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第4章 杜の都
第259話 えっ!? 餓鬼んちょっ!?
しおりを挟む「ここからが"聖域"か……」
案内役のエルフメイドさんに連れられ、城内の通路を右に曲がり左に曲がりと来た先に、鬱蒼とした森が目の前に広がってた。
「然様でございます。わたくしはこの先に入れませんので、ここで皆様の帰りをお待ちしております」
そうお辞儀するミカリアさんを横目に、眉間に皺を寄て森の奥に目を凝らす。
木漏れ日の光が、無造作に突き立てられた槍の柄みたいに色んな角度で差し込んでるのは判った。判ったが、肝心の世界樹はさっぱり見えん。
どうなってやがる?
「ね~ハクト、時間ないんでしょ? さっさと行こうよ?」
そうプルシャンに右袖を引かれた。
「プルシャン様に同意します。時間が掛ければ、残ったお2人が危険になるかと」
左で小さくお辞儀するマギーに静かに急かされる。分かってるって。
「お、おう。そうだな。んじゃ、行くか。ミカリアさんも付き合わせて悪いな。適当に寛いでくれたら良いから」
「いえ、あの場から連れ出していただけただけでも僥倖でございました。皆様、どうぞお気を付けて」
顔色一つ変えずに、無表情でお辞儀するエルフメイド。硬いね~。ま、宮仕えでニコニコを愛想を振り撒くってのも何か可笑しいか。
『プラムちゃんも待ってますからね? わたし先に行ってても良いでしょうか?』
「おう。気を付けてな。すぐ行くって言っといてくれるか?」
『はい!』
俺の頭の上で毛繕いをしていた青い小鳥がそう聞いて来たから、快諾しておく。"聖域"なら可笑しなもモノは出ねえだろう。出たとしても、それは十中八九、手を出しちゃ拙い奴だ。
残りの1,2?
知るか。んなもんは見なかったことにすりゃあ良い。
パタパタと羽音を響かせて森の中に消えていく青い小鳥を目で追いながら、俺たちも一歩"聖域"へ足を踏み出した――。
◆◇◆
"聖域"の森は意外に湿度も低く、ひんやりとして気持ち良い。
正直、もっと密林みてえに、モワッと暑いのかと思ったぜ。
俺たちは彼此、一時くらいは歩いてる気がする。
前にも言ったと思うが、この世界には時計がねえ。日時計もねえ。あるのは時間を知らせる鐘楼だ。こっちのは櫓と言うよりも立派でそこそこ高い塔だがな。
朝陽が鐘楼に差し込んで来たら鐘を鳴らし、正午、鐘楼の屋根に開けた採光穴から陽が差し込んで来たら鐘を鳴らす。夕方は、陽が山の稜線や地平線にかかったら鳴らす。つまり日に3回しか鐘が鳴らねえのよ。
雨の日はどうするかって?
太陽が全く見えねえ日は鳴らねえのさ。雨が降りゃ市場も立たねえから、仕入れが出来ねえ。備蓄がある食いもん屋は開いてるが、無えとこは休みだ。
まあ、俺が居た日本と違って雨の日には大概の住民が外に出ねえから、それでも問題ねえみたいだぞ? 暢気なもんだぜ。
おっと、話が逸れちまった。
つまりだ。朝の鐘から昼の鐘まで、俺の感覚で4時間くらい間がある訳よ。
何時とか言えねえんだったら、昔の日本で使ってたように約2時間とかでどうかと思ってな。マギーに聞いてみたら、その言い方は定着してたというオチだ。
"朝の一時"、"昼の一時"というんだと。
夜?
夜は、金星があるかどうかは知らんが、一番星が空に出たら"夜の一時"が始まる。後は、季節ごとの星座の動きで"夜の三時"まで計るらしいが、俺はまだ慣れん。
野営の時はそれじゃなくて線香を焚くのが主流だ。魔物除けの薬草を練り込んだ奴で、専用の鉄枠に入ってるから交代時間も一目で判る。上手いこと考えてやがるぜ。
んで、俺らは昼の鐘が鳴ってから彼此2時間は歩いて来たって訳だ。
それがよ、森の中に入れど入れど、樹の枝の隙間から見えるのは青い空と雲しかねえのさ。世界樹の莫迦でかい幹と茂った頭が見えねえのよ。
どうなってやがる?
先に世界樹へ行った嫁も、プラムに会えたのかどうかも分からん。
化かされた様に、同じところをグルグル回ってる感じもしねえ。城の裏庭に出た時、太陽が背中側にあったのを確認してる。今も変わってねえとこを見るに、俺たちは真っ直ぐ進めてるってこった。
声に出さずに、"世界樹の木霊"やプラムを呼んではいるが梨の礫だ。あれだけ呼べ呼べと五月蠅く自己アピールしてやがったのに、いざ呼ぼうとしたらこれだぜ。
プルシャンもマギーも初めはあれこれ話してたが、今は無口になっちまった。
それなりに足場の悪い森の中を歩いたんだ。疲れたんだろう。けど、足場が悪いって言ってもあれだぜ?
国境の関所から王都に来るまでの森の中と比べりゃ、格段に歩きやすいぞ?
んな事を思いながら、一歩踏み出した瞬間だった。
「なっ!?」「きゃっ!?」「大丈夫ですか?」
俺の目の前からさっきまであった森が消え、首が痛くなる程に聳え立つ大木が現れやがったのさ。ドンと俺の背中にプルシャンが鼻をぶつけてよろめき、マギーが慌てて支えるのが見えた。
「うわあ~大きいねえ――っ!?」
鼻を摩りながら左に立ったプルシャンの視界も開けたようで、声が弾む。というか、止める前にポンと中へ入っちまった。
「おい、燥ぐのも良いが、周りに気を付けろよ?」
「分かってるよ~~! でも、ほらっ! あ~んなにおっきいんだよ!?」
嬉しそうに樹を指差すプルシャンの姿に、つい頬が緩む。
「旦那様、プルシャン様が燥がれるのも解ります。エルフ以外に世界樹の根本に来れるなど、夢にも思わなかった事ですよ? 存在は知っていても、まさかこの目で見る日が訪れるとは……。ドキドキしてしまいます」
意外に饒舌だ。
こういう時のマギーは基本、機嫌が良い。表情も少しいつもの凛とした美しさ感が影を潜め、ほわっとした柔らかい感じになる。ほろ酔い気分の時みたいだな。
ま、驚くのも無理ねえだろう。
斯く言う俺も、度肝を抜かれたわ。
だってよ、根本の直径が30パッスス近くあるんだぜ!? 木のてっぺんなんか、見上げたら首が痛くなっちまう。ありゃあ、200パッススは優にあるはず!
どっかの企業の木が巨大化して、幹だけめちゃくちゃ太く長くなった感じだって説明すりゃ良いのかどうか分らんが、そりゃまぁ見事なもんだぜ。
というか、そのサイズであんだけ枝ぶりも良くって、葉っぱがびっしりと生えてたら上空に吹く風を諸に受けて折れるんじゃね!?
何てどうでもいい心配をしながら"世界樹"であろう莫迦でかい樹を見上げていると、微風が俺の髭を揺らしたのさ。
風はここでも吹くらしい。
「やあっ! やっと来たねっ!」
「えっ!? 餓鬼んちょっ!?」「「っ!?」」
何の気配も匂いもなく、突然、俺たちの目の前に薄緑色の作務衣っぽい服を着た5,6歳に見える餓鬼が現れたじゃねえか!?
俺の1パッスス先に立つ餓鬼んちょ。若草色の短い癖毛と、深緑の瞳が良く似合う顔立ちだ。耳の先がちょっと尖ってるから妖精種っぽく見える。
敵意がないのはすぐに分かったからか、プルシャンとマギーも身構えてない。けど、解らんこともある。
「どっから湧いて出た!?」
「やだな~! 目の前に居るじゃん!」
大きな目を細めて、ニヒヒと笑いながら頭の後ろで手を組む餓鬼を見ながら思う。
「目の、前……?」
何を言ってやがる?
目の前?
目の前にあるのは世界樹だろうが。
そう思った時、また微風が俺の髭を揺らす。
「――おい」
次の瞬間、餓鬼が頭の後ろで手を組んだまま微風に乗ってくるんとひっくり返り、逆さまになったまま胡坐を組んでふわふわと宙に浮いたのを見た時、俺の中でカチリと何かが嵌った気がした――。
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