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50.国際会議㉟ Side.カリン王子

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ロキが手洗いに席を立ってから随分時間が過ぎた。
最初は疲れたからどこかで少しだけ息抜きをしているのかなと軽く考えていたのだが────。

「カリン王子…!」

どこか切羽詰まったような顔で息を切らしたリヒターがやってきたことでその考えは頭から吹き飛んだ。

「どうした?」
「…ここではちょっと。申し訳ないですがこちらへ」

急いで指示を出してもらいたいのだと耳元で囁かれ、すぐにロキに何かあったのだと察してしまう。
この男が取り乱すなんてロキ絡みしかないだろう。
そう思い、すぐさま一緒に居た面々に謝意を告げ席を外す。




「それで?何があった?」
「それが、先程ロキ陛下がいなくなったと騎士団長の元に報告が入ったんです」
「ロキがいなくなった…だと?」
「はい。報告をしてきた騎士は特に焦った様子はなかったので、大きな異変があったとは思えないのですが、嫌な予感がして…」
「…………」
「騎士団長からはカリン王子に暗部を動かしてもらった方がいいのではと指示を頂きました」
「そうか」

(ロキが…いなくなった?)

その事実に指先から冷えていくような感覚に襲われてしまう。
多分報告を入れてきた騎士はちょっと姿が見えないだけだろうと軽く考えているのだろうが、事はそんな軽いものではない。

ロキはこの国の王だ。
普通に考えたら厳重な警備の元守られていなければならない存在なのに、その所在が分からないというのは大問題だとどうしてわからないのだろうか?
人知れず殺されていたらと考えるだけで体に震えが走ってしまう。

「あの暗部は…?ロキの暗部が死体で見つかったという報告はないか?」
「そちらの方はありません」
「そうか」

それならまだ生きている可能性が高い。
きっとロキを守ってくれているはずだ。

「お前達、話は聞いていたな。すぐさまロキの所在を明らかにしろ」
「「「「はっ…」」」」
「リヒターは情報局長と合流し、この件を速やかに宰相らと共有して表からロキを探せ」
「かしこまりました」
「その後は王宮内の部屋と言う部屋全てに侍女や侍従達を入れてロキがいないかをさり気なく、且つ徹底的に探させろ!」
「すぐ手配を致します!」

他国の賓客達の部屋にまで手は入れられないが、その他の部屋全てを探しても何も出てこなければ招待客を疑わざるを得ない。
そちらには密かに暗部を回して探させよう。
最終手段は来賓の者全てに聞き取りという形でロキが行方不明だと言わなければならないだろうし、それを考えると国際問題になりかねないので非常に気が重い。
自主的にフラフラしているか、どこかの部屋で酔いつぶれてくれていれば助かるのだが…。

(まず…ないだろうがな)

セドリック王子がいるパーティーで俺の傍から長時間離れないだろうということくらいはロキのことをわかっているつもりだ。

(こんなことになるなら傍を離れるんじゃなかった)

暗部がついているから少々のことは大丈夫だろうと思い込んでいた。
ロキはいつも近衛騎士を連れ歩くのを好まなかったし、リヒター以外は決まった騎士を置かなかった。
その分見回り騎士を増やしたり、各所に配備する騎士の位置を把握していたりしていて、いざとなったらそういう騎士に声を掛けますよと笑っていたのだ。
それはそれで一つの身を守る方法ではあるなとその時は思ったものだが、こうなっては話は別だ。
どこをどうすれば王が結婚式当日に行方不明になるなどという事態が起こるのか。

幸せの絶頂から突き落とされた気持ちでいっぱいで、ロキの無事を願う以外に出来ることがない。
一先ずは国賓のもてなしだけはこなさなければならないが、正直言って全く頭が回らなかった。
そんな俺にリヒターから話を聞いたのであろう宰相が飛んできて、叱咤を飛ばしてくる。

「カリン陛下!今は陛下が頼りです!ロキ陛下が見つかるまでしっかりなさってください!」
「…………わかっている」

気をしっかり持って何とか落ち着こうと深呼吸を繰り返し、その足でパーティーへと戻っていく。
一先ず主役であるロキの不在を誤魔化さなくてはならない。

会場へと戻るとすぐさまレオナルド皇子が俺に声を掛けてきた。

「カリン王子!いや、カリン陛下!あれ?ロキ陛下はご一緒では?」
「…………ロキは少し小用で戻ってこれそうになくてな」
「え?今日はまだまだ事業の話を沢山しようと思ってたのに…」
「申し訳ない。そちらは担当大臣と話してもらって構わないだろうか?」
「残念だけど仕方がないね。でも……ちょっと来てもらえるかな?」

俺の様子がおかしいことに気が付いたのか、レオナルド皇子が急に態度を変え俺をバルコニーへと強引に連れ出した。

「それで?俺の大親友、ロキ陛下に何があったのか聞かせてもらえるかな?」

絶対に誤魔化されないぞと言わんばかりに真剣な眼差しでそう尋ねられ、俺は思わず息を呑む。

「カリン陛下はロキ陛下が大好きだよね?俺もそう。だから────ロキ陛下に何かがあったのなら隠さずに協力させてほしい」

ミラルカの皇太子にこうまで言われて俺は悩みに悩んだが、結局ロキのためにとおとなしく口を割った。

「恐らくだが……トイレに行った際に何者かに襲われ、そのまま攫われた」
「…………は?」

話を聞いたレオナルド皇子が驚き過ぎて瞠目する。
気持ちはわからないでもないが事実は事実だ。

「え?何?てっきり刺客にでも狙われて人知れず重体とかなのかと思ったんだけど、拉致?そっち?!」

犯人探しを手伝う気は満々だったけど、まさかの拉致かと非常に驚かれてしまう。
そこへ先程放った暗部が報告へとやってきた。

「失礼いたします。ご報告をしても?」
「構わない」
「はっ。ロキ陛下の姿は庭園含め各所見回ったところ城内のどこにもありませんでした。城下に降りた様子もなく、自主的に出た形跡は一切ございませんでした」
「では?」
「はい。今手分けして天井裏から来賓の方々の部屋もそれとなく探ってはおりますが、そちらにいない場合は既に外へ連れ去られた可能性も…」
「…血痕などは出ていないんだな?」
「はっ」
「ロキの暗部の情報は?」
「そちらは我々の内の一人がアンシャンテの暗部と戦って追い返している姿を見たと言っておりましたが、その後の足取りはわかりません」
「アンシャンテの?」
「はい。カーライルは元々アンシャンテの暗部です。裏切り者と言われていたことから個人的な戦いであるとみなしてその目撃した暗部も手は出さなかったとのこと」
「…………つまり、カーライルが私事でロキから目を離した隙に攫われた可能性もあると?」
「はい」
「~~~~っ!すぐに門を通った者達の詳細を照合し、近辺の宿にも探りを入れさせろ!ロキの身に何かあれば全員首が飛ぶと思え!」
「はっ!」

連れ去られたという事は犯人はすぐに命を奪う気はないということだ。
ロキの身の安全と引き換えにガヴァムと交渉したい何者かの仕業の可能性が高い。
ガヴァムは今三カ国事業のお陰で各所で産業が活性化しつつある。
そのおこぼれに預かろうとする過激な連中が出てくる可能性も考えておくのだったと今更ながらに後悔してしまう。

(ロキ…頼むから無事でいてくれ)

胸が潰れるような思いで、どこにいるのかわからないロキの無事を俺は必死に祈った。

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