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68.誤解だから Side.カリン

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ロキが部屋に帰ったと報告を聞き安堵したのも束の間。
暗部から部屋にいないと聞かされ目の前が真っ暗になるかと思った。

(いつ、どこから出て行ったんだ?)

あんなに対策をしっかり取ったにもかかわらずあっさりと抜け出されて、正直ショックを隠せない。
ロキから聞いた地下道への道は警備の者達には教えてはいないものの、その付近は特に厳重に見張らせるようにはしているため、ロキの姿があればすぐに目につき、そう簡単にはそこから抜け出すことはできないはずだった。
それなのに────。

探させるか?
けれどまた大騒ぎになるかもしれない。
そもそも自主的に外に出たのか?
どうして?
そんな思いがグルグル頭の中で渦巻いている。

「……カーライル。どういう事だ?」

だから手っ取り早くロキの暗部に尋ねた。
護衛していないことにも問題がある。

「仕方なかったんですよ。あのままだとロキ様、余計に病みそうでしたし」
「病む?」
「そりゃそうでしょう?気づいてなかったんですか?リヒターなんてそれでここ数日ハラハラしていたのに」
「どういう事だ?説明しろ!」
「だから、あんなに息苦しい状況に晒されてたらどう考えても病むでしょう?このまま放置したらあっさり心の隙に付け入られてロキ様をシャイナー陛下に奪われそうだったから、リヒターは先に手を打っただけなんです。怒るのは筋違いです」

呆れたようにそう言われ、どうにも理解できなかったので思わず俺の暗部にも聞いてみた。

「わかるか?」
「……まあ、はい。一応」

そして渋々といった感じでそう言われ、自分が空回りしていたことに気づいてショックを受けた。
確かにこれまでと比べて息苦しくはあっただろう。
でも攫われないためにと動いた結果だったし、大きく間違ってはいなかったはずだ。
それなのに────。

「わかってないですね。カリン陛下のされたことはロキ様を牢獄に監視付きで放り込んで、無理矢理労働させていたようなものですよ?」

追い打ちのようにカーライルからそう言われて、蒼白になりながらふるふる震えてしまう。
もしそれが本当なら、俺がしたことは逆効果でしかなかったということではないか。

「どうして言わない?!」
「いや…その。まさか気づいてなかったなんて思ってなかったですし」

そう言って困ったようにカーライルが俺の暗部を見て、俺の暗部がまた困ったように答えを口にした。

「私共もその…カリン様がロキ陛下を更に病ませてハードなプレイを楽しみたいと思っている可能性もなくはないな…と思ったもので…」

(なんでだ?!)

「ロキは今のままで最高のプレイをしてくれるのに!今よりハードになったら大変だろう?!ふざけるな!」

(そのせいでロキが俺の元から去って行ったらどうしてくれるんだ?!)

『暗部が酷い!』と嘆いていると『リヒターが一緒だから大丈夫ですよ』と言って慰められ、帰ってきたらお教えしますのでと言って執務室に戻された。
でもそんな風に執務室に放り込まれても仕事になんてなるはずがなくて、モヤモヤしたまま夜を迎え、ひょっこり帰ってきたロキの姿を見るや否や泣きながら抱き着いてしまう。

「ロキ!俺を放ってリヒターと二人でデートに行くなんて酷い!」

暗部から『ロキが病む状況だった』と聞かされて怖かったので、なんとか追い詰めない言葉をと考えたらその言葉しか口から出てこなくて、なんだか嫉妬していたようにしか聞こえなかったが、少しは俺の不安だった気持ちをわかってもらえただろうか?

「兄上…。そんなに不安だったんですか?大丈夫ですよ。リヒターとは兄上とのデートに出掛ける場所の下見に行っていただけなので」
「え?」
「後はちょっとした忠告をされましたね。シャイナー陛下とデートには行くなということと、断れない場合は兄上も一緒にと言うようにと」
「そ…そうか」

そんな言葉の数々になんだか物凄くホッとする。
どうやらリヒターはこれ幸いとロキとデートを楽しんだわけではなく、いつも通り臣下として接してくれていたらしい。
根が真面目で助かった。

「ええ。なのでそんなに心配しなくても大丈夫ですから」

にこやかにそう言ってくれるロキをギュッと抱きしめて、一応ここ最近のことを謝っておく。

「ロキ…息苦しい思いをさせて悪かった」
「兄上…」
「今度からはちゃんと言ってくれ。それと、その……デートも楽しみにしてるから」
「はい」

そんな俺達の様子に暗部達もホッとしたように姿を消し、残ったリヒターも下がってくれる。

「夕食はちゃんと食べましたか?」
「……食べてない」
「だと思いました。軽食でも頼んで一緒に食べましょうか」
「お前も食べていないのか?」
「ええ。バラ園に行った後、この間兄上と行った場所に寄って闇ルートの商品をリヒターと見てきたんですよ」
「えっ?!」

あそこには確かに色々あったがロキがこの間覗いた店は媚薬や玩具が沢山ある店だった。
あんなところにリヒターと行って何を買ったんだろう?
怖い物を買ってないだろうなと思わず思ってしまったところで、それも含めてリヒターからまた話があると思うと言われる。

「きっとあれなら兄上も安心してくれると思うし、他の物も色々使えると思うので楽しみにしていてくださいね」
「え…ああ…そ、そうか」

一体どんなものを買ってきたんだろうと、その後俺は軽食を摂りながらドキドキしつつ色々想像したけれど、実際は思ったものと全然違ったので物凄く恥ずかしかった。

────穴があったら入りたい。


***


軽食を摂った後シャワーを浴びたものの、少し時間があったので、そのままリヒターを呼び説明を受けた。
何やら暗部も一緒にということだったので、カーライルだけではなく俺の暗部も一緒に話を聞く。

「こちらが今日買った魔道具の数々です。ロキ陛下の安全確保のために購入してきました」

そう言ってテーブルに乗せられたのは見たこともない品々だった。

「これは発信機と呼ばれる魔道具で、本来は暗殺者が使用する類の道具になります。ターゲットの居場所を逐一把握することができるので、重宝されているとか。それを今回はロキ陛下の居場所を知るために使おうと思っています」
「発信機……」
「ええ。裏稼業の男がロキ陛下用に指輪に加工してきてくれたので、それをつけている限りはこちらの魔道具で居場所を確認することができるんです。これなら万が一また攫われてもすぐに居場所を知ることができるので、救出に向かうのがずっと容易になります」
「なるほど。便利だな」

本来は暗殺を生業とする者がターゲットを見つけ仕留めやすくするためのものらしいが、確かにこういう用途にも向いた魔道具だと思った。

「それとこちらがその発信機に付随してきたマジックバッグと呼ばれるもので、試しに剣を入れてみたら普通に入りました。予備の武器を入れておくにも非常に便利なものとなっています」
「マジックバッグ?」

リヒターの説明によると、今目の前にある手の平に乗るようなサイズの小さな袋に剣が一本丸々入るとのこと。

(そんなこと、有り得るのか?)

けれど訝し気にした俺の前でリヒターは実際にその袋に剣とその発信機の魔道具も易々と入れてしまった。

「こんな感じです」
「なっ?!」
「便利ですよね」

これは便利どころの話ではない。
表に出回っているのは見たことがないから恐らく裏ルートの専売特許品なのだろう。
これなら確かに黙っていれば闇商人の違法取引だってし放題になるだろうし、隠匿するのもわかる気はした。
今回こちらに回してくれたのはロキがいたからこそであって、ある意味信頼の証とも言える。
これは下手につつかない方がいい案件だと思った。
俺だって流石にそんなことで暗殺者を送り込まれたくはない。

「それとこれも扱いようによってはかなり危険な品です。ブルーグレイから技術を盗んで仕上げたという、対になった魔道具で、離れた所からでも話せるというものらしいです」
「なっ、なんだと?!」

ブルーグレイから技術を盗んで作るなんて、なんて命知らずなんだと驚愕してしまう。
これは大丈夫なんだろうか?
とは言えその機能自体は非常に興味深い。

「試しに隣の部屋に俺が行くので、陛下はこちらでお待ちください」

そう言ってリヒターがそれを手に隣室へと向かい、暫くしたところでその魔道具が震えた。

「ええと、確かこうだったかな?」

そしてロキがボタンを押すと、そこからはリヒターの声が聞こえてきてその場にいた者達が全員衝撃を受ける。

「リヒター聞こえるか?」
「ロキ陛下。ええ。ちゃんと聞こえます」
「そうか。では戻ってこい」

その言葉と同時にロキがまた手元のボタンを押すと通信は途絶えたようだ。
ほどなくリヒターが戻ってきて、こうやって離れていても話すことが可能ですと言ってきた。

「これをどう活用するかを陛下達に相談したくて…」

確かに使いようによっては非常に便利だが、なにせ初めての魔道具だ。
どう使うのが効率的なのかがわからない。

「それなら俺が一つ持ちましょう。ロキ様が攫われた時は俺が追いかけることになるので、万が一見失った時に発信機を追えるリヒターと話せるとすぐに対処できますから」
「ああ、それなら確かにそうした方がいいな」

あっさりと決まる運用法。
でもちょっとだけ俺がロキと持ちたいなと思ってしまったのは内緒だ。
今回のように知らない間に外に出てしまった時に連絡を取りたい────ついそう思ってしまった。
そんな俺にロキがクスリと笑って、はいどうぞと別なものを手渡してくる。

「こっちは俺と兄上のにしましょうか。ちょっと距離の実験がしたくて買ったんですが、兄上も持ちたそうですし、もしよかったら」
「ロキ…」
「俺の姿が見当たらなくて不安になった時に気軽に使ってくれていいですからね?」

(嬉しい!)

ロキの言葉を聞いて、そんな気持ちで胸がいっぱいになる。
やっぱりロキは俺のことを考えてくれている。
それなのに俺は────。

「ロキ…悪かった」

あまりにも独善的でロキを苦しめる事しか出来ていなかった。
ロキのためにと動いたはずなのに、肝心のロキ自身を見ていなかった。
これではロキ自身を見ていない情報局長達と同じではないか。
でもそんな俺にロキは笑顔を向けてくれる。

「兄上、謝らないでください。兄上が俺のために頑張ってくれているのが嬉しくて、ちょっと自分で自分を追い詰めてしまっただけですよ。これからはちゃんと適度に息抜きをするので」
「でも…」
「それに、昔に比べれば大した事はありませんし。俺は兄上に無視されたり、冷たい目で見られる方がずっと嫌です。だから、これからも俺を思って俺のために動いてくれる姿を見せて欲しいです」
「グッ……」

どうしよう?
かなり病んでるのに…そうやって嬉しそうに笑うロキが可愛い。
そんなロキがたまらなく愛しく感じられて、もっと俺に依存させたくなる…!

(そうした方が離れていかないよな?)

思わずそんなことを考えていると、暗部が揃って『ホラ見たことか』みたいな目で見てくるが、違う!違うぞ?!
ハードなプレイを狙ってじゃなく、離れていかないように考えただけだからな?!

「兄上。いっぱい不安にさせた分、ちゃんと今夜はこれでもかと慰めてあげますからね?」
「ロキ…」
「今日は久し振りに縛り上げて沢山嬲ってから挿れてあげるので、可愛い声を聞かせてください」

ロキが嗜虐的な目で俺を見つめてきて、どうしようもなく興奮させられる。

「あ…ロキ……」
「もうそんなに欲情して…。本当に困った兄上ですね。こんな可愛い兄上を放ってどこか行くとかあり得ないので、兄上は何も心配せず俺をただ束縛していてください」

そう言って、ロキはとても嬉しそうに俺をベッドに攫っていった。


****************

※カリン自身違うと言っていても、何だかんだ調教されちゃってるので、ついつい思考がそっち方面に行ってしまうという……。
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