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【番外編】

☆13.レイドの旅【後編】

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僕は早速その日のうちにみんなが集まっている場所でカミングアウトすることにした。

「団長と皆には黙っていたけど、僕の本名はレイド=フォルクナーと言って、その…隣国の王子なんだ。今まで黙っていてごめんなさい」
「「「…………へ?」」」
「もちろんいきなりは信じられないと思うし、それで態度を変えられたら嫌だからできればそのままの態度でいてくれた方が嬉しいんだけど…」
「そりゃまあ…ねぇ?」
「ああ。いきなり信じろって方が無理だな」
「まあいいさね。で?その王子様がどうしてまた旅なんてしてたんだい?」

皆驚いてはいるようだったけど、取り敢えずその先を促してもらえてホッとする。

「うん。実はここへはお嫁さんを探しに来てたんだ」
「なんだ。そうだったのかい」
「イケメンがわざわざ?!普通王族なら貴族令嬢より取り見取りだろ?!」
「う~ん…僕の周りではこれって人が見つからなくて……」
「はぁ~…そうなのかい。驚いたね。てっきり家出してきた貴族の坊やだと思ってたのに…まさかのまさかだよ」
「いや、俺はわかってたぜ?こう、所作っていうのか?それが妙に綺麗だったしな!」
「なんだなんだ!面白いことしてたんだな。もっと早くに言ってくれればよかったのに!」
「そうだよ、水臭いねぇ。言ったら色々紹介してやったのにさ」

一座の皆はわははと笑いながらこちらの事情を酌んでくれる。

「それで?身元を明かしたってことは、嫁が見つかったってことかい?」
「ええ。先日のパーティーであの男の人が紹介してくれたヒルダ嬢です」
「は?!まさかのあの公爵令嬢かい?!」
「ええ」
「なんだ、てっきり自分より年下の相手で可愛い子を捕まえたと思ってたよ」
「…彼女は僕より一つ年上なだけですよ?」
「そうなのか?すごく落ち着いていたからお前より三つ四つ上かと思ってた!」
「…怒りますよ?」
「はははっ!こりゃもうべた惚れだな!」
「おめでとう、レッド!」
「「「おめでとう!」」」

そう言ってその日は皆から温かい祝福の言葉をもらった。
だから皆にお礼を言って、もしプロポーズが上手くいったら自分達の結婚式には参列してほしいことと、フォルクナーの城で是非公演をしてほしい旨も伝えておいた。
そんなの恐れ多いと言ってはいたけど、きっとそう言いながらも来てくれることだろう。
僕は皆の声援を受け、その足でフォルクナーへと一度帰った。



それからきちんと帰還の挨拶と、正式なプロポーズをしたい旨を義両親へと告げて準備を整える。
受けてもらいたいなとは思うけど当然断られる可能性だってゼロじゃない。
それを考えるとやたらと緊張してきて、その日はよく眠れなかった。




それから数日後────。
僕は正装に身を包み、彼女の父親の元へと足を運ぶ。

「これはこれは、レイド殿下!本当にお越し頂けるとは光栄の極みでございます!」

ヒルダの父であるクルセード公爵がこちらの到着を受け直々に出迎えてくれる。
彼は良くも悪くも貴族然とした男だった。
そんな彼ににこやかに挨拶を交わし、応接間へと案内される。
暫くの雑談後、ヒルダとの出会いを話し、そこで話が弾んで好印象を抱いたのだということを伝えた。

「政治にも明るく、とても聡明な女性で非常に心惹かれてしまいました」

そう告げる自分に公爵はどこか高揚しながら受け答えをしてくる。

「レイド殿下のお眼鏡に適うなんて本当にヒルダは運がいい!こんなにも素晴らしい良縁に恵まれるなんて…!我が家の誉れでございます!」

そしてそんな話をしている中、呼び出されたヒルダが着飾られて姿を現した。
落ち着いたデザインの上品なドレスに合わせて統一された装飾品がこれでもかと際立ち輝いていて、完璧なコーディネートに仕上がっている。公爵家の侍女達のセンスの良さを感じる出来だ。
しかもその全てがとても彼女に似合っているものだから、その美しさに思わずボウッと見惚れてしまった。
そんな僕を公爵が満足げに見遣り、コホンと小さく咳払いをして現実へと引き戻してくれる。

「ヒルダ。会うのは二度目だと思うが、フォルクナーのレイド殿下だ。ご挨拶を」
「ご無沙汰しております、レイド殿下。クルセード公爵家が長女、ヒルダ=クルセード、ただいま御前へと参りました」

そしてあの時と同じように綺麗な所作でカーテシーを行い、こちらへと礼を尽くしてくれる。
そんな姿に胸がときめきを感じて、思わず笑顔がこぼれた。

「レイド=フォルクナーです。先日は挨拶もそこそこに色々と不躾な質問をしてしまい申し訳ありませんでした」
「いいえ。とても楽しい時間を過ごさせて頂き光栄でございました」

そんなやり取りをしつつソファへと落ち着いた彼女に笑みを向け、僕は改めて公爵へと向き直り本来の目的であるその言葉を紡いだ。

「本日は貴公のご息女ヒルダ嬢へ正式に婚姻の申し込みに参りました」

そして今度はヒルダへと向き直り、真っ直ぐに自分の気持ちを伝える。

「先日貴女と話した時からずっと…貴女との将来を望んでしまう自分がいました。どうかこの手を取ってはいただけないでしょうか?」

これが冗談でも何でもない証拠に、用意しておいた婚約の品を手に彼女へと求婚すると、彼女は本当に自分でいいのかと尋ねてきた。
その問いに君だから迎えたいのだと口にすると、彼女はそっと自分の手へと手を伸ばしてくれた。

「謹んで……お受け致します」

そして彼女は婚約の品を受け取って、喜びの涙を滲ませながらこれ以上ないほど嬉しそうに微笑んでくれた。
これには僕も感動で胸が熱くなり、彼女を一生大事にしようと改めて心に誓ったほど。

(受け入れてもらえて良かった……)

けれどそんな感動の瞬間に水を差す者が────。

「まあ!貴方、レッドじゃない!まさか本当にお姉様に結婚を申し込みに来たの?」

バァンッと勢いよく扉を開けて突然応接室へとやってきたのは彼女の妹のカテリーナ嬢だった。
どうやら公爵の元へ姉の件で来客があったと知らせがいったらしく、彼女はあの時と同じように嘲るような笑みを浮かべクスクスと二人を見遣ってきた。
これにはさすがの公爵も蒼白になってしまう。

「カテリーナ!ノックくらいしないか!それになんだその態度は?!失礼にもほどがある!すぐに謝罪をしなさい!」
「まあお父様!レッドはこの間の一座の者でしょう?何をそんなに慌ててらっしゃるの?それよりもお姉様が一座の男の元に嫁ぐだなんて…ふふっおかしくて仕方がありませんわ!お友達にも知らせなくちゃ!」

おほほほと随分楽しげに笑っているが、そんな彼女の言葉にどんどん公爵の表情が強張っていっているのに気づいていないのだろうか?

「カテリーナ…もうそれ以上その口を開くな」
「……え?」

公爵のあまりにも冷たい声にカテリーナはピタリと動きを止め、不思議そうに首を傾げる。

「お前は今ここにいる彼を見ても何も感じないのか?」
「彼を見てもって?だからレッドでしょう?流浪の一座の」
「~~~~っ!お前はそれでも公爵家の娘か?!銀の髪に金の瞳、加えてこれだけの素晴らしい容姿を持つ方が他にどこにいると言うのだ!加えて身につけているものは全て一級品だ!これだけ言ってもまだわからないのか?!」
「…?言われている意味が分かりませんわ」

公爵には悪いがそんな言葉に思わず笑いが込み上げてしまう。
どうやらやはり彼女はヒルダとは比べるまでもなく教養が不足していると察してしまったからだ。

「公爵。構わない。名乗っていないこちらが悪かったな」

そうして改めて居住まいを正し、彼女の方へと向き直りあの時とは違う王子然とした挨拶を行う。

「カテリーナ嬢、改めてご挨拶申し上げる。フォルクナー帝国王子、レイド=フォルクナーです。この度は姉君を将来の皇太子妃に迎えるため婚約の申し入れに参りました。どうぞお見知りおきを」
「…………はい?」
「レイド殿下、本当に不勉強な娘で申し訳ございません!お目汚し、お耳汚しを致しましてお恥ずかしい限りでございます!」
「いいえ。あくまでも今日の目的はヒルダ嬢への婚約の申し入れですので。どうぞお顔をお上げください」
「しかし…っ!」
「本当にお気になさらず」
「慈悲深きそのお言葉に感謝申し上げます!」

そして公爵はヒルダへと向き直り、立派な皇太子妃になるんだぞと激励の言葉を紡いでから驚き過ぎて固まっているカテリーナを屋敷の者達に言って退場させ、その場で婚約の書面にサインを入れてくれた。

「ではこれで婚約は成立と言うことで」
「はい!ヒルダのこと、よろしくお願い致します!」

こうして二人の婚約は正式に結ばれて、僕は転移魔法で足繁く公爵家へと足を運ぶようになった。
このことからこれまでヒルダを嘲笑っていた者達は軒並み手のひらを返したようにヒルダに媚びを売り出したらしいけど、ヒルダは困ったようにしながらもそれらを上手くあしらっているらしい。




「ねえヒルダ」
「なんですか?あなた」
「僕、兄妹いっぱいの中で育ってきたから、子供は沢山欲しいな」
「ふふ…気が早いですわよ」

それから無事に結婚してヒルダがフォルクナーにすっかり慣れた頃、二人の間に子供を授かったんだけど、大きくなっていくお腹をそっと撫でながら僕がそう言ったらヒルダに優しく窘められた。

「子供は天からの授かりものですから」
「うん。そうだね」

一先ずは元気に生まれてきてくれるのが一番だ。
あまり態度には出してこないけど、僕の両親も義理の両親も孫が生まれてくるのをそわそわと待ってくれている。
僕が沢山の愛情を与えて育ててもらえたように、この子もみんなに愛されて幸せな人生を歩んでいってくれたらいいなと思う。

「生まれてくる子に恥じないよう、僕も皇太子として頑張るからね」
「はい。精一杯私にもお傍で支えさせてください」

そう言って微笑んでくれた愛しい妻に、僕はチュッと優しくキスを落とした。




────それ以後、フォルクナー帝国では継承権第一位の王子は18才で旅に出されるのが慣習となり、立太子するまでに愛する相手を見つけることができたなら賢王として善政を敷き、末永く民に慕われるというジンクスが実しやかに囁かれるようになったのだった。



Fin.


****************

※これにて完結とさせて頂きます(^^)
ここまでお付き合いいただいた皆様、応援してくださった皆様、本当に有難うございました!
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みんなの感想(114件)

そら豆太
2021.10.11 そら豆太

昨日からがっつりのめり込んでいましたが、続編をと言い出せないぐらい綺麗に終わりを迎えてしまいました。優しい気持ちに満たされる中、寂しさもいっぱいです。でもとても楽しませてもらいました。
そしてBがLする世界でご法度かも知れませんが言わせて下さい!私は王太子とタニアが好きだー。2人のこと初めは苦手だったけど、だんだん可愛くて仕方なくなってきたので、もっと詳しく知りたい!タニアが頑張って外堀埋めてくとこも2人が心を通わすとこも!
あとルマンド自由すぎるとこあるからメイビスにヤキモキするとこもみてみたい。前半の言葉を覆してしまいましたが、開き直ってもっと読みたいとあえて言います。気が向いたら是非よろしくお願いします。憩いの時間をありがとうございました。

オレンジペコ
2021.10.11 オレンジペコ

お読みいただきありがとうございます(*´꒳`*)
こちらの作品、敵国の王子〜とコラボしてたりしますので、ルマンドとメイビスの話はまた何か書けそうなら書いてみますね(^^)

解除
penpen
2021.03.16 penpen

こっちも読みました(〃゚д゚〃)
・・・天然王子と腹黒王子と変人の巣窟?(*¯艸¯)
レイド君も結構天然よね?純粋とも言うけども(*´ω`*)末っ子王子の紆余曲折も気にはなるが、多分何事もなく商人になってそうな?しかも入婿(〃∇〃)

オレンジペコ
2021.03.16 オレンジペコ

ありがとうございます♪
こちらも楽しんでいただけて良かったです(*´꒳`*)

解除
田沢みん
2020.12.25 田沢みん

奨励賞おめでとうございます㊗️
キュンとエンターテイメント融合が融合した素晴らしい作品、受賞は当然の結果だと思います。
今後ますますのご活躍をお祈りしております。
私も素敵なクリスマスプレゼントをいただいた気分です。
本当におめでとうございました。

オレンジペコ
2020.12.25 オレンジペコ

ありがとうございます♪(*^^)o∀*∀o(^^*)♪
まさか奨励賞を頂けるなんて思ってもみなかったのでびっくりしました!
とても素敵なクリスマスになりました♡
応援本当にありがとうございました(^^)

解除
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