勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

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第三章 商会を束ねる者

第五十八話 後悔の中で

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☆ギルバート視点

 宿屋に帰った後、アルは部屋の中でずっと眼を閉じていた。きっと自分の魔力に集中して働き掛けているんだろう。いつマニアが来ても、戦い出せるように…。

 魔力は常日頃から使っている奴じゃ無いと、凝りみたいなのが出来て引き出しにくくなったりもする。

 それは逆に、普段から使いなれていれば引き出し易い上体を維持できるという意味でもある。

 俺も魔力が無かったからといって、死霊ノ騎士二体程度に手こずるなんて…まぁあんな空間魔法の使い方をすれば当たり前か。

 魔法は原則、規模がデカければデカい程消費する魔力が大きくなる。

 俺はあの時、歩いて来た所も含めてほぼ全域、下水道の全域に魔力を飛ばした。だからなのか、魔法の使用を止めた後にはとんでもない吐き気と倦怠感が襲ってきた。

 魔力が少なくなって、空気中の毒素を浄化する魔力の働きが低下した事で一気に…日常的な行動である吸い込み、吐き出すだけの呼吸の動きが辛くなったんだ。

 アルにはその姿を見せずに済んだが、戦っている間もかなりフラフラだったからな。

 俺もアリスに効率の良い魔力の使い方を習っておけば良かったぜ…。

 俺もアルを真似て精神集中して魔力を動かす事と、魔力の回復に務める。 

 魔力の回復方法は単純だ。自分自身が魔力に集中するだけ、魔力の存在を強く意識して、意識して、意識して…本当にただそれだけ、それだけだから…難しい。

 ついつい、何故集中しているのか…それが欲しくなってしまう。

 少しだけ、魔力感知を働かせてみる。これも意識の切り替えで出来る事の一つだ。

 …アルの魔力は、恐ろしい速度で回復している。

 元々がアルは器自体がデカイ…いや、譲り受けた器とも呼べるけれど、ともかく魔力の総量がとても多い、それだけでもかなり有利な点になるというのに、アルは集中をすると極端なまでに深く…他の事が何も考えられない程に潜る。 

 それは、魔力を回復するという点でかなり有利であり、魔力の扱いを熟達する速度が異常に早い事を頷く充分な理由だった。

 いかんいかん、俺も魔力に集中しないとな…。


☆アル視点

 届かなかった。

 届かなかった。

 僕は弱い、だから強くなろう。

 強くなる。強くなるんだ。

 その為にも魔力に集中を、魔力を身体の内側で暴れさせて、いつでも引き出せる様に…。

 魔力に集中、魔力に集中だ。

 マニアを、あの男を倒す為に…。

 取り戻すんだ。カエラさんを…。

 きっとあの人は、無理をしたら怒るから、あの人を助ける為に無茶をしよう。

 その為にも今は魔力を…魔力を身体に馴染ませるんだ。

 明日、マニアが来ると言った。

 何かを楽しみにしている様な、あの男を…邪魔だと、消えてしまえと、初めて願ったあの男を。

 僕が守りたい者の為に、勇者としてじゃない、アルノートとして…あの男を殺す為に。

 今は集中―――集中。

 集中だ―――。




☆カエラ視点

 ウチは、馬鹿や。

 本当に本当に、自分が嫌になる位に馬鹿…。

 アル君が狙われる。親父の情報を手に入れたければ手を出すな。

 その二つの選択肢を出されてウチは、酷く混乱した。誰に相談するでもなく一人で悩んで、考え付いた事は一つだけ、

『アル君が危ない』

 そう思って、昼間から街中を走り回ってアル君を探した。ウチかて強い魔法は使える。足手纏いにはならんし、戦って勝って、アル君を守れば良いんやと驕りを胸に走っとった。

 それが、このザマや…会長という立場を忘れて、頼りになるジュネの存在も忘れて、挙句の果てに舞台装置の様な扱いを受けてウチが拉致された。

 …多分、今ウチがおるのは何かの中、周りも真っ暗で、足を抱えて座らなくちゃ頭を打つ様な狭い所。

 頭の上にある物を持ち上げようとしても持ちあがらんし、魔法を使おうとしても何故か魔力が上手く働いてくれんくて詠唱で無理やり発動させようとしても何も起こらへんし…。

「最悪や…」

 結果的にアル君にも、ジュネにも、商会の皆にも迷惑掛ける事になって、どないすればええんやろ・

 何をすればいいのか、何が出来るのか、そんな事まで考えが回らんで…結局こんな風に掴まって。

 アル君…お願いや…ウチを助ける為に無理をするのだけは…やめて…!!

「ほんまに…ウチはっ…最悪やっ…!!」

 何も出来ない無力さを、ウチは…噛み締める事しか出来なかった。
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