黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

133.思いがけないセフレ

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ひとしきり激しく愛し合った後、ロックウェルはそっとクレイを抱きしめ再度すまなかったと謝った。
正直部屋に入るまでは単純に寝台の上で涙目で横たわりながら悪態をついているものだとばかり思っていた。
けれど実際は腰を高く上げて自慰をしながら自分を待ってくれていた。
しかも自分の名を切なく呼びながら…。
自分の姿を見た時のクレイの表情は本当に可愛すぎて、それだけでどれだけ自分を待ってくれていたのかが痛いほど伝わってきた。
その後の可愛さも本当にどうしようもなくて────。

(本当にたまらないな…)

付き合いが長くなれば長くなるほど夢中になっていくのはどうしたことだろう?
これまでの恋愛でこんな風になったことなど一度もなかった。
大抵は燃え上がってすぐに火は消え別れへと突き進んでいったと言うのに、クレイとはそれが一切ない。
だからこそ大事にしたいと思うし、ずっと一緒に居たいと思うのだが……。

「クレイ…あまり思わせぶりな発言をしないでくれないか?」

シリィにあんな言葉を掛けないでほしかったと素直に口にすると、クレイは驚いたように目を瞠る。

「え?思わせぶり?何かおかしなことを言っていたか?」

単に思ったことを口にしただけだったんだがと言うクレイに、それを気を付けてほしいのだと釘を刺した。

「お前がそう思っていなくても、さっきのシリィに対する言葉は口説いているようなものだった」
「え?」

おかしいなと首を傾げるクレイに何度も啄ばむように口づけを落とし、わからなくてもいいから気をつけろと再度忠告する。

「女は誉められるのに弱いからな」

そう言ってやるとやっと納得がいったように頷いた。

「そうか。お前が言うなら間違いないな」

今度からは気をつけると一応言ってはくれたが、うっかりが発動しなければいいなとつい考えてしまう。
ここまでくると、いい加減虐められたくてわざとやってるんじゃないかと疑いたくなってしまう。
けれどそれがわざとではないから始末が悪い。




「そうだ、ロックウェル。この後久しぶりに街で夕飯を食べないか?時期的にアイリスが帰ってくるはずなんだ」

そんな言葉に思わず目を見開いた。
アイリスというのは流しの白魔道士で、昔ファル達と一緒にいた頃の仲間だ。
ここ数年ずっとトルテッティで生活をしていて、会うこともなくなっていた。
けれどどうやらクレイは何度か会っているらしい。

「アストラスの方が冬は少し暖かいから、いつも薬草を買いに来がてら暫くこっちに逗留するんだ」
「そうなのか」
「ああ。何故か会う度にどうせ溜まってるんでしょとか言って声を掛けてくれるんだが、今はお前がいるしちゃんと安心させてやりたいなと思って」

そうやってニコニコと言い放ったクレイに思わず固まってしまう。

「ヒュース……」
【何でしょうか?】

思わず呼びかけた自分にヒュースはすぐさま答えてくれるが、正直確認したくはなかった。

「アイリスはいつからクレイを…?」
【そうですね~。かれこれ三、四年前からになりますか。会う度にお声掛け下さるのですが、あの物言いなのでクレイ様もそのまま額面通りにしか受け取らなくて、言ってみれば毎回セフレ扱い…でしたね】

その言葉にガックリと肩を落としてしまう。

(やっぱり……)

どうせクレイのことだからそんなところだろうと思った。
これまで付き合った相手はいないと言っていたし、ヒュースの言葉からも遊び相手だけだったのだろうと想像がついた。
これが近くにいる魔道士だったならきっととっくにクレイから離れていたことだろう。
何せ封印期間も一年あったのだから。

けれど彼女はトルテッティに住んでいて、こちらに帰った時だけクレイと連絡を取っていた。
高々一度会えなかっただけなら、たまたま都合が合わなかったんだろうくらいに思っていてもおかしくはない。
そして彼女を知る自分からすれば、気のない相手と寝ようとする人物でないこともよくわかっていた。
つまり彼女はクレイが好きなのだ。
少なくとも三、四年前からずっと。
けれどやっぱりクレイは分かっていない 。

「…?アイリスはただの元仲間だぞ?」

友達と言うほど親しくもないしとクレイは言ってのける。

「どっちかと言うとファルとの方がよく話してるし、俺は遊びで、ファルが本命だと思ってるんだが?」
「クレイ…白魔道士は……」

何故そこで黒魔道士の理屈を当てはめているのか本当に理解できない。
今日シュバルツに言っていた言葉は本当にヒュース達からの受け売りだったんだなと、ヒシヒシと実感してしまう。
本当に困った男だ。

「クレイ…今までよくトラブルがなかったな」

こんなに天然なのに不思議で仕方がなかった。
けれどその謎はヒュースの言葉で全て解けた。

【何もないわけがないですよ。仕事でも恋事でもトラブル対策は我々の仕事でございます】
【そうですよ。クレイ様に任せると更にトラブルが広がるので、結局我々が対処せざるを得なくなるのです】
「…頑張れば頑張るほど何故か問題がややこしくなるから不思議なんだ」

だからいつもヒュース達が先手を読んで対処してくれることが増えたのだとクレイが申し訳なさそうに答えた。
本気で困ったことになった時は、最終的に眷属達のアドバイスを元にタイミングよく記憶操作で誤魔化してきたらしい。
どうも過去に付きまとわれたことがあって、眷属が追い払っても突撃してくる猛者がいたのだとか。

「あれは怖かった…」
【本当にもう少しロックウェル様を見習って上手くやって下さいね】
「仕方がないだろう?俺はロックウェル程人付き合いが得意じゃないんだから。大体付き合ってもないのに付きまとうってどうなんだ?明らかに相手の方が悪いだろう?」

そんな言葉に妙に納得がいく。
人付き合いが得意な自分を怒らせてばかりのクレイが、揉め事を自力で解決できるはずがない。
眷属が付いていてくれるから今のクレイがあるのだと言っても過言ではないだろう。
これは眷属達が過保護になるわけだ。
本当に世話が焼ける。
他にアイリスのような相手はいないだろうか?

「それで?他にアイリスのようなセフレはいないんだろうな?」
「ああ。それはいないな。アイリスも冬にこっちに来た時になんだかんだ話してから、じゃあ寝ようって誘われて関係してただけだし、特にセフレってわけでもないぞ?」
「…………」

正直クレイのこの辺りの感覚がよくわからない。
どうやら後でもう少し詳しくヒュースに聞いた方が良さそうだ。

「わかった。もう面倒だから全部清算していこう」

ロイドとシリィは振ったし、アベルとは交渉が成立している。残るリーネも今はロイドのところだから大丈夫なはずだ。
ライバルはこの際一切合切排除してしまうに限る。
クレイが恋人ができたと宣言すればきっとアイリスも諦めてくれるだろう。
そう思ってクレイをそのままシャワーに誘った。

「クレイ。お前の恋人は私だけだ。いいな?」

そんな言葉にクレイは嬉しそうに微笑んだ。


***


二人で街に降り行きつけの酒場へと向かうと、そこにはファルと一緒にいるアイリスの姿があった。
しかもその隣には別の女魔道士の姿もある。

「ローラ?」

ロックウェルは見知ったその相手を見て驚きに目を瞠った。

「よっ、クレイ!ロックウェルも久しぶりだな」

ファルがいつものように豪快な笑顔で迎えてくれたが、アイリスは兎も角ローラも気になって仕方がなかった。

「クレイ!会いたかった!」

そう言いながらアイリスが満面の笑みを浮かべガバッとクレイへと抱きついてくる。
自分にされる分には全く気にならないが、正直これは不快でしかない。
クレイに誰かがベタベタしてくるのが許せない自分がいた。
けれどクレイは慣れているのか文句を言うことはない。

「ああ」
「もうっ!相変わらず素っ気ないわね。去年は結局会えなかったし…。ファルにクレイに会ったら私の所まで遊びにくるように言っておいてって伝えてたんだけど、結局来てくれなかったし…」
「…一言も聞いてないが?」
「ええ~?!酷いわファル!ちゃんと伝えておいてよ!」
「ああ!そう言えば去年は結局全然会えなかったからすっかり忘れてた」

すまんすまんと笑うファルにアイリスもただ溜息をつくしかない。

「そうそう、クレイ!聞いたわよ?ロックウェルと付き合い始めたんですって?」
「ああ。そうなんだ」

アイリスはどこか貼り付けたような笑みを浮かべるが、クレイは全く気づいていないのかサラリと笑顔で応えた。
知っていたのなら話は早いとでも思ったのだろう。

「いい男同士がくっついたなんて聞いて、ローラと二人で信じられない!勿体無い!って話してたのよ」
「ふぅん?」

こうして見るとクレイは元々こう言う奴だったなとふと思い出した。
恋人になってからのクレイは随分喜怒哀楽をはっきりと表してくれるようになったし、シリィやロイド達といる時も柔らかな空気を纏っているからすっかり忘れていたのだが、こうして改めて見るとそれがかなり特別だったのだと知ることができた。
何と言うか、素っ気ないのだ。
体の関係を持っていた相手に対してまでこれだったのなら、封印を解いてからのクレイは随分口数も増え人付き合いが活発になったと言えるだろう。
少なくとも王宮魔道士達にはそれなりに気を遣ってくれているように思う。

(もしかしてそれも私に配慮しての事だったりするんだろうか?)

驕りかもしれないが、付き合っているという今の関係はクレイの中の何かを変えたのかもしれない。
昔は最近のように笑顔を振り撒いたりはしなかったから、自分もクレイはただの素っ気ない奴なのだとばかり思い込んでいた。
ただ……特別仲良くなった者にだけ、あの素の笑顔は向けられていたのだ。
自分が知る限り、それは以前はファルと自分だけだったはず。
だからこそこうしてアイリスに見せる態度を見る限り、大丈夫そうだと安堵する自分がいた。

「ねえクレイ。ロックウェルになんて言って口説かれたの?」

そうやって物思いに耽っているとアイリスは唐突にそんな言葉を口にした。

「別に口説かれたわけじゃない」

クレイの答えを聞いて、正確には自分に襲われただな…と少し反省してしまう。
あれは口説いたとは言わないだろう。

「え?じゃあクレイの方から迫ったの?」
「いや?」

それも正確には逃げた…だ。
何度も逃げられたのを自分が必死に追い掛け捕まえただけ。
そう考えると如何に自分が一方的だったのかがよくわかる。
よくここまで来れたものだ。
けれどクレイの次の言葉で思わず頬が緩む自分がいた。

「ええっ?!じゃあどうして付き合ってるのよ!」

「好きだから」

クレイの答えは至ってシンプルで、それを聞いたファルが物凄く楽しげに笑い出した。
「ブハァッ!本当に面白いな、クレイ!この正直者!」
「ファル…煩いぞ。俺がロックウェルを好きなのは知っているくせに」
「はははっ!そうだな。悪かった!ほら、機嫌直して飲め飲め!」
そんな言葉にクレイが素直に酒を煽る。

「…そう言えばそっちのローラはどうしたんだ?」

クレイがふと思い立ったように促すと、ローラが思わせぶりな微笑みを浮かべた。

「あら、ご挨拶ね。クレイと姉弟になれたって聞いたから会えるのを楽しみにしていたのに」

そんな言葉にやっぱり……とため息が出てしまう。
ローラは自分の元恋人だ。
しかも一番最初に付き合った相手で…一番遊び回っていた時期に「それでも全然OKよ」と笑って言ってきたほどの人物でもある。
別れる時も初めてと言うこともあって、ただ一言「飽きたから」で振ってしまったのは苦い思い出だ。

「ローラ…クレイに絡むのはやめてくれないか?」

だからこそ何かしてきそうでそう口にしたのに、クレイはまた明後日のことを口にした。

「…?姉弟?何のことだ?」

(ああ。言うと思った…)

きっとわかっていないんだろうなと思っていたら案の定だ。
けれどそれを受けてローラが驚いた顔をする。

「え?まだなの?」
「何が?」

そんなやり取りにファルがふるふる震えながらクレイの背中をバシバシ叩く。

「クレイ!お前は本当に天然だな!もう面白すぎてたまらん!ブハッ…」
「…ファル。笑いすぎだ」

揶揄われてどこか拗ねたような顔になるクレイに僅かに嫉妬してしまう。
そうだ。ファルともいつもこんな感じだった。
自分がさせられない表情を引き出すファルに悔しいと思った過去の自分。
今ではそんな感情もなくなりつつあるが…それでもファルはクレイの中では特別なんだろうなと思った。

「もうっ!クレイったら相変わらずね。同じ相手と寝たら姉弟って言うでしょう?」

これにはアイリスも呆れたように嘆息し、クレイにそっと酒を注ぎ足した。

「ふぅん。それならロックウェルとアイリスも兄妹ってことになるな」

けれどその言葉にアイリスは冗談じゃないわと昏い笑みを浮かべる。

「クレイはロックウェル相手なら抱かれる側なんでしょう?それならやっぱり私はクレイの特別だわ…」

その声にはどこか自分に言い聞かせるような響きが混じっていて、やっぱりクレイの事が好きなんだろうなと思わせるものが感じられた。
そんな時、不意に足元でヒュースが警告を発してくる。

【ロックウェル様。そろそろクレイ様が失言なさる可能性が高いので、早めにフォローをお願い致します】

そんな事を言われて、あり得るなと思える程には自分もクレイの事が分かってきた。

「ん~…別に特別でもなんでもないと思うが?仲の良い白魔道士と言えば、シリィの方がずっと…」
「…クレイ?それ以上口にしたら後でお仕置きだ」

その言葉はクレイを止めるには有効で、物の見事に固まってしまった。
けれどそれを見てファルがまた吹き出し、こちらに向けて勢いよく笑い出す。

「本当、最高だなロックウェル!調教が随分行き届いてるじゃないか!このうっかりを止められるなんて…ブハッ!本当に凄い!成長したな!」

そんな風に笑い飛ばせるファルも凄いと思うが、言われた方のクレイは真っ赤になりながらファルに食いついた。

「ファル!笑い事じゃない!」
「フハッ!そうやって食いついてくるところは変わらないな。まだまだガキだ」
「いつまでも子供扱いするなと言っているだろう?!」
「悪い悪い。だって仕方ないだろう?出会った頃はまだこんなにちっさかったんだから」

そう言ってグシャグシャと豪快に頭を撫でたファルにクレイも不貞腐れてしまう。

「酒も女もそれこそ魔法だって俺が色々教えてやった」
「ファルは狡い…」
「狡くて結構だ。ほら、ちゃんとアイリスに言ってやれ」

どうやらこれはファルなりの教育らしい。
自分がやろうと思っていた事をあっさり奪われて、つい苦いものがこみ上げてしまう。

「……アイリス。悪いがクレイの特別は私だけだ」

だからついそう口にしてしまったのかもしれない。
そんな言葉にアイリスもローラも目を瞠る。

「驚いたわ。ロックウェル、熱でもあるの?」
「単に女に飽きて男に走っただけで、すぐ別れると思ってたんだけど?」

そんな風に言われてしまった。
確かにそんな風に思われてもおかしくないほど遊んでいたのは事実だが…。

「え?ロックウェルは別に俺が初めての男じゃないぞ?」

クレイがそんな事を言い出し、話はそのまま何故か自分の付き合った相手の話へと流れていってしまう。
そんな流れにファルに「この馬鹿!」と小声で叱られてしまった。
これは確かに失敗してしまったかもしれない。
折角ファルが清算させようとしてくれていたのに台無しだ。
けれどファルに負けたくない自分がいるのは確かで……。

「お前なぁ…。俺と張り合っても仕方ないだろう?」

呆れたように全部見透かして言ってくるファルにムッとしてしまう。

「俺は言ってみたら雛鳥を見守る親鳥みたいなもんだぞ?」
「自分にしておけとか言ってクレイを誘ったこともあったじゃないか」
「なんだ。あれで怒ったのか?あれはクレイの本心を聞き出してやろうと思って言ったに決まってるだろう?本当にお前も大概子供だな」

どうやらファルにとったら自分もまだまだお子様らしい。

「ロックウェル!それで?最近はいつ女と寝たの?」

ぼんやりしていると突然そんな言葉が飛んできて、途方に暮れる。

「さあな」

辛うじてそんな風に濁すことしかできないのが悲しい。

「私はクレイとだけ寝れたらもう他はどうでもいいんだ。遊びの女とクレイを比べる気は一切ない」

だからそう言ったのに、ローラの方は逃がしてくれなかった。

「それってつまり最近も女と寝たってことでしょう?ロックウェルったら相変わらずね」

クスリと笑って紡がれたその言葉に、アイリスの表情に希望の光が灯ったのを見つけてしまう。
これはクレイから何か言わせた方が良いのではとそちらを見遣ったのだが、その表情は物凄く嬉しそうで、可愛すぎて何も言えなくなってしまった。
一目で先程の自分の言葉が嬉しかったことが伺えてしまう。

(今すぐ連れ去りたい……)

そんな想いが込み上げて、気づけばそのままクレイへと声を掛けていた。
二人の親密さを見せつけてやればきっとアイリスも諦めるに違いないと思ったのもある。

「クレイ。そろそろ行かないか?」
「え?」
「そんなに可愛い顔をされたら連れ去りたくなった」

笑顔でそう言うとクレイが真っ赤になって狼狽え始める。

「なっ…!」
「ダメか?」
「え?…うっ…ダメじゃ…ない」
「そうか。それならもう行こう。じゃあファル…また。アイリスも来年ゆっくり会おう」

サラリとそう流し、クレイの腰を抱いて鮮やかにその場から連れ去る。
それは間違ってはいないと、そう思った。
けれどそこをアイリスの鋭い声で引き止められる。

「待って、ロックウェル!私、ローラと一緒に王宮魔道士に志願することにしたから!」

そんな聞き捨てならないセリフに思わず足を止めてしまう。

「ほぅ?」

どこまでも冷たい声が自分から出たことに驚いたのか、アイリスの身がビクリと震えるのを感じたがそんなことはどうでも良かった。
その言葉はまるで宣戦布告のように感じられたからだ。

「言っておくが、私はそんなに甘い考えの者を許す程甘い男ではないぞ?」

現在確かに諸々の問題発生で王宮魔道士は不足しているため、志願者を募集している状況だ。
けれどそれを使って王宮に入り込み、自分達に割り入るなど以ての外だと牽制する。
それは違わず真っ直ぐにアイリスへと届いたが、彼女は望むところよと受けて立った。
どうやらそう簡単にはクレイを諦められないらしい。
数年単位で体の関係があっただけに、すぐには割り切れないのだろう。
最近クレイが王宮にいることが多いと言う情報をファルから当然手に入れた上での発言と見た。

(そうまでして挑んでくるなら受けて立ってやる)

そうやって睨み合っているとクレイがまた明後日の事を口にしてくる。
恐らくこの状況をさっぱり理解していないのだろう。

「この二人の実力なら王宮魔道士でも全然いけるだろう?」

そんな頓珍漢な事を言ってくるから、もうそれはそのまま勘違いさせておこうと思った。
わかっていないならその方が好都合だ。

「クレイ…お前は本当にその鈍い所も可愛いな。そんなに可愛いと今日は寝かせてやれないかもしれないぞ?」
「お前は…本当に絶倫だな。酒が回るから程々にしてくれないか?」

そっと頬を染めるクレイを包み込み、さり気なくアイリスへと視線を向ける。
それこそ奪えるものなら奪ってみろと言わんばかりの目で…。
悔しそうにするアイリスに満足し、今度こそ酒場を後にした。
もう二度とクレイを誰にも渡さないと再度強く誓いながら────。



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