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第一章 島からの旅立ち
第七.五話 ギルバートという名の男
しおりを挟む☆ギルバート・アードロットと三歳のアル
こいつはアルがまだ三歳の、幼子だった頃の話だ。
ガルディア…アルの親父であり俺の親友である男と大陸に居た頃の話でもある。
とある理由から俺達は、ガルディアの故郷にかなり無茶な方法で戻ってきた。
運命の塔の婆さんが言うには、ガルディアの嫁さんがかなり危ない状態らしくて、それを聞いたガルディアが翼竜を一匹とっ捕まえて無理やり言うことを聞かせて一週間寝ずで飛ばしたってワケなんだが…。
結論から言うと、俺達は間に合わなかった。
ガルディアの家に着いたら、小さな少年が出て来てガルディアを見て悲しそうな眼で泣いていた。
出産の瞬間に立ち合った俺もガルディアも最初は誰なのか分からなかったけど、紅い瞳を見てすぐにアルだってことに気が付いた。
ガルディアが顔をくしゃくしゃにしながら一言だけ、「間に合わなかった…」と呟いて、アルを抱きしめた。
その姿に、俺も思わず、自分の下唇を強く噛んじまった。
ガルディアの嫁さんは、良い人だった。
だから、俺もガルディアも好きになって、ガルディアが選ばれて、俺はそれを祝福した。
ガルディアも俺も、この日、最愛の人を失ったって事実を突き付けられたんだ。
だけど、一番辛いのはアルだ。
ガルディアがアルの将来の為に旅立ってから、アルの世界は嫁さんだったハズだ。父親と接する機会が無いんだから自然と母親が世界の中心になっていっただろう。
その嫁さんが、亡くなった。
アルの悲しみは、俺には計り知れない。
間に合わなかった父親に辛辣な言葉を浴びせるだろうか、共に来た俺に責任を負わせるだろうか、どんな言葉が投げ掛けられても、俺もガルディアも受け止めようと覚悟を決めていた。
俺がもしも、同じ年頃で同じ経験をしていたら、やり場の無い感情を誰かにぶつけたいと思うだろうから。
だけど、ガルディアの腕の中でアルは言ったんだ。涙で濡れそぼった頬を、父親の胸に擦りつけて一言だけ。
「おかえり、お父さん」
信じられ無かったよ、俺もガルディアも、その場で思わず泣いちまった。なんて強い子なんだって、なんて…優しい子なんだってさ。
俺は…いや、俺とガルディアはこの日、アルと一緒に寝た。
アルは凄い奴だ。
強いとか、弱いとか、情けないとか、そういう実戦とか気概とかじゃなくて、凄い奴なんだ。
俺もガルディアも、アルの為なら命も惜しく無い。
俺がアルを胸に抱いてやった時、アルは嫌がる素振りも無かった。
それどころか、俺の事をギル兄と呼んで抱きしめ返してくれた。
誰とも結婚して無い俺だけど、守りたい存在ってのが出来たよ。
だから俺も、ガルディアと一緒にこいつの未来を創ってやりたいと思う。
俺は勇者じゃねぇ、勇者の兄貴だ。
だから俺は、弟の為に命を張れるんだ。
☆ギルバートがアルの下に駆けつけるまで
「すまんギルバート、俺の息子があと一週間で十五になるんだが…あぁ、例の勇者の件だ。どうか様子を見て来てくれないか?出来れば、簡単に稽古もつけてくれ、きっと必要になる」
と、ガルディアに頼まれたのが八日前、まさか俺も飛龍をとっ捕まえるなんて非常識な真似をする嵌めになるとは思わなかった。
飛龍で空を駆けていると、あの日アルの所まで二人で向かった頃を思い出す。
あの頃は今よりもずっと自由だった。
今ではガルディアも俺も、少し不自由な立場にいる。
自分達で決めた事だから何の後悔も無いし、将来的に見ればこれはアルの助けになる。
とにもかくにも、今はアルの下へ急がねば。
ようやく島に着いて港町を通り過ぎた所だ。
あと五時間も飛ばせばアルの下に辿り着くだろう。
それから二時間程飛ばしたあたりで、俺は眼下に銀色の煌きを見た。
まさか、何故ここにアルが?
いや、そう思うよりも先に、目に飛び込んできた光景に頭が沸騰しかけた。
アルを襲う、一体のモンスター。
おいおい、ふざけてるのか?
誰に手をだしているのか、分かっているんだろうな?
威圧をたっぷり込めて、魔法で声が確実に届く様にしてから言葉にする。
「俺の親友の息子に何をやっていやがる」
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