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第二章 船上の証明
第四十二話 此処までの旅、これからの旅
しおりを挟む目が覚めたら、頬を風が撫でた。
開け放たれた窓の外には知らない景色が広がっていて、傍らに椅子に座って壁に背を預けているギル兄が居た。
長い息、深く眠っているみたいだった。
地面が揺れていないから、ここは船じゃないらしい。揺れてばかりの場所から地面が安定している場所に着くと脳が混乱するぞとギル兄に言われていたけれど、気絶してしまったからなのか僕にはその感覚のズレも無かった。
船じゃないとすると…大陸!?
身体を起こした所為か、少しだけ腹部に痛みが走った。
身体を見てみると、木片で傷付いた部分や剣で殴打された部分に治療が施されていて、僕は入院着を身に着けていた。
サイコロを並べる木製のカレンダーを見てみると、あれから二日しか経っていない事が分かる。
…あれから、僕が死霊ノ騎士を倒して、死霊ノ王を倒してから二日。
戦いの中で握ったツ―ハンデッドソードの感触だけが、僕の手に残っていた。
あれが、敵を倒すという事なんだなと…今更ながらに実感する。
ギル兄は言ってた。僕が敵を倒す事に苦痛を感じる事もあるだろうって、だけど、勇者である以上、敵という存在は倒さなければいけないと言っていた。
強くなるというのは、そういう部分も鍛えなきゃいけないんだって…。
もっともっと、一杯戦って強くなろう。もっともっと、一杯戦って…勇者だってまた宣言できるように…。
あの時の僕は、必要に駆られた様に宣言してしまったから…今度はもっと自信を持って、宣言するんだ。
―――ガチャ…パタン。
一瞬、ほんの一瞬だけ、扉の開く音がした。
誰だろうかと思って身を乗り出して覗いてみたけれど、既に扉は閉められていた。
窓の方へとワインレッドの髪の毛が一本、風に煽られて飛ばされていった。
あれは、きっと…。
目を閉じて、いつの間にか首に掛けられていたネックレスを握り締める。きっとギル兄が作ってくれたのかな。結晶石のネックレス、あの戦いの中ではポケットに入れていた結晶石に簡単な加工が施されて首から掛けられる様にしてくれてる。
その結晶石のネックレスを握り締めて、アリスを思い浮かべる。
ありがとう。僕と出会ってくれて…。
僕達の島から大陸、此処までの旅…思い返してみると…ずっと修行をしていた様な気がするや。
だけどこれからは、ずっと修行という訳にはいかない…僕にはちゃんと、僕なりに考えがある。人魔戦争を止める為の…。
その目的の為に動き出そう。
傍らで眠るギル兄の椅子を少し動かして、良い場所に移動してもらって膝に頭を乗せる。
やっぱり、ギル兄の膝は安心できるや…。
僕は再び襲ってきた眠気に身を任せて、眠りに…就いた。
扉を開けると、内側から誰かが活動している気配がした。
アルが起きている事に気が付いた私は思わず扉を閉めてしまった。
だって…だって私は、此処には居ないハズだから。
あの戦いの後、船はボロボロ、船員は立ち上がれない、船の針路だけが取られている状態で、仕方ないので私とギルバートで乗客と協力して停泊させるに至った。
船員達は皆、ミイラにされて操られていた時の事を覚えていたみたいで、アルに泣きながら感謝を告げていた。殺されてもおかしくない状況だったのに、最小限で留めてくれた。
おまけにアルのお陰で、アル以外の乗客に被害は無いのだから…それはもう。感謝も極まるという物だろう。
その話は乗客まで伝わっていたみたいで、乗客の中には寝ているアルの姿を見てキスをしようとする女性までいた。苦しげに呻く姿が母性をくすぐり、思わず甘やかしたくなってしまう気持ちは痛い程分かる!!
おまけに、傷の痛みからなのか汗を掻いて身をよじるものだから、服が少しはだけて可愛らしい胸元が露出した時なんてギルバートが即座に隠さなかったら…一体何人の女性がアルを襲っていたのかしら。
そんな活躍をしたものだから、アルはお貴族様が資金援助をしている病院に入院させてもらっている。ギルバートが心配して付きっきりでついているから、きっと大丈夫でしょう。
…出来れば二人にお別れを告げてから出発したかったけれど、それも難しいわね。
そんな風に考えていたら、私のすぐ背後で魔力が働くのを感じた。
振り返ってみると、私の影から小さな紙片が飛び出して宙を舞って地面に着地、そんなタイミング。
拾い上げてみると、とても綺麗とは言えないけれど粗削りな鋭い字で『達者で』と書かれていた。
ギルバートね…。
裏側にはガルディアの居場所と思わしき地図が書かれていて、明らかに私に当てた物だと分かった。
ちゃんと、見送ってくれるんじゃないの…。
これからは私も戦いの日々だ。アルに待ち受けるという運命の為に、私も少しでも力になろう。
この旅立ちは、その為の旅立ちだ―――。
アルが住んできたトントルでは人々が彼を思い出していた。
港町クリッケに住む彼の幼馴染と、彼に欲情した浴場の変態達も彼を思い出していた。
彼が進んできた道が思い出となり、人々の心の中に残る。
彼が抱く優しい笑顔と共に、彼が魅せる可愛らしい姿と共に。
それが彼の旅だ。
此処までの旅で、これからの旅。
旅は、まだ続く。
―――――
別に全然続くです。引き続き次の話ではアル君を好きなように犯しますのでお楽しみ下さい。
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