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第1章 深淵の湖

第16話 えっ!? はだかっ!?

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 解体は道具のお蔭ですぐに済んでしまった。

 獣の解体経験者の立場から言わせてもらえば、ありえねえ。

 そりゃあ【骨抜き】も使いながらだから、解体がはかどるのは解る。

 だがよ、相手は頭の先から尾っぽまで20m近くあるんだぜ?

 普通はその日じゃ終れない、むしろ邪魔が入るって思うのが常識だ。

 それが1時間も掛ってないぞ、これ。

 時計は無いがホームレスの時間の感覚をめんな。この感覚で定時に店の裏に行って、食料調達出来てたんだからよ。

 今?

 今は骨と食用肉は無限収納に放り投げて、内臓は川にそのまま捨てた。そしたら小魚とか小さな生物がたかってたよ。怖えな。

 いだ獣毛は今小川の底に沈めてる。石置いて流れていかないようにして浸け置き洗いだな。

 ああ、獣の皮にはダニやらノミがこれまたわんさか居やがる。1晩水にけときゃそいつらも死ぬか、逃げようと思って川の流れにさらわれるって寸法だ。

 皮自体には旨味も無いから小魚が突いた所で喰われる心配はない。

 付着してる血も洗い流せるから内臓や肉が欲しい奴らからすればまさにゴミだろうぜ。

 ピルルルル

 肩の上に戻ってきたスピカが興味深そうに川底をのぞきこんでる。

 「ああ、これな。1晩浸けて、どっかで乾かして、敷物にするのさ。木の上でも、地面でも凸凹して寝難ねにくいからこれでなんとかなるだろう」

 ピッ ピッ ピッ

 何だか嬉しそうだ。

 さてと、食後の運動も終わったし、このまま川下へ探検に行くか。日が暮れたらそこで野営すればいいしな。野営と言っても木の上で落ちないように寝るだけだが……。

 「へっ、何処行ってもホームレスのままというのも気が楽でいいな」

 ピルルルル

 「今日はこのまま川に沿って探検しよう、案外池とか湖があるかも知れないしな」

 スピカの相槌あいづちに頬を緩めながら、小川に沿って俺たちは進みだしたーー。



                 ◆◇◆



 時刻は恐らく昼近いだろう。

 太陽が中天付近に昇ってるし、何より腹が鳴ってる。

 あ、そうそう太陽で思い出したが、朝方日が昇りかけた頃に空を見たら月が2つ在った。あ~こりゃ本当に地球じゃねえなって思ったよ。

 まだこっちに来て2日目だ、新しい発見は幾らでもある。

 ん? 何の問題もなく散策できたかって?

 んな訳あるかよ。1歩進んだら魔物に遭うなんてことはなかったけど、それなりの収穫は有ったぜ?

 森鰐もりわにとか森躄蟹もりザリガニとかだな。

 レベルも上がってるのもあってか、今回は前より楽に倒せた気がする。

 戦果はこんなもんだ。

 森鰐×7匹

 森躄蟹×3匹

 深淵小鬼猿しんえんこおにざる×20匹



 ーーーーまあ、言いたいことは判る。



 獲物を仕留めて解体をしてたら、こいつらがやって来たのさ。木の上からな。

 あ~なんて説明すりゃいんだ?

 ゴブリン、解るか?

 RPGの雑魚キャラに定着したあれだ。

 あの手足を猿みたいに長くして、蛇みたいな尾っぽがケツから生えてる。いや、あれはマヂ猿だった。猿みたいに集団で襲ってきやがったからな。

 オマケに肉は臭えときたもんだ。

 背中を割いて、背骨とか骨を抜いて後はポイッさ。俺には近寄らなくなったが、共食いを始めやがった。

 まあ、こういう森の生態系はそういうことなんだろうな、って思ったね。

 で、俺が腹が減ってるてぇのに、飯も喰わずに移動してるのには訳がちゃ~んとある。

 「あ~甘い匂いが強くなってきたな。スピカは判るか?」

 ピィ

 右肩に止まる青い小鳥に声を掛けるが、小さい首をかしげるだけだった。か、可愛い。

 甘い匂い=果物=甘い物が食える、という計算式が俺の頭ん中で出来上がってるのさ。

 で、その匂いの元を探してるんだが……。

 「ん~。俺だけ匂いを感じてるってことか? 鳥の嗅覚はあんまり良くないのかもな……あたたっ! 悪い悪い、そうじゃなくってだな、あたた! ちょっと待てって! 鳥の体に元の体が合わせてるからって、いてててっ! 言いたかったんだって!」

 地雷を踏んだらしい。

 慌てて弁明するが、今のはかなりムッと来たらしく、なかなかついばむのを止めてくれない。

 10円ハゲが出来ちまう!?

 振り払おうにも、小回りの利く体で飛び回りながら啄んで来るもんだから手に追えない。

 本気で振り払うつもりはないが、何だ、嫁さんの誤解は問いておきたいだろ?

 ピルルルルルー

 「ふぅっ」

 頭の定位置へ座り直したスピカに、胸を撫で下ろす俺。

 危機は脱した。

 まぁ、死肉にたかるような鳥は鼻も良いんだろうけど、そうじゃない鳥たちのほうが多いからな。

 眼と耳は良いはず。おっと、余計な一言だな。いかんいかん。

 くんくん

 「やっぱり甘い匂いが強くなってるな」

 正面は何やらキラキラして来てるのも気になる。

 そのまま歩いていると、でっかい湖に出た。思わず声がでかくなってしまう。



 「おおお~~っ! でっかいなぁぁ~~っ!」



 眼の前に広がる湖は向こう岸が見えないくらい遠くにあった。

 ピルルルルル ピルルルルル

 興奮して頭上を旋回するスピカは放っておくことにして、更に強くなった香りの流れてく風上に顔を向ける。

 そこで俺は固まった。正確には2度見して固まった。



 「えっ!? はだかっ!?」



 俺の視線の先に居たのは、水際に立つ岩に全裸でもたれかかって微笑む美人のおっぱい姉ちゃんだったーー。





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