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28.国際会議⑬

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「さて、カリン王子。そう言う訳で、改めて確認をしたい」

どうやら戯れはこの辺でやめにしてくれる気になったのか、セドリック王子は本題とばかりにそう切り出した。

「なんなりと」
「ガヴァム王国はブルーグレイと戦争がしたいか?」
「……いや」
「国の存続を願うか?」
「ああ。当然そうであればと」
「なるほど?やはりロキ王子よりずっと交渉がし易そうだ」
「……?」

このあたりは恐らく俺とは違う答えが返ってきたからなのだろう。

「いや。それなら話は早い。ではガヴァム王の首をもらおうか」
「つまり、王位を引かせるだけではなく、殺して差し出せ…と?」
「いや?カリン王子はそのまま国王をどこぞへ引き籠らせてくれるだけでいい」
「…………では?」
「ああ。後は俺の手の者が始末をつけよう。国王の死にノータッチを貫いてくれれば今回の件は特に追及することはない」
「…………」

そこまで聞いて、まあブルーグレイの王太子の命を狙ったのなら殺されても全くおかしくはないよなと思った。
けれど────そうなると当然王がいなくなるわけで……。

「あの…そうなると国王がいなくなるように思うんですが?」
「当然だな。ロキ王子の即位には俺が直々に祝いに駆け付けてやろう」
「「え?!」」

兄はセドリック王子がお祝いに駆け付けてくる方を驚いたようだけど、俺は違う。
帰ったら王にならないといけないということになにより衝撃を受けた。
なるとしても遠い先の話だろうし、その頃には俺より兄に王位をと言う人も多くいるだろうからならなくてすむかもしれない的認識だったのが急に現実味を帯びたので物凄く動揺してしまった。

「…………兄上。国王になりませんか?」

面倒臭いしやりたくない。
それ以前に今の俺には絶対にできるとは思えない。
一王太子とは違い、王は国全体の面倒を見なければならないのだ。
王太子の仕事でさえやっとな状態の自分にできるはずがない。
そう思った上での発言だったのだが、それはバッサリとセドリック王子に却下されてしまう。

「ロキ王子。勘違いをするな。俺が今回の件を単に国王の首一つで許すとでも思ったのか?」
「と言いますと?」
「つまり、王としてより相応しいであろうカリン王子の復権を認めず、嫌がるロキ王子を王位に就ける。それこそが最大の嫌がらせ且つ最高の罰になると言っている」
「…………本当に嫌がらせがお好きな方ですね」

そんなことになるのなら王族皆殺しと言われた方がまだよかったですと愚痴を溢すと兄はギョッとした顔で俺を見てきたけど、本音なので許してほしい。
どうせこの王子には殺す気なんてないのだからこれくらい言っても全然大丈夫だ。
案の定、それだとロキ王子にはなんの罰にもならないだろうと笑い飛ばされたのであながち間違ってはいないはず。

「ロキ王子。罰というものはな、相手が本気で嫌がることをしてやるものだ。王太子としてまだまだ未熟なお前にはわからないかもしれないが、今回の件は王の暴挙を止められなかったお前にも責任がある。死を恐れないお前に死を与えてやるほど俺は優しくはないぞ?諦めて王になれ」
「…………どうしてもですか?」

諦め悪く他の罰にならないかなと一応尋ねてみるが、全てを見透かしたようにセドリック王子は言葉を重ねてくる。

「ロキ王子。忘れたか?あのふざけたレオナルド皇子の面倒もお前が見なければならないんだ。俺からすれば死なれるより王となって国を存続させ、厄介者を引き受けてくれるほうがいいに決まっている」
「……もしかしてあれはそのフリだったんですか?」

なんだかこの言い方だとこの先もまだまだ厄介者をこちらに送りつけてきそうな気がするのだが?

「いいや。ただの思い付きだ」

(本当に?)

思わず疑惑の目で見てしまうけれど、どう見ても楽しそうにこちらを揶揄っているようにしか見えない。
本当にセドリック王子には敵わない。

「食えない方ですね」
「お前はそれ以上に面白く、読めない奴だと思うが?」

こんなセドリック王子を前に、俺は先程の襲撃後の時以上に諦観の思いで深く息を吐いた。

「それが罰と言うのなら飲みましょう。でも、俺は結婚はしませんよ?兄上しか抱く気はありませんから」

俺に国を存続させていくことは不可能だとこの場で宣言しておく。

「国を一代で潰すのか?」
「別にいいでしょう?次の王には…そうですね。面倒なので希望者を募った後、国民全員に投票用紙でも配って誰が王に相応しいか決めてもらえばいいんじゃないですか?俺の後は王になりたいという人に任せます」
「なかなか面白い発想だな」
「あんなもの、やりたい人がやればいいんですよ」

最早投げやり以外の何ものでもないその提案に、セドリック王子はそれもまたありだと言ってくれた。
どこまでも大人な対応になんだか居た堪れなくなって少しだけ反省する。
だからそれを誤魔化すように絶対戴冠後はすぐに遺言状を書いておくのでと口にしてプイッと横を向いた。
なんだかこんな子供っぽい態度を取ったのは随分久しぶりな気がする。
それこそ昔闇医者に叱られた時以来かもしれない。
それもこれもどこかセドリック王子が話しやすいせいだ。

「ロキ!セドリック王子、弟が申し訳ない」
「いいや。だいぶ人間らしさが増して安心したところだ。カリン王子。ロキ王子を立派な王にするのは大変だろうが、その分罰にもなるだろう。精々国を傾けないよう優秀な者達で周りを固めることだ」
「……ありがとうございます」
「では今日は夜分に押し掛けてすまなかったな。後は精々可愛がってもらうといい」

セドリック王子はそこで邪魔をしたなと席を立ち、部屋を出ていった。




「はぁ…疲れましたね。兄上」

本当に疲れた。
今日はもうさっさと寝たい。
そう思ったのに、何故か兄はリヒターへと声をかけた。

「リヒター。悪いが護衛は任せる」
「はい。たまにはロキ王子をしっかり叱ってやってください」
「わかっている」
「……兄上?」

そんなやり取りの後、俺は兄に手を引かれて寝室へと連れていかれると、そのまま座れと床を指さされた。
どうやら俺はこれから叱られるらしい。

「ロキ?お前は俺がどれだけお前を大事に思っていて、どれだけ愛しているのかわかっていないようだな?」
「え?ちゃんとわかってますよ?」
「わかっていたらあの王子に剣を突きつけられた時に簡単に死のうなんて思わないだろう?」
「え…でもあの場合仕方がなかったし、兄上のとっても可愛い姿を思い浮かべながら死ぬのも悪くないなって思ったので…」
「うっ…。ロキ?最後に俺を思い出してくれるのは嬉しいが、簡単に死を選ぼうとするな」
「……はあ。そういうつもりではなかったんですが」
「もう少し命を大事にしてくれ」
「……わかりました。心配をかけてすみませんでした」

やっぱりここはちゃんと土下座で謝るべきなのか?と思っていたら、優しい兄にそっと手を取られ上へと引き上げられた。

「ちゃんと反省してくれたなら構わない」
「…本当にすみません」
「ああ。だが、今度同じようなことをしたら────ひと月お前とは話してやらん」
「えぇっ?!」

その言葉に俺は思い切り頭を殴られたような衝撃を受けた。

(兄上が……ひと月も話してくれない?)

それは……ずっと無視され続けると言うことだろうか?
そう思い至ると昔を思い出して胸が痛くなり、ちょっと考えるだけで涙がにじんできてしまった。

「あ、兄上!絶対もうしません。ちゃんと反省しています。だから…うっ……」

兄はそんな俺を困ったように抱き寄せ、宥めるようにキスを落としてくれる。

「本当に困った弟だな。殺されるよりもそっちの方が泣くほど嫌だなんて…」
「兄上……」
「でもそんなお前が俺は誰よりも愛おしいと思う」
「…………」
「あまり心配をかけるな。わかったな?」
「…はい」

ギュッと兄に抱きついて深く深く反省した俺に、兄は「今日は添い寝をしてやる」と笑って言ってくれた。
いつも夜は気絶した兄を見ながら俺が横で眠る形なので添い寝は初めてかもしれない。

「兄上…」
「今が幸せなら、それを思いながら笑顔で死を選ぶのではなく、ずっと幸せでいるにはどうしたらいいかを考えろ」

そんなことを言ってくれたので、どうしたらずっと幸せでいられるかを考えてみた。

「俺は兄上が傍に居て、こうして温もりを与えてくれるのならいつだって幸せでいられますよ?」

俺にとって兄の存在自体が幸せの象徴なのだ。
だから正直にそう言ったのに、何故かギュッと抱き着かれてプロポーズのような言葉を告げられてしまった。

「ロキ。お前がそう言うのならお前は俺が幸せにしてやる。約束だ」
「はい」

兄の言葉に胸がじんわりと温かくなって、先程までの辛い気持ちが霧散しあっという間に幸せな気持ちで満たされていく。

「兄上…愛しています」
「ああ、俺もお前を愛してる。おやすみ、ロキ」

そっと頭を撫でてくれる兄の優しい声を聞きながら、俺は穏やかな気持ちでゆっくりと眠りについた。


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