勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

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第一章 島からの旅立ち

第七話 旅の始まりと再会

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 アルがこれまで住んでいた町~トントル~   →   港町~クリッケ~

 えっと、この道を南に真っ直ぐだよね。
 町を出てから一日、初めての野宿は少し怖かったけれど町がまだ近いこともあって安心して眠ることが出来た。

 とはいえ、今日からはもう近くに町も村も無い道を行くことになる。
 何度か通ったことがある道とはいえ、自分一人で歩くのは初めてということもあって緊張が高まる。

 僕が住んでいた町、トントルの人達は暖かく僕を送りだしてくれた。
 その恩情に報いる為にも、僕は前向きに旅をしなくちゃだよね。

 何も無い道の様に見えて、きちんと見れば色々な物が生えていたり転がっていたりする。
 
 元々、行商人などの為に造られた道だからなのか、標識や簡易的な休憩所などが設置されている。
 
 幸いにしてツミレ先生との勉強の中で薬草などの外見は覚えているので見掛けたら採取する様にしている。
 薬草には幾つか種類があるけれど、この島で採れるのは低級ポーションの材料になる『薬草種 ツミレ草』なんだよね、ツミレ先生はそこから名前を付けられたっていうし、人を助ける物の名前が付いているって素敵だと思うな。

 のんびりのんびりと歩いていると、街道から外れた林の中で何かが動いているのを見掛けた。
「(持ってきた携帯食料はまだ余分があるから不用意に野生動物を殺す必要も無いよね)」
 そう思って道を急ごうとしたのだけれど、林から飛び出してきたソイツを見て身体が硬直した。

『グルルルルル』

 も、モンスターだ!
 魔獣とは違い、知識を持たない生物。

 こいつは確か、モンスター図鑑で見たことがあるぞ!
 黒い体毛に獣の外見、しかし犬や狼の様に四足歩行では無く、六の足を用いて移動する蜘蛛の様な動きをする。

 前後の四足は通常の獣のソレだけど、真ん中の二足は蜘蛛のように先端の尖った形状をしている。

 名前は確か、ウルファスパイド!

 僕は刺激し無い様にゆっくりと腰に挿した鞘からモチーモさんから購入した剣を抜いて構えた。
 剣を構えたからといって安心しては駄目だ。

 それに、確かこのモンスターは二匹で行動すると書いてあった。
 もう一匹を視界に収めていない現状、油断するのは愚策だ。

『グルルァ!!』

 駆け出してきたウルファスパイドと僕の距離はおよそ五メートル、ヤツの飛び掛かることが出来る距離を知らない僕では相手の出方を待つしかない。

 残り三メートルという所で僅かにウルファスパイドの足並みが変わり、低く飛んで真ん中の二足で僕の腹部へと襲い掛かってきた。
 初めてのモンスターとの実践に恐怖と緊張が身体を絞めつけて、避けるのでは無く剣で防ぐことでやり過ごす。

「ぐ…怖がっちゃ駄目だ」

 僕の傍らを駆け抜けて反対側に回ったウルファスパイドに向き直り、剣を構え直す。
 
 動きは見えていたし、防御も出来た。
 出来ることを把握しながら戦わなきゃ、何も知らない僕はこの先戦えない。

『グルルルル』

 ゆったりとした歩調で僕の周囲を回りでしたウルファスパイド、いつ襲い掛かるかを測っているのだろう。
 いっそのこと、飛び掛かってきてくれた方がやりやすいかもしれない。

『グァウ!』

 一吠えして再度こちらに駆け出してきた。
 さっきの行動からして、コイツは自分の真ん中の二足を突き刺して使ってくる。
 飛び掛かってこないと思って油断していたら過ぎ去り際に突き刺される事も考えられる。

 だったらいっそのこと―――!

 大きく後ろにバックステップして、リュックの側面に括り付けている鉤爪付きのロープを手に取る。
 そして、それを向かってくるウルファスパイドに対して考えなく投げつける。

 気にする様子も無くロープの鉤爪部分を顔で受けて、そのまま駆けてくるウルファスパイドだったけれど、顔で受けた鉤爪が足元に落ちて、小さな段差を作り歩幅を狂わせた。

 そのままバランスを崩してくれれば何よりだったが、相手も野生のモンスター、無理やりに飛びあがり、そのまま僕へと接近してくる。
 大きく開いた真ん中の二足で僕の腹部を貫いて固定し、首元に噛みつくつもりだろう。

 ここまで大きく、二メートルも飛び上がってくるとは予想外だ。

 だけど、それならむしろ有り難い!

落下してくるウルファスパイドを前に、僕は剣を斜に構えてバックステップをしながら斬り上げた。
丁度身体の前面を浅く切り裂かれたウルファスパイドは僕がバックステップした事によって着地するしか無く、再度僕へと駆けだして来ようとした所でプルプルと震えてそのまま倒れた。

まるで毒か麻痺にでも掛かった様な倒れ方だった。

もしかしたら、モチーモさんから貰ったこの剣にそういう細工が施されているのかな?

「―――ふぅ」

 モンスターを倒せた実感から一息吐いた僕は思わず自分が忘れている事に気付いていなかった。
 さっき、自分で思い出したばかりだったのに、ウルファスパイドが二匹で行動すると言うことを忘れていた。

「うぐっ!?」

 肩がいきなり、凄い熱に襲われた。
 次いで感じる重み、一体、何が…!?

「っあぁあ!!」

 思いっきり身を振って重みを跳ね飛ばそうとする。
 そこで、自分の肩に噛みついているウルファスパイドにようやく気が付いた。

『グル…』

 深く噛みつかれていて、段々と熱が痛みに変わってくる。

「ぐぅぅうう!!」

 もう一度振りまわしてようやく離れたが、結果として残った傷跡から血が滴り落ちる。
 あまり人が歩いていないこの道では助けは期待できない、自分でなんとかしなくちゃ!



「俺の親友の息子に何をやっていやがる」



 そんな事を考えていたら、声が聞こえた。
 何処から、そう考えて道の先を見てみるけれど人はいない。

 剣を構えながら警戒、そして先程の声の出所を探りながら敵を視界から放さない様にしていた。

 上空から飛来した何かが、ウルファスパイドの頭部を粉々に砕き散るまでは。
 ドサリと力無く倒れ伏したウルファスパイドの身体、そこに繋がってあるはずの頭部は今、突如として上空から飛来した男性の脚にこびりついている。

 長い黒髪に、長いコート、背中にはツーハンデッドソードなんて珍しい物を背負っている。
 何故だか、見覚えがある。

 きっと、僕がまだ幼い頃、何度か僕を抱き上げてくれた人だ。
 名前を間違えるハズが無い、僕にとって、大好きな人で…とっても頼りになる―――兄貴分!

「おうアル、ちっとは男らしくなったじゃねぇか」
「ギル、兄さん?」

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