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165.ロロイア国へ② Side.カリン

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再三に渡る誘いに応える形でロロイア国に行くことになった。
せめてリヒターはロキの側に置いていきたかったが、国にいる限りは裏の者達も多々いるから俺の安全のためにリヒターを側に置いて欲しいと言われた。
万が一媚薬を盛られた際もリヒターが側にいれば発散しやすいだろうとも。
確かにそうだが、盛られる前提かと言ってやりたかった。

(確かにロロイアは薬に特化した国だが、あまりに穿ちすぎじゃないか?)

詫びで呼び出して媚薬を盛るなんて流石にしてこないだろう。
そもそもキュリアス王子はロキと寝たがっていたのであって、俺ではない。
だからこそ自分が行くと言い張るロキを絶対に行かせたくなかったのだ。
ロキの安全は俺が守る!

そう思ってワイバーンでロロイアへと飛んだ。
正直言って人数が半端なく多い。
その分ワイバーンの数も多い。
ロキがブルーグレイに行った時は一頭だったのに、俺がロロイアに行く時は十一頭ってなんだ?!
普通は国王の方が大所帯になるだろうに。

そんな中、俺はリヒターにしがみついての移動だ。
ワイバーン移動は相変わらず怖い。
ロキ曰く、リヒターの腕の中にすっぽり収まってたらそんなに怖くないと思いますとのことだったが、非常に複雑だ。
何が悲しくて恋敵の腕の中で安穏としないといけないのか。
でも…確かに慣れたら落ち着くな。
悔しい!

「この安心感でロキを篭絡したのか?!」
「カリン陛下。人聞きが悪いですよ?」
「くっ!だがやたらと落ち着くんだからしょうがないだろう?!」
「はぁ…そうお思いなら大人しくしていてください」
「俺ももうちょっと背が伸びていればロキを包み込んでやれたのに…!」
「ロキ陛下は今のカリン陛下を愛しているので、問題はないのでは?」
「それはそれ、これはこれだろう?!」

そんな事を話しながら賑やかにロロイア国へとやってきた。
ガヴァムからロロイアまでの行程はワイバーンだと二日ほど。
ロキにはちゃんと定期連絡を入れていたものの凄く寂しそうにされてしまった。
できるだけ早く帰ってやりたい。
そう思いながらロロイアの王城へと降り立った。




「これはこれはカリン陛下。お待ちしておりました。ようこそロロイアへ」

出迎えてくれたのはロロイアの国王とキュリアス王子、キュリアス王子の妃であるニーナ妃。後は弟王子であるトーマス王子と妹姫のシェイラ王女。そして主だった大臣達だ。
謝罪と詫びで呼び出した出迎えとしては上々。
心遣いはしっかりと感じられた。

その後、部屋へと案内されて晩餐の誘いも受ける。
そこに特に変わった様子はない。
そもそもブルーグレイに初めて行った際もこんな感じで、普通にしていたら問題なんてなかった。
ちょっと欲が出てアルフレッドに媚薬を盛ろうとしたのが悪かっただけで…。

だから今回も普通に謝罪だけしてもらって普通に帰ればいい。

(ロキは色々巻き込まれるたちだが、俺は違うしな)

そう思いながら晩餐へと臨んだのだが、その席にあり得ない人物の姿を見つけて固まってしまった。

(こんなこと、聞いていない…!)

「セ、セドリック王子?」

(あり得ない、あり得ない、あり得ない)

なんの心の準備もなく遭遇してしまったせいで自然に身体が震えてしまう。
血の気が引いて立っているのがやっとな状態と言っても過言ではないだろう。
今ここにはロキはいないのに…。

「……カリン陛下。突っ立っていないで取り敢えず座ったらどうだ?」

幻覚ではない。
その声と存在感は紛うことなく本物のセドリック王子で────。

俺はクラリと目眩に襲われてしまった。
慌てて額に手を当て何とか気を持ち直したが、すぐにセドリック王子から殺気が飛んできて泣きそうになってしまう。

「カリン陛下。お加減でも?」
「い、いや。大丈夫だ」

ロロイア王の声でここは他国だしっかりしろと自分を叱咤し、何とか席に着くことはできたが、早く帰りたいとしか思えなかった。

「本日は大国ブルーグレイのセドリック王子とご寵姫のアルフレッド様、そしてガヴァム王国から王配のカリン陛下をお招きしております。三ヶ国の益々の発展を祈って、乾杯!」

にこやかに乾杯の挨拶をしたロロイア王に形だけ付き合って乾杯はしたものの、正直とても食が進むとは思えなかった。

「いや~カリン陛下が来て下さって本当に良かった。何度手紙を出してもロキ陛下からは色良いお返事がいただけなかったので、それほどキュリアスの事を怒っておられるのかと心配していたのですよ」
「そ、そうですか。ロキは特に怒ってはいなかったのでご心配なく」

どちらかと言うとロキは今回のロロイア行きの方に憤っていた。
まあこの場でそれを言う気はないが。

「本当ですか?我が国もメルケやネブリスのように恐ろしい目にはあいたくないですからな。こうしてしっかりと謝罪の場を設けたかったのです」
「…………」

(なるほど。それで躍起になっていたのか)

それならそれでやはり来て正解だったのだろう。
そう思いながら小さく息を吐いた。
兎に角無難にこの場を凌いで、なるべくセドリック王子に近づかないよう努めて、さっさとガヴァムに帰ろう。
もうそんなことばかりが頭の中を占めていた。

そうして淡々と振られる会話に答えながらなんとか手と口を動かして無理やり食事を進め、メインを食べ終えたところでそれは起こった。

「そう言えばロキ陛下はセドリック王子の愛人ではないと否定しておられましたが、実際のところ、どうなのでしょう?」

キュリアス王子が徐ろにセドリック王子へとそんな話を振ったのだ。
その言葉に、場を共にしていた者達がギョッとしたように顔を上げる。
ほろ酔いなのかキュリアス王子は全く悪びれた様子もなく笑顔で言葉を続けた。

「ロキ陛下は色っぽい方ですからね。実にそそられると思ってお声掛けしたのに上手く逃げられてしまいました。セドリック王子とは懇ろの仲だと聞きましたし、何かお誘いしやすい方法があれば是非ご教授いただけないでしょうか?」

正直言ってあまりにもありえない発言に誰もが驚愕して食事の手を止めていた。
それはロロイア王も同様だ。
まさか謝罪と詫びで俺を呼んだ場で不用意にそんな言葉を口にするとは思ってもみなかったんだろう。
嘗められたものだ。
この場にセドリック王子がいなければとっくに俺は席を立っていたと思う。
あまりにも無礼が過ぎる。
けれどキュリアス王子は空気を読みもせず、セドリック王子をそのまま怒らせてしまった。

「俺の寵姫の前でよくもそんな話をヘラヘラと口にできたものだな?軽口を叩く相手は選んだ方が身のためだぞ?」
「ひっ?!」

いくら何でも馬鹿にも程があるだろう。
あの王子の恐ろしさを噂にでも聞いたことがなかったんだろうか?
思い切り殺気を飛ばされて固まっているが、本当にそういったことは相手を見て言えと言ってやりたかった。
とばっちりは御免だ。
即殺されても文句は言えない状況だぞ?
ロキなら笑い飛ばして上手く仲裁するだろうが、この場にはいないし、頼みの綱はアルフレッドだけだ。
そう思っているとアルフレッドがちゃんとセドリック王子にストップをかけてくれた。
不穏なことは口にしていたが、セドリック王子にしては穏便に席を立ち、明日朝一番で帰ると言っていたのでホッと安堵の息を吐く。
どうやら長々と顔を突き合わせることなく済みそうだ。

(助かった…)

とは言えもう胃が痛いしすぐにでも国に帰りたい。
来たばかりだが、これに便乗して俺も明日朝一番で帰ってもいいだろうか?
今なら引き止められないような気がする。

そう思って、セドリック王子達が退席し微妙な空気になった席で敢えて言葉を紡いだ。

「ロロイア王、来て早々申し訳ないが、こちらも明日朝一番で帰らせてもらいたい」
「……っ!カリン陛下!」
「ロロイア王は詫びる気持ちがあるようだが、本人に反省が見られないのであれば意味がない。来るだけ無駄だった。失礼する」

そう言って俺もさっさと席を立った。
ここまで馬鹿にされたのだ。
引き止めたりはしないだろうと思ったのだが、夜中にあり得ない蛮行に襲われることに────。

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