黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

82.王妃捜索

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【クレイ様…本当になんと天然なのでしょう…】

泣けてくると言いながらヒュースが嘆く側で、ロックウェルはイライラしながら仕事をこなしていた。
折角仲直りができたと思っても、こうしてすぐに地雷を踏んでくるのは一体どうすればいいのか…。
正直腹が立って仕方がない。

「ヒュース…クレイの気持ちの代弁を許す。教えてくれ」

そう言うと、非常に申し訳ないがズレまくっていますよ?と前置きした上で、クレイの気持ちを話してくれた。

【今朝ロックウェル様と仲直りができたせいで舞い上がっておりまして、朝の発言も事実をそのまま告げただけで他意はないご様子。ロックウェル様がお怒りなのは感じておられたようですが、なかなか仕事に戻らない二人に対してであって自分は関係ない。むしろ邪魔だろうからさっさと場を離れたのだ…と言う感じですね】
「……と言うことは今は?」
【非常にご機嫌麗しく、ロックウェル様が厄介ごとに巻き込まれないうちに王妃の件を片付けようと、眷属を一気に15体動かしました】
「15体だと?!」
【はい。それだけ嬉しくて舞い上がっておられるのです。どうぞお察しください】

正直呆れて物も言えない。
一体どれだけの負担になるのか…。
裏を返せばそれだけ自分を想ってくれていると言うことなのだが、本当にピントがズレているとしか思えなかった。
これでは怒るに怒れないではないか…。

「ヒュース…それだけ眷属が動けば魔力消費は著しいな?」
【ええ。魔力交流はあった方が望ましいですが、感じすぎて腹上死はゴメンだと思われたようですし、2、3日はお会いになれないかと…】

それを聞いて正直あり得ないと思ってしまう。
普通に考えれば、怒らせた上で自分から逃げ出しそのまま2、3日会えないなど、こちらの怒りを煽る行為以外の何物でもない。
こうしてヒュースから裏の事情を聞かされるからこそまだそこに可愛い理由がちゃんとあるのだとわかってやれるが、本当にどこまでも思い通りにならないクレイをどうしてやればいいのか…。
それにそんな魔力不足な状態の中、万が一ロイドがやってきたらと思うと気が気でなかった。

「わかった。クレイに、怒っていないし手も出さないから、仕事が終わったら回復するまで私の部屋にいろと伝えてくれ」
【それは恐らく聞いていただけないと思いますよ?】

絶対に互いに我慢できなくなると判断されるかららしいが、確かに言われてみればそうかもしれない。
そんな自分にヒュースは『心配しなくても主は必ず皆で守る』と言ってくれる。
ロックウェルはため息をつきながら礼を言うとその言葉を信じ、また仕事へと取り掛かったのだった。


***


その日の夜、クレイの元へは王妃の情報がしっかりと届けられていた。
王妃は今、第三王子と第四王子の息のかかった貴族の元にいるらしい。
けれどどうも様子がおかしいのだとか…。

「わかった。そちらはルドルフに報告を入れてからにしよう。ご苦労だった」
【クレイ様。魔力の消費が激しいご様子。どうぞご無理はなさらぬよう】
「大丈夫だ…」

眷属達は最低限だけ魔力を貰ったと言うが、流石に今回は使役時間も長かった為疲れが出た。

「少し眠る」
【…ごゆっくりお休みくださいませ】

その言葉と共にクレイは深い眠りへと落ちていく。
久方振りにそれぞれの眷属と触れ合った満足感に満たされながら…。




【クレイ様はやはり素晴らしい主だな】
【眠っていた我々にも分け隔てなく魔力を分けてくださる】
眠っていた眷属達が満足気に語る。
【クレイ様は身内にはお優しいのだ。その辺の黒魔道士とは違う】
【確かに…】
けれど今回は流石にかなり疲れたことだろう。
【魔力を交流できるお相手はいないのか?】
【いるにはいるが、お好き過ぎて辛いらしい】
その言葉にその眷属は暫し考える。
【では別な者と交流すれば問題ないのでは?】
【それは…恋人であるロックウェル様がお認めにならないだろう】
【そんなもの、主の方が大切に決まっている】
恋人など関係ないとその眷属は鼻で笑った。
【早くお元気になって頂けることこそ何よりの喜びだろう】
【…レオ。勝手なことはするな】
【せめてクレイ様のご意思を確認してから動け】
そんな苦言にレオと呼ばれた眷属は鼻白むが、そこは他の眷属も譲れないところだった。
【クレイ様のお幸せの為に我々はいるのだ。それを忘れるな】
そこまで釘を刺されてやっと納得したのか、レオは大人しくなる。
そして大好きな主のためにできることをと考え始めた。




【おやまあ。まだまだ若いですね~】
その夜、ヒュースが呆れたようにため息をついたので、ロックウェルはクレイの事かと尋ねたがどうも違うようだった。
【眷属も一枚岩ではないと言う事です】

はぁとため息をつきながらヒュースはその眷属について教えてくれる。

【我々はクレイ様が大好きなので、皆主のために一生懸命なのです】
それ故に、ロックウェルと魔力交流できないと主が言うのなら、別な相手と交流させて回復させたいと思う者も当然いるのだと言い出した。
【まああの者は新しい者ですし、眠っていた眷属です。クレイ様がどれほどロックウェル様の事をお好きなのかわかっていないのでしょう】
リーネのあの眷属のように、ただ主を想って暴走する可能性もなくはないと言う。

【さてさて、どういたしましょうか…】

ロイドでも呼んでこられては非常に面倒だとヒュースは溜息をつきながら思案する。
【いっそ眠っている時なら大丈夫でしょうし、ロックウェル様が行かれますか?】
その問いにロックウェルは大きく目を見開く。
【別に肌を重ねず、回復魔法と口づけだけの魔力交流にとどめて頂けるのなら大丈夫かと…】
その言葉にロックウェルはすぐさま立ち上がった。

「すぐに行く!」
【宜しくお願い致します】

そしてすぐに準備を整えると急いでクレイの家まで向かう。
そこには寝台でぐっすりと眠るクレイの姿があった。
かなり魔力が減っているからか、疲れて深く寝入って全く起きそうにない。
これならば相手の魔力量に関わらず50%魔力を回復させることができる回復魔法を使った方がよさそうだと判断し、まずはそれを唱える。
それから更に疲労回復魔法を唱えてやると、ついでに自分へも回復魔法を唱えた。
これであとは魔力交流をすれば明日の朝には元気になっていることだろう。

【さすがは最高位の白魔道士。あっという間にクレイ様の魔力をここまで回復してくださるとは…】
「ヒュース。この状態で魔力交流をしてもクレイは大丈夫なんだな?」

一応再確認してもヒュースは大丈夫だと言ってくれたので、そっとそのままクレイの唇へと口付ける。
自分の魔力をクレイへと与えると、お返しとばかりにクレイの魔力が返ってきてそのまま溶け合うように交流し続けた。



【ああ、いいですね。ここ最近魔力交流に慣れてきてらっしゃるので、実にスムーズでございます】
これが封印前ならまた全然違っただろうとヒュースは口にする。
【特にロックウェル様とは回数をこなしていますし、無意識に受け入れているのでしょう】
これなら回復もあっという間だとヒュースはどこか嬉しそうに笑った。

けれどそこでふとロックウェルの様子がおかしなことに気がついた。
【ロックウェル様?】
「うっ…」
蕩けそうな表情ではあるが、それは魔力過多で感じすぎているようにも見える。
意識もやや飛んでいるようで、ロックウェルは快楽の波に飲み込まれてしまったように身を震わせていた。
そこで主が封印を解いていた事を思い出す。

【クレイ様!】

これはまずいとすぐさま二人を引き離し、慌てて主へと呼び掛けた。
【クレイ様!起きてください!ロックウェル様が…!】
その言葉にクレイがそっと目を覚ます。
「ん…?」
そしてロックウェルの様子を目にして慌てて飛び起きた。
「ロックウェル?!」
一体何がと問われヒュースが簡単に事情を話すと、チッと舌打ちしてすぐさま瞳を封印し直し、改めてロックウェルと口づけを交わし直す。

「勝手に寝込みを襲って俺の魔力に溺れるな…」

そうしてロックウェルの乱れてしまった魔力をそのまま整えていく。
「こんなお前も悪くはないが、やっぱり強気なお前が一番好きだからな」
立場逆転よりはいつもの方がいいと笑いながら、ロックウェルをそのまま眠らせる。
「ヒュース。俺は大丈夫でも相手が大丈夫とは限らないんだから気をつけろ」
【申し訳ございません】
「まあでも…助かった。ありがとう」
そうやってふわりと微笑むクレイにヒュースは嬉しそうに下がっていく。
【どうぞごゆっくりお休みくださいませ】
こうしてそっと寄り添いながら眠る二人を皆温かく見守ったのだった。


***


【クレイ様】
朝、クレイは眷属であるレオの声で目が覚めた。
「どうした?もう眠るのか?」
【いいえ。お許し頂けるのであれば常にお側に置いて頂きたく】
「別に構わないが、退屈だぞ?」
普段は用がなければ眷属はすることもなく退屈なものだ。
それでもいいのかと尋ねてやるが、レオはいいと答えてきた。
【それでもお側でお支えしたいのです】
「そうか。まあ最近ヒュースをロックウェルにつけているから構わないといえば構わないが、恋人同士の時間だけは邪魔してくれるな」
それが条件だと言うと、レオが不服げに告げてくる。
【クレイ様のお相手が男性なのは承服致しかねるのですが…】
その言葉にクレイが面白そうに笑った。
「ははっ!お前はそう言ってくれるんだな。だが…好きなものは好きだから仕方がない」
【…クレイ様が襲う方ならまだ納得がいきましたのに…】
「馬鹿だな。相手がロックウェルだから襲われたいんだ」
だってカッコいいしと惚気るクレイにレオはため息をつきながら、わかりましたと了承する。
【では、邪魔はしないとお誓い申し上げます】
「ああ。宜しく頼む」

そんな二人にヒュースがぼやく。
【最近の眷属の仕事はクレイ様のフォローと、クレイ様の惚気を聞くのが仕事と言っても過言ではないというのに…】
「俺はそこまで惚気ていないぞ?」
【無意識だから、スルースキルが必要と言っているのでございます】
好きが溢れすぎだと一刀両断にするヒュースにクレイが不貞腐れる。
「ヒュースは小言が多過ぎる」
【仕方がありません。クレイ様は、慈しんでお育てしてきた我らの子も同然なのですから…】
そんな言葉にクレイも苦笑せざるを得ない。
「まあそうだな。さて、朝食の準備でもするか」
そしてそっと寝台を抜け出し新しい黒衣へと袖を通す。
【ロックウェル様もお起こし致しましょうか?】
レオが早速と言うように尋ねてくるので、クレイは少し考え答えてやる。
「そうだな。もう暫くしたら起こしてやってくれ」
そうして柔らかな笑みを浮かべたクレイに、レオは嬉しそうに諾と返事を返した。


***


「クレイ!」

慌てたように寝室から出てきたロックウェルに、クレイはおはようと微笑みを浮かべる。

「昨日はヒュースが迂闊な事を言って悪かったな。でもお陰で元気になれたし感謝している」

そんな元気そうなクレイにホッと安堵して、ロックウェルはドサッと椅子へと腰かけた。

「あまり心配を掛けさせるな」
「…いや。でもお前がくるとは思っていなかったからびっくりした」

そう言ってコーヒーを差し出してくれたクレイからカップを受け取り、そのまま一口飲む。
口内にふわりと広がる芳しい香りで気持ちも解れ、素直にその言葉が口からこぼれ出た。

「恋人同士なんだから、ああいう時にこそ頼ってほしい。ちゃんと言ってもらえたら私も襲ったりはしないから」

そんな言葉にクレイはそっと頬を染め上げる。

「……嘘をつけ。すぐに襲ってくるくせに」
「場合に寄るだろう?さすがに大事な恋人を腹上死させる程酷くはないつもりだ」
「…覚えておく」

そして照れたようにフイッと視線を逸らしたクレイだったが、ふとその視線の先にあった袋へと目を止めた。

「ああ、そう言えばお前に聞きたいことがあったんだった」
「なんだ?」

そうやって促してやるとその袋をゴトッとテーブルの上へと乗せ中身を出す。

「これ。もし詳しかったら聞こうと思って」
「……」

笑顔で言われたそれを見て思わず動きが止まってしまう。
……これはどこからどう見ても張り型ではないだろうか?

(れ…冷静に、冷静に…)

クレイの場合、予想外の言葉が続くのは既にわかりきっているのだから、ここは上手く誘導尋問しなければならないだろう。
下手に間違って明後日の方向に行かれてしまっては困る。
恐らく浮気前提で用意したと言うわけではないはずだ。
数の多さから言って、女と寝るなと言ったから花街でこれを使って何か試してみようと思い立ったか何かではないだろうか?
それとも仕事で使うか?とでも言われて同業者から貰ったとか?
そうやって可能性を色々考えてみてから口を開く。

「クレイ。これは?」

笑顔でそう尋ねると、クレイは何でもないことのように答えてきた。

「ああ。この間街で買ったんだ」

(買った?!)

「…何のために?」
「お前と喧嘩した時に家で自慰に使えないかと思って」

その言葉に思わず頭を抱えてしまう。

(こんなに沢山?!)

一体どうやったらそんな発想が出てくるのだろう?
そうやって思わず黙り込んでしまったら、クレイは全く気にした様子もなく言葉を続けていく。

「色々店主が説明してくれたんだが、俺はこういうのは女にも使ったことがなくてよくわからなかったんだ。それで…お前なら詳しいかなと、とりあえず初心者セットとか言っていたのを買ってみた」

どうやら店主がお勧めをセットで売りつけてきたらしい。
それなら恐らく本当によくわからないまままとめ買いしてきたのだろう。
けれど、百戦錬磨だし詳しいだろう?と悪気なく尋ねてくるこの天然に一体何を言ってやればいいのだろうか…。

「ロックウェル?」
「……いや。うん。そうだな。それなら今夜お前にどれが合うか一緒に試してみるか?」

これはもう鴨葱以外の何物でもないだろうと思いつつそう言ってやると、全く何の迷いもなく嬉しそうに顔を輝かせた。

「助かる!実は一人で試してみるのはちょっと不安だったんだ」
「…任せておけ」

クレイはまた新たな開発をされてしまうと分かっていないのだろうか?
一つ一つ見てみると、どれも美味しそうなアイテムばかりだ。
しかも店主はご丁寧に潤滑油であるローションまで入れてくれている。
これでは楽しみ放題ではないか。

(どうしよう…天然が可愛すぎる…)

振り回されることも多いが、こうやって自分得なこともあるのなら悪くはない。

「クレイ。いっぱい気持ち良くなろうな?」
「?」

笑顔で言われたその言葉の意味を全くわかっていないクレイにじゃあまた夜にと言おうとしたら、今日は王宮に用があるから一緒に行こうと誘われた。

「王妃の件でルドルフに報告に行くんだ。あとはどうせショーンが詳しく調べるだろうし、それが終わったらお前の部屋で待っていてもいいか?」
「他の仕事はいいのか?」

そうやって尋ねてやると、今日は眷属を使役して疲れていると思っていたから仕事は入れていないと返してくる。

「だからお前が戻ってくるまでゆっくりお前の香りに包まれていたいなと思って」

そうやってニコリと微笑んでくるから思わずそのまま抱き込んでしまった。

「朝一で急ぎのものだけ片付けたらすぐに部屋に戻る」
「…?普通に仕事が終わってからでいいぞ?」
「元々今日休めるようにと昨日捌けるだけ捌いておいたから、今日はお前とゆっくり過ごしたい」
「そうなのか?」
「ああ」
「じゃあ待ってる」

そうやって嬉しそうに微笑んだクレイにそっと口づけてそのまま二人で甘く見つめ合った。
クレイは本当にどこまで可愛いのか…。
早く美味しく食べて欲しいと言っているようなものだ。

「じゃあまずはロックウェルの部屋にこれを置いておくか。お前も着替えるだろう?」
「ああ」

そう言ってクレイは自室へと向かってくれる。

「そう言えば王妃は結局どこにいたんだ?」
「他国に逃げたのかとも思っていたんだが、意外にも貴族の屋敷にいた」

その言葉に何故そんなところにと思わずにはいられなかったが、着替えながら話の続きを聞く。

「どうも第三王子と第四王子が周到に逃がしたようだな」
「……」
「まあルドルフに任せておけば上手くやってくれるだろう」
「…そうか」

やはり王妃は大人しくはしていないのかと思いながら支度を整え、そのままクレイと共に部屋を出た。



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