黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

44.※嫉妬

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「ロックウェル!どこまで行くんだ?」
クレイはロックウェルに連れられるまま人けのない場所へと手を引かれていく。
そして柱の影へと連れ込まれるとあっという間に腕に囚われ、そのまま深く口づけられた。

「んぅ…はっ…」

久方ぶりの熱い口づけに思わず身も心も溶かされそうになる。

(どうしよう…)

ロックウェルに包まれて、どうしようもなく幸せな気持ちに満たされていく。
恋人同士になってから二週間も会えなかったのは初めてだった。
王宮が不穏な空気に包まれてさえいなければ、例え短い時間でも影を渡って会いに行くのにと何度思った事か…。
「ロックウェル…会いたくて仕方なかった…」
ロイドの言葉に乗せられて強引な手でここまで来てしまったが、仕事さえしておけばロックウェルの顔が見れるのだと…、それだけで満足なのだと、そう思っていたのに────。
「お前が女に囲まれてるのを見て…たまらなくなった」
ギュッと思い切り抱きついて素直に気持ちをこぼす。
こんなことを言って呆れられないだろうか?
こんな気持ちを口にするのは自分らしくないと、そう思ったけれど…言わずにはいられなかった。
胸がキュッと締め付けられるように痛んで仕方がなかったのだ。
「その…結婚はできないけど…」
できるだけずっと傍に居させてほしい────。
そうやって切ない眼差しで見つめたら、思い切り抱き締められた。


***


クレイが可愛い姿で素直に自分の気持ちを話してくれた。
それは不安な気持ちを吹き飛ばしてくれるには十分すぎるほどの威力があって、思わず思い切り抱きしめてしまう。
まさか王妃の策略がこんなにいい働きをしてくれるとは思ってもみなかった。

(クレイが嫉妬してくれるなんて…)

自分ばかりが嫉妬しているわけではなかったのだとわかって嬉しかった。

「私だってお前とロイドが仲良く話しているのを見て嫉妬していた」

だから素直に自分の気持ちも告げる。
あんなに近くで仲良く話され、挙句に唇まで奪われたのだ。当然いい気はしない。
「あ、あれは…!俺が落ち込んでいたからロイドが興味のある話題を振って気を紛らわせてくれてたんだ!」
どう考えてもロイドは付け入ろうとしていたようにしか思えないが、クレイがそんな心境だったのなら自分にも責任はあるのだろうか?
「じゃあダンス練習と言って抱きしめられていたのも、唇を奪われたのも…油断しただけだと?」
「うっ…、そ、それは…。確かに俺が悪かった」
あれは本当に油断してしまったのだとクレイが申し訳なさそうに謝罪する。
「ロックウェルは今夜誰と踊るのかなって話を振られて…モヤモヤした。そうしたらお前が女役で踊ったら喜ぶんじゃないかって手を取られたんだ。それから、ほら簡単だろうって腰を抱かれて、気が付けば何故かあの体勢に…」
そうやって説明されるとその時の状況がまざまざと簡単に想像できる自分がいた。
ロイドならそれくらいやりそうだし、きっとそれは嘘偽りのない状況説明なのだろう。
けれど────。

「迂闊すぎるぞ?クレイはロイドに気を許し過ぎているから心配だ」
「…!お、押さえるところは押さえているから大丈夫だ!」
「…全くできていないな」
「できてる!」
そうやってできていないのにムキになるから心配なのだとどうしてわからないのだろうか?
「わかった。じゃあ今から私が全力で誘惑するから試しに拒んでみろ」
「え?」
驚くクレイには構わず、そっと抱き寄せ耳元で甘く囁きを落とす。

「クレイ…会いたかった」
「……!!」
「お前に口づけたくて仕方がない…」
「~~~っ!!」
「許してくれるか?」

言うが早いか、クレイの方からグイッと頬に手を添え口づけを交わしてきた。
「んっ…はぁ…ッ…」
そんな可愛いクレイを思うさま翻弄するように堪能する。
舌を絡めたがるクレイから逃れるように、歯列を割り舌で擽るように上あごを舐め上げ焦らす。
追い掛けてくる舌に時折絡めながらも思い通りにはなってやらない。
「んっんふぅ…」
嫌だとばかりにしがみつきながら自分を追い掛けてくるクレイが可愛くて、そのまま舌を捕らえて吸い上げる。
「ふ…うぅ…ん…」
そのままそっと唇を離すと、クレイはとろんとしたような眼差しで自分だけを見つめていた。
「ふっ…クレイ。全く拒めていないな」
そう言う自分にクレイが離れたくないと言わんばかりにギュッと抱きついてくる。
「…お前の誘惑だけは絶対に拒めないし、拒みたくない」
そんな可愛いセリフをこぼすなんて…抱いてくれと言っているようなものだ。
そっと裾を捲り、ゆっくりと指を滑らせるとクレイがやりやすいようにと身を寄せてきた。

(いつもならこんな場所で襲うなと言って逃げるのに…)

クレイも自分と同じ気持ちでいてくれたと言うことだろうか?
「あっ…んんっ…」
ゆっくりと後ろをほぐしていくと声を抑えながらも甘い声がその口から飛び出してきた。
女の姿をしているせいか、いつもと違ってまるで女を抱いているような気になってくる。
「クレイ…ゆっくり入れるから声を出さないでくれ」
そう言うと頬を染めながら小さくこくりと頷いたので、そのままゆっくりと片足を上げさせながら楔を差し込んだ。
「~~~ッ!!ふっふぁっんんッ…!!」
たまらないとばかりに自分に抱きつき必死に声を抑えてくる姿が可愛くて仕方がなくて、思い切り突き上げたい衝動に駆られてしまう。
「はっ…はぁっ…」
全部挿れると荒く息を吐きながら自分へと縋りつききゅうきゅうと締め付けてきた。
「ロ、ロックウェル…。どうしよう…気持ち良すぎて声を我慢できそうにない…」
涙目で訴えてくるその姿に激しくそそられる。
「ああ…お前はこうして少し横向きに入れられると弱いからな」
「……!!知っててそれをしてきたのか?!」
「もちろんだ。手早く二人揃って満足するにはそれが一番だからな」
「ひどっ…酷い!!」
「仕事中だからお互い手早く終わらせないとまずいだろう?」
自分なりにクレイの好みもわかってきて、一度で終わらせるためにそうしたと言うのに不満でもあるのかと笑ってやると、納得がいったのかギュッと抱きついてきた。
「声は私が口を塞いでやるから心配するな」
そう言いながらついでとばかりに魔力も交流してやる。
「んっ…んふっ…はぁあっ!!」
逃げる腰を捕まえて抱き寄せながら突き上げると嫌だと言うように首を振った。
上も下も感じすぎて声を我慢するのが辛いのだろう。
涙がぽろぽろと溢れてくる。
パンパンとクレイの弱いところを的確に責め立てていくと余程気持ちいいのかキュッと締め上げてくるからたまらない。
「やっ…やぁ…ッ!!もっ…イクッ…!!」
頭が真っ白になると泣きながら縋りついて身を震わせるクレイをそのまま一気にイかせてやる。
「ん────ッ!!」
ビクビクと震える身をしっかりと支えながら、自身も奥へとたっぷりと注ぎ込んだ。
「あぁっ…!!熱い…ッ」
そう言いながらも嬉しくて仕方がないと言わんばかりに蕩けるような表情で自分を見つめてくるクレイが愛しくて愛しくて仕方がなかった。

(本当に結婚できるのなら今すぐ攫っていくのに…)

そしてもう一度だけと甘く見つめ合いながら口づけ、また二人で登り詰めた。


***


初めてクレイと会ったあの日、水晶化の魔法解除を阻止されて悔しかった。
未だかつてこんな形で仕事を失敗させられたことなど一度としてなかったからだ。
その時、自分の結界を潜り抜けてやってきた相手はこの男だったのだと確信した。
けれど意識操作を非難しようとした自分に、『お前もその方がやりやすいだろうに』とあっさり言われ、目から鱗が落ちた。
主に仕えるのはなんでもかんでも従うばかりではないのだと学ばせてもらった。
そこでふと、彼の瞳に違和感を感じてそっと見つめてみると、そこに魔法が掛けられていることに気が付いた。

(封印魔法?)

これは何かあると思って、すぐに調べてみた。
すると案の定その瞳に魔力を封印していて…。
ただでさえ高い魔力なのに、その封印を解いた時には一体どれほどすごいのだろうと興味が湧いた。
自分も魔力が高いが、恐らくクレイはもっと高いだろうと容易に想像がついた。
そして接触して試しに行った魔力交流。
あんなに濃厚な魔力がこの世にあるのかと夢中になった。
もっと欲しいと思わせるほど甘美で、貪るように口づけた。
けれどあちらの方が魔力が高いからかその目は終始冷めていた。
それでもあの味が忘れられなくてまた接触した。
けれど既に彼には恋人がいて…しかも黒魔道士ではなく白魔道士だった。
クレイが癒しを求めているのだとそれだけで分かったから、それならそれで遊び相手でもいいと思った。
魔力交流が目的だったし、恋人がいても関係ない。
黒魔道士同士気持ちいいことをしあえる仲であればそれでいいと思った。
勿論手に入るのならそれに越したことはないし、つけ込む隙はいくらでもありそうだった。
もしかしたら魔力交流をしている内に自分の方がいいと思ってくれるかもしれないとも思った。
それなのに…思いがけず本気にさせられた。
あの紫の不敵な瞳に心奪われて、接触をする度に話が合うことに気が付いて、ずっと隣にいてくれたらいいのにと思わされた。
あの冷めた瞳をいつか自分が熱くさせてみたいと…そう思った。
どうせロックウェルにも大差ない目を向けているのだろうと…勝手にそう思い込んでいた自分がいたのは否定しない。
けれど────。

先程、これまで見たことのないクレイの姿を目の当たりにして衝撃が走った。
強気な態度で言ってきたロックウェルに、おずおずと自分の方から口づける。
その瞳は自分に対するものとは全く違っていて、熱に浮かされるようにあの男だけを一途に見つめていた。
好きな事は知ってはいたが、まさかあのクレイがこれほど溺れているとは思いもしなかった。
それだけにあの男が憎くて仕方がなかった。
クレイは自分の物だと、まるで見せつけるかのようにこちらに視線を送ってきたロックウェルに腹が立った。
奪ってやりたい────心底そう思った。
腹の奥が煮えくり返って仕方がなかった。
こんなにドロドロとした暗い感情を抱いたのは生まれて初めてだった。

ちょうどそんな思いでいっぱいになったところでコンコンと軽くドアをノックする音が聞こえ、ハッと我に返る。
静かにドアを開けるとそこにはロックウェルの部下であるシリィが立っていて驚いた。
「失礼いたします。こちらにロックウェル様がいらっしゃると伺いまして」
「シリィ!」
それを見てライアードが立ち上がる。
「久しぶりだ。元気だったか?」
「ライアード様。お久しぶりでございます。ルドルフ様とお話されていると伺いましたがお話の方は弾まれていますか?」
「ああ。もちろんだ。お前もこちらに来て一緒に話さないか?ロックウェルはクレイと席を外しているのでな。すぐにロイドに呼びに行かせよう」
そう言ってすぐに呼んでくるようにと指示を出された。

「はっ…。ではそれまでの間眷属を警護に置かせていただきますので」
「ああ」
わかったと言ってそのまま自分を送り出してくれる。

(クレイ…)

今行ったら恐らく二人の逢瀬の邪魔になってしまうだろう。
けれどクレイがどんな風に乱れているのか、少し興味が湧いた。
願わくば悪女の如く冷めた目で相手を見つめ、翻弄していてほしい。そう思った。
けれど実際は全然違うのだろうなと、そう理解している自分もいた。

見たい。けれど見たくない。
そんな相反する感情を持て余しながら二人の気を辿ってそちらへと足を向ける。

「……!!はぁ…ッ!んんっ!」

柱の陰に二人の姿が見えた。
服を着たまま睦み合う二人の姿が胸を抉る。

「んっ…あぁっ!」

いつも冷めた目を熱く潤ませ、頬を上気させながらその綺麗な顔をより色づかせる。
そこに居るのは自分が知るクレイではなかった。
まるでただ一人の男のためだけに咲く、美しい大輪の薔薇のようで────。

(綺麗だ…)

そうさせたのがあの男だと言うのが妬ましかった。
できるなら…自分の手でああやってクレイを咲かせてみたかった────。

そうこうしている間に二人の睦み合いが終わりを告げる。
そっと身を離した後、身だしなみを整えてロックウェルが回復魔法を唱え、優しく口づけを落とした。

「大丈夫か?」
そんなクレイを気遣うようなロックウェルの声が聞こえてきたのを合図にそっとそちらへと足を向ける。

「随分早いな。クレイ、足りなかったら私が相手をしてやるから声を掛けてくれよ?」
足りているとわかっていて敢えてそう言うが、クレイは思った通り、怒ったように自分へと言葉を投げつけてきた。

「ふざけるな!今日は足りている!」
「そうか。それは残念だ」

軽くじゃれるように言ってはいるが、正直心はズタズタだった。
けれどそんなものは悔しいから絶対に面に出してはやらない。

「何の用だ?」

クレイを庇うように立ちロックウェルが警戒するように話を振ってくるから、シリィの件を話してやる。

「今部屋で待たせてあるからすぐに戻ってくれ」
「わかった」

そして何事もなかったかのように部屋へと足を向ける姿に、随分手慣れているなという印象を受けた。
あれだけモテる奴だ。
もしかしたら散々女と遊んでいたのかもしれない。
それならばクレイを自分にくれてもよいではないかと…ついそんな考えに囚われそうになる。
けれど…クレイがロックウェルを好きなのを知っているだけに、それを言うのは間違っているとわかっていた。
あの戦いの時、クレイは絶対の信頼を持ってロックウェルの名を呼んでいた。
たったあれだけですぐさまあのレベルの防御壁を張り攻撃を防いだのを見て、優秀な白魔道士だと言うのもよくわかった。
クレイが惹かれてもおかしくはないものをあの男は沢山持っているのだ。
それならば自分にできることはあの男とは違う手でクレイの気を惹き、こちらに振り向かせる努力をすることだけだ。
だから、ロックウェルの背を追いながらクレイと並んで歩き、クレイにだけわかる話題を振る。

「クレイ。どうせ魔力交流もしたんだろう?気力が十分ならこの後さっき言っていた魔力圧縮魔法を一緒に試さないか?」

睨んでくるロックウェルの事なんて知ったことではない。

「いいのか?」
「ああ。私もさっきお前が言っていた黒曜石に圧縮した魔力を込めるのを試してみたいしな」
「そうか。それならすぐに家まで黒曜石を取りに行かせる」

嬉しそうに眷属に指示を出すクレイを見ているだけで今の自分は満足すべきなのだ。
こうして少しずつ心を開かせ、二人の距離を近づけて、ロックウェルにはわからない黒魔道士同士の絆を深めていこう。

(あいつからクレイを奪うのはそれからだ)

それまではお前に譲ってやる────。
そうやって昏い笑みを浮かべていると、クレイが自分の好きな眼差しでニッと笑いながら声を掛けてくる。

「ロイド。また…悪巧みか?」
「…まあ似たようなものだ」
「お前は本当にわかりやすいな」
「お前には言われたくない」



そうやっていつか手に入れて見せる。
この気高い紫の瞳を持つ────ただ一つの宝物を…。



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