勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

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第三章 商会を束ねる者

第五十四話 本当の覚悟

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「…君が、小鬼のモンスター娘なんだね」

 僕の眼の前にいる深緑色の肌をした少女は、自分の身を隠しながら頷いた。

 一見すれば肌の色が違うだけで魔人の人と変わり無いその少女が、あの凄惨な現場を創り上げた張本人である事を僕は忘れそうになってしまった。

 身に着けている布はボロボロで、思わず彼女に対する庇護欲を覚えてしまう。

「うん…君は…私を、殺すの?」


――――第五十四話 本当の覚悟

 右手に握った剣を、より強く握る事で自分が何の為に此処に来たのかを思い出す。

 殺さなければいけない相手、人の…四肢を切断し、その肉を喰らう様な相手だ。どれだけ可憐に見えたとしても、彼女を生かしておけばまた別の場所で同じ事が繰り返される。

「うん…君は、生きる為にああしたんだよね」

 だけど、彼女も僕に殺される為にそういう事をしていた訳じゃないんだ。彼女はただ生きたくて、生きる為に人を殺し、喰らい、生き延びてきた。

 牛や馬、鶏が僕らよりも知能が高くて強い存在だったら、きっと僕等も彼女の様に怯え、それでも生きる為に喰らう事をやめはしないだろう。

「うん…私も、い、生きたいから」

 当然の事だ。人間に狙われたいから人間を殺すなんて事をするモンスターはいないだろう。

 生きたいから殺し、生きたいから喰らい、生きたいから…逃げ出したんだ。どこにもおかしな事は無い、当然の行動。

 そして僕もまた。これ以上殺されたくないから殺し、次に繋がる殺しが無いように根から殺し、今もまた彼女を殺す為に追い駆けて来た。

「―――僕も、僕達人間も、明日を生きたいんだ」
「だから、私を殺すの?」
「君も殺すよ、そう…覚悟して来たから」
「そうやって、明日を生きる為に私を殺して、次も誰かを殺して、その上に貴方は生き続けるの?」

 純真な瞳で見つめられて、思わず後ずさりたくなってしまう。

 だけど、彼女は何故か殺される事を拒んでいる様には見えなかった。

「うん…僕は、殺戮の上に生きる事になろうとも、その先にある明日を掴みたいから」
「…そっか」

 彼女は立ち上がり、僕の前まで来ると攻撃の意思を感じさせないまま僕に抱きついた。

 小さな少女は、震えながら僕を抱きしめる。

「あのね…あのねお兄さん、本当に、本当に私は死ななきゃ駄目かな?」

 甘い香りが漂ってきて、これが彼女なりの抵抗なんだと分かる。男を惑わす…淫らな香りだ。。

 このまま彼女にされるがまま、この淫らな香りに身を任せてしまえばどれだけ気持ちの良い体験をする事が出来るのだろうか。

 殺してしまう前に…そんな考えが、胸の内から湧き出してくる。

 だけどそれ以上に、僕は疑問を抱いていた。

「…ねぇ、君に聞きたいんだけど」
「ふぇ?う…うん」

 屈んで、彼女と視線を合わせて会話をする。

「君達は、人間以外は食べる事が出来ないの?」
「ううん、違うよ…私達が人間だけを食べていたのは、人間が一番馬鹿な生物だから」
「馬鹿な…生物?」
「うん、人間は一人が殺されれば何故か大勢で来てくれる。牛や馬、豚はそうはしてくれない、わざわざ殺される為に集団でやってきてくれる馬鹿な生物だよ」

 …酷い言い方をするなと思う反面で、確かに彼女達が勝てるというのなら納得もしてしまう意見だった。

 不思議と、怒りの感情は沸いてこなかった。ギル兄が怒りに呑みこまれないようにと注意してくれたお陰かもしれない。

「それじゃあ君達は、人間だけを食べる訳じゃないの?」
「そうだよ、ただ人間が一番馬鹿なだけ」
「それなら、人間と同じ様にお金を使って生活する事も出来るの?」
「私は…出来るかも、だけど子供達が出来ないかな…」

 彼女はモンスター娘、その種のモンスターを統べる存在。

 その種において希少な存在、決して一人だけしか居ない訳じゃないけれど、その地域で五人も六人もいる存在では無い。


「それに無理だよお兄さん、だって私達、この生き方を覚えちゃったんだもん」

 
 涙を浮かべながら、笑みを作り震えを誤魔化すその姿に、僕は…覚悟が揺れた。

 考えたんだ。

 誰が、その生き方を覚えさせたのか…誰が、モンスターという存在が知能は低く人間に害を成す存在としたのか、それは間違いなく。僕達人間だ。

 …だけど、それを途中から直すことなんて出来無くて、だから今の世の中で、魔族と人とモンスターの三種類が出来上がったんだ。

「変える事なんて、難しいから…えへへ、初めてそんな事聞いてくれたなぁ…」

 嬉しそうに告げる彼女の姿に、僕は、考えた。

 どうすればそうならないのか、どうすればモンスターという種が人間に襲われずに生きられるのか。

 答えはあるのか、無いのか。

「ねぇお兄さん、逆に私からお願いしても良いかな?」
「どうしたの?」



「私を殺して」



 震えながら、怖いのに、それでも彼女は言った。

「私達の事、そこまで気にしてくれて、早く殺しちゃえばいいのに殺さずに何かを考えてくれて…お兄さんになら、殺されても良いよ?」
「それは…」

 そうするつもりだった。だけど、彼女の方から言われるとは思ってもいなかった。

「きっとお兄さんは、私達と共存する道を探してくれる。今は見つからなくても大陸中を捜せば見つかるかもしれない、だからお兄さんに…私の命を連れて行って貰いたい」

 ―――命の上に、殺戮の上に生きる事になっても。

 僕は、自分の揺らいでいた覚悟を固め直した。

 彼女の言葉を借りて、弱い自分を叩いて強い時分になんてすぐにはなれないけれど、それでも、彼女の前では強く見せようと思った。

「そっか…うん、僕は君を殺す…殺すよ…」
「…うん、お兄さんなら良いよ、無意味に私を殺す訳じゃないから」

 …自分から、死を受け入れる事が出来る存在。

「一振りで、首を落とすね」

 身体を大きく跳ねさせた彼女は、怖がっている事が見て取れた。

 だけど、ごめんとは思わない、彼女の決意を汚したくは無いから、ただ賞賛だけを送ろう。

「うん、お願い」

 そんなの、辛くて、強くて、格好良くて…儚過ぎる。

「最後に一つだけ、お兄さんに教えてあげるよ」

 少女はその場に座り込み、まるで教会で祈るシスターの様に両の指を絡ませて僕を仰いだ。

「モンスター娘の魂はね、削ぎ落される事無く輪廻の中を通り抜けるの」

 …聞く事しか出来ない。話せば、涙で声が嗚咽に変わってしまうから。

「私もまた…何処かで生を受ける事が出来たら、お兄さんに会いたいな、だから私の事…探して欲しいな」

 頷いた。

 何度も頷いた。

 了承の意味と、誓いを込めて。

「分かったっ…また。会おう」

「うん、また!」

 ―――そして、僕は剣を振るい、彼女の首を切り落とした。



『アルノート=ミュニャコス Lv 009
 固有能力 精と生の呪い 勇者の祝福
      
 能力   長剣術Stg.0  学習Stg.2 
      性技Stg.0   誘惑Stg.3
      炎魔法Stg.1 水魔法Stg.1
      雷魔法Stg.1 風魔法Stg.1
      土魔法Stg.1 光魔法Stg.1
      闇魔法Stg.1 影魔法Stg.1
      重力魔法Stg.2空間魔法Stg.2
      魔力感知Stg.0(NEW)

 称号   勇者     犯される者 
      譲り受けし者 千魔へ至る者
      旅立ちの徒  死神の弟子   
      魔女の弟子  ???(NEW)  』
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