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71.父が来りて

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「カイザーリード!」

父は騎士団長からの手紙で俺達が泊っている宿を知ったらしく、王都に到着してすぐにここに来てくれたらしい。

「無事でよかった!」

開口一番俺がここに居ること自体に怒られるかもしれないと思っていたけど、そんなことはなく、優しくギュッと抱きしめてくれて涙が出そうになった。

「父様…心配かけてごめんなさい」

素直に謝罪の言葉が零れ落ち、『いいんだ』っていう言葉を聞きながら凄く安心している自分がいた。
やっぱり父の側は安心できる。
でもこの後の話し合いで場合によってはそれを失うことも考えられるから、心の準備だけはしておかないといけない。

「ルシアン。カイザーリードを保護してくれて助かった。礼を言う」
「いいえ。婚約者として当然のことをしたまでです」

ニコリと微笑むルシアン。

「ダニエルとダイアンもありがとう。事件に巻き込まれて怪我をしたと聞いたが大丈夫か?」
「はい。ただ深手を負ったので動けるようになるには少し時間がかかりそうで…すぐには帰れそうにありません」
「そうか」

痛まし気に二人を見遣り、父がチラリとこちらを向く。

「カイ。少し二人で話したいことがあるんだが、構わないか?」

その言葉にドキッと胸が弾む。

「え?!あ、はい」

(何を言われるんだろう?)

身に覚えがあり過ぎるから緊張から胸がバクバクと激しく弾んでしまう。
そんな俺を見て、ルシアンがすかさず同席を申し出てくれて少しだけホッとする。

「それは俺も同席しても?」

父はその言葉に少し思案した後『ちょうどいい機会かもしれない』と言ってルシアンの同席も認めてくれた。

「じゃあちょっと失礼させてもらう。安静にしていなさい」

そう言ってダニエル達の部屋を出た俺達は、今現在二人で借りている部屋へと移動することに。

「ここは?」
「俺達が借りている部屋です」
「ベッドが一つしかないようだが?」
「ええ。もう夫婦みたいなものなので、別におかしくはないでしょう?」

ルシアンからにこやかに放たれたその言葉に父が怒気を纏う。
でも特に怒鳴りつけるでもなく、鋭く睨みつけただけで『取り敢えず座りなさい』と促され、俺達は大人しく椅子に腰を下ろした。

(取り敢えず即喧嘩にならなくてよかった…)

心臓に悪い。
そんな俺の心境もなんのその。父は淡々と話し始める。

「これから話すことは他言無用にしてほしい」

そして父が話した内容は俺が魔剣の生まれ変わりであるという話で、これにはちょっと驚いてしまった。
まさか魂の存在を感じてくれていたなんて思ってもみなかったし、名づけも単純に元の愛剣にあやかってと言うわけではなかったのだと初めて知ったからだ。

「カイが母さんのお腹の中に宿った時、魔剣との絆が確かに蘇ったのを感じた。だからカイザーリードは正真正銘父さんの愛剣の生まれ変わりなんだ」
「父様……」
「だから大事にしたいと思う気持ちに嘘偽りはない。それを踏まえた上で聞きたい。カイは魔剣の時の記憶はあるのか?」

そう訊かれ、嘘を吐くなんて言う選択肢はなかった。

「はい…。ちゃんと…覚えています」

胸がいっぱいになりながらそう答えると、父はそうかと言いながら優しい眼差しで頭を撫でてくれる。
そして、ルシアンと契約をしたのかと訊かれた。

「あの旅行の時、これまで確かにあったはずのお前との絆が突然切れるのを感じた。あれはもしかしてルシアンと契約したんじゃないかと思ったからお前に聞いておきたかったんだ」

それを聞いて『ああ、だからか』とストンと父の行動の理由を理解することができた。
確かにあの時、ルシアンとの間に正式な契約が結ばれた。
つまりこれまでの契約は破棄されたと考えていい。
父がそれを感じていたのならそれは何かあったのではないかと思ったことだろう。
それこそ魔剣を叩き折られた際の契約がなくなる感覚を知っているだけに、何かあったんじゃないかと不安も大きかったはず。
そんな父の心境も知らず子供っぽくただ泣いてた自分が恥ずかしい。

「父様。すみませんでした」

素直に頭を下げて謝ると、自分の方こそ感情的になってすまなかったと謝ってくれた。
やっぱり父は立派だと思う。
こうしてちゃんと向き合ってくれるのだから。

「それでだが、カイは自分の魔剣の力をちゃんと把握できていないんじゃないかと思ったんだが、どうだ?」
「俺の力、ですか?」

てっきりここからルシアンとの今後の話になると思っていたのだけど、違うんだろうか?
そう思いながらも問われた事について考えてみる。

(何かあったっけ?)

ステータスを上げる以外に思い当たるものはないのだけど…。
そう思って首を傾げていると、やっぱり気づいてなかったのかと言われてしまった。

「ステータスを上げる以外に何かありましたか?」
「ああ。ステータスはもちろん魔剣なんだから上げる力を持っているが、お前は癒しの力も持っていたんだ」
「???」

そんなもの、使った覚えが全くないのだけど?
言われている意味が分かりませんと困ったように父へと視線を送ると、父はここで初めてルシアンの方へと目をやった。

「ルシアン。今現在カイと契約しているというのは理解できているか?」
「はい」
「なら魔剣の力を使ってみるといい。きっとダニエルとダイアンの傷はそれで少しは治るはずだ」

契約ができたなら魔剣の姿でなくともその力は発揮されるだろうと父は言う。
でも本当にそんなことができるんだろうか?
甚だ疑問だ。

「どうやら信じられないようだな」
「はい。だって戦場でそんな力を使った覚えはないですよ?」

いくら思い返しても全く思い出せない。
そんな俺に父は言った。

「どうやら無意識だったようだな。最初は私も気のせいかと思ったが、どうやらお前とのシンクロ率が100%を超えたあたりでその力が解放されたようなんだ」

父が怪我人を庇うように俺を使って戦っていた際に、庇われた者の怪我が癒えていたらしい。
俺は全く気づいていなかったけど、それで一命を取り留めた者は数多くいたそうだ。

「……道理で」

隣で少し顔を歪めたルシアンが微かにそう呟くのが聞こえたから、もしかしたらルシアンにも心当たりがあるのかもしれない。
何せ前世では敵として戦っていたのだから。

でも本当にそんな力があるのなら是非使いたい。

「ルシアン。俺、もし本当にそんな力があるのなら使ってみたい」

ダニエルもダイアンも俺に付き添ってここまで来なかったら怪我なんてしなかったはずなのだ。
治せるものなら治したい。
そう思って伝えたら、優しくもちろんだと言って微笑んでもらうことができた。


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