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第三部 アストラス編~竜の血脈~
19.※奔流から生まれし者
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頭がグラグラする。
一体何があったのだろう?
確かルッツを抱っこしてフローリアと話していて……。
そこでハッとしながらガバッと飛び起きた。
「母様?!」
そうだ。確か母がルッツに会いに突然やってきたのだ。
バクバクと心臓が弾む。
けれど不思議とそんな自分を冷静に見られる自分を感じた。
「?」
そうして首を傾げていると、徐に眷属達が姿を見せた。
【クレイ様!もしやお戻りになられましたか?】
【ご自身のご年齢はお分かりになられますか?】
【ロックウェル様の役職を言えますか?】
心配そうに矢継ぎ早に色々言われて、一体何がと混乱してしまう。
「……質問は後だ。母様は?帰ったのか?」
その問い掛けに、コートがいち早く答えてくれる。
【はい。ドルト殿が迎えに来て下さいまして】
「そうか」
それは良かったとホッと息を吐く。
仕事で忙しいのに手間をかけさせて申し訳なかったが、自分が倒れてしまったのであればそれは致し方のないことだっただろう。
流石にフローリアにどうこうする事はできなかっただろうから……。
「心配を掛けてすまなかった。やけに心配してそうだったが、倒れた時に頭でも打ったのか?」
もう大丈夫だからと次々と眷属達の頭を撫でてやると、彼らの口から詳細を話してもらうことができた。
聞く限りどうやら当初は精神的にかなり危険な状況だったらしく、フローリアから教えられた魔法でロックウェルが助けてくれたのはいいが、三日ほどその副作用で幼児化していたらしい。
正直それほどショックだったのかと唖然としてしまう。
情けない上に、更なる醜態を晒してしまったなんて────…居た堪れない。
「……恥ずかしい」
【まあまあ。結果的には良かったのでは?】
【そうですよ。クレイ様に何かあれば我々も正気ではいられませんので】
【それにお可愛らしかったですよ?ご本人は夢と思い込んでいたので当時より少々元気よく羽目を外されてましたが、楽しそうにお過ごしでした】
「そうか」
口々に慰めてくれる眷属達の言葉に癒されながら、幼児化した自分はどんな感じだったのだろうとつい考えてしまう。
母に嫌われ拒否されるたびに表情を失くしていっていた時期に救ってくれたのがヒュース達で、一緒に過ごすうちに感情も戻ったように思う。
7、8才頃と言うとちょうど好奇心旺盛な時期で、ヒュース達に外に出てみたいとポツポツ零していた頃でもあった。
つまらない日々に鬱々としていたせいか、そのタイミングで影渡りを教えてもらった気がする。
それでこっそりと人目につかない場所に行っては本を読むのが好きだった。
その時に世界は広いのだと知り、色々なことに興味を持った。
その中でも魔道書はとりわけ楽しかったように思う。
難しい本はまださっぱりわからなかったが、そういうのはタイトルだけ覚えておいて大きくなってからまた来て読めばいいとヒュース達に教えられたので暇さえあれば自分に読める物を中心に貪欲に読み耽った。
「懐かしいな」
あれらの書物は今でも自分の中で息づいて、応用魔法の基礎を支えてくれているように思う。
そうやって当時を思い返していると、勢いよく部屋の扉が開かれロックウェルが飛び込んで来た。
「クレイ!」
「ロックウェル……」
その焦燥感を色濃く滲ませる姿に心配を掛けてしまったのだと一目でわかり、申し訳ない気持ちになってしまう。
ここ数日一体どれだけ気を揉ませてしまったのだろうか。
「クレイ…!」
思い切り抱きしめられて、自分もまた抱きしめ返す。
そしてその温もりにホッとしながら素直に謝罪の言葉を口にした。
「ロックウェル。心配を掛けて悪かった」
それなのに何故か激しく口づけられて驚いてしまう。
「ん…ッ?!んっんっ…」
気持ちいいのは構わないが『いきなり何だ』と文句を言うこともできないので、隙を見て落ち着けと宥めるように舌で舌裏あたりをチロチロと舐めてやった。
するとまた思い切り嬉しそうに甘く口づけられたので、これ以上はまずいとそっと身を離そうと身動いだ。
「ロックウェル、これ以上はやめろ。まだ明るいし、朝じゃないのか?」
そう言えば今は何時なのか。
眷属達は三日ほど退行状態だったと言っていたが、母があの日ここに来たのは午後からだった。けれど今現在外は昼下がりと言う感じの時間帯ではなさそうだ。
この分だともしかしたら三日半ほど過ぎているのではないだろうか?
その間ちゃんと仕事に行っていたと信じたいが、もし三日以上ロックウェルが自分のせいで仕事を休んでいたとしたら────そのせいで仕事に差し障りが出てしまっていたら……。
ここは取り敢えず今日のところは仕事に行ってもらって、後でヒュースに確認を取った方がよさそうだと溜息を吐いた。
「仕事を休ませたくはないし、俺はもう大丈夫だからちゃんと王宮に行ってこい」
「……クレイだな」
「…?俺は俺だ。子供の時分と比べるな」
いきなり仕事の話を持ち出したのが悪かったのだろうか?
可愛げがなくて悪かったなと不貞腐れると、何故か妙に機嫌が良さそうに今度は抱き上げられてしまった。
「ちょっ…!放せ!」
「放さない。お前がどれだけ好きか思い知らされたから、今日はこのまま一緒に居たい」
「???!」
「仕事が気になると言うなら、王宮までついて来てくれるか?」
どこまでも甘い雰囲気を醸し出すロックウェルに一体どうしたのかと問いたくて仕方がない。
そんなにも自分を大事に想ってくれているとでも言うのだろうか?
見る限り、自分のことが好きでたまらないと言う感じだ。
(嬉しい……)
素直にそう思って、ついそのまま身を寄せ甘えそうになったところでハッと我に返る。
────確かロックウェルには王宮に想い人がいるのではなかっただろうか?
そう言えばそのあたりがさっぱりわからないまま倒れてしまったのだ。
今はただ突然こんなことになってしまった自分への心配からここに居てくれているのだろうが、落ち着いたらきっとまたその想い人の方へ行ってしまうことだろう。
うかうかしているわけにはいかない。
「…………お前の想い人がいるなら見に行く」
いつもなら行かないと突っぱねるところだが、身を任せたいと思ったついでにロックウェルの気にかけている相手がいるなら見ておきたいとそう口にしてみた。
ロックウェルをこちらに向かせる上で相手のことは一応知っておきたい。
けれどそれを聞いたロックウェルは目を瞠った後、深く息を吐き出してくる。
「お前は…まだ勘違いしているのか?」
「?」
言われている意味がわからず、首を傾げてしまう。
一体どういう意味なのだろう?
けれどそんな自分を真っ直ぐに見つめ、ロックウェルは真剣な表情で言葉を紡いだ。
「私はお前だけだと何度も言ってきたつもりだが?」
「いや…。それはリップサービスだろう?」
でなければカルトリアの件で嫉妬していない理由がわからないと言ってやる。
けれどここで眷属達のフォローが入った。
【クレイ様が魔王城にお泊りの際の事ですか?毎晩クレイ様の寝顔を見にいらしてたので、浮気などしてないとご存知だっただけですよ】
【そうですよ。ロックウェル様は毎晩クレイ様を愛でてご満悦だっただけで、浮気とかではないです】
そんな言葉の数々に真っ赤になってしまう。
まさか毎晩寝顔が見られていたなんて、思いもよらなかった。
「ね…寝言とか、何か言ってなかったか?」
【寝言ですか?特に仰ってなかったと思いますが】
そんな言葉にホッと息を吐く。
夢の内容が内容だっただけに恥ずかしかったのだ。
「ならいい」
「わかってくれたか?」
ロックウェルからのその言葉に渋々頷き、その表情を見やると自分が大好きな笑顔で笑ってくれた。
「……取り敢えず、恥ずかしいから降ろせ」
未だに抱き上げられている自分が居たたまれなくてそう頼むが、ロックウェルはなかなか降ろしてくれなかった。
「王宮に着いたらな」
「~~~~っ!行かない!」
「さっきは行くと言ってくれただろう?」
「う、浮気じゃなかったなら行かなくてもいいだろう?!」
「……つれないな」
そう言いながらもロックウェルは一応下へと降ろしてくれたので着替えようと一歩踏み出したのだが、まだ少し頭がふらついていたようで転びそうになった。
「クレイ!」
咄嗟にロックウェルが支えてくれるが、思わず頭を押さえてしまう。
「悪いな。どうも頭がフラついてるみたいだ。ちょっと休めば大丈夫だと思うから…」
けれどそう言った途端すぐにまた抱き上げられて、すぐさま寝台へと寝かされ回復魔法までかけられた。
「ついててやるからおとなしく寝ておけ」
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃない!」
ここで仕事の邪魔はしたくないとそう言ったのだが、ロックウェルが珍しく大きな声をあげたので驚いて渋々ながらも引き下がった。
「そんなに心配しなくても大丈夫なのに…」
「いいから」
そうして仕方なく掛け布に潜り、大好きなロックウェルの存在を近くに感じながらそっと目を閉じた。
***
ロックウェルは念のためクレイに眠りの魔法をかけてゆっくりと寝かせてやった。
元のクレイが戻ってきてくれた喜びで気づくのが遅くなってしまったが、やはりショック状態から立ち直ったばかりで無理が出たのだろう。
普段病気知らずなだけに心配でならない。
【ロックウェル様。大丈夫でございますよ。我々もついておりますのでご安心下さい】
仕事がそろそろ気になるのではないかと眷属達が心配してくれるが、またクレイが退行状態になったらと思うと少し不安になってしまった。
「いや。今日はこのままついてる」
そしてそっとクレイの寝顔を見ながら早く元気になってくれと願った。
それから眷属が気を利かせて持ってきてくれた家でできる仕事を片付けながらクレイが起きるのを待っていると、やがてゆっくりとその瞳が開かれた。
「クレイ。起きたか?具合はどうだ?」
「……大丈夫だ」
「何か食べれそうか?」
「…少しなら」
その言葉と共に眷属が動いたので、そっと水差しの水を差し出してやる。
「仕事は大丈夫なのか?」
「お前が気にするほどでもない」
実際ココ姫の件で王宮内は穏やかではないが、ショーンとドルトが上手く調整してくれているようなので今日一日くらいならまだ大丈夫だろう。
明日以降尽力すればいいだけの話だ。
だから安心させるように微笑を浮かべ緩く頭を撫でてやると、クレイは困ったようにこちらを向いてきた。
「ロックウェル…母様に会ったか?」
ポツリと呟かれた言葉に首を振って答えてやると、クレイはそうかと言って俯いてしまった。
やはりミュラの件は辛かったのだろうなと、沈痛な思いでただ見つめる事しかできない自分が情けない。
「なあロックウェル。母様の記憶も戻したいと言ったら…お前は俺を止めるか?」
けれど不意に口にされたその意外な言葉に、思わずどう言った心境の変化なのかと驚きを隠せなかった。
彼女の記憶を戻すということは、クレイがまた傷つく可能性が高いというのに。
それに対しクレイは薄く笑って、いいんだと言った。
「今回の件でよくわかったんだ。あの人は記憶があってもなくても、魔力を持った子供ならみんな怖かったんだと…」
「クレイ……」
「ルッツは俺とは全然違うのに…な」
どこか辛さを押し込めたような笑みでその言葉を告げるクレイが痛々しい。
「記憶を戻したらあの人はもうここには来ないだろうし、俺に近づこうともしなくなるはずだ。…もっと早くそうしておけば良かった」
そうしたらルッツを見になんて来なかったはずなのにとクレイは諦めたように笑う。
そんな姿を見て今にもクレイが消えてしまいそうな気がして、慌てて手を伸ばしその身体をしっかりと腕の中へと閉じ込めた。
「クレイ、忘れるな。今のお前の家族は私だ。結婚したら新しい家族の方を大事にするのが普通なんだぞ?お前はそれをちゃんとわかっているか?」
「……ロックウェル」
「お前の家族は誰だ?昔と変わらずドルト殿と母親の二人だけか?」
「いや。…そうだな。俺の家族はお前と…眷属や使い魔達だった」
ドルトの事は大切だし、ミュラの事を想う気持ちはある。
けれど、それでも自分の家族は変わったのだと…クレイは思い出したかのように柔らかく笑った。
その表情に先程までの憂いはない。
「ロックウェル。結婚前は結婚なんてと思っていたが…お前と結婚して良かった」
そう言いながらクレイがはにかむように幸せそうな笑みを浮かべる。
「お前が居てくれて良かった」
そんな言葉になんだかここ最近ずっとあった胸の隙間を全て埋められたかのような気がして、気づけば泣きそうになっている自分がいた。
「ロックウェル?」
どうかしたのかとクレイが驚いたように言ってくるが、正直言葉が出なかった。
今の言葉でこの結婚生活やここ数日の不安が払拭されたような気がする。
結婚なんてしなくていいと言っていた小さなクレイの姿を思い出し、今のクレイと比べて胸が詰まる思いがした。
クレイは自分を必要としてくれている。
ちゃんと…家族として見てくれているのだと、心から嬉しく思った。
その言葉にできない気持ちを代弁するかのようにヒュースがクレイへと伝えてくれる。
【ロックウェル様はずっとご不安だったんですよ。家出もそうですが、結婚という契約でクレイ様を捕まえてはみたものの、クレイ様は結婚前と変わらず無自覚にフラフラなさってましたからね~。それに加えて今回の退行状態でしょう?結婚を否定するような発言もありましたし…ここ数日不安は募るばかり。そんな中、無事に元に戻って安堵していたところでクレイ様が結婚して良かったなんて口にすれば感極まっても仕方がないですよ】
「えっ?!そ、そうか……。退行状態の方はよくわからないが、俺としてはフラフラしている気はなかったんだ。もう結婚したしロックウェル以外のものにならないんだからいいじゃないかと思い込んでたというか…。その……もし俺の行動で不安にさせていたなら悪かった」
そして、今回の家出で愛想を尽かされたと思い初めて焦ったのだとクレイは話してくれる。
「俺は結局ロックウェルが与えてくれる愛情に甘えていたんだ。結婚はゴールだと思ってたけど違ったんだな」
「クレイ……」
【はぁ…クレイ様は本当にズレてますね~。結婚は新しい家族のスタートですよ?もっとロックウェル様を大事にして差し上げて下さい。気づくのが遅すぎます】
「うぅ…っ。すっごく反省してるのにヒュースが冷たい」
【追い込まれてからでないとクレイ様は反省しないでしょうに。何を仰っておられるのやら】
「ひどい!これからはちゃんと大事にするって言ってるだろう?!」
【そうですか。では具体的には?】
「え?」
【口では何とでも言えますからね~】
「……ッ!じゃ、じゃあこれからは出来るだけフラフラしないようにする!」
【出来るんですか?無自覚なのに…】
これまでいくら注意しても流したり大して聞かなかったりしてたでしょうにとまで言われてクレイも言葉に詰まる。
「う…。じゃあドSで虐められてもこの間みたいに逃げない…とか?」
【それじゃやらかした後って事でしょう?本当にクレイ様は……】
「ああもう、煩い煩い!直接ロックウェルと話すから、お前はもう下がってろ!」
そしていつものようにヒュースを追いやり、今度はこちらへと不安そうに視線を向けてくる。
「ロックウェル。これからはもっと考えるようにするしお前を不安にさせないよう頑張るから、ずっと一緒に居てくれないか?」
「もちろんだ」
その返事と共にそっと身を離し笑みを浮かべると、クレイがホッとしたように肩の力を抜いた。
「良かった。あ、でも退行状態の俺の方が素直で好みだったとか…言わないよな?」
けれど安堵したのも束の間、またすぐ見当はずれの心配をし始めたので「それはない」と断言しておいた。
クレイが元に戻る日を自分がどれだけ首を長くして待っていたと思っているのだろう?
「私は対等に愛し合えるお前が好きだ」
それは嘘偽りのない本心からの言葉だった。
「……でもほら、普通可愛げがないより素直な方がいいとかあるだろう?もしそうなら…」
そうだったら?また自分を抑えて明後日方向に努力するとでも?
(冗談じゃない…)
なかなか素直になってくれなくても、今のクレイの方がずっと愛おしいに決まっている。
クレイが元通りになってくれるのを自分がどれだけ心待ちにしていたか────思い知らせてやりたい。
無邪気な子供のクレイよりも夢現の時の素直なありのままの黒魔道士クレイの方がずっと好きだと、わからせてやりたい。
「素直じゃないお前を素直にするのも大好きだし、黒魔道士っぽく押し倒すお前も好きだし、色っぽく悩ましげにしてるのも大好きだ!ここ最近の新しいお前も全部好きだから、遠慮せず全部見せて欲しい」
そう言いながら熱く見つめてやると、クレイは首を傾げた。
「…ここ最近?」
どうやらその言葉で退行状態の時のことと勘違いしたようで、しまったと思った。
つい熱くなりすぎて言葉が足りていなかった。
けれどそこをすかさず眷属達がフォローを入れてくれる。
【ああ、退行状態の時の話ではありませんよ?】
【そうですよ。ロックウェル様はお相手がお子様では食指が動かないのをクレイ様ならよくご存知でしょう?】
「……まあそうだな。ロックウェルの相手で長く持つのはいつだって長く楽しめる大人な相手だった気がする」
どうやらちゃんと方向修正ができたらしい。
さすがクレイと付き合いの長い眷属達は頼りになる。
【ロックウェル様が仰ってるのはですね、こちらに帰ってからの閨のような事ですよ】
【そうです、そうです。大人なロックウェル様はただ押し倒されるだけの相手はつまらないとお思いなのです。その点クレイ様なら相性バッチリですよね】
「……なるほど。それなら俺が沢山楽しませればいいという事だな」
それなら大丈夫だと顔を輝かせたクレイが『どんな風に襲って欲しい?』と聞いてきたので、夢の中のように抱いてみるかと意地悪く返してやった。
果たして一体どんな反応が返ってくるだろうか?
「え……?」
「あんな閨も、たまにならしてもいいからな?」
そう言って笑ってやるとやっと言われている意味が分かったのか、『ギャーッ!』と叫んで真っ赤になりながら枕を投げつけられた。
「なっ…?!えっ?!夢だと思ってたのにーーーー!」
どうして誰も言ってくれなかったんだと言うが、ちゃんと説明があったのを聞いていないクレイが悪いと思う。
「レオがちゃんと言っていただろう?」
「いつ?!何を?!」
「カルトリアに滞在中、私が毎晩お前を愛でに行っていた…と」
「ええっ?!」
寝顔を見にきていただけじゃなかったのかとクレイは言うが、誰もそんなことは言っていない。
「どんなお前も愛しているから、素直に甘えてやりたいことは何でも言ってこい。全部受け止めてやる」
そうして楽し気に笑ってやると頬を染めながらも少し落ち着きを取り戻し、そんなことを言うならもう遠慮なんてしないからなと可愛く睨んで言ってきた。
***
「んんん…ッ」
熱い吐息を吐きながらクレイが甘い声で啼く。
けれど色っぽくこちらを見つめる眼差しはまるで獲物を見つけた女豹のようだ。
ただでさえ久し振りのクレイの身体に興奮しているのに、こんな姿を見せられては魅了されるなという方が無理だった。
「ロックウェル…本当は俺もお前をもっと愛したかった」
「もっと早く言ってくれたら嫉妬なんてしなかったのに…」
そう。これがあったならきっと自分はあんなに周囲に嫉妬なんてしなくて済んだ。
ずっと……自分ばかり夢中になっている気がして嫌だった。
時折クレイが攻めてくるのもどこか物足りなくて、攻めに転じることが多かった。
そうすると今度は蹂躙するばかりになって、それでクレイを手に入れたつもりになったところで他の男と親しげにしているのを見て焦りを覚え、また蹂躙するの繰り返しだった。
結婚しているはずなのにいつまでも花から花を渡りゆく蝶のように掴み所のないクレイ。
ずっとそう思ってきたけれど、それは黒魔道士の本質をどこかでわかっていなかった自分と、こちらに合わせて遠慮していたクレイのただのすれ違いだった。
クレイはちゃんと自分だけのものだとわかってくれていたのに……。
「お前が許してくれるなら、新しいことを沢山試したい」
「どんなことだ?」
「脚を開いてもらってもいいか?」
そんな言葉に素直に従うと、嬉しそうにしながらヨイショと体位を変えて、一度やってみたかったんだと片足だけを持ち上げてきた。
「このままこうして…んっあっ……!」
クレイが腰を揺らめかせながら恍惚とした表情を浮かべたところでキュウゥッといつもとは違う角度で締め付けられて、思わず呻き声を上げてしまう。
正直今すぐ突き上げて滅茶苦茶にしてやりたいほど気持ちが良かった。
「は…ぁ…クレイ……」
「はぁッ!これ、イイだろう?」
「ああ、最高だ…ッ!」
「まだ動くなよ?ここからなんだから」
「早くしろよ?あまり待ってやれそうにないからな」
それと同時に一際強くズンッと突き上げてやると、クレイがたまらないとばかりに嬌声を上げた。
「ひぁあああぁッ!」
ビクンビクンと跳ねる腰を支えつつ動きは止め、笑ってやる。
敏感なのは相変わらずだ。
「ほら、たった一回で一人で勝手にイクな」
「ふぁ…ッ。ず…るい……」
「狡くはない。お前が感じやすいだけだ」
「ん…はぁッ…折角ここからこうしてやろうと思ったのにッ!」
そうして舌で性感帯を攻めつつ、腰は熱を煽るように最高の緩急で揺らし始めた。
「うっ…クレイ!そんなにされたら…ッ」
「ふふっ。イキそうだろう?」
この動きが大好きなのは知ってるんだと言ってくるクレイに、今度はお返しとばかりに弱いところを中心に責め立ててやる。
「んぁあッ!」
頬を染めるクレイが淫らに腰をくねらせるが、それでも負けじと隙を狙ってはやりたい事をこれでもかと試みてきた。
正直最後の方は二人で夢中になって互いを貪りあっていたような気がする。
「あぁんっ!」
甘い声で啼きながらも腰は激しく縦横無尽に動かしてこちらを翻弄してくるクレイの腰を引き寄せて、荒い息で腰を擦り付けるようにしながら強く叩きつけ、時に掻き混ぜ、奥の縁を嬲る。
その度にクレイがたまらないと嬌声を上げる姿に激しく唆られ、より一層繋がっていたい気持ちがいや増していく。
何度も激しく口づけ魔力も溶け合うように交流させて、文字通り溺れあった。
「ん…ふぁあんッ!ロックウェル、そんな奥まで…も、無理……」
そうして二人で息も絶え絶えに満足げに荒い息を整えたところで、やっと回復魔法を口にした。
「クレイ…やっぱり私はお前じゃないと満足できそうにないな」
「……その言い方だとやっぱり浮気する気だったのか?」
「いや?ただ、お子様なお前と過ごして、黒魔道士のお前がとことん好きなんだなと改めて思い知らされただけだ」
自分が好きになったのは、出会ってから後のクレイだった。
だから素直にそう言ってやると、クレイは少し考えてからどこか複雑そうに笑った。
「…おかしいな。お前にそう言われると、レイン家を出たのは立派な黒魔道士になってお前と出会うためだったような気にさえなる」
辛くて家を出たはずなのにとクレイは言うが、クレイがそうして外の世界へ飛び出さなかったら自分たちの出会いもまたなかったと考えれば確かに複雑な気持ちにもなる。
「そうだな。できればそう思ってくれた方が嬉しい。私は今のお前が最高に好きだからな」
チュッと軽く口づけを落としてやると、クレイが擽ったそうに笑った。
「ロックウェル、もう一回だけやらないか?いつも玩具に込められた魔力でもすごく感じるから、下から直に魔力を注いで貰えないか試してみたかったのを忘れていた」
まだ抱かれていたいと甘えるように腕を絡めてねだってくるクレイが、どこまでも愛おしい。
「それは考えたことがなかったな」
魔力交流は普通にしているが、そんな直接的な魔力注入とでも言うような行為は考えたことがなかった。
「それなら私もお前の魔力を感じたいな」
自分が注いでいる時にクレイも口づけで魔力を注いでくれないかと言う意味合いでそう言ったのだが、クレイは違う意味合いで受け取ったらしかった。
「身体の中で魔力交流をするのか?それは考えたことがなかったな。ロックウェルを迎え入れる場所に魔力を溜めるイメージでいいのか?」
そうして、試してみたいからちょっと瞳の封印を解いてみると言い出した。
どうやらそちらの方が繊細な魔力操作ができるかららしい。
「ん…準備はできたから、いつでもきてくれ」
そう言ったクレイに柔らかく笑んでゆっくりと挿れていくと、先程までの感じと全然違いゾワゾワとするような快感に見舞われた。
まさに身体の中での魔力交流と言って差し支えない状況だ。
封印を解いたクレイの濃厚な魔力が直接的に伝わり、自分を快楽へと誘ってくる。
「くっ…これは凄いな」
これでは自分も早めにクレイに魔力を注がないとすぐに持っていかれそうだ。
そう思って自身の魔力を下肢へと集めて、そのままクレイの奥まで突き入れた。
「ひッ!」
それと同時にクレイが慄くように身を仰け反らせたので、しっかりと捕まえてやる。
それはとても不思議な感覚だった。
クレイの中で二人の魔力が渦をなし、溶けて混ざり合い奔流となって迸る───そんな感じだ。
「はッはぁんッ!いやぁ!あつ…熱いぃ…!」
クレイの方はまた感覚が違うのか、先程までの余裕すら一切なく必死に逃げようと身を捩る。
これはやめた方がいいのかと少し思ったが、クレイの表情を見て考え直した。
そこに苦痛はなく、過ぎた快感から逃れようとしているようにしか見えなかったからだ。
元々自分の魔力を感じるのが大好きなクレイだ。
これは相当気持ちが良かったのだろう。
もっと早く試してみれば良かった。
「ロックウェル…身体がおかしい…助けて…」
目を潤ませて訴えてくるが、キュッと締め付けられては欲しいと言われているのと同じだ。
「クレイ。ちゃんと熱を鎮めてやるから、もう少しだけ我慢しような」
そうして舌舐めずりをしながら腰をしっかりと掴み、酔いそうなほど気持ちいい中を責め始めた。
実際クレイの魔力に酔っていたのかもしれない。
悲鳴のような嬌声を上げるクレイに魔力を送り込み、より深く奥へと突き立てるように入り口を手で割り広げ、激しく奥まで犯しつくす。
「ひやぁああッ!今はそれ、ダメェええッ!」
女の子宮口のようなS字結腸の入り口をこじ開け、責め立てる。
「こんなのダメ!そんな奥に魔力を注がれたら、気持ち良すぎて死ぬ…!」
「死ぬほど好き…の間違いだろう?ほら、気にせず飛べ」
「んひっ!ンァああああっ!ひぃっ、イクーーーーーッ!」
そしてクレイが何度目かの絶頂を迎えた瞬間、その迸る魔力がまるで暴走したかのように膨らんで、部屋全体を眩しい閃光で包み込んだ。
「……!」
驚いてクレイの奥まで勢いよく注いでしまったところでクレイが激しく身を震わせながら意識を飛ばしたので、慌てて支えて回復魔法を唱えてやる。
「クレイ、大丈夫か?」
「ん…ッ。ロックウェル…?」
「魔力が暴走したみたいだ。私は問題なさそうだが、お前はどこか異常はないか?」
「え?……少し魔力がいつもより多い気がするけど、大丈夫…だと思う…」
そして自分の状態を確認し、次いで身体がすごく怠い気がすると言い出したので再度強めに回復してやった。
そして二人でホッと息を吐いたところで、徐に眷属達が騒ぎ始めた。
【魔物が生まれた!】
【おやまぁ。こんなことがあるんですね~。人同士の交流で魔物が生まれるなんて初めて見ましたよ】
【クレイ様の魔力がそもそも高いせいでは?】
【ロックウェル様もクレイ様の魔力に引っ張られてかなり魔力が上がっていますしね】
【それより体内で直接魔力を交流させたことが要因では?】
ワイワイと興奮したように話す眷属達に首を傾げてしまう。
一体何が起こったと言うのだろう?
「ヒュース。何があった?」
そうして尋ねてみると、ヒュースはこちらへと視線をやり、そっと子供のような姿をした魔物をこちらへと連れてきた。
【お二人の魔力を元にして生まれた魔物です】
通常魔物は魔力が高まっている場所で自然発生的に生まれるものらしいのだが、今回前代未聞の方法で行われた魔力交流の影響で、偶発的にその魔物がこの場に生まれてしまったようだと言う。
その魔物は小さな子供のような姿ではあるが、背にドラゴンの羽のようなものが生え、目はクレイと同じような輝くようなアメジスト・アイだった。
(クレイの子供みたいだな)
そう思っていると、クレイが興味深げにそちらを見やりその姿を目に入れた途端目を輝かせた。
「可愛い!顔立ちがロックウェルそっくりだ!」
黒銀に煌めく髪に白磁の肌を持つその姿は自分とはあまり似ていないようにも見えるが、クレイはその魔物を嬉々として抱き寄せて、頬ずりし始めてしまった。
「知的な雰囲気もそうだが、このちょっとクールに見えるところなんてロックウェルによく似てる!最高だな!」
【クレイ様…びっくりしていますよ?せめて先に名前をつけてやっては?】
「え?ああそうか。生まれたばかりで名がまだないのか」
そこでクレイがこちらを向いて笑顔で言った。
「ロックウェル、何か名を与えてやってくれ」
「いいのか?」
「ああ」
そう促され、暫し考え口を開く。
「では『ラピス』と」
「ラピス!良い名だな」
その名にクレイが嬉しそうに笑い、その子供に名を教えてやっていた。
奔流からもじった名だが気に入ってもらえるだろうか?
そう思っていると、その魔物は初めて嬉しそうに微笑んだ。
どうやら気に入ったらしい。
「今日からここで暮らしていいからな」
そんなクレイの言葉にもコクリと素直に頷いている。
【ではラピスの事は我々にお任せになって、お二人でシャワーでも浴びてきてください】
【そうですよ。ちゃんとお休みになって、また明日ゆっくりとお戯れ下さい】
眷属達からの言葉を受けてラピスを一先ず彼らへ任せ、今日はシャワーを浴びてゆっくりと休むことにしたのだった。
一体何があったのだろう?
確かルッツを抱っこしてフローリアと話していて……。
そこでハッとしながらガバッと飛び起きた。
「母様?!」
そうだ。確か母がルッツに会いに突然やってきたのだ。
バクバクと心臓が弾む。
けれど不思議とそんな自分を冷静に見られる自分を感じた。
「?」
そうして首を傾げていると、徐に眷属達が姿を見せた。
【クレイ様!もしやお戻りになられましたか?】
【ご自身のご年齢はお分かりになられますか?】
【ロックウェル様の役職を言えますか?】
心配そうに矢継ぎ早に色々言われて、一体何がと混乱してしまう。
「……質問は後だ。母様は?帰ったのか?」
その問い掛けに、コートがいち早く答えてくれる。
【はい。ドルト殿が迎えに来て下さいまして】
「そうか」
それは良かったとホッと息を吐く。
仕事で忙しいのに手間をかけさせて申し訳なかったが、自分が倒れてしまったのであればそれは致し方のないことだっただろう。
流石にフローリアにどうこうする事はできなかっただろうから……。
「心配を掛けてすまなかった。やけに心配してそうだったが、倒れた時に頭でも打ったのか?」
もう大丈夫だからと次々と眷属達の頭を撫でてやると、彼らの口から詳細を話してもらうことができた。
聞く限りどうやら当初は精神的にかなり危険な状況だったらしく、フローリアから教えられた魔法でロックウェルが助けてくれたのはいいが、三日ほどその副作用で幼児化していたらしい。
正直それほどショックだったのかと唖然としてしまう。
情けない上に、更なる醜態を晒してしまったなんて────…居た堪れない。
「……恥ずかしい」
【まあまあ。結果的には良かったのでは?】
【そうですよ。クレイ様に何かあれば我々も正気ではいられませんので】
【それにお可愛らしかったですよ?ご本人は夢と思い込んでいたので当時より少々元気よく羽目を外されてましたが、楽しそうにお過ごしでした】
「そうか」
口々に慰めてくれる眷属達の言葉に癒されながら、幼児化した自分はどんな感じだったのだろうとつい考えてしまう。
母に嫌われ拒否されるたびに表情を失くしていっていた時期に救ってくれたのがヒュース達で、一緒に過ごすうちに感情も戻ったように思う。
7、8才頃と言うとちょうど好奇心旺盛な時期で、ヒュース達に外に出てみたいとポツポツ零していた頃でもあった。
つまらない日々に鬱々としていたせいか、そのタイミングで影渡りを教えてもらった気がする。
それでこっそりと人目につかない場所に行っては本を読むのが好きだった。
その時に世界は広いのだと知り、色々なことに興味を持った。
その中でも魔道書はとりわけ楽しかったように思う。
難しい本はまださっぱりわからなかったが、そういうのはタイトルだけ覚えておいて大きくなってからまた来て読めばいいとヒュース達に教えられたので暇さえあれば自分に読める物を中心に貪欲に読み耽った。
「懐かしいな」
あれらの書物は今でも自分の中で息づいて、応用魔法の基礎を支えてくれているように思う。
そうやって当時を思い返していると、勢いよく部屋の扉が開かれロックウェルが飛び込んで来た。
「クレイ!」
「ロックウェル……」
その焦燥感を色濃く滲ませる姿に心配を掛けてしまったのだと一目でわかり、申し訳ない気持ちになってしまう。
ここ数日一体どれだけ気を揉ませてしまったのだろうか。
「クレイ…!」
思い切り抱きしめられて、自分もまた抱きしめ返す。
そしてその温もりにホッとしながら素直に謝罪の言葉を口にした。
「ロックウェル。心配を掛けて悪かった」
それなのに何故か激しく口づけられて驚いてしまう。
「ん…ッ?!んっんっ…」
気持ちいいのは構わないが『いきなり何だ』と文句を言うこともできないので、隙を見て落ち着けと宥めるように舌で舌裏あたりをチロチロと舐めてやった。
するとまた思い切り嬉しそうに甘く口づけられたので、これ以上はまずいとそっと身を離そうと身動いだ。
「ロックウェル、これ以上はやめろ。まだ明るいし、朝じゃないのか?」
そう言えば今は何時なのか。
眷属達は三日ほど退行状態だったと言っていたが、母があの日ここに来たのは午後からだった。けれど今現在外は昼下がりと言う感じの時間帯ではなさそうだ。
この分だともしかしたら三日半ほど過ぎているのではないだろうか?
その間ちゃんと仕事に行っていたと信じたいが、もし三日以上ロックウェルが自分のせいで仕事を休んでいたとしたら────そのせいで仕事に差し障りが出てしまっていたら……。
ここは取り敢えず今日のところは仕事に行ってもらって、後でヒュースに確認を取った方がよさそうだと溜息を吐いた。
「仕事を休ませたくはないし、俺はもう大丈夫だからちゃんと王宮に行ってこい」
「……クレイだな」
「…?俺は俺だ。子供の時分と比べるな」
いきなり仕事の話を持ち出したのが悪かったのだろうか?
可愛げがなくて悪かったなと不貞腐れると、何故か妙に機嫌が良さそうに今度は抱き上げられてしまった。
「ちょっ…!放せ!」
「放さない。お前がどれだけ好きか思い知らされたから、今日はこのまま一緒に居たい」
「???!」
「仕事が気になると言うなら、王宮までついて来てくれるか?」
どこまでも甘い雰囲気を醸し出すロックウェルに一体どうしたのかと問いたくて仕方がない。
そんなにも自分を大事に想ってくれているとでも言うのだろうか?
見る限り、自分のことが好きでたまらないと言う感じだ。
(嬉しい……)
素直にそう思って、ついそのまま身を寄せ甘えそうになったところでハッと我に返る。
────確かロックウェルには王宮に想い人がいるのではなかっただろうか?
そう言えばそのあたりがさっぱりわからないまま倒れてしまったのだ。
今はただ突然こんなことになってしまった自分への心配からここに居てくれているのだろうが、落ち着いたらきっとまたその想い人の方へ行ってしまうことだろう。
うかうかしているわけにはいかない。
「…………お前の想い人がいるなら見に行く」
いつもなら行かないと突っぱねるところだが、身を任せたいと思ったついでにロックウェルの気にかけている相手がいるなら見ておきたいとそう口にしてみた。
ロックウェルをこちらに向かせる上で相手のことは一応知っておきたい。
けれどそれを聞いたロックウェルは目を瞠った後、深く息を吐き出してくる。
「お前は…まだ勘違いしているのか?」
「?」
言われている意味がわからず、首を傾げてしまう。
一体どういう意味なのだろう?
けれどそんな自分を真っ直ぐに見つめ、ロックウェルは真剣な表情で言葉を紡いだ。
「私はお前だけだと何度も言ってきたつもりだが?」
「いや…。それはリップサービスだろう?」
でなければカルトリアの件で嫉妬していない理由がわからないと言ってやる。
けれどここで眷属達のフォローが入った。
【クレイ様が魔王城にお泊りの際の事ですか?毎晩クレイ様の寝顔を見にいらしてたので、浮気などしてないとご存知だっただけですよ】
【そうですよ。ロックウェル様は毎晩クレイ様を愛でてご満悦だっただけで、浮気とかではないです】
そんな言葉の数々に真っ赤になってしまう。
まさか毎晩寝顔が見られていたなんて、思いもよらなかった。
「ね…寝言とか、何か言ってなかったか?」
【寝言ですか?特に仰ってなかったと思いますが】
そんな言葉にホッと息を吐く。
夢の内容が内容だっただけに恥ずかしかったのだ。
「ならいい」
「わかってくれたか?」
ロックウェルからのその言葉に渋々頷き、その表情を見やると自分が大好きな笑顔で笑ってくれた。
「……取り敢えず、恥ずかしいから降ろせ」
未だに抱き上げられている自分が居たたまれなくてそう頼むが、ロックウェルはなかなか降ろしてくれなかった。
「王宮に着いたらな」
「~~~~っ!行かない!」
「さっきは行くと言ってくれただろう?」
「う、浮気じゃなかったなら行かなくてもいいだろう?!」
「……つれないな」
そう言いながらもロックウェルは一応下へと降ろしてくれたので着替えようと一歩踏み出したのだが、まだ少し頭がふらついていたようで転びそうになった。
「クレイ!」
咄嗟にロックウェルが支えてくれるが、思わず頭を押さえてしまう。
「悪いな。どうも頭がフラついてるみたいだ。ちょっと休めば大丈夫だと思うから…」
けれどそう言った途端すぐにまた抱き上げられて、すぐさま寝台へと寝かされ回復魔法までかけられた。
「ついててやるからおとなしく寝ておけ」
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃない!」
ここで仕事の邪魔はしたくないとそう言ったのだが、ロックウェルが珍しく大きな声をあげたので驚いて渋々ながらも引き下がった。
「そんなに心配しなくても大丈夫なのに…」
「いいから」
そうして仕方なく掛け布に潜り、大好きなロックウェルの存在を近くに感じながらそっと目を閉じた。
***
ロックウェルは念のためクレイに眠りの魔法をかけてゆっくりと寝かせてやった。
元のクレイが戻ってきてくれた喜びで気づくのが遅くなってしまったが、やはりショック状態から立ち直ったばかりで無理が出たのだろう。
普段病気知らずなだけに心配でならない。
【ロックウェル様。大丈夫でございますよ。我々もついておりますのでご安心下さい】
仕事がそろそろ気になるのではないかと眷属達が心配してくれるが、またクレイが退行状態になったらと思うと少し不安になってしまった。
「いや。今日はこのままついてる」
そしてそっとクレイの寝顔を見ながら早く元気になってくれと願った。
それから眷属が気を利かせて持ってきてくれた家でできる仕事を片付けながらクレイが起きるのを待っていると、やがてゆっくりとその瞳が開かれた。
「クレイ。起きたか?具合はどうだ?」
「……大丈夫だ」
「何か食べれそうか?」
「…少しなら」
その言葉と共に眷属が動いたので、そっと水差しの水を差し出してやる。
「仕事は大丈夫なのか?」
「お前が気にするほどでもない」
実際ココ姫の件で王宮内は穏やかではないが、ショーンとドルトが上手く調整してくれているようなので今日一日くらいならまだ大丈夫だろう。
明日以降尽力すればいいだけの話だ。
だから安心させるように微笑を浮かべ緩く頭を撫でてやると、クレイは困ったようにこちらを向いてきた。
「ロックウェル…母様に会ったか?」
ポツリと呟かれた言葉に首を振って答えてやると、クレイはそうかと言って俯いてしまった。
やはりミュラの件は辛かったのだろうなと、沈痛な思いでただ見つめる事しかできない自分が情けない。
「なあロックウェル。母様の記憶も戻したいと言ったら…お前は俺を止めるか?」
けれど不意に口にされたその意外な言葉に、思わずどう言った心境の変化なのかと驚きを隠せなかった。
彼女の記憶を戻すということは、クレイがまた傷つく可能性が高いというのに。
それに対しクレイは薄く笑って、いいんだと言った。
「今回の件でよくわかったんだ。あの人は記憶があってもなくても、魔力を持った子供ならみんな怖かったんだと…」
「クレイ……」
「ルッツは俺とは全然違うのに…な」
どこか辛さを押し込めたような笑みでその言葉を告げるクレイが痛々しい。
「記憶を戻したらあの人はもうここには来ないだろうし、俺に近づこうともしなくなるはずだ。…もっと早くそうしておけば良かった」
そうしたらルッツを見になんて来なかったはずなのにとクレイは諦めたように笑う。
そんな姿を見て今にもクレイが消えてしまいそうな気がして、慌てて手を伸ばしその身体をしっかりと腕の中へと閉じ込めた。
「クレイ、忘れるな。今のお前の家族は私だ。結婚したら新しい家族の方を大事にするのが普通なんだぞ?お前はそれをちゃんとわかっているか?」
「……ロックウェル」
「お前の家族は誰だ?昔と変わらずドルト殿と母親の二人だけか?」
「いや。…そうだな。俺の家族はお前と…眷属や使い魔達だった」
ドルトの事は大切だし、ミュラの事を想う気持ちはある。
けれど、それでも自分の家族は変わったのだと…クレイは思い出したかのように柔らかく笑った。
その表情に先程までの憂いはない。
「ロックウェル。結婚前は結婚なんてと思っていたが…お前と結婚して良かった」
そう言いながらクレイがはにかむように幸せそうな笑みを浮かべる。
「お前が居てくれて良かった」
そんな言葉になんだかここ最近ずっとあった胸の隙間を全て埋められたかのような気がして、気づけば泣きそうになっている自分がいた。
「ロックウェル?」
どうかしたのかとクレイが驚いたように言ってくるが、正直言葉が出なかった。
今の言葉でこの結婚生活やここ数日の不安が払拭されたような気がする。
結婚なんてしなくていいと言っていた小さなクレイの姿を思い出し、今のクレイと比べて胸が詰まる思いがした。
クレイは自分を必要としてくれている。
ちゃんと…家族として見てくれているのだと、心から嬉しく思った。
その言葉にできない気持ちを代弁するかのようにヒュースがクレイへと伝えてくれる。
【ロックウェル様はずっとご不安だったんですよ。家出もそうですが、結婚という契約でクレイ様を捕まえてはみたものの、クレイ様は結婚前と変わらず無自覚にフラフラなさってましたからね~。それに加えて今回の退行状態でしょう?結婚を否定するような発言もありましたし…ここ数日不安は募るばかり。そんな中、無事に元に戻って安堵していたところでクレイ様が結婚して良かったなんて口にすれば感極まっても仕方がないですよ】
「えっ?!そ、そうか……。退行状態の方はよくわからないが、俺としてはフラフラしている気はなかったんだ。もう結婚したしロックウェル以外のものにならないんだからいいじゃないかと思い込んでたというか…。その……もし俺の行動で不安にさせていたなら悪かった」
そして、今回の家出で愛想を尽かされたと思い初めて焦ったのだとクレイは話してくれる。
「俺は結局ロックウェルが与えてくれる愛情に甘えていたんだ。結婚はゴールだと思ってたけど違ったんだな」
「クレイ……」
【はぁ…クレイ様は本当にズレてますね~。結婚は新しい家族のスタートですよ?もっとロックウェル様を大事にして差し上げて下さい。気づくのが遅すぎます】
「うぅ…っ。すっごく反省してるのにヒュースが冷たい」
【追い込まれてからでないとクレイ様は反省しないでしょうに。何を仰っておられるのやら】
「ひどい!これからはちゃんと大事にするって言ってるだろう?!」
【そうですか。では具体的には?】
「え?」
【口では何とでも言えますからね~】
「……ッ!じゃ、じゃあこれからは出来るだけフラフラしないようにする!」
【出来るんですか?無自覚なのに…】
これまでいくら注意しても流したり大して聞かなかったりしてたでしょうにとまで言われてクレイも言葉に詰まる。
「う…。じゃあドSで虐められてもこの間みたいに逃げない…とか?」
【それじゃやらかした後って事でしょう?本当にクレイ様は……】
「ああもう、煩い煩い!直接ロックウェルと話すから、お前はもう下がってろ!」
そしていつものようにヒュースを追いやり、今度はこちらへと不安そうに視線を向けてくる。
「ロックウェル。これからはもっと考えるようにするしお前を不安にさせないよう頑張るから、ずっと一緒に居てくれないか?」
「もちろんだ」
その返事と共にそっと身を離し笑みを浮かべると、クレイがホッとしたように肩の力を抜いた。
「良かった。あ、でも退行状態の俺の方が素直で好みだったとか…言わないよな?」
けれど安堵したのも束の間、またすぐ見当はずれの心配をし始めたので「それはない」と断言しておいた。
クレイが元に戻る日を自分がどれだけ首を長くして待っていたと思っているのだろう?
「私は対等に愛し合えるお前が好きだ」
それは嘘偽りのない本心からの言葉だった。
「……でもほら、普通可愛げがないより素直な方がいいとかあるだろう?もしそうなら…」
そうだったら?また自分を抑えて明後日方向に努力するとでも?
(冗談じゃない…)
なかなか素直になってくれなくても、今のクレイの方がずっと愛おしいに決まっている。
クレイが元通りになってくれるのを自分がどれだけ心待ちにしていたか────思い知らせてやりたい。
無邪気な子供のクレイよりも夢現の時の素直なありのままの黒魔道士クレイの方がずっと好きだと、わからせてやりたい。
「素直じゃないお前を素直にするのも大好きだし、黒魔道士っぽく押し倒すお前も好きだし、色っぽく悩ましげにしてるのも大好きだ!ここ最近の新しいお前も全部好きだから、遠慮せず全部見せて欲しい」
そう言いながら熱く見つめてやると、クレイは首を傾げた。
「…ここ最近?」
どうやらその言葉で退行状態の時のことと勘違いしたようで、しまったと思った。
つい熱くなりすぎて言葉が足りていなかった。
けれどそこをすかさず眷属達がフォローを入れてくれる。
【ああ、退行状態の時の話ではありませんよ?】
【そうですよ。ロックウェル様はお相手がお子様では食指が動かないのをクレイ様ならよくご存知でしょう?】
「……まあそうだな。ロックウェルの相手で長く持つのはいつだって長く楽しめる大人な相手だった気がする」
どうやらちゃんと方向修正ができたらしい。
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【そうです、そうです。大人なロックウェル様はただ押し倒されるだけの相手はつまらないとお思いなのです。その点クレイ様なら相性バッチリですよね】
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そうして楽し気に笑ってやると頬を染めながらも少し落ち着きを取り戻し、そんなことを言うならもう遠慮なんてしないからなと可愛く睨んで言ってきた。
***
「んんん…ッ」
熱い吐息を吐きながらクレイが甘い声で啼く。
けれど色っぽくこちらを見つめる眼差しはまるで獲物を見つけた女豹のようだ。
ただでさえ久し振りのクレイの身体に興奮しているのに、こんな姿を見せられては魅了されるなという方が無理だった。
「ロックウェル…本当は俺もお前をもっと愛したかった」
「もっと早く言ってくれたら嫉妬なんてしなかったのに…」
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時折クレイが攻めてくるのもどこか物足りなくて、攻めに転じることが多かった。
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「どんなことだ?」
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そんな言葉に素直に従うと、嬉しそうにしながらヨイショと体位を変えて、一度やってみたかったんだと片足だけを持ち上げてきた。
「このままこうして…んっあっ……!」
クレイが腰を揺らめかせながら恍惚とした表情を浮かべたところでキュウゥッといつもとは違う角度で締め付けられて、思わず呻き声を上げてしまう。
正直今すぐ突き上げて滅茶苦茶にしてやりたいほど気持ちが良かった。
「は…ぁ…クレイ……」
「はぁッ!これ、イイだろう?」
「ああ、最高だ…ッ!」
「まだ動くなよ?ここからなんだから」
「早くしろよ?あまり待ってやれそうにないからな」
それと同時に一際強くズンッと突き上げてやると、クレイがたまらないとばかりに嬌声を上げた。
「ひぁあああぁッ!」
ビクンビクンと跳ねる腰を支えつつ動きは止め、笑ってやる。
敏感なのは相変わらずだ。
「ほら、たった一回で一人で勝手にイクな」
「ふぁ…ッ。ず…るい……」
「狡くはない。お前が感じやすいだけだ」
「ん…はぁッ…折角ここからこうしてやろうと思ったのにッ!」
そうして舌で性感帯を攻めつつ、腰は熱を煽るように最高の緩急で揺らし始めた。
「うっ…クレイ!そんなにされたら…ッ」
「ふふっ。イキそうだろう?」
この動きが大好きなのは知ってるんだと言ってくるクレイに、今度はお返しとばかりに弱いところを中心に責め立ててやる。
「んぁあッ!」
頬を染めるクレイが淫らに腰をくねらせるが、それでも負けじと隙を狙ってはやりたい事をこれでもかと試みてきた。
正直最後の方は二人で夢中になって互いを貪りあっていたような気がする。
「あぁんっ!」
甘い声で啼きながらも腰は激しく縦横無尽に動かしてこちらを翻弄してくるクレイの腰を引き寄せて、荒い息で腰を擦り付けるようにしながら強く叩きつけ、時に掻き混ぜ、奥の縁を嬲る。
その度にクレイがたまらないと嬌声を上げる姿に激しく唆られ、より一層繋がっていたい気持ちがいや増していく。
何度も激しく口づけ魔力も溶け合うように交流させて、文字通り溺れあった。
「ん…ふぁあんッ!ロックウェル、そんな奥まで…も、無理……」
そうして二人で息も絶え絶えに満足げに荒い息を整えたところで、やっと回復魔法を口にした。
「クレイ…やっぱり私はお前じゃないと満足できそうにないな」
「……その言い方だとやっぱり浮気する気だったのか?」
「いや?ただ、お子様なお前と過ごして、黒魔道士のお前がとことん好きなんだなと改めて思い知らされただけだ」
自分が好きになったのは、出会ってから後のクレイだった。
だから素直にそう言ってやると、クレイは少し考えてからどこか複雑そうに笑った。
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辛くて家を出たはずなのにとクレイは言うが、クレイがそうして外の世界へ飛び出さなかったら自分たちの出会いもまたなかったと考えれば確かに複雑な気持ちにもなる。
「そうだな。できればそう思ってくれた方が嬉しい。私は今のお前が最高に好きだからな」
チュッと軽く口づけを落としてやると、クレイが擽ったそうに笑った。
「ロックウェル、もう一回だけやらないか?いつも玩具に込められた魔力でもすごく感じるから、下から直に魔力を注いで貰えないか試してみたかったのを忘れていた」
まだ抱かれていたいと甘えるように腕を絡めてねだってくるクレイが、どこまでも愛おしい。
「それは考えたことがなかったな」
魔力交流は普通にしているが、そんな直接的な魔力注入とでも言うような行為は考えたことがなかった。
「それなら私もお前の魔力を感じたいな」
自分が注いでいる時にクレイも口づけで魔力を注いでくれないかと言う意味合いでそう言ったのだが、クレイは違う意味合いで受け取ったらしかった。
「身体の中で魔力交流をするのか?それは考えたことがなかったな。ロックウェルを迎え入れる場所に魔力を溜めるイメージでいいのか?」
そうして、試してみたいからちょっと瞳の封印を解いてみると言い出した。
どうやらそちらの方が繊細な魔力操作ができるかららしい。
「ん…準備はできたから、いつでもきてくれ」
そう言ったクレイに柔らかく笑んでゆっくりと挿れていくと、先程までの感じと全然違いゾワゾワとするような快感に見舞われた。
まさに身体の中での魔力交流と言って差し支えない状況だ。
封印を解いたクレイの濃厚な魔力が直接的に伝わり、自分を快楽へと誘ってくる。
「くっ…これは凄いな」
これでは自分も早めにクレイに魔力を注がないとすぐに持っていかれそうだ。
そう思って自身の魔力を下肢へと集めて、そのままクレイの奥まで突き入れた。
「ひッ!」
それと同時にクレイが慄くように身を仰け反らせたので、しっかりと捕まえてやる。
それはとても不思議な感覚だった。
クレイの中で二人の魔力が渦をなし、溶けて混ざり合い奔流となって迸る───そんな感じだ。
「はッはぁんッ!いやぁ!あつ…熱いぃ…!」
クレイの方はまた感覚が違うのか、先程までの余裕すら一切なく必死に逃げようと身を捩る。
これはやめた方がいいのかと少し思ったが、クレイの表情を見て考え直した。
そこに苦痛はなく、過ぎた快感から逃れようとしているようにしか見えなかったからだ。
元々自分の魔力を感じるのが大好きなクレイだ。
これは相当気持ちが良かったのだろう。
もっと早く試してみれば良かった。
「ロックウェル…身体がおかしい…助けて…」
目を潤ませて訴えてくるが、キュッと締め付けられては欲しいと言われているのと同じだ。
「クレイ。ちゃんと熱を鎮めてやるから、もう少しだけ我慢しような」
そうして舌舐めずりをしながら腰をしっかりと掴み、酔いそうなほど気持ちいい中を責め始めた。
実際クレイの魔力に酔っていたのかもしれない。
悲鳴のような嬌声を上げるクレイに魔力を送り込み、より深く奥へと突き立てるように入り口を手で割り広げ、激しく奥まで犯しつくす。
「ひやぁああッ!今はそれ、ダメェええッ!」
女の子宮口のようなS字結腸の入り口をこじ開け、責め立てる。
「こんなのダメ!そんな奥に魔力を注がれたら、気持ち良すぎて死ぬ…!」
「死ぬほど好き…の間違いだろう?ほら、気にせず飛べ」
「んひっ!ンァああああっ!ひぃっ、イクーーーーーッ!」
そしてクレイが何度目かの絶頂を迎えた瞬間、その迸る魔力がまるで暴走したかのように膨らんで、部屋全体を眩しい閃光で包み込んだ。
「……!」
驚いてクレイの奥まで勢いよく注いでしまったところでクレイが激しく身を震わせながら意識を飛ばしたので、慌てて支えて回復魔法を唱えてやる。
「クレイ、大丈夫か?」
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そうして尋ねてみると、ヒュースはこちらへと視線をやり、そっと子供のような姿をした魔物をこちらへと連れてきた。
【お二人の魔力を元にして生まれた魔物です】
通常魔物は魔力が高まっている場所で自然発生的に生まれるものらしいのだが、今回前代未聞の方法で行われた魔力交流の影響で、偶発的にその魔物がこの場に生まれてしまったようだと言う。
その魔物は小さな子供のような姿ではあるが、背にドラゴンの羽のようなものが生え、目はクレイと同じような輝くようなアメジスト・アイだった。
(クレイの子供みたいだな)
そう思っていると、クレイが興味深げにそちらを見やりその姿を目に入れた途端目を輝かせた。
「可愛い!顔立ちがロックウェルそっくりだ!」
黒銀に煌めく髪に白磁の肌を持つその姿は自分とはあまり似ていないようにも見えるが、クレイはその魔物を嬉々として抱き寄せて、頬ずりし始めてしまった。
「知的な雰囲気もそうだが、このちょっとクールに見えるところなんてロックウェルによく似てる!最高だな!」
【クレイ様…びっくりしていますよ?せめて先に名前をつけてやっては?】
「え?ああそうか。生まれたばかりで名がまだないのか」
そこでクレイがこちらを向いて笑顔で言った。
「ロックウェル、何か名を与えてやってくれ」
「いいのか?」
「ああ」
そう促され、暫し考え口を開く。
「では『ラピス』と」
「ラピス!良い名だな」
その名にクレイが嬉しそうに笑い、その子供に名を教えてやっていた。
奔流からもじった名だが気に入ってもらえるだろうか?
そう思っていると、その魔物は初めて嬉しそうに微笑んだ。
どうやら気に入ったらしい。
「今日からここで暮らしていいからな」
そんなクレイの言葉にもコクリと素直に頷いている。
【ではラピスの事は我々にお任せになって、お二人でシャワーでも浴びてきてください】
【そうですよ。ちゃんとお休みになって、また明日ゆっくりとお戯れ下さい】
眷属達からの言葉を受けてラピスを一先ず彼らへ任せ、今日はシャワーを浴びてゆっくりと休むことにしたのだった。
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それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
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