勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

文字の大きさ
69 / 72
第三章 商会を束ねる者

第六十一話 昂りと怒り

しおりを挟む


☆マニア視点

 素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい…!!

 これほどまでに勇者としてアルノートが相応しい立ち振る舞いをするとは思ってもみませんでした。

 彼は一度も怯まなかった。圧倒的な強者を前にして、一撃でも喰らえば即死の状況で、避けて、避けて、そして新たな技、魔法をその場で閃いて実践して見せた。

 なんと磨かれた素材、なんと自分好みに変えてしまいたいのでしょうか。

 右腕が疼きますねぇ…私の右腕、魔法をより扱いやすい様に、穴を空けたこの右腕が…!

 私の過去など何も無い、ただただ普通に生きていて、突発的に私は才能を開花し魔法使いの中でも有望株として見られる様になった。

 その中で、商売として色々な事に携わり、私を気持ちの悪い目で見てくる者も多かった。

 様々な思惑を孕んだ…濁った目。

 だけど少年は違う!多くの少年は憧れの一つだけで見てくれる。

 そして勇者アルノートはそれとも違った!怒り、ただただ怒り、怒りの感情だけで私を見てくれている。

 純粋で、一つの想いで!!

 たまらないのですよ私にはそれが、嬉しくもあり、染めたくもあり、その瞳が潤む瞬間を見てみたい。

「ひふっ…ふふふふ…さぁ、黒断…私達の番ですよ」

 彼を貰う為の戦いを始めましょうか、私の欲望を彼にぶつけ、彼がどう変わるのかが見てみたい。

 その為にも、ギルバート・アードロット、この男は邪魔だ!

 殺してやる。殺して、悲しみの眼で勇者アルノートに私を見て貰うのです。

 嗚呼…楽しみで仕方が無い、勇者、勇者、勇者アルノートォ…。


☆ギル視点

 勝った。完全とも呼べるまでにアルは勝利した。

 粉々にするでも、持久戦で勝つでも無く。あいつは最後、自分の内にゴーレムの魔力を取り込んで浄化する…なんて粗技で勝ちやがった。普通なら無理だ。モンスターの魔力は人間には害だ。魔力は外気の毒を浄化する為の物、人同士ならあまり変化も無いが、それがモンスターと人だったら危なくて仕方の無い事だ。

 それでもあいつはやってのけた。我ながら、自慢の弟子だ。

 俺は、ただアルの戦いを見ながらぼーっとしていた訳じゃない。

 ずっとずっと、動かしていたんだ。俺の内側で暴れようとしてる魔力を。

 こいつは俺に言った。殺し合いをしようと、だから俺はそれに応じてやる。

 殺し合い?上等だ。

 負ければアルが汚される。それだけは絶対に許さない、アルは…アルは俺の、弟子…だから?

 分からない、弟子だからそういう風に思うのか、息子に近い感覚で見ているのか、それとも…。

 とにかく。アルはマニアには勝てない、それは実力や経験もそうだけど、こいつの炎魔法の使い方はStg.1とか2の使い方じゃ無い、確実に…Stg.3だ。

 俺はStg.3の魔法も能力も無い、戦闘のセンスと経験だけで戦ってきた男だ。絶対的な天才とは訳が違う。

 だからこそ、俺は勝ち続けて来た。

 例え腹を刺されようとも諦めず。例え腕を潰されようとも噛み付いて、俺はそうやって生きて来た。

 アルが見ているからって容赦はしない、本気で…殺す。 

「ひふっ…ふふふふ…さぁ、黒断…私達の番ですよ」

 マニアからそう声を掛けられて、俺は自分の拳を握り締めた。アルがこちらに歩いて来て、俺の眼を真っ直ぐに見ていた。

 分かってる。お前がそこまで怒りを露わにしている理由も、俺にそれを託さなきゃいけない悔しさも。

 右の手を上に掲げて、俺は勢い良く振り下ろし、空間魔法によって俺の相棒を取り出した。命を刈り取り、死全てを断つ漆黒の鎌を。

 アルの中にある俺の影を元に戻して、先に舞台上に進んだマニアを睨む。

 一歩、底の厚いブーツで前に進むと、思わず前に転びそうになった。意識ばかりが、先行して先に進もうとしていたみたいだ。

 身体も、心も、俺の弟子も叫んでる。許すなと。

 アイツが、マニアがやった事は婦女に暴行を図り拉致をして、今では何処かに閉じ込めているという。それも、完全な私利私欲の為に…だ。アルが怒っているのはその部分だろう。だが俺にはもう一つ、こいつを生かしておくわけにはいかない理由が在る。

 こいつは裏の人間で、アルを狙っている。アルを調教しようと…していやがる。

 それはつまり、自分の物にするか…はたまた。誰かに売り捌こうとしていたって事だ。

 歯が、軋む。

 久し振りだ。怒りで身が震えるのは…久し振りだ。たった一人を相手に全力を出そうと思ったのは…。

「アル…そこで見てろ」

 俺が元々居た場所に立ち、壁に背を預けているアルにツ―ハンデッドソードを投げ渡した。

「全力だ…俺の全力を見せてやる」  
 
 影が波打つ。まるで意思を持っているかのように、影はもう一人の俺。

 抑えきれず…暴れ出しそうになった怒りは全部、こいつに預けて来た。

 だからこいつも暴れたくて仕方ないんだろうな。

 さぁ…存分に暴れるぜ。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...