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第二章 船上の証明
第四十一話 証明
しおりを挟むその名乗りは、きっと他の人にとって意味なんて無いんだと思う。
だけど僕にとっては、確かにその名乗りは『敗北』を掻き消す名乗りだったんだ。
二人の弟子である事の名乗りであり、勇者である事の名乗り、それは僕自身が負けないと自分に決めた…決意の証明だから。
―――第四十一話 証明
重たい剣、凄いな…ギル兄はこれを振るって戦っているんだ。
この重さはきっと、その戦いの積み重ねが宿した重さ。
僕が振るうには重たいのも当たり前の事に思えた。
『ガァアア!!』
振り下ろしの一撃を、ツ―ハンデッドソードで受ける。重たい音が響いて、僕は少しだけ後退した。
それでも、前を見る。目を閉じない。ギル兄に教わった事を、ここで活かさなければ死神の弟子を名乗った意味が無い。
長い刀身で弾き返して、僕は両手でツ―ハンデッドソードを握り締めた。
どう戦うのが、この武器の最善なんだろう。
それまで振るった事が無い武器を手に、僕は考えた。
ふと、ポケットに入れた何かが輝きを放った。確認をしなくてもそこに在る物を僕は知っている。
結晶石、アリス姉さんが僕に渡してくれた…僕が彼女と過ごした修行の日々の証明。
そこから僕に、イメージが流れ込む。
―――これは、誰かの戦いの風景。黒い髪に、黒い瞳、眼帯をしていて、ツ―ハンデッドソードを振るっている。
そのイメージが、僕に身体の動かし方を教えてくれる。
小さく振るっても意味は無い、大きな剣、その用途は断つ事や鈍器に近い使い方こそ相応しい。
右手を上部、左手を下部に持って行き、左手で支えながら右手で方向性を定める形。
遠心力を付けて振るう必要がある。スタンスを広く取って、敵に背を向ける程に身体を捻じる。
『ガァ!!』
敵の剣を敵ごと薙ぎ払うイメージで―――
傷付いた足元の甲板の床を踏み抜く程に踏みしめて。
「―――ッあぁあぁぁあ!!」
腹部に力を込める為に叫びを上げて。
―――振り抜く!!
至極色の鎧の破砕音と、確かな手に伝わる重さがその破壊力を物語る。
けれども僕には過ぎた物、振り抜いた直後に背中の筋肉が引き延ばされて酷い痛みを感じた。
『ガッアァアァアア!!』
ただ一撃、逆境を跳ね返す最大の一撃が、死霊ノ騎士を降す決め手となった。
身体に纏った鎧が霧散し、ミイラさんの姿の船員さんに戻った。
その瞬間、僕は勝利を確信した。
そして同時に、僕の身体も限界の様だ。先程貰った一撃、腹部に喰らった強烈な一撃が身体を無理に振りまわした事で悲鳴を上げていた。
「ハ…あ、はぁ…はぁ…ぐっ…」
少し動けばそこに繋がる全ての部分から痛みが走り、膝を突いて死霊ノ王を睨む事で精一杯だった。
「…少年、いや、勇者と名乗っていたよなオメェ、いいぜ、こいつらに掛けた呪いは全部解いてやる…だが、オメェの名前を覚えておきたい、最後にもう一度、聞かせて貰えるか」
その言葉に僕は思わず笑みを漏らした。
何度だって宣言しよう。
この勝利は僕だけの物じゃ無い、ギル兄のツ―ハンデッドソードと、アリス姉さんが残してくれた結晶石のお陰だ。
「僕は…ぐぅっ…!!?」
立ち上がろうとしたけれど、激痛が走り顔を歪めてしまう。
―――背筋を、伸ばしなさい。
背に、手が触れた。
暖かくて、優しい手が。
不思議と引いた痛みの中で、僕は背を伸ばす。膝に力を込めて立ち上がり、死霊ノ王に眼光を走らせて宣言を再び口にする。
それは宣言であり証明、僕が誰の下で鍛えられ、誰のお陰でこの戦いを勝利したかという証明だ。
「僕は、死神の弟子、魔法使いの弟子、そして勇者、アルノート=ミュニャコスだ!」
負けなかった事の、証明だ。
「…へっ、分かったぜアルノート、テメェの名前、ちゃんと覚えたからな」
その言葉を最後に、煙の様に姿を消した死霊ノ王を見て僕は安心し、その場に倒れ込むように眠りに落ちた。
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