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第五章 レイクウッド王国編(只今愛の試練中)

120.フォルクナーで幸せになった俺

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俺とクリスティン王女のやり取りを聞き、皇帝はどこか満足そうに笑みを浮かべる。

「ルマンド王子は武に秀で学に通じ、公私共に皇太子を支えるのに申し分のない器である。このように素晴らしい王子を育ててくれたコーリック王家には心から感謝の言葉を贈りたい。これからも末永く友好的な関係を築いていきたいと思う」

そしてその言葉の後にメイビスが俺の前へとやってきて、物凄く穏やかな眼差しでそっと手を伸ばし口上を述べた。

「コーリック王国第二王子 ルマンド=コーネ。どうかこの先病める時も健やかなる時も苦難も幸せも全て共に感じ歩んで頂きたい。これから先の人生が互いを支え合える日々となれるよう私も精進しようと思う。だからどうかこの手をとって頂けないだろうか?」
「私を望んで頂けるのであれば……喜んで」

そしてそっと手を重ねるとグイッと引き寄せられて、優しく唇を塞がれた。

(え?これってありなのか?流石にちょっと恥ずかしいんだけど…)

問われたことにイエスと答えるのは打ち合わせ通りのはずだけど、キスなんて打ち合わせにあったっけ?
でもメイビスが物凄く嬉しそうにうっとりと俺を見つめてきてるのがカッコいいのにちょっと可愛くて許せてしまった。

そしてそれを受けてその場で皇帝の口から正式な婚約者として宣言が行われた。

「ここにルマンド=コーネを皇太子の伴侶と認める!」

(あれ?)

婚約者じゃないの?と首を傾げてしまった俺だけど、その言葉と共に割れんばかりの拍手と寿ぎの言葉がその場に満ちたので何も言えなかった。
聞き間違いだったのかな?それともイレギュラーがあったから言い間違えたのかも。皇帝もうっかりだな。
王女達が約一名を除いて物凄く悔しそうにしてるのがそこはかとなく可哀想。
何はともあれ無事に終わったのかなと思ったところで、メイビスがそっと手を上げその場で表明を行った。

「ミンフィア王女並びに側妃を希望してくれた全てのご令嬢方に申し上げる」
「はい」
「お気遣い痛み入るが、私は側妃を娶る気は今後一切ないものと考えて欲しい。その代わりと言ってはなんだが、私は私の最愛を一生かけて守ると誓おう」
「残念ですが、陰ながら応援しております」

そう言ってミンフィア王女は少しだけ残念そうな表情を浮かべた後、またそっと俺に手を振って元居た席へと戻っていった。
令嬢達も一同頭を垂れて承諾の意を示す。

「メイビス?」
「なんだ?」
「痛いんだけど?」

どうしてそんなにギュウギュウ腰を引き寄せてくるんだろう?

(また焼きもちか?もう、可愛いな!)

今日は疲れただろうし、後で久しぶりにマッサージでもして癒して上げようかなと思いながら俺は笑顔でメイビスを労った。


*******


「ルマンドちゃん!」

それから式典が終わった後母達にも挨拶に行ったんだけど、そこには祖父であるレイクウッドの王、父であるコーリックの王、そしてメイビスの父フォルクナーの皇帝の三人が揃っていて驚いた。
まさに勢揃いといった感じだ。

「結婚おめでとう!!」

母が嬉々としてそんな言葉をかけて花弁を振りまいてきたけど、ちょっと気が早いんじゃないのかな?

「結婚じゃなくて婚約ですよ?母上」

なのにそう思っていたのは俺だけだったようで、後ろからメイビスに羽交い絞めされてしまった。

「ルマンド…さっきあんなに大勢の前で結婚を誓い合ったのにそんなことを言うなんて……」
「メイビス。相変わらずの一方通行のようだな」
「父上…わかっていて揶揄っておられますか?」

メイビスがじっとりとした目で皇帝を見遣るが皇帝はそんなメイビスを面白そうに見るだけだ。

「ルマンドちゃんたらそんなに立派な婚礼衣装を着ておいて、それはメイビス王子が可哀想よ?まあ二人の衣装を見ればラブラブなのは一目瞭然だからいいけれど……」
「何、ルマンドとは既に愛の試練も乗り越えているのだ。メイビス王子は何も心配せずドンと構えておればいい」
「そうね。メイビス王子、もっとルマンドちゃんの愛に甘えてドーンとお構えになって?その方がより一層魅力的になれますわよ?」

あれ?これって婚礼衣装だったのか?一体いつの間に主旨が変わったんだろう?
誰も言ってくれないし、全然気づかなかった。
そんな俺に父がそっと教えてくれた。

「ルマンド。知らなかったのかもしれないが…メイビス王子はな、お前と今日結婚したいからと言って転移魔法を使って根回しを万全に行って準備を整えておったのだ。三カ国を回り、しきたりに関しても次々クリアしていってな…それはもう涙ぐましい努力をしておった」

そうなの?全然気づかなかった。
しきたりは俺もたまに言われたのをこなしてたから、準備自体はちょっとずつ進んでるのかな~くらいの認識だったんだよな。
終わったって言われても「そうなの?早いな」くらいにしか思わないんだけど…。

「お前が今日メイビス王子の色を纏うと聞いたからてっきりサプライズ結婚式だと思っていたんだが…」
「ああ、なるほど」

どうもそのあたりで行き違いが発生したようだと納得がいった。
メイビスがそれを知ってより一層張りきって準備をしたって感じ?
その上で母あたりが話を聞いて暴走したのだろう。簡単に想像がつく。

(ま、いっか)

どうせ結婚するつもりだったし、それが今か後かって話だよな?
ちょっと思っていたのとは違ったけど、大勢に認めてもらえて祝福されて良かった良かった。

「もしもっと別なロマンチックな結婚式が良かったらコーリックで挙げ直してもいいからな」

父は俺が結婚したことに気づいていなかったのを受けてそう気遣ってくれたけど、これはこれでドラマチックと言えるから別に構わなかった。

「大丈夫です。ドラマチックも素敵なので。結婚したのなら明日から早速頑張りますね」
「私はお前のそのポジティブな姿勢を近くで見られなくなるのが残念だ」

ちょっと寂しそうにそう言った父に俺はギュッと何年振りかに抱きついて、これまで育ててくれた感謝の気持ちを伝えた。

「父上、母上のこと宜しくお願いしますね?」
「わかっている。お前も…メイビス王子に幸せにしてもらうんだぞ」
「ふふっ…こういう時は幸せにしてもらうのではなく一緒に幸せになりますって言うのが正しいんですよ?」

どちらかが一方的に幸せにするんじゃなくて、お互いにお互いを幸せにした方がきっと二倍楽しくて幸せな人生が送れると思う。
俺はそれがメイビスとなら可能なんじゃないかなと思ってるんだ。

「メイビス…これからも宜しく」

だから俺は笑顔でそう言った。

メイビスはそれに対して…───当然のように幸せな笑みを浮かべたのだった。



******************

※本編はこれにて完結ですが、明日以降は番外編をアップします。
ひとつはただのオマケ的補足話なので二つ目と同時にアップします。二つ目はこれまで存在が希薄だったルルーナのお話。三つ目が結婚後のメイビスのお話、四つ目がリクエストがあった初夜のお話となってます。
宜しくお願いします。

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