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56.会いに来てよかった

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宿へと向かうとそこには従兄妹達の姿はなく、どうやら朝から慌てた様子で出掛けて行ったらしい。
もしかして俺を探し回ってくれているんだろうか?
もしそうだったとしたら申し訳なさすぎる。

「ルシアン…どうしよう?」
「いないならしょうがない。言付けだけ頼んで、予定通り家を見に行こう」
「ん……」

確かにいないならそれしかないかと思い、宿の主人に言付けをお願いした。
ルシアンがそっとチップを渡したのを見て、こういう時にもいるんだと勉強になる。

「行くぞ」
「あ、うん!」

快く請け負ってくれた宿の主人に礼を言い、慌ててルシアンを追いかける。

「場所はできるだけ学園の近くがいいな」
「今は寮に入ってるんだっけ?」
「ああ。でもカイが来たなら家から通いたいなと思って」
「……ありがとう」

ルシアンが優しい。
隣にいてくれる。
いつでも声が聴ける。
それが無性に嬉しくてドキドキが止まらない。

「カイ?」
「え?!あ、何?!」
「ふっ…何を百面相してるんだ?」
「いや。ルシィが優しいなって思って…」
「それがそんなに嬉しかったのか?」

その時にコクリと頷くと珍しく破顔された。

「お前は本当に可愛いな」

暫く会えなかった間にまた背が伸びたルシアンだけど、その純粋な笑顔はやっぱりまだどこかあどけない。
大人と子供の境界線にいるルシアンの表情が眩しすぎて、思わず見惚れてしまった。

(会いに来てよかった)

心からそう思う。

「ルシィ。俺、頑張って会いに来てよかった」

でもそう言ったらニッコリ笑いながら『今度からは呼び出してやる』と言われたから思わず首を傾げてしまった。

(呼び出す?)

どう言う意味だろう?

「カイ。実はな、お前と契約出来たことから判明したんだが…」

そう言ってルシアンは『魔剣としての力が残っているから呼び出しが可能なのだ』と教えてくれる。

「つまり?」
「話そうと思えば離れていても話せるし、呼び出そうと思えばいつでも呼び寄せることができるらしい」

その言葉に俺は思わず目を見開いた。
もしそれが本当だったとしたら嬉しすぎる。
でも────そんな情報、一体誰に教えてもらったんだろう?

それが気になって尋ねたら、前世で使っていた魔剣に教えてもらったと言われたから物凄くモヤモヤしてしまった。

「カイ?」
「…………ルシィ」
「どうした?」
「浮気しないで…」
「…………っ?!」
「俺以外の魔剣と親しく話してほしくない…」

我儘だとは思う。
でも主人の一番はやっぱり自分でありたい。
例え前世の愛剣であっても、だ。

「ふっ…ハハハッ!」
「何がおかしいんだよ?!」
「まさか…バルトブレイクに嫉妬するとは思わなかったぞ…!ハハハッ!」

そこは普通もっと身近にいる相手とかに嫉妬するものじゃないかと笑われたけど、それとこれとは違うのだと俺は断固として言いたい。
魔剣は主人第一なのだ。
そりゃあ自分だって前世の主人である父を大事にしてはいるけど、やっぱり一番は今の主人であるルシアンだと思うから……。

(でもこの気持ちをルシアンに押し付けちゃ、ダメだよな…)

前世も今も人であるルシアンにいくら言ったってきっとわかってはもらえないだろう。
そう思ったのに…。

「カイ。大丈夫だ。心配しなくてもバルトブレイクにももう新しい主人がいる」
「え?」
「言ってみれば旧友と話した程度の認識に過ぎない。お前とは比べるべくもない」
「ルシィ…」
「俺の一番はお前以外にいないから、そう不安そうな顔をするな」

その言葉が泣きたくなるほど嬉しくて、俺は思わずルシアンの服の裾をキュッと掴んで、小さな声で『ありがとう』と口にしていた。
普段は傲慢に見えるのに、いつだって大事な時にはこうして気遣ってくれるルシアンが好きだ。

「ルシィ…好き」
「……そうか。俺もだ」

そしてそっと指を絡めるように手を繋ぎ、俺達は寄り添うようにくっついた。


***


【Side.ジガール】

ルシアン=ジェレアクトの婚約者を計画通り破落戸共に襲わせた。
念のため人をやってちゃんと実行に移されたかを確認しておいたが、連れ込み宿の部屋の外まで泣き叫ぶ悲鳴が聞こえていたというし、まず間違いなく計画は成功しただろう。
しかもその後破落戸共はその男を奴隷商に売り払いに行ったらしい。
こちらは特に指示はしていなかったが、実に好ましい展開になったとほくそ笑む。
きっとルシアンの婚約者は不幸のどん底にまで落とされることだろう。
トラウマになるのは明白。
下手をすればそのまま心を壊されるか死に追いやられるか────。

そしてそうなった時、あのいけ好かない男はこれ以上ないほど絶望することだろう。
婚約者を助けてやれなかった、と。

(いい気味だ)

婚約者の従兄妹達の方も慌てて探し回っているようだが、それも徒労に終わるだろう。
身元を明かして探そうにも、協力してくれる者など皆無のはず。
どうせ見つけることなどできはしない。
精々無力感に打ちひしがれればいい。

そう思っていたのに、追加報告で騎士団長の屋敷にルシアンがやってきたとの情報が入り歯噛みしてしまう。

(まさかあいつ…騎士団長と知り合いだったのか?!)

あり得ない!
どうして王弟ルーシャンを崇拝していた騎士団長が他国の一貴族の子弟と知り合いなのか。
それは裏切り行為に他ならない。

(もしかしてジュリエンヌ国と通じていたのか?)

そんな思いが込み上げてくる。
もしそれが本当だったらこれは大変なことだ。
『負け戦になったのももしかして…』と穿った考えを持ってしまっても仕方のないことだろう。

(クソッ!父上に聞いてみなければ…)

そうして俺は速やかに父の元へと足を運んだ。



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