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46.城にて Side.ルシアン
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週末、迎えの馬車に乗り懐かしい城へと登城した。
馬車を降りるとすぐに城内へと案内され、レンスニールの待つ部屋へと通される。
そう。謁見の間ではなく貴賓室へと通されたのだ。
恐らくゆっくり話したいと言うことなんだろう。
「待っていたぞ。ルシアン=ジェレアクト」
「格別の待遇を頂き、心より感謝申し上げます」
「よい。まずは座ってくれ」
そして茶の準備だけ整えさせると、護衛として騎士団長と副騎士団長と思しきものだけを残し人払いが行われた。
「さて、ここに呼んだのは他でもない。手紙の件だ」
「ああ、あれか」
態度を一変させ、足を組んで太々しい態度に変わった俺に副騎士団長らしき人物がギョッとなる。
だが騎士団長の方は俺を厳しい目で見つつも微動だにしなかった。
恐らくレンスニールからこの二人に話は通っているのだろう。
「貴方が叔父上であると言うことを、確認させていただきたい」
「ふん。それくらい魔力の波動でわかるだろう?」
「それでも、と申しております。叔父上」
「いいだろう。ライアン。俺の相手を」
俺は騎士団長でありかつての俺の部下でもある男へと声を掛けた。
「…………では外へ」
そして皆で騎士団の第三演習場へと移動する。
これさえ確認を兼ねているのか場所だけを口にして俺に先導させる徹底ぶりだ。
「ここは変わらんな」
第一や第二演習場とは違い、やや狭めの自主練によく使われる演習場。
前世ではここでよく弛んでいる部下達を鍛えたものだ。
「剣は?」
「これを」
そう言って訓練用の剣を渡される。
「では、始め!」
その言葉と共に剣へと魔力を通し、強度を上げて打ち込んでいく。
あれから17年。
多少は腕を上げたかどうか試してやろうと、思う存分剣を振るう。
キンキンッ!ガッ、キィンッ!
危なげなく受け止める姿に衰えてはいないと判断し、どんどんとスピードを上げていく。
最初は余裕も見られたライアンだが、徐々に押され気味になっていく。
だが────それは見せかけだけのフェイク。
余力を残しながら密やかに魔力を練り、相手を下すタイミングを見定めているに過ぎない。
それがわかっているから乗せられているふりをしながらこちらも魔力を練り、いつでも相殺できるよう手を打っておく。
「【炸裂】!」
そして放たれた魔法を即座に相殺し、魔法を放って一瞬隙を見せたところを見逃すことなく、死角から剣を振るって剣を叩き落した。
……ッキン!!
「甘いぞライアン。魔法を防がれた後の対処が甘いとあれほど言っただろう?」
「……あの瞬きほどの一瞬の隙を狙って剣を弾き飛ばせる相手など、貴方以外に存在しましょうか?」
「言い訳はいい。そんな暇があったらもっと精進しろ。馬鹿者」
そう言って剣を突きつけてやったら涙を流しながら膝を折り、こちらへと頭を下げてくる。
「ルーシャン殿下…お帰りを心よりお喜び申し上げます」
その言葉と共に副騎士団長も膝を折り、恭順の意を示す。
レンスニールは満足げにそれを見遣ると、場所を移そうと口にしてきた。
確かにこんなところを誰かに見られても立つ瀬がないだろう。
そして元居た貴賓室へと移動したのだが、少し待たされた後甥がバルトブレイクを持ってきて、『これはお返しした方が?』などと言ってきたのには驚いた。
「俺はバルトブレイクに礼を言いたいとは手紙に書いたが、返せとは一言も書いていないぞ?」
「最後の確認ですよ。あの手紙が正真正銘叔父上が書かれたものだと言う、ね」
「はぁ…疑り深いな」
「仕方がないでしょう?貴方は死人なんですよ?生まれ変わりだなんてそう簡単に信じろと言う方が無理です」
とは言うものの、最早疑う気は一切ないとばかりに口調が昔のものへと戻っている。
これでは認めたも同然だろう。
「さて、バルトブレイク。久しぶりだな」
【お前は相変わらずだな】
契約は切れたにもかかわらず、バルトブレイクは以前と変わらず話しかけてくれる。
この辺りは年の功だろうか?
若い魔剣にはできない芸当ではある。
「前世では世話になった」
【無事にあの魔剣を手に入れられたようだな】
「ああ。改めて礼を言わせてくれ」
【なに。礼には及ばない。お前は俺に血を捧げ己の願いを叶えたに過ぎないんだからな】
「クッ…物は言いようだな。まあいい。感謝している。お陰で可愛いカイザーリードと相思相愛になれたんだからな」
【あの魔剣も可哀想にな。お前みたいな変態に目をつけられて】
「何とでも言え。あれはもう俺のものだ。ユージィンには二度と返さん」
【そうか。それで?いつ呼び寄せるんだ?】
その言葉に俺は苦い顔で『まだ無理だ』と言うことしかできない。
【意外だな。お前ならこのまま頃合いを見て攫ってくると思ったのに】
「そうしたいのは山々だが、そもそも会わせてすらもらえないから策がいるんだ」
【契約済みなら主人であるお前が呼び寄せればいいだけの話だろう?】
「魔剣の頃ならいざ知らず、今は無理だろう?人に転生しているんだぞ?」
できるなら既にそうしていると言ってやったら、バルトブレイクは暫く黙った後、状況さえ整えば不可能ではないぞと言ってきた。
【できないと言うのはただの思い込みだ。現に魔剣の魂とお前は契約出来たじゃないか】
「……?」
【お前が心底望み、向こうも心底望めば呼び寄せることは可能だ】
淡々と告げられるその言葉に、俺は愕然となった。
「そういうことは早く知りたかったぞ」
【実に間抜けだな。天才と呼ばれたお前らしくもない】
「くそっ…!」
知っていたらカイザーリードと念話で話して示し合わせ、駆け落ちだって容易だったかもしれないのにと考えると非常に腹立たしい。
「そういうことならすぐにでも呼び寄せたいな」
だからすぐにそう口にしたのだが、それに水を差したのはレンスニールだった。
「叔父上。叔父上同様、相手の元魔剣の方も無理だと思い込んでいる可能性はあるのでは?その場合呼び寄せるのは無理なのでは?」
【確かに思い込みというものは厄介なものだ。レンスニールの言う通りかもしれない】
「…………」
最悪だ。
まさかこの俺が絶句する羽目になるとは。
なんとかカイザーリードに知らせるすべはないものか。
「取り敢えず手紙でも書いて見られては?」
「……それは無理だ。ユージィンが渡してくれるはずがない」
「殺してきましょうか?」
苦虫を噛み潰した顔で無理だと言う俺を見て、即こともなげに暗殺を示唆してくる騎士団長ライアン。
それも悪くはないが、そう簡単にはいかないだろう。
「それは最終手段だ。カイザーリードにバレたら俺が嫌われてしまう」
「そうですか。ではその際はどうぞご命令を」
従順に頭を下げるライアンを一瞥し、もしもの時は手を貸せとだけ言い置く。
「なんとかカイザーリードにコンタクトを取らねばな」
元主人であるユージィンがいれば俺と引き離されてもそれほど悲しんではいないはずだが、それはそれで腹が立つし、呼べるものなら早々に呼び寄せたい。
「取り敢えず友人経由で手紙を出されてみては?叔父上から直接でなければ渡してもらえるかもしれませんよ?」
「友人?…その手があったか!学園でクラスメイトから手紙を渡してもらったら問題はないな」
伊達に猫を被って周囲と上手くやっていたわけじゃない。
これくらいの頼みはすぐに聞き入れてもらえるだろう。
ついでに学園でのカイザーリードの近況も聞けたら更に動きやすくなる。
「ユージィンは俺を留学に行かせて油断しているはずだ。友人経由で返事を出せと言ってやったらコンタクトは取れる」
そう思って手紙を送り安堵したところまでは良かったが、その後返ってきた返事は友人からのもので、カイザーリードは体調を崩し休学中で、学園には来ていないとのことだった。
これはどう受け取るべきだろう?
ユージィンがカイザーリードを家に軟禁し続けているということなんだろうか?
それとも本当に体調を崩していると見るべきか…。
様子が分からないだけに不安がよぎる。
取り敢えず城への出入りは好きにしていいと城内立ち入り許可証を貰ったことだし、またバルトブレイクに相談してみるかと嘆息したのだった。
馬車を降りるとすぐに城内へと案内され、レンスニールの待つ部屋へと通される。
そう。謁見の間ではなく貴賓室へと通されたのだ。
恐らくゆっくり話したいと言うことなんだろう。
「待っていたぞ。ルシアン=ジェレアクト」
「格別の待遇を頂き、心より感謝申し上げます」
「よい。まずは座ってくれ」
そして茶の準備だけ整えさせると、護衛として騎士団長と副騎士団長と思しきものだけを残し人払いが行われた。
「さて、ここに呼んだのは他でもない。手紙の件だ」
「ああ、あれか」
態度を一変させ、足を組んで太々しい態度に変わった俺に副騎士団長らしき人物がギョッとなる。
だが騎士団長の方は俺を厳しい目で見つつも微動だにしなかった。
恐らくレンスニールからこの二人に話は通っているのだろう。
「貴方が叔父上であると言うことを、確認させていただきたい」
「ふん。それくらい魔力の波動でわかるだろう?」
「それでも、と申しております。叔父上」
「いいだろう。ライアン。俺の相手を」
俺は騎士団長でありかつての俺の部下でもある男へと声を掛けた。
「…………では外へ」
そして皆で騎士団の第三演習場へと移動する。
これさえ確認を兼ねているのか場所だけを口にして俺に先導させる徹底ぶりだ。
「ここは変わらんな」
第一や第二演習場とは違い、やや狭めの自主練によく使われる演習場。
前世ではここでよく弛んでいる部下達を鍛えたものだ。
「剣は?」
「これを」
そう言って訓練用の剣を渡される。
「では、始め!」
その言葉と共に剣へと魔力を通し、強度を上げて打ち込んでいく。
あれから17年。
多少は腕を上げたかどうか試してやろうと、思う存分剣を振るう。
キンキンッ!ガッ、キィンッ!
危なげなく受け止める姿に衰えてはいないと判断し、どんどんとスピードを上げていく。
最初は余裕も見られたライアンだが、徐々に押され気味になっていく。
だが────それは見せかけだけのフェイク。
余力を残しながら密やかに魔力を練り、相手を下すタイミングを見定めているに過ぎない。
それがわかっているから乗せられているふりをしながらこちらも魔力を練り、いつでも相殺できるよう手を打っておく。
「【炸裂】!」
そして放たれた魔法を即座に相殺し、魔法を放って一瞬隙を見せたところを見逃すことなく、死角から剣を振るって剣を叩き落した。
……ッキン!!
「甘いぞライアン。魔法を防がれた後の対処が甘いとあれほど言っただろう?」
「……あの瞬きほどの一瞬の隙を狙って剣を弾き飛ばせる相手など、貴方以外に存在しましょうか?」
「言い訳はいい。そんな暇があったらもっと精進しろ。馬鹿者」
そう言って剣を突きつけてやったら涙を流しながら膝を折り、こちらへと頭を下げてくる。
「ルーシャン殿下…お帰りを心よりお喜び申し上げます」
その言葉と共に副騎士団長も膝を折り、恭順の意を示す。
レンスニールは満足げにそれを見遣ると、場所を移そうと口にしてきた。
確かにこんなところを誰かに見られても立つ瀬がないだろう。
そして元居た貴賓室へと移動したのだが、少し待たされた後甥がバルトブレイクを持ってきて、『これはお返しした方が?』などと言ってきたのには驚いた。
「俺はバルトブレイクに礼を言いたいとは手紙に書いたが、返せとは一言も書いていないぞ?」
「最後の確認ですよ。あの手紙が正真正銘叔父上が書かれたものだと言う、ね」
「はぁ…疑り深いな」
「仕方がないでしょう?貴方は死人なんですよ?生まれ変わりだなんてそう簡単に信じろと言う方が無理です」
とは言うものの、最早疑う気は一切ないとばかりに口調が昔のものへと戻っている。
これでは認めたも同然だろう。
「さて、バルトブレイク。久しぶりだな」
【お前は相変わらずだな】
契約は切れたにもかかわらず、バルトブレイクは以前と変わらず話しかけてくれる。
この辺りは年の功だろうか?
若い魔剣にはできない芸当ではある。
「前世では世話になった」
【無事にあの魔剣を手に入れられたようだな】
「ああ。改めて礼を言わせてくれ」
【なに。礼には及ばない。お前は俺に血を捧げ己の願いを叶えたに過ぎないんだからな】
「クッ…物は言いようだな。まあいい。感謝している。お陰で可愛いカイザーリードと相思相愛になれたんだからな」
【あの魔剣も可哀想にな。お前みたいな変態に目をつけられて】
「何とでも言え。あれはもう俺のものだ。ユージィンには二度と返さん」
【そうか。それで?いつ呼び寄せるんだ?】
その言葉に俺は苦い顔で『まだ無理だ』と言うことしかできない。
【意外だな。お前ならこのまま頃合いを見て攫ってくると思ったのに】
「そうしたいのは山々だが、そもそも会わせてすらもらえないから策がいるんだ」
【契約済みなら主人であるお前が呼び寄せればいいだけの話だろう?】
「魔剣の頃ならいざ知らず、今は無理だろう?人に転生しているんだぞ?」
できるなら既にそうしていると言ってやったら、バルトブレイクは暫く黙った後、状況さえ整えば不可能ではないぞと言ってきた。
【できないと言うのはただの思い込みだ。現に魔剣の魂とお前は契約出来たじゃないか】
「……?」
【お前が心底望み、向こうも心底望めば呼び寄せることは可能だ】
淡々と告げられるその言葉に、俺は愕然となった。
「そういうことは早く知りたかったぞ」
【実に間抜けだな。天才と呼ばれたお前らしくもない】
「くそっ…!」
知っていたらカイザーリードと念話で話して示し合わせ、駆け落ちだって容易だったかもしれないのにと考えると非常に腹立たしい。
「そういうことならすぐにでも呼び寄せたいな」
だからすぐにそう口にしたのだが、それに水を差したのはレンスニールだった。
「叔父上。叔父上同様、相手の元魔剣の方も無理だと思い込んでいる可能性はあるのでは?その場合呼び寄せるのは無理なのでは?」
【確かに思い込みというものは厄介なものだ。レンスニールの言う通りかもしれない】
「…………」
最悪だ。
まさかこの俺が絶句する羽目になるとは。
なんとかカイザーリードに知らせるすべはないものか。
「取り敢えず手紙でも書いて見られては?」
「……それは無理だ。ユージィンが渡してくれるはずがない」
「殺してきましょうか?」
苦虫を噛み潰した顔で無理だと言う俺を見て、即こともなげに暗殺を示唆してくる騎士団長ライアン。
それも悪くはないが、そう簡単にはいかないだろう。
「それは最終手段だ。カイザーリードにバレたら俺が嫌われてしまう」
「そうですか。ではその際はどうぞご命令を」
従順に頭を下げるライアンを一瞥し、もしもの時は手を貸せとだけ言い置く。
「なんとかカイザーリードにコンタクトを取らねばな」
元主人であるユージィンがいれば俺と引き離されてもそれほど悲しんではいないはずだが、それはそれで腹が立つし、呼べるものなら早々に呼び寄せたい。
「取り敢えず友人経由で手紙を出されてみては?叔父上から直接でなければ渡してもらえるかもしれませんよ?」
「友人?…その手があったか!学園でクラスメイトから手紙を渡してもらったら問題はないな」
伊達に猫を被って周囲と上手くやっていたわけじゃない。
これくらいの頼みはすぐに聞き入れてもらえるだろう。
ついでに学園でのカイザーリードの近況も聞けたら更に動きやすくなる。
「ユージィンは俺を留学に行かせて油断しているはずだ。友人経由で返事を出せと言ってやったらコンタクトは取れる」
そう思って手紙を送り安堵したところまでは良かったが、その後返ってきた返事は友人からのもので、カイザーリードは体調を崩し休学中で、学園には来ていないとのことだった。
これはどう受け取るべきだろう?
ユージィンがカイザーリードを家に軟禁し続けているということなんだろうか?
それとも本当に体調を崩していると見るべきか…。
様子が分からないだけに不安がよぎる。
取り敢えず城への出入りは好きにしていいと城内立ち入り許可証を貰ったことだし、またバルトブレイクに相談してみるかと嘆息したのだった。
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