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2.婚約①
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月日が経つのは早いもので、俺はスクスク成長し、あっという間に15才になった。
魔剣から人へと転生したこともあって最初は戸惑いも多かったけど、招かれればお茶会にだって参加したし、マナーの勉強や学術も優秀な教師をつけてもらいながら頑張って覚えた。
魔法を使ったり剣を振るうのは最初は物凄く違和感があったけど、それにもすぐ慣れたし、今では得意と言える。
元主人の息子として恥ずかしくないよう貴族の一員として胸を張れるくらいにはなったと思う。
あんなある日の事、学園に入るまであと少しと言ったタイミングで父から呼び出された。
「カイザーリード。やっとお前に相応しい相手を見つけることができたんだ」
どうやら俺の婚約者が決まったらしい。
「相手は同い年でもあるジェレアクト家のルシアン殿だ。きっと彼なら気に入るはずだ」
にこやかに微笑み相手を教えてくれる父。
ルシアン…ルシアン…。
名を言われてもパッと顔が出てこない。
ということは、これまでの茶会なんかでは会ったことのない相手だってことなんだろう。
ジェレアクト家は我が家のユグレシア家同様、戦争で功績を残した家だった。
爵位もこちらと同じ侯爵家。
つり合いは取れている。
それに加えて俺の希望はこれまで父へと何度も言ってきたから、きっとその条件は確実にクリアしている相手なんだろうと思えた。
ただ一つ疑問があるとすれば性別くらいだろうか?
(どっちも男だけどいいのか?)
そう思って尋ねたら、別にいいらしい。
うちは俺の下に弟も妹もいるし、向こうも兄弟は他にいるから、跡継ぎにはこだわらないそうだ。
どちらかというと双家の強固な繋がりで地盤を固めるのが目的らしいから、相性が特別悪くなければそれでいいとのこと。
(つまり典型的な政略結婚ってことか)
まあ別にいいけど。
俺は元が剣だからか恋愛にも興味はないし、性欲もこれまで全く感じたことがない。
それよりもどちらかというと戦うのが好きだ。
勿論戦争も終わり平和な世の中になっている現在では剣は専ら訓練くらいでしか振れないけど。
(はぁ…。取り敢えず学園を卒業したら魔法騎士団にでも入ろうかな)
魔法騎士団に入れば訓練で毎日強い相手と打ち合うことができるし、魔法だって使い放題。
実に楽しそうだ。
今のところそれが密かな目的と言えるかもしれない。
正直結婚なんて二の次で構わないし、婚約者とはそこそこ友情を育められればそれでいいだろうって思った。
それこそ条件をクリアしている相手なら俺と剣の打ち合いだってしてくれるはず。
そんな俺に父は愛情のこもった眼差しを向けて言ってきた。
「カイザーリード。お前の名は今はもう失ってしまった大切な剣から名を貰ったんだよ」
(知ってる)
父は知らないだろうけど、俺の名をつけてくれた時にそう言ってくれていたのを覚えているから。
「私はだからこそ余計にお前に幸せになってもらいたいと思ってるんだ」
「父様」
変わらず優しい俺の主人が慈しむように言葉を紡ぐ。
「そんな私の目で見て、彼ならお前を任せられると確信を持った」
会ったことはないけど、そんなにそのルシアンという奴は凄い奴なんだろうか?
「性格も穏やかでいつもにこやかだし、頭も良く剣の腕もピカ一。その上魔法の腕も大したものだ。そんなルシアンが婚約者なら父さんも安心だ」
父が誰かに対してここまで言うのは非常に珍しかった。
どうやらルシアンというのは本当にできた奴のようだ。
「わかりました。父様がそこまで仰る相手ですし、俺も婚約者としてこれから仲良くやっていきたいと思います」
「そうか。嬉しいよ」
そう言って優しく笑みを浮かべた父に俺も笑みを返したのだけど、この時こんなことを言わなければよかったと思ったのは少し後の事。
そう。
人は猫を被ることが往々にしてあるのだと、俺が思い出すのはそれから間もなくのことだった。
魔剣から人へと転生したこともあって最初は戸惑いも多かったけど、招かれればお茶会にだって参加したし、マナーの勉強や学術も優秀な教師をつけてもらいながら頑張って覚えた。
魔法を使ったり剣を振るうのは最初は物凄く違和感があったけど、それにもすぐ慣れたし、今では得意と言える。
元主人の息子として恥ずかしくないよう貴族の一員として胸を張れるくらいにはなったと思う。
あんなある日の事、学園に入るまであと少しと言ったタイミングで父から呼び出された。
「カイザーリード。やっとお前に相応しい相手を見つけることができたんだ」
どうやら俺の婚約者が決まったらしい。
「相手は同い年でもあるジェレアクト家のルシアン殿だ。きっと彼なら気に入るはずだ」
にこやかに微笑み相手を教えてくれる父。
ルシアン…ルシアン…。
名を言われてもパッと顔が出てこない。
ということは、これまでの茶会なんかでは会ったことのない相手だってことなんだろう。
ジェレアクト家は我が家のユグレシア家同様、戦争で功績を残した家だった。
爵位もこちらと同じ侯爵家。
つり合いは取れている。
それに加えて俺の希望はこれまで父へと何度も言ってきたから、きっとその条件は確実にクリアしている相手なんだろうと思えた。
ただ一つ疑問があるとすれば性別くらいだろうか?
(どっちも男だけどいいのか?)
そう思って尋ねたら、別にいいらしい。
うちは俺の下に弟も妹もいるし、向こうも兄弟は他にいるから、跡継ぎにはこだわらないそうだ。
どちらかというと双家の強固な繋がりで地盤を固めるのが目的らしいから、相性が特別悪くなければそれでいいとのこと。
(つまり典型的な政略結婚ってことか)
まあ別にいいけど。
俺は元が剣だからか恋愛にも興味はないし、性欲もこれまで全く感じたことがない。
それよりもどちらかというと戦うのが好きだ。
勿論戦争も終わり平和な世の中になっている現在では剣は専ら訓練くらいでしか振れないけど。
(はぁ…。取り敢えず学園を卒業したら魔法騎士団にでも入ろうかな)
魔法騎士団に入れば訓練で毎日強い相手と打ち合うことができるし、魔法だって使い放題。
実に楽しそうだ。
今のところそれが密かな目的と言えるかもしれない。
正直結婚なんて二の次で構わないし、婚約者とはそこそこ友情を育められればそれでいいだろうって思った。
それこそ条件をクリアしている相手なら俺と剣の打ち合いだってしてくれるはず。
そんな俺に父は愛情のこもった眼差しを向けて言ってきた。
「カイザーリード。お前の名は今はもう失ってしまった大切な剣から名を貰ったんだよ」
(知ってる)
父は知らないだろうけど、俺の名をつけてくれた時にそう言ってくれていたのを覚えているから。
「私はだからこそ余計にお前に幸せになってもらいたいと思ってるんだ」
「父様」
変わらず優しい俺の主人が慈しむように言葉を紡ぐ。
「そんな私の目で見て、彼ならお前を任せられると確信を持った」
会ったことはないけど、そんなにそのルシアンという奴は凄い奴なんだろうか?
「性格も穏やかでいつもにこやかだし、頭も良く剣の腕もピカ一。その上魔法の腕も大したものだ。そんなルシアンが婚約者なら父さんも安心だ」
父が誰かに対してここまで言うのは非常に珍しかった。
どうやらルシアンというのは本当にできた奴のようだ。
「わかりました。父様がそこまで仰る相手ですし、俺も婚約者としてこれから仲良くやっていきたいと思います」
「そうか。嬉しいよ」
そう言って優しく笑みを浮かべた父に俺も笑みを返したのだけど、この時こんなことを言わなければよかったと思ったのは少し後の事。
そう。
人は猫を被ることが往々にしてあるのだと、俺が思い出すのはそれから間もなくのことだった。
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