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第一章 黄巾の乱
黄巾軍との戦闘
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事前の話し合いと鄒靖からの正式な通達により、劉備が義勇軍の総大将となることは、すんなりと受け入れられた。
「階級なんかは好きに決めていいが、官軍とは被らないようにしてくれよ」
という鄒靖の要望もあり、劉備はシンプルに隊長を名乗り、関羽、張飛がそれぞれ副隊長となった。
5~10名を率いる小隊長、小隊長数名を率いる中隊長を決め、中隊長の半分ずつを関羽と張飛が、そしてその副隊長ふたりを劉備が指揮する、という簡単な編成が行われた。
ちなみに俺と田豫は副官として劉備に付き従い、兵を率いないことになった。
「義勇軍、進めーっ!」
「「義勇軍、進めーっ!」」
劉備のかけ声を関羽と張飛が復唱し、さらに中隊長と小隊長が順に唱和して、義勇軍は駆け出す。
ここから5日ほど進んだ先に、黄巾の連中が集まっていることが、鄒靖から知らされていた。
そこで劉備は、移動中に訓練を行うことにした。
訓練と行ってもごく簡単なもので、主な命令は『前進』『停止』『後退』の三種のみ。
基本的には、前進と停止を繰り返し、たまに後退を命令する。
「ここで動けぬやつは、戦場でも動けぬぞ!」
関羽の叱咤が飛ぶ。
しばらく走ったあと、立ち止まる。
そして再び走り出す。
簡単なようで、これがなかなかにしんどい。
でも、戦場では武器を振るうよりも、走っている時間のほうが圧倒的に長いので、いくら武芸が達者でも、走れないやつは使い物にならないのだ。
ちなみに俺は馬に乗っているので、徒歩よりは楽かもしれない。
もちろん、十年近く乗馬の訓練をした成果があればこそで、慣れてないやつは徒歩のほうが楽だろう。
走るだけの訓練が終わると、次は武器を振る練習が始まる。
まず走り込みで体力をある程度消耗してから、武器を扱えるかどうか、というのも重要だ。
万全の状態で敵が向こうからやってきて、見合って見合っていざ尋常に勝負! なんてことは起こり得ないからな。
「いいかぁ! 走りながら武器を振るんじゃねぇぞ! 必ず立ち止まって、しっかり踏ん張ってからだぁ!」
張飛の指導に従い、兵士たちは武器を振るう。
兵士のほとんどは、農具の柄に短剣の刃を取り付けたような、簡素な短槍を持っていた。
中には剣を持っている者もいたが、それは少数だった。
どちらにせよ、走りながら武器を振るというのは、相当な達人でなければバランスを崩してしまい、まともな攻撃にならない。
なので、攻撃の前には必ず立ち止まり、体勢を整えることを徹底させた。
「立ち上がれねぇやつぁ官軍に拾ってもらえやぁ」
訓練も兼ねて行軍速度を上げているので、義勇軍のほうが先行していた。
官軍から監督官が置かれたので、進路を間違えることはない。
走り込みと素振りで体力を使い果たし、立ち上がれなくなった者は、あとから来る官軍に合流して投石要員となる。
この程度の訓練について来られないようでは、実戦に参加しても無駄に命を落とすだけだろう。
官軍に合流した義勇兵は、投石紐の訓練を受けられるよう、鄒靖が手配してくれていた。
「五十名が脱落か……」
「うち十名が脱走ですね」
初日の訓練を終え、報告を受けた劉備が呟き、田豫が補足する。
ちなみに、最初の戦闘で嫌気がさして三十名ほどが脱走していたので、五百名いた義勇軍は、四百名あまりとなっていた。
「新しい志願者だ。まずはそっちに組み込んでくれや」
途中に寄った村で、新たに義勇兵が五十名ほど追加された。
その後も訓練を繰り返しながら進行し、劉備が隊長になって4日目には、四百名を少し切るくらいにまで絞られた。
官軍に合流し、逃げ出さなかった者は五十名ほどだろうか。
「明日、このへんで黄巾の連中と遭遇するはずだ」
夜、灯りの焚かれた幕舎内で、鄒靖は地図を示して劉備に告げた。
「数はおよそ五百。いくら連中が死に損ないだからって、義勇軍より多い敵にぶつけるわけにはいかんからな。まずは投石で数を減らすぞ」
翌日、鄒靖の読み通りの場所で、俺たちは黄巾軍と接触した。
「義勇軍、前へっ!」
官軍による二度の投石が終わり、敵の数が半減したところで鄒靖の命令が下された。
投石紐を振り回すため、ある程度間隔をおいて並ぶ官軍兵士の合間を縫って、義勇軍が前に出る。
横一列に並ぶ官軍と異なり、義勇軍は方陣を組んでいた。
とはいえ、ビシッと整列しているわけじゃないから、少しいびつな四角形にはなっているけど。
劉備を戦闘に、義勇軍はゆっくりと前進する。
最後尾の列が官軍より前に出たところで、劉備は剣を抜いて掲げた。
「義勇軍、進めーっ!」
号令のもと、義勇軍は駆け出した。
この時点で敵との距離は200メートルを切っていただろうか。
馬に乗るのは中隊長以上の十名ほどで、あとはすべて歩兵だ。
敵もこちらへ向かっているので、100~150メートルほど走り続けなければならない。
全力疾走とまではいかないが、そこそこのペースで走り、馬はそのペースに合わせる必要がある。
そうやって、少しずつ敵が近づいてきた。
ボロボロの格好をした、大半が素手の集団。
石に打たれてまともに走れないやつもいたが、目だけはギラギラとしていて不気味だった。
「私に続けぇー!」
ある程度近づいたところで、劉備が突出し、すぐうしろに関羽と張飛が続く。
「せぁーっ!」
左手で手綱をとって姿勢を低くし、先頭を走る歩兵の脇を駆け抜けながら、劉備は振り上げた剣を薙いだ。
鍬を振り上げていた敵の首が、飛んだ。
「おおおおお!」
「おらぁーっ!」
劉備が最初のひと太刀を入れたあと、関羽は長柄刀を、張飛は鉄の棒を振って、劉備に迫ろうとした敵を、数人ずつ吹き飛ばした。
「隊長に続けー!」
『おおおおおおおお!』
田豫の号令に、義勇軍から雄叫びが上がる。
隊長自らが先頭を切って初撃を入れ、さらに関羽と張飛が無双の強さを見せたことで、軍は一気に士気があがった。
そして進軍速度を著しく増した義勇軍が、黄巾軍にぶつかり、すぐに乱戦となった。
「くらえっ!」
「おらおらぁ、かかってこいや!」
「天誅ーっ!!」
戦場のそこかしこで、義勇兵は勇ましい声を上げ、敵を打ち倒していく。
最初の衝突で敵の数は半減したように見えた。
順調に敵の数を減らしていく義勇軍だったが、ほどなく勢いを失い、戦場は急速に静けさを増していく。
「うう……ああ……」
「お、おい……なんだよ、こいつら」
武器を振るい敵を討つ音や、雄叫びがやみ、かわりに戦場を覆ったのは、戸惑いの声やうめき声だった。
最初の戦闘でなんとなくわかっていたつもりだったが、実際に近くで戦ってみて、みんな思い知ったようだ。
――黄巾軍はあまりにも弱い。
最初の投石で負傷した者が多かったにせよ、それでもやはり、連中は弱すぎた。
ガリガリに痩せ、立っているのもやっとという者が多く、剣を振ればひとり、槍を突けばふたりといった具合に、いともあっさりバタバタと倒れていくのだ。
だが、一度や二度倒しても、ふらふらと起き上がってくるやつが何人もいた。
「うあああ! なんで立つんだよぉお! もう動くんじゃねぇよぉ……!!」
ひとりの義勇兵が、悲鳴を上げながら、何度も剣を振り下ろしている。
その先では、血まみれになりつつも、うめき声を上げ、立ち上がろうとする黄巾の兵がいた。
何度も頭に剣を打ちすえられて、ようやくその黄巾兵は動かなくなった。
「なんなんだよ……これぇ……」
力なく膝をつく義勇兵の背後で、ゆらりと立ち上がる別の影があった。
「おい、うしろっ!」
「天下ぁ……大吉ぃぃぃーっ!」
血まみれの黄巾兵が、石を持つ手を振り上げていた。
「えっ……」
膝をついた義勇兵は、振り向くと同時に頭を石に打たれた。
「黄天っ立つべしぃーひぃーははぁーっ!」
黄巾兵は、倒れた義勇兵に、何度も何度も石を打ちつけた。
「てめぇっ!」
他の兵士が駆け寄り、背後から黄巾兵の背中に槍を突き込んだ。
「ぐふぅ……天下……大吉……ひひぃ……」
致命傷を負ったはずの黄巾兵は、それでもなお手にした石を振り下ろすことをやめず、血まみれの頭は原形を失っていく。
「ちくしょう! 死ねっ! 死ねよっ……」
それから何度も背中や首の裏を突かれ、ようやく黄巾兵は力尽きた。
頭を打たれた義勇兵は、とうに絶命していた。
似たような光景が、戦場の各所で見られた。
「階級なんかは好きに決めていいが、官軍とは被らないようにしてくれよ」
という鄒靖の要望もあり、劉備はシンプルに隊長を名乗り、関羽、張飛がそれぞれ副隊長となった。
5~10名を率いる小隊長、小隊長数名を率いる中隊長を決め、中隊長の半分ずつを関羽と張飛が、そしてその副隊長ふたりを劉備が指揮する、という簡単な編成が行われた。
ちなみに俺と田豫は副官として劉備に付き従い、兵を率いないことになった。
「義勇軍、進めーっ!」
「「義勇軍、進めーっ!」」
劉備のかけ声を関羽と張飛が復唱し、さらに中隊長と小隊長が順に唱和して、義勇軍は駆け出す。
ここから5日ほど進んだ先に、黄巾の連中が集まっていることが、鄒靖から知らされていた。
そこで劉備は、移動中に訓練を行うことにした。
訓練と行ってもごく簡単なもので、主な命令は『前進』『停止』『後退』の三種のみ。
基本的には、前進と停止を繰り返し、たまに後退を命令する。
「ここで動けぬやつは、戦場でも動けぬぞ!」
関羽の叱咤が飛ぶ。
しばらく走ったあと、立ち止まる。
そして再び走り出す。
簡単なようで、これがなかなかにしんどい。
でも、戦場では武器を振るうよりも、走っている時間のほうが圧倒的に長いので、いくら武芸が達者でも、走れないやつは使い物にならないのだ。
ちなみに俺は馬に乗っているので、徒歩よりは楽かもしれない。
もちろん、十年近く乗馬の訓練をした成果があればこそで、慣れてないやつは徒歩のほうが楽だろう。
走るだけの訓練が終わると、次は武器を振る練習が始まる。
まず走り込みで体力をある程度消耗してから、武器を扱えるかどうか、というのも重要だ。
万全の状態で敵が向こうからやってきて、見合って見合っていざ尋常に勝負! なんてことは起こり得ないからな。
「いいかぁ! 走りながら武器を振るんじゃねぇぞ! 必ず立ち止まって、しっかり踏ん張ってからだぁ!」
張飛の指導に従い、兵士たちは武器を振るう。
兵士のほとんどは、農具の柄に短剣の刃を取り付けたような、簡素な短槍を持っていた。
中には剣を持っている者もいたが、それは少数だった。
どちらにせよ、走りながら武器を振るというのは、相当な達人でなければバランスを崩してしまい、まともな攻撃にならない。
なので、攻撃の前には必ず立ち止まり、体勢を整えることを徹底させた。
「立ち上がれねぇやつぁ官軍に拾ってもらえやぁ」
訓練も兼ねて行軍速度を上げているので、義勇軍のほうが先行していた。
官軍から監督官が置かれたので、進路を間違えることはない。
走り込みと素振りで体力を使い果たし、立ち上がれなくなった者は、あとから来る官軍に合流して投石要員となる。
この程度の訓練について来られないようでは、実戦に参加しても無駄に命を落とすだけだろう。
官軍に合流した義勇兵は、投石紐の訓練を受けられるよう、鄒靖が手配してくれていた。
「五十名が脱落か……」
「うち十名が脱走ですね」
初日の訓練を終え、報告を受けた劉備が呟き、田豫が補足する。
ちなみに、最初の戦闘で嫌気がさして三十名ほどが脱走していたので、五百名いた義勇軍は、四百名あまりとなっていた。
「新しい志願者だ。まずはそっちに組み込んでくれや」
途中に寄った村で、新たに義勇兵が五十名ほど追加された。
その後も訓練を繰り返しながら進行し、劉備が隊長になって4日目には、四百名を少し切るくらいにまで絞られた。
官軍に合流し、逃げ出さなかった者は五十名ほどだろうか。
「明日、このへんで黄巾の連中と遭遇するはずだ」
夜、灯りの焚かれた幕舎内で、鄒靖は地図を示して劉備に告げた。
「数はおよそ五百。いくら連中が死に損ないだからって、義勇軍より多い敵にぶつけるわけにはいかんからな。まずは投石で数を減らすぞ」
翌日、鄒靖の読み通りの場所で、俺たちは黄巾軍と接触した。
「義勇軍、前へっ!」
官軍による二度の投石が終わり、敵の数が半減したところで鄒靖の命令が下された。
投石紐を振り回すため、ある程度間隔をおいて並ぶ官軍兵士の合間を縫って、義勇軍が前に出る。
横一列に並ぶ官軍と異なり、義勇軍は方陣を組んでいた。
とはいえ、ビシッと整列しているわけじゃないから、少しいびつな四角形にはなっているけど。
劉備を戦闘に、義勇軍はゆっくりと前進する。
最後尾の列が官軍より前に出たところで、劉備は剣を抜いて掲げた。
「義勇軍、進めーっ!」
号令のもと、義勇軍は駆け出した。
この時点で敵との距離は200メートルを切っていただろうか。
馬に乗るのは中隊長以上の十名ほどで、あとはすべて歩兵だ。
敵もこちらへ向かっているので、100~150メートルほど走り続けなければならない。
全力疾走とまではいかないが、そこそこのペースで走り、馬はそのペースに合わせる必要がある。
そうやって、少しずつ敵が近づいてきた。
ボロボロの格好をした、大半が素手の集団。
石に打たれてまともに走れないやつもいたが、目だけはギラギラとしていて不気味だった。
「私に続けぇー!」
ある程度近づいたところで、劉備が突出し、すぐうしろに関羽と張飛が続く。
「せぁーっ!」
左手で手綱をとって姿勢を低くし、先頭を走る歩兵の脇を駆け抜けながら、劉備は振り上げた剣を薙いだ。
鍬を振り上げていた敵の首が、飛んだ。
「おおおおお!」
「おらぁーっ!」
劉備が最初のひと太刀を入れたあと、関羽は長柄刀を、張飛は鉄の棒を振って、劉備に迫ろうとした敵を、数人ずつ吹き飛ばした。
「隊長に続けー!」
『おおおおおおおお!』
田豫の号令に、義勇軍から雄叫びが上がる。
隊長自らが先頭を切って初撃を入れ、さらに関羽と張飛が無双の強さを見せたことで、軍は一気に士気があがった。
そして進軍速度を著しく増した義勇軍が、黄巾軍にぶつかり、すぐに乱戦となった。
「くらえっ!」
「おらおらぁ、かかってこいや!」
「天誅ーっ!!」
戦場のそこかしこで、義勇兵は勇ましい声を上げ、敵を打ち倒していく。
最初の衝突で敵の数は半減したように見えた。
順調に敵の数を減らしていく義勇軍だったが、ほどなく勢いを失い、戦場は急速に静けさを増していく。
「うう……ああ……」
「お、おい……なんだよ、こいつら」
武器を振るい敵を討つ音や、雄叫びがやみ、かわりに戦場を覆ったのは、戸惑いの声やうめき声だった。
最初の戦闘でなんとなくわかっていたつもりだったが、実際に近くで戦ってみて、みんな思い知ったようだ。
――黄巾軍はあまりにも弱い。
最初の投石で負傷した者が多かったにせよ、それでもやはり、連中は弱すぎた。
ガリガリに痩せ、立っているのもやっとという者が多く、剣を振ればひとり、槍を突けばふたりといった具合に、いともあっさりバタバタと倒れていくのだ。
だが、一度や二度倒しても、ふらふらと起き上がってくるやつが何人もいた。
「うあああ! なんで立つんだよぉお! もう動くんじゃねぇよぉ……!!」
ひとりの義勇兵が、悲鳴を上げながら、何度も剣を振り下ろしている。
その先では、血まみれになりつつも、うめき声を上げ、立ち上がろうとする黄巾の兵がいた。
何度も頭に剣を打ちすえられて、ようやくその黄巾兵は動かなくなった。
「なんなんだよ……これぇ……」
力なく膝をつく義勇兵の背後で、ゆらりと立ち上がる別の影があった。
「おい、うしろっ!」
「天下ぁ……大吉ぃぃぃーっ!」
血まみれの黄巾兵が、石を持つ手を振り上げていた。
「えっ……」
膝をついた義勇兵は、振り向くと同時に頭を石に打たれた。
「黄天っ立つべしぃーひぃーははぁーっ!」
黄巾兵は、倒れた義勇兵に、何度も何度も石を打ちつけた。
「てめぇっ!」
他の兵士が駆け寄り、背後から黄巾兵の背中に槍を突き込んだ。
「ぐふぅ……天下……大吉……ひひぃ……」
致命傷を負ったはずの黄巾兵は、それでもなお手にした石を振り下ろすことをやめず、血まみれの頭は原形を失っていく。
「ちくしょう! 死ねっ! 死ねよっ……」
それから何度も背中や首の裏を突かれ、ようやく黄巾兵は力尽きた。
頭を打たれた義勇兵は、とうに絶命していた。
似たような光景が、戦場の各所で見られた。
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