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第4章 杜の都

第244話 えっ!? マー族って何!?

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 エルフ王国の王都は、なぎの公国の公都に比べると緑が多いという印象だ。

 俺たちはイケメン司祭パトリックの案内で王都の中を徒歩で進んでいるんだが、家と樹の距離が近いんだわ。ツリーハウスって言うのか? 樹の上にまで家があると言うのは新鮮に見えたね。

 あ~樹の上と言うか、あれは樹のうろを家として改造してるのか。

 ありゃあ、なるだけ樹を切らないというエルフの矜持プライドのなせる業ってやつだろう。

 俺の知らない【魔法】があるのかも知れねえしな。

 それと、王都の中は予想通りエルフ語だ。何を言ってるのかさっぱり解らん。

 家兼店舗の軒先から聞こえて来る声も、屋台で物や手軽に食べれる料理を売ってる声も、全部エルフ語だ。ま、見渡す限りエルフしか居ねえんだから、同然と言えば同然だな。

 いや、エルフ以外にもチラホラ建物の中とか、裏路地に獣人も居るな。

 行商か?

 首輪をしてるようには見えなかったから、ここに来たお供かもな。楽しそうな顔はしてなかったが……まあ、今んとこ俺らにゃ関係ねえことだ。

 「はい、ハクト」

 「お、ありがとな」

 プルシャンとマリアが大きな葉っぱの皿に串焼きを載せて持って来たのを、一本ひょいと摘まみ上げる。何の肉かまではわからねえが、美味そうな匂いはする。

 「美味うめえ」

 口の中に肉汁と、肉の旨味が広がる。

 「うむ。久し振りの屋台物だな」

 「マギーの料理のおいしいけど、屋台も良いよね~」

 「畏れ入ります。この味付けも加えますね」

 塩味だけじゃねえな。何か香草の葉を混ぜた塩ハーブソルトを振って焼いてるのか?

 「ご主人。この香草は都の市場でも手に入りますか?」

 んな事考えてたら、マギーが串焼きの屋台の主人に声を掛けてたよ。早えな。美男子と言うよりも、さっきの詰所に居たような、渋めのおっさんエルフだ。

 「エルフの都は、香草焼きが名物なのよ。屋台やお店によって香草の種類や配合を変えてるから、多分同じ味は無いはずよ?」

 器用に、軽く噛んで串から肉を引き抜いて頬張るマリアが横で自慢する。

 なるほどな。そりゃ美味いはずだぜ。どの店も同じ味なら競争する意味はねえが、「ウチの味が1番!」ってやってるんなら名物になるのもうなずける。

 しっかし……見渡す限り、豚みたいな体型のエルフは居ねえのよ。串肉にかじり付きながら視線を動かすが、美男美女しか居ねえのさ。

 眼福と言っちゃあ眼福だが、野郎に限って言えば落ち着かねえ。



 いや、ひがんでる訳じゃねえぞ?



 今更どうこう言っても、俺は兎だ。

 兎人族から見て俺がどう見えるのか、いまいち掴めてねえ。ああ、雪毛ゆきげは別の話だ。雪毛の兎人がどういう立ち位置にあるのかは、流石に言われなくても解ってる。



 この兎顔は、不細工ぶさいくなのか、イケメンなのかって話だ。



 真面まともに話したのは、公都の黒兎野郎とプラムだけだからな。プラムは大好きオーラ全開だから、俺の顔がどうとかいう話をしても、返って来る答えは想像できる。

 野郎とは、んな話はしたくねえ。

 ま、気にしてる段階で僻んでるんだろうな。きっと。

 一つの葉皿はざらの上に串は5本ずつある。気が付いたら、俺ら5人で食べ尽くしてたわ。串は竹っぽい質感なんだ。この世界に竹が在るのかどうか分らん。

 まあ、異世界化したかえでがあるくらいだ。竹に似た何かがあっても可怪しくはねえ。

 「どうですか? 良いところでしょ?」

 「今のとこはな」

 イケメン司祭パトリックの問いに、首をかしげながら答えておく。

 良い街には見えるが、そりゃ上辺うわべだけだ。何ったって見るもの全部が初見なんだからよ。安易に「そうだな」って言えるか。

 「さ、皆さん、こちらです。この右の大通りを進んだところに神殿がありますので、足を止めずに行きましょう」

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、パトッリクの奴はいつもの通りニコリと微笑みながら俺たちを促す。本当、食えねえ奴だぜ。

 その右手の向いた大通りの先から、焼き上がったパンの香ばしい匂いが微風そよかぜに乗って俺たちの鼻をくすぐると、逃げて行った――。



                 ◆◇◆



 あれから2時間は歩いたんじゃねえか?

 時計ってもんがねえから正確には判らんが、それでもかなり歩いたと思うぞ?

 これまで森の中を歩いてたってえのもあるし、今朝は石畳に舗装された道を歩いて来たからな。都も基本石畳だしよ。土の上を歩くよりかは足に疲れがたまりやすいみてえだわ。そんな感覚も相まって、余計に歩いたって感じてるかもしれんが……。

 太陽の向きからすると、東側の地区に来た感じか?

 神殿に辿たどり着く前に、嫁さんたちが色々と寄り道して買い漁ったってえのもある。

 あ~俺?

 お察しの通り、店には入らずパトリックたちと通りで待ちぼうけさ。

 試しに一番後から店に入ろうとしたんだが、雪毛お断りだってよ。やれやれ。

 あと、俺たちの頭に生えてる双葉ふたばな。どうやら、ほとんどの奴は見えてねえらしい。擦れ違っても何も反応しねえ奴が多いのよ。まあ、俺を見て眉をひそめる奴はわんさかいるが、双葉に気付いた奴はギョッとすんのさ。

 だから、「ああ、こいつら見えてねえんだな」って判ったって訳よ。

 ん~どういう基準で見えるのか俺にはさっぱり分からん。ちなみに、イケメン司祭パトリックには見えるが、百合ユリ趣味の女護衛騎士リサみは見えねえんだと。

 で、俺たちが今何処に居るかと言うと、王都にある女神ライエル・アル・アウラアルっ子まつ"伎芸ぎげいの大神殿"だ。

 アルっ子を信仰してるのは妖精族に多いんだと。

 妖精族って言ったらあれだ、エルフ族、ドワーフ族、ピクシー族、ホビット族、マー族だな。マギーからの受け売りだが。

 いや、ツッコミたいのは分るぜ?

 俺だって初めて聞いた時、「えっ!? マー族って何!? 魔族の新種!?」って聞き返しちまったくらいだからな。

 ところがどっこい。よく聞いてみると、知ってたっていうオチだったわ。マー族の男はマーマン。女はマーメイドって呼ぶんだそうだ。

 聞いたら、「あ~そう言う事か」とに落ちた訳よ。

 何ていうのか……海人かいじん族? いや、うみんちゅじゃねえと思うぞ? ん~何て言うのかは判らんが、マー族はマー族で海とかに住んでる種族って事だ。

 長命種ちょうめいしゅっていわれる長生きする種族は、変わり者を別にして何かしら長い時間をかけて楽器をたしなむようになるんだと。

 ま、要するに暇潰しだな。ドワーフも鍛冶一辺倒かじいっぺんとうかと思いきや、趣味で楽器を鳴らすそうだ。いまいち想像できねえんだが、まあいい。

 んな訳で、季節と音楽を司る女神様を信仰する奴が多いんだそうな。

 ん?

 単一信仰じゃねえみたいだぜ?

 信仰心の度合いで、複数の女神様を拝んでるらしい。それを聞いて、日本の神道かって思ったね。八百万やおよろずの神々?

 ヒンズー教も神さんが沢山いたな。

 ま、イスラム教みたいに厳しくねえって事だろう。

 それを置いといても、色々と思い当たる節がある。パトリックの奴がいつも竪琴リラを持ってるし、他の女神に対してもおおらかだからな。合点がてんがいったわ。

 けど、アルっ子が音楽?

 どうもあのチビッ子姿を思い浮かべたら、ギャップがすげえ。

 神殿の話が出たからついでに言っとくが、アルっ子を拝むもんが妖精種の中でエルフ族が1番多いから、ここに"伎芸ぎげいの大神殿"が在るんだそうだ。ドワーフ皇国こうこくには、戦と鍛冶を司るアウヴァの姉貴を祀る"戦女神の大神殿"が。山麓さんろくの王国には、狩猟と牧畜を司るシェルマアルっ子の1つ上の姉を祀る"自由の大神殿"が在るんだと。

 何でこの3つかって?

 山麓の王国はホビット族の国なんだそうな。妖精族も色々あるって事さ。

 「ハクトさ~ん! 神殿には話を通しましたので、宜しくお願いしま~す!」

 んな事を考えてたら、下からパトリックの声が聞こえて来た。

 嫁さんたちは、礼拝待ち用のベンチに座ってこっちに手を振ってやがる。暢気のんきなもんだぜ。この後、面倒な奴に会わなきゃならんって言うのによ。

 愛想笑いを添えて、手を振り返しておく。

 まだ陽が高いからな。大聖堂の中にも結構な数の参拝者が居る。ほとんどがエルフだな……。何やらわめいてる奴も見えるが、知らん。俺に分かる言葉でしゃべれ。

 俺は頼まれごとを済ませるだけだ。

 「おうっ! 苦情が来たら対応は任せた! ちゃっちゃと済ませちまうわ!」

 そう言って俺は、大聖堂奥に鎮座する女神ライエル・アル・アウラアルっ子に似てねえ女神の巨大立像の右頬へ、【無限収納】から片手に乗る程度にまとめた骨粘土ほねねんどの塊を取り出し、押し付けた――。





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