勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

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第二章 船上の証明

第三十七話 死神の頭垂れ(こうべたれ) 

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「…終わったのか」

 船の通路、甲板から戻って来たアリサスはアルを抱きかかえていて、俺はそれを受け取って問い掛けた。

 今日のこいつは、明らかに様子がおかしかったからな。

 まさか、毎日甲板でイチャコラしてるとか思っていなかったが…尋常じゃ無い魔力の昂りを感じた所Kら見ると、こいつなりに何かをしてくれたのだろう。

 イメージの伝達を用いて…だとしたら、まぁ、セックスの一つや二つはしたんだろうな。

 アルがそれを望んだのなら別に良いんだ…本当は、何故か、凄く腹立たしいけど…!!

「えぇ…これでアルは、私の事が好きだって感情を失くしたわ」

 感情を無くす…それも好きだって部分だけになると、感情というよりも、記憶だろう。

「つまり、アルはお前とエッチな事をしたのすら忘れてるのか?」
「えぇ、イメージで塗りつぶしたわ、私がイメージを与えたっていうことしか、次に起きた時には覚えていないでしょうね」

 …器用な真似をする。

 そう感心すると同時に、そんな悲しそうな顔をしながら告げる事なら、どうしてやったんだと問い詰めたくなる。
 別に、これは優しさとかじゃ無い、ただ…こいつはアルの為に何かをしてくれた。だから、ちょっとだけだが、仲間意識みたいなもんが、芽生えてる。

「それで良かったのか?」
「えぇ!ギルバート、アルの事はアンタに任せるわ…私は、ガルディアの所に行って仲間に加えて貰って、アンタの分も働いてくるわよ」

 …それで、アルの中に恋心を残しておかなかったのか。自分という存在は忘れずに居て欲しいけれど、旅の中で恋心は、目的を曇らせるから…とか思ってるんだろうな。

「アルはお前の事、好きだったんじゃないのか?」
「…こんな環境で好きになられても、私は嬉しくないわ。もっとちゃんとアルに好きだって言って貰いたいもの、快楽と閉鎖空間で手に入れた愛情で、アルを縛り付けたくは無いもの」

 ちゃんとアルの事、考えてくれてんだな。

「それに、魔法に関してはアンタもちゃんと教えられる。近接戦闘は私じゃ無理、だとしたらアルと一緒にいるのはアンタの方が良いのよ、ギルバート」

 嬉しい事を言ってくれるが、その言葉の為にこいつは、ここまで行動に移してくれたんだよな…。

 昔の因縁…か、今となっては、そんなものどうでもいいな。

「ギル、俺の呼び名はギルで良い」
「え…?」

 これは、あくまでも俺にとってのじゃねぇ、アルにとってのって意味でだが、伝えておきたいと思った。


「もう、仲間だろうが」


 あー、小っ恥ずかしい。

「…ギルね、私の事もアリスで良いわよ」
「アリス…あぁ、それで、船が大陸に着くまでまだ一日と日の半分は掛かるけど、その間どうするつもりだ?アルの事だ。甲板の上での事だけを忘れているなら、お前が修行の場に来なかったら雛鳥みたいにお前の事探しに行くぞ」
「それはアンタがどうにかしなさいよ…そうね、私は急用で空間魔法で何処かに行った…とでも言っておいて、まぁ、この船の護衛を務めてるから船の中にいるけど、どうにか誤魔化しなさいな」

 無茶な事を言ってくれるが、まぁ、叶えてやるか。

「なぁ、お前から見てアルは魔法が上手くなるのか?」

 アルは近接戦闘の才能はある。まだ粗削りだが、島で過ごしてきた年月を剣を振って来たとアルは言っていた。それが幸いしてか、筋肉という部分では土台が整っているしかなり伸び代も残っている。

「そうね…アルの才能は…正直未知数よ」
「あぁ?」

 未知数ってのは、えっと…つまり分からないって事なのか?

「何怖い顔してんのよ、未知数っていうのは…魔法って、遠距離型と近接型があるのは分かるわよね、ギルみたいな近接戦闘内で活かすいわゆる魔法戦士タイプと、私みたいな遠距離で活かす魔法使いタイプ」
「あぁ…確かに俺はその分類だと間違いなく魔法戦士だな」

 腕の中のアルが少し身じろぎして俺の胸元に頬ずりを始めた。

「アルはどっちが得意なのか全然分からないのよ、もしかしたらどっちも…なんて事も有り得るわ」
「そんな物、どうやって分かるんだ?自分に向いた魔法の使い方なんて戦いでもしない限り…」
「そうよ、戦わせなさい」

 …アルを、戦わせろっていうのか?

 確かに必要な事だが、アルが戦っている姿はあまり見たくない…なんて考えるのは、あぁ、それは間違いなく馬鹿な考えだな…。

「何難しい顔してんのよ、別にモンスターとじゃなくてもいいでしょうが、模擬戦でも何でも、戦闘経験がアルには圧倒的に足りないわ」
「…戦闘経験か、確かに危険があると道中も俺がアルにバレ無い様に片付けてたな」
「戦わない事は死の危険から遠ざかるけれど、戦いが待つアルにとって戦わずに生きていく事は未熟を貫く事でしか無いわ、どうせ大陸についたらモンスターなんてわんさかいるし、魔人でも魔獣でも無いモンスターを殺しても文句を言う奴は…モンスター協会くらいよ、安心なさい」

 モンスターか、戦う事が成長に繋がるというのは思いたくない部分でもあるが、それが事実かどうかは戦ってみなくちゃ分からねぇよな。
 模擬戦だけじゃ…駄目なのは分かってるし、アリスが優しいからそれを言わないで居てくれた事も気付いてる。

 本当に、仲間になってくれて良かったよ。

「ギル…これをその子に渡しておいて」
「ん…何だこれ」
「結晶石よ、そこにこれまで伝えたイメージと同じ物を詰め込んでおいたから、もしも分からない事があったら見るように言っておいて」
「…あぁ」

 結晶石は魔法を閉じ込めて、好きなタイミングで使えるようにする物だ。回数とかは魔法によるけれど、イメージを伝達する魔法なら回数はかなりあるだろう。攻撃魔法みたいに大幅に魔力を消費する物でも無いしな。

「それじゃあ、私は行くわ…最後に、ちょっとだけアルに触れても良い?」
「駄目って言うと思うか?それこそ馬鹿めだ」
「良いって一言で良いじゃないのよ、あんたこそ馬鹿ね」

 アリスが優しげに笑い、アルの髪を梳く。

 …アルが恋をしたなんて言ってたが、なんだよ、恋をしてるのはお前もじゃねぇか。
 
 こいつ、好きな男の為に動くんだな。好きな男から自分を好きだって記憶を消してまで…。

 俺は多分、今のこいつには勝てないな…いや、戦うって気が、起きやしねぇ。

「もういいのか?」
「えぇ…続きはいつか、アルが私の事を多くの女性の中から選んでくれた時にね」
「ハッ、お前だったらガルディアも認めてくれるかもな」
「え、何よ親馬鹿なのアイツ、まぁ気持ちは非常に分かるけど…あぁ、もう馬鹿、これじゃ話しこんじゃうじゃない、私は行くわよ」

 背を向けて歩き出すアリスの目尻に涙が見えた。

 いや、涙じゃ無いかもしれないな、『想い』ってのが、思わず溢れちまっただけなのかもしれない。

 通路の先へ行くアリスに、俺は無言で頭を下げた。きっとあいつからは見えていないけど、この感謝の気持ちはきっと、言葉で伝えられたくないとアイツは思うだろうから。



 俺に似たアイツなら…な。
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