勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

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第三章 商会を束ねる者

第五十二話 一閃

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 一歩踏み込んで剣を振るう。だがそれは避けられる事を前提とした相手との間合いを測る為の剣閃だ。

 それは同時に暗・小鬼にも僕の間合いを知られてしまうけれど、仕方の無い事だと思える。空間魔法を上手く使えればこういう事もすぐに把握できるらしいけれど、僕に今出来るのは物を一時的に空間に固定する事くらいだ。

『ギャワッ!』

 その振り終わりを狙ってダガ―で切り裂こうとしてくるけれど、振った後の空間に微弱ながらも電気が走り、その行動を阻害出来た。

 こんな事が起きるんだ…そっか、水を纏っているから振れば多少なりとも水は剣から離れて…そこに纏わせていた電流が残っているから。

 だとしたら、水を操って電気を纏わせればもっと色々な事が出来そうだ…けど、そんな余裕は今は無いなぁ。

 暗・小鬼は電気を警戒してなのか再び待ちの姿勢に、ダガ―を投げて来られたら反応できる自信が無いのでありがたい。

 考えろ、何か僕の出来る奇襲を。

『~~~ギャゥ!!』

 暗・小鬼も待っているだけでは無い、その長い脚を利用した蹴りを放ってきた。

 防ぐ事は出来るけれど、その衝撃に集中を乱されてしまうかもしれないと回避、突き刺すような前蹴りは僕の真横の空間を突き刺すに終わったが、蹴り出した脚を下水道の床に勢い良く降ろすと次いで支点として回し蹴りを放ってきた。

 ―――なんて事は無い、ギル兄の修行時の攻撃はもっと早かった。

 身を屈ませて避けて、攻撃に移ろうとした所で僕は頭部に強い衝撃を受けた。

『ゲヒャ!』

 喜びに満ちた声を上げる暗・小鬼は、二回転目に突入し避けたと安心した僕の頭部を刈り取りに来たらしい。

 思い切り上体を跳ね上げられて仰け反らされて、視界も暗・小鬼から外れてしまった。

 ―――まずい、すぐに立て直して。

 そこで更なる風切り音、暗・小鬼は…三回転目に入ったらしい。ダンス上手な暗・小鬼もいたものだとギル兄なら賞賛と軽口を叩くかもしれないけれど僕にそんな余裕は無い。

 自分の身体の何処を狙われるか分からない恐怖に、とにかく避けなければと思い仰け反っている方向へと跳ねた。

 僅かに靴を何かが掠め―――なんとか避ける事が出来たらしい。身体ごと壁に逃げ出して何とか避ける事が出来た。

 頭を振ってグラつく視界を元に戻す。痛みは良い、僕はそれ以上に耐えがたい物を知っているから耐えられる。

 こ、こ、こ、この前の快楽に比べればこんなの全然だ!

 暗・小鬼はキヒキヒと口から小さく空気を漏らして小馬鹿にするように僕を笑っている。

 苛立たしさに任せて剣を振るうけれど、上体を逸らして避けられて、避け切った後には挑発するみたいに上体を元に戻して舌を出された。

 む、むっかぁああああ!!

 そうか…腕も脚も長いという事は遠心力が付くという事、それも…この狭い下水道の通路で戦い慣れている暗・小鬼にとって、それは武器でしか無い…僕やギル兄の様に剣を振る時に壁や天井を気にする必要も無いんだ。

 …短期戦じゃないとまずい。

 思考の外で、音がした。

 僕の背後、その方向から小鬼がやってきていた。

 ―――ますます不味い!

 いや、不味いって何だろう。どうして不味いと思ったのかを考えるんだ。挟み撃ちにされるから?挟み撃ちにされたら困るのなら、相手はそれを有利だと思うはずだ。例えモンスターでも味方のいるいないの区別は付くし、明らかにコイツらは頭が良い。

 だったら、この不利を有利に変えろ!!

 手元の選択肢を広げるんだ。何が出来るか、何が出来るかもしれないか、やった事の無い物も選択肢に含めればかなり幅は広がる。

 暗・小鬼の避け方、小鬼が背後からやってきている事、魔法、剣―――大丈夫、いける。

『ゲヒャヒャヒャ!』『キャッ!キャッ!』『ギャ!』

 背後から三体の小鬼、目の前には暗・小鬼。

 まず最初に斬りかかるのは、三体の小鬼の方だ。大丈夫、この短時間で小鬼とはかなりの数戦って、攻撃のパターンを掴めている。

「―――んやぁ!!」

 一体目を袈裟切りに、振り終わりを狙ってきた二体目を返す形で再び斜めに切り裂く。そして同じ様に狙ってきた三体目を、先程暗・小鬼がやったみたいに回転して攻撃を避けながら―――回り際に暗・小鬼がこちらに踏み出そうとしているのを確認し―――切り裂いた。振り終わりを狙ってくる周到ぶりには感心するけれど、それしか出来ないのなら意味は無い。
  
 背後で踏み込む音が聞こえ、暗・小鬼が振りかぶり遠心力を付けながらダガ―を振り下ろして来た。

 だが、来るのが分かっていたのだからなんて事は無い、振り返りながら剣で横一文字に切り裂くだけだ!

 僕が一歩、背後に足を向けたその瞬間、暗・小鬼が踏み込みを緩めたのが何故か分かった。戦いの中で集中し、動きを見逃すまいとしていたからかもしれない。

 だけど動きは止まれない、僕は腕を振るい、背後にいる暗・小鬼へ攻撃したが案の定僕の拳・・・は避けられてしまった。
 そして暗・小鬼は避けた事を誇るかのように舌を出して僕を小馬鹿にしようとしたが、暗・小鬼が見たのは僕の背中、僕は、こいつにやられた事を仕返しするだけだ。

 前言は撤回しない、空間を固定して宙に浮いたままの剣を回転の途中で握り魔法を解除。

 目を大きく見開いて慌てる暗・小鬼の顔面を、横一文字に―――切り裂く!

 飛び散った肉片が勝利と、倒せたという実感を与えてくれる。

 こういう戦い方が出来れば、きっと色々な場面で応用を利かせる事も出来る。場面に応じた戦い方…それが大事なんだ。




 まるで見計らった様にギル兄が通路の陰から姿を出して、お疲れ様と褒めてくれた。

「暗・小鬼か、厄介な相手をよく倒した物だ」
「えへ、えへへ」

 頭を撫でて貰って、僕はちょっとどころじゃ無く頬が緩んでしまった。

 もしかしたら頬っぺたが垂れてきちゃわないかという位に、僕は嬉しくてニコニコしちゃった。

「さぁ、ついでに奴等の巣窟も見付けてきたが…アル、覚悟しろ」
「覚悟?」
「…怒りに呑みこまれない、覚悟だよ」

 そのギル兄の言葉の意味を知った時、僕は…魔人や魔獣と違い、モンスターは殺せと言われている意味を知る事に…同時に、その問題に眼を向ける事になったんだ。
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