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75.それぞれの胸中

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【Side.カリン】

ロキの話はかなり衝撃的だった。
でも聞いてなるほどと確かに思った。
どうしてそこに考えが至らなかったんだろうと自分で自分に驚き、びっくりしてしまうほどストンと納得がいったのだ。

(ロキは俺と一緒じゃなければシャイナーとは寝ない)

これは大きな自信に繋がった。
これまで不安な気持ちでいっぱいだったが、そういうことなら何も不安に思う心配はない。
だって自分は絶対にシャイナーとの閨など許可しないのだから。
だからその日は安心して身体が回復するまでベッドで休み、リヒターにロキが軽率な行動でシャイナーを喜ばせることがないようにだけ頼んでおいた。
ロキは今日は俺の分まで仕事を頑張ると言っていたし、シャイナーに構う時間などほとんどないだろう。
だから大丈夫。そう思った。

それに後からリヒターが報告をしに来てくれたが、ロキは昼にシャイナーの様子を見に顔を出しに行ったらしいが、その場でしっかりとシャイナーを振ってくれたらしいのだ。
その上でシャイナーの言い分を聞き入れていくつかの条件を呑んだらしいが、それもささやかな常識範囲内のものばかり。

「シャイナーも女々しいな。振られたなら振られたで、きっぱり男らしく諦めてさっさと国に帰ればいいものを…」

気持ち的には晴れやかだったがその点だけは不満だった。
とは言えいい加減ロキを振り向かせるのは無理だと悟ったことだろう。
たとえそれで腹を立て攫おうとも、ロキの気持ちが揺らぐことはないと思い知ればいいのだ。
後は油断なくロキさえ守っていればこの件は時間が掛かろうと解決すると思った。

けれど……俺はそんな風にどこまでもシャイナーを甘く見ていたが、それは間違いだった。
まさか油断したところを狙ってあんな手を使ってくるなんて────。


***


【Side.シャイナー】

「カリンが一緒でなければ閨を共にしない?」

部屋で暗部からの報告を受け、俺は大きく目を見開く。

「はい。ロキ陛下は確かにそう仰っていました。逆にカリン陛下も一緒なら考えたのにとも…」

流石にそれは全く考えていなかったし、その事実に結構なショックを受けた。
何故ならそれ即ちロキの好感は得られても結局ロキには選んでもらえないということだからだ。

(悔しい…!)

カリンが憎くて憎くて仕方がなかった。
ロキの過去を暗部に詳細に調べさせたらかなり悲惨なものだったし、カリンのロキに対する態度が相当酷いものだったということも知っている。
だからこそそこに勝機はあると思っていたのに────。

「俺はカリンよりもずっとロキを大事にするし、幸せにだってしてやれるのに…!」

こんな最悪な国にロキを縛り付けるより、アンシャンテで一緒に幸せになりたい。
どうしてロキはカリンに執着するんだろう?
自分を蔑み虐げてきた張本人だろう?
本当なら憎んでいたっておかしくはない。
淫乱な身体で落とされたというのなら、俺を一度でも抱いて比べてくれればいいのに。
それこそロキ以外の手垢がついた淫乱な身体より、真っ新な俺をロキ好みに一から染めてくれればいい。

何が違う?何がダメなんだ?
ロキがして欲しいことがあればなんだって応える気はある。
俺の方が条件は全部優れているはずだ。
ロキを虐げることのない環境を持ち、守ってやれる立場にある。
その上で誰よりも愛し、ロキだけに身を捧げる気持ちだって持ち合わせている。
そんな俺が────。

「カリンに勝てないはずがない…!!」

悔しくて悔しくてつい思い切り卓を強く拳で叩いてしまう。
この遣る瀬無い思いはどうすればいいのか。

「カリン…!」

お前が憎い。
やはりロキをこんな場所にいつまでも置いておきたくはない。
カリンの側から引き離してやりたい。
だがどうする?
拉致は一度失敗しているし、事業の件もあるから国同士波風を立てるのはよくないということくらいはわかっている。

(待てよ?)

逆にカリンを攫ってどこかに監禁してしまうというのはどうだろう?
行方不明になったことにしてその間にロキを慰めつつ親しくなるというのは手かもしれない。
その間カリンには他の男を宛がって凌辱させておけばいい。
どうせ元々ロキ以外にも抱かれて喜んでいたような男だ。それで満足するだろう。
嫌がらせにももってこいだ。
その隙に俺はロキと距離を縮めて、抱いてもらえるよう画策すればいい。

(いや…ダメだ)

そもそもそこまで大掛かりにすればこちらに疑いの目を向けさせてしまう可能性が出てくる。
ここは焦らず慎重に考えてみるべきだ。
以前のような失敗はもう許されない。
落ち着かなければ。

状況を整理してちゃんと考えよう。
いずれにせよカリンはきっとこの後ロキと俺を接触させないよう手を打ってくるはず。
その分カリンとの接触は増える。
罠に嵌めるなど造作もないだろう。
向こうが警戒しているのはロキに対してのものばかり。
カリンに媚薬でも盛って男に腰を振ってるところでもロキに見せてやるのもいいかもしれない。
確かロキは多人数に犯されるカリンを見るのも好きだったはず。
ダメ元でそんなカリンの横で俺を抱いてみないかと誘ってみようか?
いや、落ち着け。
もう少しロキの情報を得てじっくり計画を練るとしよう。
ロキを怒らせることなくカリンを罠に嵌め、ロキの気持ちが少しでもこちらに向いてくれるような計画を。




「シャイナー。少しは体調は良くなりましたか」

昼になり、ロキが約束通り様子を見に来てくれる。
とても嬉しい。
朝食に手作りの薬草粥まで作ってくれたし、そのお陰か具合はすぐに良くなった。
優しい俺のロキ。
そんなロキに直接聞きたいことがある。

「ロキ…抱くのと嬲るのは別なんだろうか?」
「え?」
「俺はお前が好きだ。抱かれたいと思う。だから…お前にとって嬲る行為のその先に抱くという行為があるのか、そうでないのかをお前の口から聞きたい」

割と思い切った質問だと思う。
いくらでも誤魔化しがきく質問だし、答えてもらえない可能性は高い。
それでもカリンに邪魔されないであろうこのタイミングでちゃんと聞いておきたかった。

「そうですね……」

そう言いながらロキがそっと俺の前のソファに腰掛け、考えるようにしながら答えてくれる。

「例えば、嬲るだけなら誰にでもできますよ?」

そして騎士を鍛え直すために鞭を振るった話や俺の父が刺客として放った現ロキの暗部を捕まえた時の話などを聞かされる。

「道具で嬲るだけなら別に…望むならシャイナーにするのは構いません。まあ兄上やそこにいるリヒターなんかは全力で止めに入るでしょうけど」
「…………」
「でもシャイナーが望んでいるのはそうじゃないんでしょう?」

それはそうだ。
俺はただ嬲られたいだけじゃなく、カリンのように愛してもらいたい。
それをロキはちゃんとわかってくれていた。

「俺の愛情は兄上にしか向いてないので、そう言った意味では絶対に満足させてあげられないと思います」

すみませんと困ったように笑われて泣きたくなった。

「ロキ…カリンを恨んだことはないのか?」
「兄上を?勿論ありますけど」
「なのに…愛しているのか?」
「ええ」
「……虚しくはならないのか?」
「いいえ?兄上にはちゃんと愛情を向けてもらえているので」
「……そうか」
「ええ。ご期待に添えず申し訳ありません」
「いや。そもそもこちらが無理を言っているのは承知の上だ」

胸は痛むが仕方がない。
それでも────諦めきれないからこそ足掻くのだが…。

「ロキ。きっとカリンは俺とロキの接触を嫌がるだろう」
「まあ、そうですね」
「だが…お前のことを俺はすぐには諦められないし、お前ともっと親しくなりたいんだ」
「……ええ」
「諦めの悪い男だと呆れられてもいい。だが、想うことは許してほしい」
「シャイナー…」
「それに…互いに王として国同士の交流を深め理解し合っていきたいとも思う。だからこれからも手紙のやり取りは続けたいし、三カ国事業の件で相談するのも他者同席で構わないからこれからも頼みたい」
「…………」
「後はその…これは良ければでいいが、お前の補佐官達からでもいいから彼らの口からお前の話を聞かせてもらうことはできないだろうか?」
「え?」
「勘違いしないでほしい。困らせる気はないんだ。お前と直接話す時間が減るなら、その分彼らからお前の話を聞かせてもらいたい…そう思っただけだ。それだけで少しは心癒される気がする。ダメだろうか?」
「まあ…多分それくらいなら兄上もそこまで言ってくることはないと思いますが」
「そうか!それなら…よかった」

はにかむように笑いロキにそう言うと、ロキは全くこちらを疑うことなくこちらに笑みを返してくれる。

「気持ちに応えられないのは申し訳ないのですが、俺も国同士仲良くしたいとは思っているので、できる範囲で交流は持ちましょう」
「ありがとう」

なんとか国同士の交流ということで手を打たせることはできた。
後はこちらが上手く立ち回ればいい。

「それならロキにも是非俺のことをもっと知っていってもらいたい。誰か中継ぎ役を紹介してもらえないだろうか?」
「そうですね。そういうことなら手始めにリヒターでも紹介しましょうか?彼は俺と一番親しい騎士ですし、真面目なので中継ぎ役としては悪くはないかと」
「そうか」

リヒター────やはり一番はこいつか。
だがこの男はダメだ。
ロキの話を聞くのは一番有意義だと思うが、懐柔するのは難しいだろう。
まあいい。
まずはこいつを間に挟んででも補佐官の方を上手く落とそう。
兎に角俺が無害だとアピールする駒になってもらわなければ困る。
そして時間をかけてでも目的は絶対に達成してみせる。
焦らずじっくり周囲から落とし、まずは狡い手を使ってでもロキと寝るところから始めるんだ。
愛情は後からついてくる。それこそカリンがそうしてみせたように────。
そう考えながら俺は昏く微笑んだ。

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