにそのあたりが絶妙で、骨を完全に折ったりはせず血を吐くほどには痛めつけたりはしてこなかった。
あくまでもバレない範囲で最大の痛みをという感じでサンドバッグにしてくれた。
その時に知ったのだが、ある程度の臨界点に到達したら痛みも辛さも苦しみも麻痺してくると俺は自分自身の経験から嫌という程知ってしまっている。
だからこそ兄の状態の見極めができるのだ。
これくらいが限界というのは見たらわかる。
でもそんな過去を兄に教える気はない。
あの日々は好んで思い出したいとは思わないし、嫌な過去は忘れて今は兄を悦ばせるための糧にだけしたいと思う。
きっとその方がいいだろう。
(もちろん痛みよりも快感を追及して責めますけどね?)
俺は兄の至福の顔が見たい。ただそれだけなのだ。
そんなことを思っていると、兄がそっと身を離し「行こうか」って声を掛けてきた。
「兄上。手を繋いでいいですか?」
ふとその温もりを感じたくなって、思わずそんな言葉が口から零れ落ちる。
断られるだろうか?
そう思ったのは一瞬で────。
「ほら」
迷いなく繋がれた手の温もりに胸が弾む。
じわりじわりと喜びが湧き上がって、思わず笑みがこぼれ落ちた。
「兄上、大好きです」
「そうか」
「今日は兄上の好きなことを沢山してあげたいです」
「それは嬉しいな」
「複数プレイにしますか?3Pがいいですか?」
「……お前と二人が一番嬉しいに決まっている」
「照れなくてもいいのに」
「照れてない!お前だけが好きだと何度も言っているだろう?」
それは確かにそうだけど、正直言って兄は俺なんかに一人で抱かれるよりも沢山に抱かれたいんじゃないのかなと思ってそう溢したら、何故か苦虫を噛み潰したような顔で何やら呟かれた。
「ちっ…。もしかして性癖だけじゃなく自己肯定感が低すぎるからそうなるのか?厄介な…」
「兄上?」
「わかった!ちょっと一度じっくりきっちりお前に向き合おう」
「はあ」
「俺がどれだけお前だけが好きで、お前しかいないのか今日はしっかり教えてやる!」
「…?兄上が俺に挿れるんですか?」
「違う!どうしてそうなる!俺はお前に貫かれてアンアン啼かされるのが大好きなんだぞ?」
「ですよね」
「二人で愛し合うのに邪魔者は必要ないってことを教えてやると言っているんだ」
そう言って立ち止まって、怒ったように俺の胸を指でトンと突いてきた兄にきゅんとしてしまう。
自分に向き合って真っ直ぐに見てくれる姿に俺の心はあっさりと撃ち抜かれてしまった。
「兄上。少しだけ甘えていいですか?」
そう言って許可を取り抱き着いたら兄の温もりが伝わってきて、さっきよりももっと幸せな気持ちでいっぱいになった。
「兄上。今日はやっぱり兄上を独り占めしたいです」
「いつもそうしてくれ」
「でもそれだと兄上がつまらないでしょう?」
「つまらなくはない。寧ろ普通だ」
「ふふっ。普通じゃ満足しないくせに」
「いいんだ。お前が焼きもちを焼くならたまにしてくれてもいいが、違うだろう?」
「え?焼きもちは焼いてますよ?」
「嘘だな」
「本当です。兄上が乱れている姿を見ながら自分ならこう乱してやるのにとか、もっとこうしてやったらもっと乱れて素敵なのにとか色々考えてジレンマに陥りながら視姦してるんです。それに俺はいつだって兄上のことしか考えてないし、兄上が俺以外に抱かれて気持ちよさそうにしてると嫉妬もしますよ?」
「そ…そうか」
「そうなんです」
「じゃあ、もう複数プレイとか言い出すのはやめような?」
「え?嫌ですよ」
「何故だ?!」
嫉妬するならやめたらいいだろうと言われるけど、それはそれ、これはこれなのだ。
兄の喜ぶ顔は見たいのだ。
それに白濁塗れになる可愛い姿を見るのも大好きだし…。
でもあまり可愛い兄を不特定多数の男達の前に晒して誰かに惚れられて取られても困るから、やっぱり3Pのままいくのがベストなのかもしれない。
「それなら複数でやりたい時はこれまで通りリヒターと三人でしましょう。リヒターなら兄上を好きになる事はなさそうですし。後はそうですね…。どうしてもの時はミュゼでも混ぜましょうか。すっかり変態になってしまったので気乗りはしませんけど」
「そこが妥協点なのか」
「そうですね」
「全く…俺はお前だけで充分満足してるのに」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、今日も無能だって言われたから自信がないんですよ」
「誰がそんなことを言ったんだ?」
「スカーレット嬢です」
「あいつは出禁にしておいてやるから気にするな。お前は無能なんかじゃない。最高の弟だ」
「そうですか?」
「そうだ」
そんな力強い肯定に思わず笑みがこぼれ落ちる。
やっぱり俺は幸せ者だ。
(少しだけ…ほんの少しだけ兄上の言葉を信じてみようか)
『無能じゃない』
他の誰でもなく、大好きな兄上がそう言ってくれたから────。
そして俺達は仲良く連れ立って歩き始めた。
きっと大丈夫。
だってこれからも兄は俺の隣にいてくれるのだから。
Fin.
感想 234
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ひとひら|雨音美月女の子として育てられたラナには、誰にも言えない秘密があった。
――僕は、男だ。
18歳の冬、没落した一族の罪を贖うため、冷酷な公爵・セヴェランにメイドとして捧げられた。
純白のフリルに身を包み、偽りの乙女を演じ続ける日々。
正体が露見すれば即処刑――薄氷の上を歩くような緊張が、常にラナを縛りつけていた。
しかし、ある穏やかな午後。
その均衡は、あまりにも呆気なく崩れ去る。
逃げ場を失った身体を捕らえられ、隠し続けてきた真実を見抜かれたとき、
氷のように冷え切っていた主従関係は、静かに形を変えた。
「お前は男ですらない。……ただの、私の所有物だ」
突きつけられたのは死ではなく、逃れられない執着。
行き場を失った孤独な存在を囲い込み、決して手放そうとしない絶対的な支配。
偽りの乙女としての時間は終わりを告げ、
ラナは一人の青年として、抗えないほど深く書き換えられていく。
それは救いか、それとも堕落か。
孤独を抱えた二人の魂は、背徳の熱の中で静かに絡み合っていく――。
婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw
ミクリ21婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。
軽く説明
★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。
★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
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ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました
一ノ瀬麻紀ごく普通のベータとして生きてきた村井圭太(むらいけいた)は、ある日突然、希少な「後天性オメガ」に転化してしまう。
不安な日々が始まる……かと思いきや、幼馴染アルファの白河泰雅(しらかわたいが)とはまさかの両思い。早々に『番(つがい)』となり、幸せな日々を送っていた。
「オメガになっても俺は俺」と持ち前のポジティブさで新しい生活に向き合っていく圭太。だが、晴れて番となった泰雅は、今まで以上に過保護になっていく。
どんなトラブルも二人なら大丈夫! ポジティブで男前な元ベータ受けと、過保護で執着強めなスパダリ幼馴染攻め。明るくて幸せいっぱいオメガバース!
初日(6/2)は、7:00に2話、21:00に2話の、計4話更新
月〜木は1日2回 7:00 21:00
金〜日は1日3回 7:00 12:00 21:00
6/19(金)の21:00完結です。
全45話。約11万文字です。
私の大好きなオメガバース。
愛をたくさん詰め込んだので、みなさまにも楽しんでいただけますように🥰