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第三章 商会を束ねる者
第六十二話 準備運動の前運動
しおりを挟む☆カエラ視点
暗闇の中は、いっそ心地が良い程に静かで、ウチは気付かない内に眠ってしまっていたらしかった。
だけど、少しの暖かさが頬に触れて、目を開けるといつの間にか狭い密室の中が小さな炎で照らされとった。
慌てて周りを確認すると、壁に鍵が張られているのを見付けて、鍵穴も見付けた。
…だけど、外に出て、何かが待っていたらどうすれば?
不安、動き出す事を躊躇わせるソレに、ウチは尻込みした。
その時、私の入っている何かを大きな震動が揺らした。いや、直接揺らされたというよりは、全体が揺れている感じがした。
何かが起きている。それだけは分かった。
…もしかして、アル君が来とるのかな?だとしたら、ウチは…ウチはここでただ怯えてるだけで良いハズが無い。
鍵を開けた。
重い音と一緒に開いて鍵は、それだけでは外の景色を見せてくれない。
ゆっくりと、ゆっくりと重たい蓋の様な物を持ち上げると、まず最初に蝋燭の光が見えた。
誰かの部屋?疑問に思いながらも、回りを確認して誰もいないと確信して蓋を開けた。
再びの震動…下の階、やな。
行かんと、何も分からないままや。
服装に乱れが無いかを確認して、その部屋の探索も気になったけれど、ウチは階段を探す為に部屋の外へと向かった。
――――――――――――――――
☆ギル視点
命を刈り取る瞬間に、何かが鎌越しに手に触れるんだ。
そいつの大切な何かを断ち切る感触、未来を刈り取る感触がする。
腕を斬っても生きている奴がいた。脚を斬っても生きている奴がいた。だから俺はその感触がするまで鎌を振るう事を止めない事にしている。
魔法を切り裂くツ―ハンデッドソードの方が、きっとマニアの戦うのは楽だろうな。
だが、俺はこいつを殴打するつもりは無い、完全に息の根を切り裂く。根から切り裂く。
その為にこの鎌を使う。
右手に持った鎌の柄が、重さを伝えてくる。自分自身の重さを、命を刈り取る為に振るうべき武器が持つ重さを。分かっている。命は軽い物じゃ無い、だから重たい武器を使うんだ。重たい罪を背負う様に、成し遂げる事が大きな事である程、人はその為に負わねばならない何かがある。
さぁ、刈り取るぜコイツの命。
舞台上、左手を後ろ手に腰に当てて、右手を揺らしているマニアを前に俺は鎌を右肩に担ぐように構えた。
「随分と重たそうな鎌ですが、片手でよろしいので?」
「ハッ、こんな物、片手で充分だ」
魔力が滾る今の身体であれば、先日戦った死霊ノ騎士だろうと片手で倒せるだろう。魔力が無いっていうのはそれだけきつい状態だ。戦うって行動を維持出来ない程にな。
蒼炎のマニア、その名前を聞いた事自体はあった。だが、戦場に出てくるやつでも無ければ、取引に顔を出す様な奴でもない、その思考は卓越しており常に自分の手は汚さないと聞いていた。
ガルディアが嫁さんと結婚する前、傭兵の中で出会った俺達はその後に行動を共にして、義賊紛いの事をしていた。
まぁ、その過程でガルディアは嫁さんに出会うわ俺は変な二つ名が付くわと色々あったが、その中で聞いた事があった。
当時はまだビッグネームって程でも無かったが、俺が断った連中の中にも『蒼炎だ…あの炎が俺にやれと囁いたんだ…』と話す奴がいた。
虚ろな様子で、まるで、本当に炎に囁かれたみたいに…。
蒼炎というのは、マニアが戦う所を見た事がある奴の付けた二つ名だ。
腕に蒼い炎を纏って自在に操り戦っていたという。実際、アルは炎が形を持つみたいに剣を防いだと言っていた。
更には移し火なんて空間移動の魔法まで用いやがった。間違いなく空間魔法もstg.2はあるだろうな。厄介な奴だよ全く。
だけどな、Stgなんてのは指標にしかならない、本当の強さってのは試行錯誤で生み出される。純粋な力だけじゃ勝てないのが、戦いって奴だ。
「お前の炎を掻き消してやる」
闇魔法によって俺達二人の上空に真っ黒な雲を浮かび上がらせる。雲…なんて呼べる物じゃないけどな、闇の集合体、輪郭が掴めずに雲と表現するのが一番分かり易いだけだ。
その雲から幾つもの弾が撃ち出される。マニアに向けて闇を凝縮した弾が雨の様に降り注いだ。
立ち上る砂煙、視界も奪う事が出来ただろう。これで怪我でもしていてくれれば幸いだが、
「私の炎を…掻き消す?」
だが、一瞬揺らいだ奴の蒼い炎が直撃の瞬間に動いたのを見た。防がれているだろうな。
内側から旋風を起こし砂煙を散らし、マニアは右の手を蒼い炎で覆い、その炎がまるで蛇の様に伸び、トグロを巻くみたいに身体を包んで防いでいた。
「炎というのは、太古の時代は人の武器として、今では人の利器として使われる最良の道具…私の蒼炎は決して伊達じゃありませんよ」
燃え広がる。
導火線が引かれているかのように地を走り、俺目掛けて進んでくる。
空間魔法で壁を作り侵攻を妨げてみたが、その造り出した壁さえも這う形で乗り越えて止まる事を知らない。
走り出して距離を取るが、それを追尾してくる物だからやってられないと愚痴りたくもなる。
「伊達じゃ無かろうが、炎は炎だろうが」
空間魔法を使用しながら、鎌を振る。ただそれだけのアクションで、俺に迫っていた奴の炎は掻き消えた。
マニアは僅かに首を捻り、俺に怪訝な眼を向けた。
「…おかしいですね、何をしたのです―――か?」
話し始めたから雲から闇の弾を放ってやったが簡単に防ぎやがって、つまらないやつめ。
「さてね、お前の炎の事なのに分からないのか?」
「…再び問わせて頂きましょうか!」
奴の腕を起点として広がった炎が、再び奴を取り囲み防御を形成しながら地を走り出した。
その数4、少し骨は折れるが…なんて事は無い、俺がこの鎌を使うって事は、相手を全否定するって事なんだ。
それは、相手の技や魔法すらも否定する訳で、その為の魔法を俺は見つけ出した。
この鎌はかなり特殊だ。魔力の伝導率が異常に高い、だから魔法を使用する際に効果を存分に引き出す事が出来る。
例えば闇魔法、闇は凝縮する事で強度を増し、光さえも遮り吸い込む様な漆黒の刃を形成する。夜ならば暗さは生み出す闇を周囲から集める事で、その刃はいかようにも大きさを変える武器となる。
影魔法は少しえげつない、影で構築した刃は切り裂いた対象から影を取り除く。影は己の分身、力も二分の一になるし、影が無いというだけでかなり変わって来るのだ。
そして空間魔法、空間ごと削り取る力を刃に付与する。それはつまり、何があろうとも掻き消す事が出来るのだ。削り取った空間はそのまま無に帰する。
マニアの蒼い炎がどれだけ強かろうとも、ソレが存在する空間ごと刈り取ってしまうのだから意味が無い。
中には魔法そのものに存在強化なんて意味の分からない特性を持たせてくる化物もいるが、あんなのは戦場に出てくる将軍とか、かなり戦いに慣れている歴戦の~って奴等だけだろ。
だからこそ、マニアが走らせた4つの炎程度、
―――――――斬――――――
俺の前では無意味に等しい。
一呼吸を置きながらも、闇の弾は忘れない、こいつは定期的に撃ち出しておく事で意味が在る。
「ははは、強いですねやはり…ですが…」
マニアは一呼吸を置くつもりも無いらしく。全身を防がせていた炎を右腕に集中させた。
「成程、点や線の攻撃は黒断には効かない訳ですか…でしたら、ここは一つ面での攻撃とさせていただきましょうか」
炎の腕、正直、その使い方をするのが当然だろうと思っていた物だ。腕を覆った炎が唸りを上げて形を形成する。
「これでも―――余裕かよ!?」
宙に浮かぶ闇を凝固化して特大の闇の弾を撃ち出したが、腕に集まる過程で昂りを見せた炎がそれを防いで見せた。
やっぱり…Stg.1の単体闇魔法で敵う炎魔法じゃ無いか…!
陽炎の向こう側、ニヤケ顔を浮かべたマニアが俺に一歩、歩み寄りながら言葉を投げ掛けて来た。
「さぁ、ウォーミングアップを始めましょう」
丁度良い、炎のお陰で場も温まって来た所だ。奴の炎にゃ何故か温度が無いが、演出のお陰で俺の負けん気は燃焼してるぜ。
―――――――
※参考程度に、マニアの風貌です。
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