勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

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第三章 商会を束ねる者

第五十六話 ぶっ飛べ

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「い…嫌ぁあああぁぁああ!!」

 聞こえて来た声に、僕は大きくバックステップして敵との距離を取って、その声の主を探した。

 夜の中で強く響いた声は位置を見つけ出すのが難しかったけれど、ギル兄を見て、彼の視線を追うとそこにはカエラさんと…同じくエルフの男が屋根の上にいた。

 何が起きているのか把握が全くできない状態で困惑していると、カエラさんの腕を握っているエルフの男が僕を睨みつけて来た。

 だ、誰なんだ。

 もしかして、僕達を襲ってきた人の仲間?

 だとしても、カエラさんが捉えられる意味が分からない、分からないけれど―――助けるべきだ・・・・・・

 そう意識した瞬間、身体に残っていた疲れが全部吹っ飛んだ気がした。いきなり体が軽くなって、手に持った剣が重さを無くした。

 助けるんだ。

 これが僕の主観的な英雄願望なのかは分からない、物語に憧れるだけの子供が一時的な考えで助けられるのは自分だけだと思い込んでいるのかもしれない。

 だけど、助けようという意思が無ければ助ける為には動き出せない!

 剣の重さは無くなってなんていない、確りと握り締めて、これまでの経験から思い出すんだ。

 ―――そうだ。さっきの戦いで身に着けた物を無駄にするな。

 剣に水を纏わせて、流水の回転を生み出して剣を覆う。

 敵はそれでも避ける。加えられた剣の範囲を的確に読んで避けられてしまった。

「あっ…アンタ、離っ…くっ…!」

 屋根の上でカエラさんが苦しんでいる。

 ―――もっと、もっとだ。もっと魔法を突き詰めろ。集中するんだ。

 水の回転の速度を上げる。雷を考えるな、水だけを―――水魔法だけを突き詰めろ。

 早く助けたいという気持ちを、回転の速さに回せばいい。

 唸りを増した剣を纏う水の回転が、槍の様に鋭く先端を尖らせていく。掘削の際に使用する手回しドリルを、高速で回転させた時の様に…。

 僕に切り掛かって来た一人の黒装束の剣をその回転する水流の剣で受けると、相手の武器が弾かれて体勢を大きく崩した。

「っあああぁああ!!」

突き刺す様に剣を動かすと、相手の内臓も、それを守る骨も削って血を辺りにバラ撒いた。

 …な、なんて魔法だ。

 襲われているのだから、相手を殺さなければこちらが殺される。さっき、地下の下水道で学んだばかりじゃ無いか。

 躊躇うな、殺せ、成すべき事があるのなら踏み出す足は大きく前に―――!

 もう一人に踏み込んで、剣を突き出して攻撃を図るが、流石に先程仲間がやられる所を見ていただけに攻撃をして来るほど愚かではないらしい。

 こんな所でもたつくな、助けたい人がいるのだから、助ける為に強くなれ。

 イメージの幅を広げ続けろ、もっともっと、水の出来る事、水の可能性、童心すら甦らせて…そうだ。

 残る敵に剣を向ける。剣先を、自分の腕から一直線に、射抜くような視線を伴って―――。

 自分の内側から引っ張って来た魔力で、新たな水を形成しながら元々剣を纏っている螺旋回転する水を後ろから押し出すイメージ―――水鉄砲のイメージだ。

「っくらえ!!」

 剣先から真っ直ぐに撃ち出されたその攻撃に敵は反応する事が出来ず。腹部を思い切り穿たれてその場に崩れ落ちた。

 これで…助けに行ける。 

 ―――集中を切った所為で、一気に疲れが体に襲い掛かった。

 だからどうした。走る時に走らなければ意味が無いだろ。

 体力が無いなら絞り出せ、足が限界なら限界を超えろ、戦いが終わったと勘違いするな、まだ戦いは続いてる!

 だから、カエラさんの下へ!最短距離で!今の僕なら―――行ける。


「こいつ…らァ!!」

 俺のツ―ハンデッドソードで何度骨を砕いても、何度甲冑を砕いても、何故か立ち上がって来るゾンビみたいな奴等。

 死霊ノ騎士、それも、修復能力に特化した一番面倒なタイプだ。

 くそっ…余分な魔力がこれ以上無いってのに、さっきので無理をし過ぎたか…!

 異常事態イレギュラーを想定していなかった俺のミスだ…下水道の探索だけで終わりだと思ってたが、何だって今日に限ってこんなふざけた…!


「ギル兄ッ!」


 アルの声に、即座に振り向く。

 アイツ…倒したのか!倒せたのか!良くやったぜ本当に…!

 倒れ伏した二人の敵が、血を大量に流している。俺が教えた事の無い技をあの場で編み出したのだろう。

 だとしたら、戦いの中で強くなったって事か…?まるで物語の勇者じゃねぇかよ…! 


「ぶっ飛ばして!!」


 後ろから走って来たアルは、突然その場で飛び上がった。風魔法を微量に使い、俺の正面に落ちてくる形だ。

 ぶっ飛ばせ…って、まさか―――。

「任せろォ!!」

 ツ―ハンデッドソードの刀身を横に寝かせる。広い刀身、アルを見ると、足を揃えて一方向だけを見ていた。俺にはその方向に何があるかは分からねぇが、そっちにぶっ飛ばせばいいんだよな!?

 スタンスを広く。身体を捻じり勢いを付ける。

 ―――行って来い!助けによ!

「ぶっ飛べぇえええぇえええ!!」

 アルの足を、ツ―ハンデッドソードの刀身で思い切りぶっ叩く。衝撃が伝わる瞬間、アルが膝を曲げて衝撃を殺したのが分かった。そして、ツ―ハンデッドソードが弧を描く中間で、自然とアルの体は空へと放り出された。

 とてつもない速度を伴って、高い空へ―――!

 行って来い、助けて来い、何が起きてるかなんて気にするな。

 助けたいのなら、助けに行く。

 お前は、それで良い!!
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