勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

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第三章 商会を束ねる者

第五十三話 モンスター娘

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「こんな…酷い」

 下水道の深く。道を進んで進んで、匂いが強くなる方へ進んでいくと、その部屋はあった。

 異臭と表現出来れば良かったのに、何がその匂いを漂わせているのか分かってしまう。男性も女性も、様々な人が集められている。様々な人の…死体と、言葉をただ呟くだけの人形のようになってしまった存在だ。

 …一番いやなのは、捉えている小鬼達の知能だ。

 決して逃げる事が出来ない身体にされてしまっている。見たくも無い…光景だ。

「アル、知っておくと良い…モンスターってのは本来ここまで知能を持たない、ここまで知能を持つようになるには原因がある…親玉って原因がな」
「親玉?」
「そうだ…『モンスター娘』…モンスター達の頂点に立つ女性型をした知能の高いリーダーだ。『モンスター娘』達は敵を食べる事でその知能を得る事が出来る…それを配下のモンスター達に教える事で知能の高いモンスターの集団が出来るんだ」

 モンスター娘…聞いた事はあるけれど実際に会った事は無い…強い存在である事は知っているけれど戦った事も無い。

 でも、食べた分だけ強くなれるからってこんな風に人間を捕獲しておかなくても良いのに…なんだってこんな残酷な事をするんだ。
 
「同時に、モンスター娘は知能が高いだけに感情や思考、そういった部分も持っていて人間となんら変わらない反応をする。食べた相手から得た物なのかもしれないけどな…」
「それは、凄く厄介だね」

 こちらの感情に訴えかけてくるような事を言われたら、僕は動揺してしまうかもしれない。

「何でかここには居ないみたいだが…もしかしたら逃がしたか?」
「…そっか、僕今、逃げるって選択肢が消えてたよ」
「あー、まぁ、相手だって生物だからな、仲間がポンポンやられてんのに待ち構えてる馬鹿は余程の自信家か仲間が殺される事も計算済みの奴だろうな」

 だとすると、この依頼は失敗になってしまうのだろうか。

 僕が落ち込んでいると、ギル兄は何かを思い付いたのか眼を閉じて僕に人差し指を立てて静かにする様に指示を出して来た。

 僕は何をしているのか分からなかったので、取り敢えず黙って回りを観察した。

 酷い光景だ。こんなにも…こんなにも凄惨な出来事が起きたと一目で分かる場所は初めてだ。

 ふと、僕の視界の中に肉片が映った。動けなくする為に断たれ、そのまま放置されてしまったのだろう。

 本当に、あんまりだ。

 まだ生きている人もいるけれど、きっと…助からない。出血量もそうだけど、傷口は何か熱い物を当てて無理やり止血されて…。

「お、出来た…おー、いるいる…アル、お前まだ動けるか?」
「え…う、うん」
「これは…ちょっと集中していないと維持出来そうにないが…ゴブリンのモンスター娘の位置、捕捉出来たぞ…いやぁ、出来るもんだな」
「…ギル兄ってやっぱり色々と出鱈目だよね」

 後から教えて貰った事だけど、自分の魔力をとても薄く地下下水道内に広げながら空間魔法で通路を把握しようとしてみたら異物が引っ掛かったので気付く事が出来たらしい。

「アル、追ってみてくれないか?もしかしたら追い付けるかもしれないし、道に関しては俺が影魔法で教えてやる」
 
 そう言うと、ギル兄の影が僕の影に入り込んできた。

 ゆっくりと、僕の影の中に入って来る過程でゾワゾワと背中をなぞられるみたいな感覚を覚えた。

「あっ…ぎ、ギル兄…これ…」
「ばっ、馬鹿野郎、何…変な声出してんだよ…中に入ってるだけだろうが!」
「う…うんっ…ふぁ…」

 そして、僕の影の中にギル兄の影が入って完全にどうかした後で、唐突に僕の頭の中に映像が広がった。

「どうだ…見えるか?」
「う…うん、眼で見てるのとは違う…頭の中で景色を思いだそうとした時とかみたいに、少し曖昧だけど…分かるよ」

 ギル兄の空間魔法がいかに凄いのかを実感していた。

 本当に、その場にいるみたいな光景が頭に流れ込んできていた。そこにはモンスター娘と思われる。胸元と腰元を布を巻いて隠しているだけの少女がいた。

「居場所は…一応影を通して送り続けるが、それをしている間俺は動けない、アル、こいつを殺して来い」
「…うん」
「分かっているな?確かにこいつらにもこいつらの生きる道がある。だけどな、こいつらは人間も魔族も、どちらの常識も持とうとせずに、捕食した者達の知識からも学ばなかったからこうなったんだ。こいつらを生かしておけば繰り返すだけだ…殺しにくいかもしれないけれど、惑わされるな…殺せ」
「そう…だよね、彼等も生きる為に僕等を食べて、僕等は殺されたくないから彼等を殺す…うん、大丈夫、ちゃんと現実は…見えてるから」

 殺すという行為を、何も理由が無いままに行う事を僕には出来ない。

 逆に、殺す理由が明確に在るのなら僕は殺す覚悟が出来る。

 ギル兄は言っていた。

『お前は優しいから、いざって時に敵を殺せるか不安なんだ』と、だけど、僕はきちんと小鬼を殺す事が出来た。ミイラになった船員さん達は…僕が襲われるからって理由だったから、殺す事は出来なかったけど。けっかてきに彼等は人に戻れたから殺さなくて良かったと今は思える。

 モンスターを殺す事は、もう…ずっと前に覚悟を決めた事だ。





 下水道を進む。ギル兄が影を通して教えてくれる方向へ進んでいく。

 足取りが少し重たいのは、きっと戦いの疲れがあるからだ。それでもギル兄が僕を送り出してくれたという事は、僕でも勝てる相手なのだと思う。

 そして、遂に出会った。

 深緑色の肌に、おでこに小さく生えた二本の角、そしてピンク色の短髪、大きな眼は蒼い色をしていて、僕を怯えを含んだ感情で見つめている。

 下水道の奥深く…自分の身体を抱いて必死に身を守ろうとしている少女こそが…小鬼達の、モンスター娘だった。



――――

次回はえっちなお話(IF) と 本編 です。
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