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第一章 島からの旅立ち
第八話 ギルバート・アードロット(ギル兄)
しおりを挟むギルバート・アードロット、それがギル兄の名前だ。
こちらを振り向いて見せた笑みはまるで悪戯好きの少年の様で、留め具の多いコートから取り出した煙草に火を点ける時の所作は大人っぽくて、不思議な人だ。
カツカツと音のなるブーツでこちらへ歩み寄り、僕の頭を撫でてくれた。
「実はアイツから十五になるお前の様子を見て来る様に頼まれてな、町の方に向かうところだったんだがこんな所で何をやってんだ?」
颯爽と現れて簡潔に事情を説明してくれたギル兄さんに、僕は女神様との会話を話した。
「成程な…我が親友ながら、アイツの予想は当たってたワケだ」
「アイツって、父さんの?」
「あぁ、アイツは…ガルディアはきちんと大陸でアルの味方を増やしてくれてるぜ、ただ、その所為でこっちに戻ってくるのは難しくてな、代わりに俺が来たってワケだ」
「父さんが…」
生きていてくれただけでもありがたかったけれど、僕の為に色々とやってくれている事を知って胸が暖かくなった。
「まぁ、さっきの様子だとそこに転がってるウルファスパイド共に襲われたってところか」
「うん…一体は倒せたんだけど、もう一体はきっとギル兄が来てくれないと…ありがとう」
僕は内心、自分自身の手で倒せなかったことが悔しかった。
今回は確かに、ギル兄が運良く通り掛かってくれたけれど、こんな奇跡はそう起きない。
やっぱり、僕自身強くならないと…。
「…アル、そんな落ち込むな、お前は確かに命の危険を感じたかもしれないけれど、生きているのなら落ち込むんじゃなくて反省をすればいい、今の戦い、何処で間違えたのか、何処が悪かったのか、そういう所を見直して、段々と自分の動きを磨きあげていけ」
落ち込むよりも反省…。
「うん、分かったよギル兄」
「おう、さてと…俺の乗ってきた飛龍は時来たりとばかりに逃げやがったか…まぁ仕方ない」
「そういえばギル兄はこれからどうするの?飛龍も逃げちゃったし」
「あー、ちょっとばかしアルに稽古を付けてやろうと思ってな、少しばかり一緒に居させて貰うぜ」
ぎ、ギル兄が稽古を付けてくれる!?
それは凄く強くなれそうな…確かギル兄って、大陸では『黒断』って少し呼びにくい二つ名を持っているくらい凄い人なんだよね。
そんなギル兄に稽古を付けてもらえるなんて、幸せだ!
「とりあえず、今日は陽が落ちるまで歩いてクリッケに少しでも近づくか、陽が落ちたら野営の準備をして剣の稽古に入るぞ」
「うん!よろしくねギル兄!」
あ、そういえば人と一緒に歩く時は手を繋がなきゃいけないんだっけ。
お隣のお姉さんがそう言ってて、ツミレ先生も肯定していたけど、大陸ではどうなんだろう?
「ねぇギル兄?」
「ん?」
「手、繋いでもいい?」
「――――ッ!!?」
な、なんだか凄くギル兄が仰け反ってる!
わなわなと手を震わせながら、握手をする時の様に僕に手を差し伸べてくれた。
良かった!やっぱり大陸でも一緒に歩く時は手を繋ぐんだ!
ギュっと握ったギル兄の手はとっても大きくて、少しゴツゴツしているけれども大人の男性の手という印象で凄く頼りになった。
「えへへ、男の人の手だね」
「――――ッ!!!!」
「みぎゃ!!」
い、痛い!痛いよギル兄!そんなに力を入れないでよ!
ぬぐぐ、目元に涙が溜まっちゃってるよ。
「わ、悪いアル、大丈夫か」
「うー、もっと優しくしてよ…」
「――――ッ!!!」
「痛い痛い、痛いよ!!」
久し振りに会ったギル兄は少し痛かったけれど、やっぱり、頼りになりそうな強さを持っていたよ。
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