黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

19.※許しがたい怒り

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「ロックウェル様…」

官吏の女から呼び出され、何事かと人けのない場所へと足を運ぶとそっと気持ちを伝えられた。
正直そんな浮かれた用事で呼び出されて不快だった。
けれど仕事に影響が出ても困るためやんわりと断りの返事を返す。
相手は残念そうにはしたがそれ以上は何も言わず大人しく下がっていった。

「はぁ…」

最早ため息しか出てこない。
あの時のファルの言葉を信じて待ってはいてもクレイは全く姿を見せてはくれない。
これはやはり逃げられるのを承知で追いかけるべきではないだろうか?
そもそもあちらから来てくれる理由が何一つ思い当らない。
友人だった頃もいつもあの男の元に行くのは自分からだった。
依頼を持っていくといつも快く引き受けてはくれたが、依頼が終わればそれまでだ。
飲みに誘うのも自分からだったし、向こうから誘ってくることはなかった。

(そうだ。そもそもファルとは立場が違うじゃないか)

あっちは情報も持っているし、クレイがそれを目当てに聞きに来ることもあるだろう。
けれど自分に情報を聞きにくるようなクレイは想像もつかない。
もしあるのならそれを交渉条件にすることもできるというのに…。

(どうして待っていたら来るという言葉を信じてしまったんだ?)

「くそっ…!」
会いたいと…ひどく思った。
正直あの日のクレイが忘れられない。
男も女も…今は他の誰も抱きたくなかった。
この飢えをなくせるのはクレイだけだ。
できることなら身も心も貪りつくしてやりたかった。
ただクレイだけが欲しい────そんな衝動が身を苛む。
だからだろうか?不意に風に乗ってクレイの声が聞こえたような気がした。
思わずそちらの方へ足を向けると、遠くの方にシリィと一緒にいるクレイの姿が見えて驚いた。
一瞬目の錯覚かと思ったが、あれは確かにクレイだ。

(どうして…)

もしかして自分に会いに来てくれたのだろうか?
(いや…理由がない)
そう思いながらも気が急いて仕方がなかった。
自分に会いに来てくれたなら逃げることはないだろうが、違う場合は逃げられる可能性が高い。
それならばと気付かれないように気配を消してそっとそちらの方へと急いで向かった。
(間に合ってくれ…)
どうか自分がそこに行くまで帰らないでほしい。
そう思いながら傍までやってきたのだが、そこにはすっかり打ち解けた様子の楽しげな二人の姿があった。
しかも話しているものが耳を疑うような内容で────。

「まあ事情はともあれ、恋人としての紹介だけなら別に俺じゃなくてロックウェルに頼んでも良かったんじゃないのか?」 

こいつは何を言っているのだろうか?
あまりの言葉にシリィも驚いているではないか。

「……は?」 
「だっていつも一緒にいるし、特に違和感なく信じてもらえそうじゃないか」 
「ちょっ…!確かにロックウェル様は素敵な方だけど、私の好みとは違うのよ!」 

それはそうだ。
自分とシリィが恋仲になるなどあり得ない。
ただの上司と部下だ。

「?モテる奴だしお似合いだと思うけど?」 
「モテるモテないとか似合う似合わないの問題じゃなくてっ…!」 

どこまでもシリィに自分を勧めるクレイに腹が立って仕方がなかった。
こんなにも心囚われているのは自分だけだとでも────?
そう考えただけで指先から全身が一気に冷たくなってしまう。
(許せんな…)
ギュッと拳を握りしめ、一体どうしてくれようかとついクレイを憎々しげに見つめてしまった。
だが、取りあえず邪魔者を排除しなければ……。

「こんなところで…随分楽しそうにしているな。シリィ」 

気が付けば底冷えするような声でその言葉を紡ぐ自分がいた────。


***


クレイの腕を引っ張り自室へと連れ込むとそのまま寝台へと放り出し、すぐさま押し倒す。
「ちょっ…!ロックウェル?!」
次々衣を剥いでいく自分にクレイが焦ったように声を上げるが知ったことではない。
以前と同じように口づけを交わし、弱い個所を責め始めると体が覚えているのかすぐに反応が返ってきた。
「うぁっ…!」
「…今日はしっかりとお前にわからせてやる」
「何…を…?」
「当然。お前は私から逃げられないということをだ」
その言葉にクレイが蒼白になったが、それさえも今の自分の怒りの前では無意味でしかない。
ロックウェルはまるで捕えた獲物を味わうかのようにそっとクレイへと唇を寄せた。




「やっ…嫌だ…!」
「嫌じゃないだろう?」
「ふっ…んんんッ…!」
「…ほら。ここはこんなにも美味そうに私を飲みこんでいるぞ?」
ゆっくりと身も心も溶かしながら体の力を抜かせ、そのまま後ろを犯す。
「やめろ…ロックウェル…」
そうやってクレイが抵抗の言葉を吐くがロックウェルには何も響かない。
久方ぶりの身体に心地良く酔わされるばかりだ。
「はぁ…」
思わず満足げな吐息が漏れ出てしまう。

(ずっとまた…こうして繋がりたいと思っていた)

「…お前は罪作りな男だな」
「はぁ…。やっ!もう抜いてくれ…」
こんなに抵抗の言葉を紡ぐくせに、中は自分を求めるように心地良く締め付けてくるのだから────。
緩々と腰を揺らすとクレイもまた気持ちよさそうにその口から嬌声を出した。
「あっあっんっ…!」
「クレイ。素直になれ」
そう言いながら口づけると、腕が首に巻き付いてきて引き寄せられた。
その行動はまるでもっとと強請っているようにしか見えない。
「ふぅ…んぅ…う…」
「気持ちいいか?」
請われるままに口づけを与えそう問い掛けると、クレイが素直にコクリと頷いた。
(やはり可愛いな…)
「あっ…!いいっ…!」
クレイの声に誘われるようにいいところを突くと甘く啼きながら腕の中で身悶えた。
「はぁ…っ!ロックウェル…!」
前回と違いあっという間に蕩けるような視線を向けられて、心が歓喜に震えてしまう。
(最高だ…!)
けれど今日はこのまま満足させてやるつもりはなかった。
この前のようにまた逃げられては元も子もない。

(…溺れるのはこの後だ)

聞きたいことは今ここで聞いてしまうべきだろうと思い直す。
「クレイ…質問に答えろ」
「…?」
「お前はさっき『あの件で怒っているのはわかっている』と言ったが、どの件だ?」
「はっ…はぁっ…んぅ…」
焦らすように腰の動きを最小限にとどめると、物足りなくなったのかクレイは不安げに腰を揺らしてきた。
「どの件だ?」
「はっ…やぁ…」

自分から逃げた件を言っているのならいいが、もし違っていたら────。

「言わないとずっとこのままだぞ?」
「ひどっ…い…」
「…言ってみろ」
「うっ…シリィの姉の件っで、何も言わず…に…、手を出した…から…だろう?んぁっ…?!」

全然違う答えが返ってきてやっぱり聞いて正解だったと激怒する。

「やっ…!きつ…いっ!」
まだそれほど馴染んでいない後ろを強く責められ辛そうに顔を顰めるクレイをお仕置きだとばかりに揺さ振った。
「うぅ…はぁっ!ロックウェル…や、やめてッくれっ!」
涙目で懇願してくるが聞いてやる気など一切ない。
一体どうしたらそんな考えに至るのか────。

しかしそこでもう一つ聞きたかったことを思い出した。
「うっ…はぁ…んぅ…」
急に動きを止めてやるとどこかホッとしたような眼差しでこちらを見てきたので、そのままクレイをそっと抱き起こしてやる。
「ロックウェル…?」
そのまま抱き合う形で優しくゆらゆらと体を揺らすとクレイは安堵したように抱きついてきた。
「はぁ…んッ…んんっ…」
そしてまた気持ちよさそうに腰を揺らし始めたクレイの耳を甘噛みしながらそっとその質問を口にする。
「シリィに…連絡手段を与えたようだな」
「れん…らく?はぁ…」
「そうだ。シリィに言っていただろう?」
「はぁ…んっ…。あ、れは…依頼された…から…」
「何を?」
「恋人…役…を引き受けてくれ…って…。あっ!」
その言葉にまた嫉妬心が掻き立てられる。
(許せないな…)
けれどシリィは確かにクレイとの何らかの連絡手段を手に入れたのだ。
ここで暴走して折角のその手段を失うことだけは避けたい。
(もうあんな思いは沢山だ…)
会えなかった日々を思い出してロックウェルは苦々しく顔を顰める。
「…クレイ?それで何を連絡手段にしたんだ?」
「は…ぁ…。使い魔…を…預け…て…」
「そうか…。いい子だ」
それならばいつでもクレイと連絡が取れると言うことだ。
(悪くはない…)
思わず喜びのあまりクレイを突き上げてしまう。
「あぁっ!ダメッ!イ…ッく…!」
「今日も好きなだけしてやるから、お前のいいところを全部教えてくれ」
「あっあっあっ…!!イッてる時に揺らされたらっ…やぁっ!」
ビクビクと身を震わせ絶頂から下りられなくなったクレイが縋るように強く抱きついてきた。
「あぁ…ん。ロックウェル!気持ちいいッ…!」
「ふっ…淫乱だなクレイ…」
「お、前が上手すぎるだけっ…だろっ…!」
まさかそんな可愛い答えが返ってくるとは思ってもみなくて、ロックウェルは嬉しそうに微笑んだ。
「そんなに気に入ったのならまたいつでもこうして抱いてやる」
「やっ…!もう二度と油断しなっいッ…ひあっ!!」
「ここ…だったな…」
その言葉にクレイはフルフルと首を振るが弱いところに当たっているのは一目瞭然だった。
「あっ!ロックウェル!許っして…!そこは…!んんッ…!あーーーーッ!」
フッと意識を飛ばしたクレイを支えて更に奥まで犯し中へとたっぷり注ぎ込む。

まるでそこは自分だけの場所だとでも言わんばかりに────。






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