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44.甥との再会 Side.ルシアン

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クラスで少しずつ自分の立場を固めていた矢先、近々演習が行われるという話が浮上した。
しかも四人以上で組んで連携するのが必須だと?
流石にこれはどうにかしないといけない。
そう思ってクラスの者達へと目を向けたが大半が敵意を持つ奴らか怯える奴らだから非常に困った。
ダメ元で態度が軟化してきている奴らに頼んでみてもいいかもしれないが、それを受けて俺に敵意を持っている奴らから攻撃されて距離を置かれては困る。
なら先に声を掛けるのはその敵意を向けてきている奴らにしなければならない。
そう思って、声を掛けたら思惑通り俺に攻撃を仕掛けてきた。
ここで叩き潰すことさえできれば俺に有利に事が運ぶはず。
本当に馬鹿な奴らだ。乗せられたとも知らないで────。

「くらえぇえっ!」
「そんなに熱くなって。ちょっと頭を冷やした方がいいですよ?」

しかもこれ幸いと上級魔法なんかを自信満々に持ち出してくるなんて、なんて間抜けなんだろう?
それらがあっさり相殺されたら自尊心が大きく傷つくだけだろうに。

そう思いながら相殺しつつもしっかりとダメージが入るよう魔法で反撃してやった。
あくまでもさり気なく見えるように気を配り、ステータスの圧倒的な差がバレないよう工夫を凝らす。
声掛けも威圧的にならないよう、優しさを忘れないように心掛けているつもりだ。
まあ形だけだが。

「ちょっと来週の演習でチームに入れてほしいと言っただけなのに、酷いです。嫌なら嫌と言ってもらえればこちらもすんなり引き下がったのに」

俺の完璧な猫かぶりにクラスの者達も同情的になってくれている。
ちょっと肩を落として弱弱しく見せるだけでいい。
運が良ければこれで引っかかってくれる奴も出てくるはず。
そう思っていたら上手い具合にカモがやってきた。

「ジェ、ジェレアクト!お、俺と組まないか?」

思い切ったようにそう声を掛けてきたのは子爵家の嫡男だ。

「その…俺はそんなに凄い魔法は使えないけど、い、嫌じゃなければ…」

どうやら魔法の熟練度が低くて尻込みしているようだが、そんなことは全く構わない。
今の俺に必要なのは実力ではなく、純粋に人の数だからだ。
演習に参加することこそが目的なんだから、この際気にするなと言ってやりたい。

「本当ですか?嬉しいです!」

だから殊更喜びを露わにしながら明るい声で話しかける。

「魔法なんて鍛えればすぐに上達するので、演習までに底上げしましょう。連携もできた方がいいですし、仲良くしてくださいね」

これで俺が実力がない相手でも受け入れると誰にでも伝わっただろう。
これを受けてそわそわし始めた者がいることに俺は気づき、内心でほくそ笑んだ。
これなら上手くメンバーを揃えることができるに違いない。
そう思ったのに……。

「てめぇ!ふざけるな!」

さっきやられた雑魚が邪魔するように魔法を繰り出してきた。

(ふざけてるのはお前だ!!)

「ぎゃああああっ?!」
「大丈夫ですか?」

腹が立って思わず相殺と同時に感電させてしまったではないか。
そう言えば濡れていたんだったな。
死んでないか?
大丈夫か。大丈夫だな。よし。

「ああ、これは保健室に行った方が良さそうですね」

俺は優しいからな。
ちゃんと配慮はしてやろう。
まあ自業自得だから自ら連れて行ってやるなんて、全くしてやる気はないがな。

最早日常茶飯事となりつつあることから介抱するクラスメイト達も手慣れたものだ。
ここは彼らに任せよう。

「お大事に」

俺は精一杯労わるように装って彼らの背を見送った。


***


その後演習メンバーをなんとか確保できたのは良かったが、何故か放課後に学園長室へと呼び出しを受けた。
どうやら授業でのあれこれを見られてしまっていたらしい。
また難癖をつけられるんだろうか?
流石にそれはないと信じたいが……。

コンコンコン。

「入りたまえ」
「失礼します」

そうして中へと入ると、そこには昔に比べ随分年を重ねた甥が立っていて思わず目を見開いてしまう。
これは予想外だ。

菫色の瞳に青みがかった銀の髪を持つ国王レンスニール=バルトロメオ。
確か王位を継いだのは14、15才の頃だったはず。
そこから約17年。
いつの間にか俺の享年を超えたのかとなんだか感慨深い気持ちになった。

「お呼びでしょうか?学園長」
「ああ、突然呼び出してすまなかったな。内密にこちらの…尊いお方が君に会いたいと仰られたのだ」

その言葉と共に俺へと目を向ける甥、レンスニール。
その目は表面的には穏やかに見えるが、俺を見定めようとしているように見えなくもない。

「国王のレンスニールだ。初めまして。ルシアン=ジェレアクト」
初めまして・・・・・。レンスニール国王陛下。このような場でお会いできて光栄です」

まあ予め手紙は出しているのだし、俺がここに居るのはわかっていてやってきたんだろう。
今日は様子見と言ったところだろうし、当たり障りなく話すに限る。

「……君の授業光景を見させてもらった。魔法の腕が非常に素晴らしかった。叔父上を思い出すほどの熟練度には思わず目を瞠ってしまったぞ」
「お褒め頂き光栄です」
「君は剣も得意だと先程学園長から聞いた。どうだろう?今度城に遊びに来ないか?少しでも騎士達の刺激になればと思うんだが」

なるほど。
確実に生まれ変わりかどうか確認したいから、口実を作って城に呼びたいということか。
そういうことならここは乗るべきだろう。

「魅力的なお誘い痛み入ります。いつ頃お伺いすればよろしいでしょうか?」
「そうだな。この週末にでもどうだ?もちろん馬車で迎えに来させよう」
「ありがとうございます。楽しみにしております」

すんなり纏まる話に学園長は驚いたようだが、生徒が城に呼ばれること自体は名誉なことだし、是非行ってきなさいと言ってもらうことができた。
どうやら学園長自身は俺に敵意は持っていない様子で特に邪魔されるということもなく話は終わる。

「では私はこれで失礼します」

そして俺はジュリエンヌ国の礼ではなくバルトロメオの礼を取ってその場を辞した。

お辞儀の角度は30°。
左手を軽く握って腰にそっと添え、右手拳は胸に当てるが相手の動き次第でいつでも剣を抜きにいけるようになっている。
ジュリエンヌ国のものも似てはいるが彼らの流儀に合わせるなら拳は握らない。
指はどちらかというと伸ばすのが一般的だ。
つまりわかる者にはこれでわかる。
俺が正しくこちらの礼を理解しているということを。

少しでも俺が正しくルーシャンの生まれ変わりだという真実味が増せばいいが…。


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