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第四章 動乱の前日
第27話 未来研究所っ!
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アマネを連れて、ふたたび研究棟に戻ってきた。 建物の大きな階段を上って、広い場所へと出ていく。 建物の中にある大通りのような場所だ、ここから、それぞれの研究所へと行くことが出来るのだ。
「アマネ! こっちこっち」
気づくと、アマネはどこか別のほうに向かっていた。 ……って、そっちはヤミコさまの居室じゃんっ!! 手招きして呼び戻し、行き先を修正する。
2人がバタバタと走っていると、偶然通りがかった、別の人が声をかけてきた。
「ユメちゃーんっ!」
スズネが手を振りながら、笑顔で走ってきていた。 ……この子はいつも、なんだか明るくて楽しそうだ。 歴史所で歌子と話した、帰りなのかな。
最近、スズネとはちょっと話したんだよね。 憶え屋に興味を持ってくれたし、私の話も、変だとか笑わずに聞いてくれる。
雨子たちは、私の話には心底興味ないみたいなんだ。 話しても、いつもどっか別のほうを眺めてるから、こういう友達ができたのは嬉しい。
「あぁ、スズネ」
「どこ行くの?」
「未来研究所」
「未来研究所? ……そんなとこ、あるんだ」
スズネは不思議そうな顔をしながら、興味を持ったように、一緒についてくる。
廊下を歩いて、『未来研究所』に入っていく。
部屋の中は、少し整った感じだ。 辺り一面に紙が張られて、床にまで隙間が無いほど並べられているが、並べ方は整然としている。 未来研究所で働く人は、幽霊がほとんどだから、生身の人のことを考えないで、可能な限り見える情報量を、多くしているらしい。
机の上に置かれている、変なオブジェみたいなやつは、よく分かんないけど未来っぽいんだろう。
ユメが挨拶をしながら入っていくと、部屋の中にいた人が振り向いた。
「ユメ。 どうかした?」
幽霊の女の人だ。 30半ばほどに見えるが、実際は60代である。 幽霊は、見た目を変えることができるから、年齢の感じを変えることもできるのだ。 大きく変えるのは、犯罪に使う可能性があるので、禁止されているが。
ユメは床に並べられた紙の上を、無視するようにスタスタと歩いていった。 物理法則を無視するのが、得意なんだろう。 踏んでいるように見えるのに、まったく気にしてないみたいだ。
ユメは部屋を横切っていきながら、話しかけていく。
「ねえ、未来の社会をどう作っていくかを、最初に考えた時の案があったって、言ってたよね」
「あぁ、あったよ。 50年前のやつね」
この街は、50年前に、現代的な街づくりを本格的に始めたらしい。 毎日のように幽霊が新たに降霊されていて、すごく活気があったんだとか。 未来の街をどう作るかを、ワクワクしながら話し合っていたらしい。
……あぁ、いいなあ。 私もその時代に、降霊されたかったな。 毎日変な建物を考えて、変な装置を考えて……。 その時の記録が残っていると、耳にしたのだ。
「それ、どこにある? ……建物の設計図とかも、あるんじゃなかった?」
「あぁ、そうそう。 えーっと……、あの辺りかな?」
指されたほうには机があり、大量の紙が積まれていた。 研究所の資料の一部なんだろう、書類がどっさりと置かれている。
ユメはアマネを連れてそこへ行くと、目的の書類を探すように頼んでいった。 分かったと頷いて、アマネは雑にその辺の紙を引っ張っていく。
たったこれだけのことをするだけで、わざわざアマネを連れてこなきゃいけなかったのだ。 まったく、幽霊の体って不便ね。
部屋の入り口付近では、スズネがなにか悪戦苦闘しているようだった。 床に並べられた紙を踏まないように、頑張っているみたいだ。 幽霊の体なんだから、スズネは別に踏んでもいいのだが。
「……新しい人?」
そんな様子に気づき、研究員が聞いていく。 この街に来て日が浅くて、幽霊の体に慣れてないとでも思ったのだろうか。
スズネはバランスを取りながら、顔を上げて答えた。
「いや、なんか、あんまり霊っぽい動きをすると、生きてる感覚がなくなるとかって、聞いたことあって……w うぉっと、あぶねえ……。 ふぅ」
なんとか紙の海を抜け、スズネが汗をぬぐう。 研究員は、理解するように頷いて答えた。
「あぁ、そういう報告は、確かにあるね」
物理法則を無視して、空を飛んだりしていた人が、どんどん生きる気力を失って、しまいには植物状態になった……。 そんな話は、たしかにある。
『微動だにしない、人の形をしたまぼろし』なんていう噂を聞いて、面白がって調べていった歌子たちが、そういう真相にたどり着いたこともあった。
まったく動かなくなり、瞬きすらせずにぼうっとしている幽霊を目の前にしたときには、びっくりするとともに、なんとも複雑な気持ちになったという。
そこまでひどくなくとも、味覚が感じられなくなったとか、地面の感触があいまいになったとか、そういった話ぐらいならいくらでもある。
幽霊の街を作ってしまって、こんなに巨大な国家になってしまって。 ……うーん、私らは一体、正しい道を歩んでるんだろうか……?
そんな深遠なことを考えてそうな顔で、研究員はぼうっとしている。 そこへ戻っていきながら、ユメが声をかけていった。
「ねえ、手信号、考えてくれた?」
異国の文字は、どうやらこの島で使われている言葉の発音に、そのまま対応するらしい。 ……それってどう考えても異国じゃなくて、この街の誰かが作ったってことなんだけど。 雨子は『ぜったい異国だよ!!』と言い張ってたけど、他の人たちは悪戯ということで、意見が一致したんだよね。
でも、それはそれとして、この文字は使えそうなんだ。 私たちの発音と、一対一で対応する文字は、今までこの街に無かったんだよね。 ちょうどいいから、私が目をつけたってわけ。
そばの掲示板には、その『異国の文字』が一覧でずらっと書かれていた。 文字の横には、なにやら腕の形が描かれている。 ……あぁこれが、手信号ね。 みんなの世界で言うところの、手旗信号みたいなもんだよ。 腕の形を使って、文字を表して、遠くとやり取りするためのものなの。
「……何これ?」
不思議そうに眺めるスズネに、研究員が答える。
「憶え屋を、街の中にたくさん作ってるみたいでね。 遠くの憶え屋同士で、どうやってやり取りするか、考えてるのよ」
「……へー。 ……普通に伝えるだけじゃ、ないの?」
街の中を走って、人と人の間で伝達する……この街じゃ、そういうやり方しか見たことがないのだ。
ユメは、掲示板から目を離さずに答える。
「いや、普通にやったんだと時間がかかるから。 それに、こういうのって他の事にも応用が出来ると思うから、一応、考えておこうと思って」
ふむふむ、なんかよく分からないが、とりあえず役に立つものらしいぜ!! ちょっと興味が出てきて、スズネは細かく聞いてみる。
「ふーん。 ……これって、具体的に、どういう意味?」
「これは、言葉を手振りで伝えようと思って、どうやるか考えてて」
言葉を手振りで伝える……? きょとんとしていると、横で研究員が、実際に腕を使ってやって見せた。
「例えば『よろしく』なら、よ・ろ・し・く……みたいな」
「あー、なるほど!」
「ユメー」
3人が話していると、アマネの声がした。 振り向くと、さっきの紙が積まれたところは、ぐちゃぐちゃになっていた。 床にまで散らばって、大変だ!
「あーちょっと! ……まあいいや」
研究員は慌てたように叫んだが、すぐに諦めるように力を抜いた。 まあ、しょうがないか。 アマネのことは知っているから、何も言う気になれないのだ。
ユメはその場を離れて、ぐちゃぐちゃになった書類の山のほうへ歩いていく。 目的の書類は、見つかったかな。
「あった?」
「いや、無い」
アマネは首を振ってそう言いながら、紙束を元の形に戻そうとしている。 どうやっても、元の形には戻らなそうだけど。
「あれ、無かったか。 確か、記録したけどなぁ……」
背後で研究員は、不思議そうに呟いている。 ユメはしょうがないというように、鼻息を吐き出した。 まあ、50年前だしね。 そんなに期待はしてなかったけど。 そう思いながら、研究員に謝る。
「じゃあいいや。 ……ごめん、汚くなったけど」
目の前では、アマネはまだ紙束を整理しているようだ。 でも、どんどん汚くなっていくように見える。
「アマネ、それぐらいでいいよ」
声をかけると、アマネは振り返り、紙束を放り投げていった。 素早く部屋の中を走って、外へ向かっていく。
床に並べられた紙の海を、結構うまく走り抜けたが、最後の1枚だけ破れて、その辺に飛んでいく。 相変わらず元気だなあ。
「これ、どうする?」
研究員が、掲示板のほうを指して聞いてきた。 手信号は、どうしようか。 割と分かりやすく作ってるみたいだし、とりあえず採用してみるかな。 ユメは掲示板を見ながら、頷いた。
「とりあえず、やってみるか。 えーっと……あ、どうしよう」
そっか、憶え屋に記録したいけど、そのためにはまず自分で憶えていかなきゃいけないじゃん。 幽霊って、ホント不便ね。 こういう時も、全部憶えなきゃいけない。
どんよりした気分でいると、きょとんとした顔で、研究員が聞いてくる。
「憶え屋に記録しとけば?」
「いや、憶え屋に記録するために、そこまで私が憶えて、持って行かなきゃいけないから……」
「あぁ、そっかw」
掲示板をじっと見つめていたスズネが、気になったように聞いてきた。
「……もしかして、ユメ、憶えるの、苦手なの?」
「うん」
「あ、じゃあ、私が憶えておこうか? ……うわ、でも結構多いね」
掲示板の中には、かなりの量の絵が描かれている。 なにせ、発音分だけあるのだ。
「いや、いいよ。 別に得意な人、後で連れてくるから」
ユメはくるっと背を向けていき、部屋の外へと向かっていった。 相変わらず足元の紙を無視して、スタスタと紙の上を歩いていく。 スズネは慌てて、追うように言った。
「いや、ちょっと待って。 ……あ、ユメ!」
掲示板を睨むように見つめながら、スズネは迷うようにしていたが、やがて慌ててその場を離れていった。
「アマネ! こっちこっち」
気づくと、アマネはどこか別のほうに向かっていた。 ……って、そっちはヤミコさまの居室じゃんっ!! 手招きして呼び戻し、行き先を修正する。
2人がバタバタと走っていると、偶然通りがかった、別の人が声をかけてきた。
「ユメちゃーんっ!」
スズネが手を振りながら、笑顔で走ってきていた。 ……この子はいつも、なんだか明るくて楽しそうだ。 歴史所で歌子と話した、帰りなのかな。
最近、スズネとはちょっと話したんだよね。 憶え屋に興味を持ってくれたし、私の話も、変だとか笑わずに聞いてくれる。
雨子たちは、私の話には心底興味ないみたいなんだ。 話しても、いつもどっか別のほうを眺めてるから、こういう友達ができたのは嬉しい。
「あぁ、スズネ」
「どこ行くの?」
「未来研究所」
「未来研究所? ……そんなとこ、あるんだ」
スズネは不思議そうな顔をしながら、興味を持ったように、一緒についてくる。
廊下を歩いて、『未来研究所』に入っていく。
部屋の中は、少し整った感じだ。 辺り一面に紙が張られて、床にまで隙間が無いほど並べられているが、並べ方は整然としている。 未来研究所で働く人は、幽霊がほとんどだから、生身の人のことを考えないで、可能な限り見える情報量を、多くしているらしい。
机の上に置かれている、変なオブジェみたいなやつは、よく分かんないけど未来っぽいんだろう。
ユメが挨拶をしながら入っていくと、部屋の中にいた人が振り向いた。
「ユメ。 どうかした?」
幽霊の女の人だ。 30半ばほどに見えるが、実際は60代である。 幽霊は、見た目を変えることができるから、年齢の感じを変えることもできるのだ。 大きく変えるのは、犯罪に使う可能性があるので、禁止されているが。
ユメは床に並べられた紙の上を、無視するようにスタスタと歩いていった。 物理法則を無視するのが、得意なんだろう。 踏んでいるように見えるのに、まったく気にしてないみたいだ。
ユメは部屋を横切っていきながら、話しかけていく。
「ねえ、未来の社会をどう作っていくかを、最初に考えた時の案があったって、言ってたよね」
「あぁ、あったよ。 50年前のやつね」
この街は、50年前に、現代的な街づくりを本格的に始めたらしい。 毎日のように幽霊が新たに降霊されていて、すごく活気があったんだとか。 未来の街をどう作るかを、ワクワクしながら話し合っていたらしい。
……あぁ、いいなあ。 私もその時代に、降霊されたかったな。 毎日変な建物を考えて、変な装置を考えて……。 その時の記録が残っていると、耳にしたのだ。
「それ、どこにある? ……建物の設計図とかも、あるんじゃなかった?」
「あぁ、そうそう。 えーっと……、あの辺りかな?」
指されたほうには机があり、大量の紙が積まれていた。 研究所の資料の一部なんだろう、書類がどっさりと置かれている。
ユメはアマネを連れてそこへ行くと、目的の書類を探すように頼んでいった。 分かったと頷いて、アマネは雑にその辺の紙を引っ張っていく。
たったこれだけのことをするだけで、わざわざアマネを連れてこなきゃいけなかったのだ。 まったく、幽霊の体って不便ね。
部屋の入り口付近では、スズネがなにか悪戦苦闘しているようだった。 床に並べられた紙を踏まないように、頑張っているみたいだ。 幽霊の体なんだから、スズネは別に踏んでもいいのだが。
「……新しい人?」
そんな様子に気づき、研究員が聞いていく。 この街に来て日が浅くて、幽霊の体に慣れてないとでも思ったのだろうか。
スズネはバランスを取りながら、顔を上げて答えた。
「いや、なんか、あんまり霊っぽい動きをすると、生きてる感覚がなくなるとかって、聞いたことあって……w うぉっと、あぶねえ……。 ふぅ」
なんとか紙の海を抜け、スズネが汗をぬぐう。 研究員は、理解するように頷いて答えた。
「あぁ、そういう報告は、確かにあるね」
物理法則を無視して、空を飛んだりしていた人が、どんどん生きる気力を失って、しまいには植物状態になった……。 そんな話は、たしかにある。
『微動だにしない、人の形をしたまぼろし』なんていう噂を聞いて、面白がって調べていった歌子たちが、そういう真相にたどり着いたこともあった。
まったく動かなくなり、瞬きすらせずにぼうっとしている幽霊を目の前にしたときには、びっくりするとともに、なんとも複雑な気持ちになったという。
そこまでひどくなくとも、味覚が感じられなくなったとか、地面の感触があいまいになったとか、そういった話ぐらいならいくらでもある。
幽霊の街を作ってしまって、こんなに巨大な国家になってしまって。 ……うーん、私らは一体、正しい道を歩んでるんだろうか……?
そんな深遠なことを考えてそうな顔で、研究員はぼうっとしている。 そこへ戻っていきながら、ユメが声をかけていった。
「ねえ、手信号、考えてくれた?」
異国の文字は、どうやらこの島で使われている言葉の発音に、そのまま対応するらしい。 ……それってどう考えても異国じゃなくて、この街の誰かが作ったってことなんだけど。 雨子は『ぜったい異国だよ!!』と言い張ってたけど、他の人たちは悪戯ということで、意見が一致したんだよね。
でも、それはそれとして、この文字は使えそうなんだ。 私たちの発音と、一対一で対応する文字は、今までこの街に無かったんだよね。 ちょうどいいから、私が目をつけたってわけ。
そばの掲示板には、その『異国の文字』が一覧でずらっと書かれていた。 文字の横には、なにやら腕の形が描かれている。 ……あぁこれが、手信号ね。 みんなの世界で言うところの、手旗信号みたいなもんだよ。 腕の形を使って、文字を表して、遠くとやり取りするためのものなの。
「……何これ?」
不思議そうに眺めるスズネに、研究員が答える。
「憶え屋を、街の中にたくさん作ってるみたいでね。 遠くの憶え屋同士で、どうやってやり取りするか、考えてるのよ」
「……へー。 ……普通に伝えるだけじゃ、ないの?」
街の中を走って、人と人の間で伝達する……この街じゃ、そういうやり方しか見たことがないのだ。
ユメは、掲示板から目を離さずに答える。
「いや、普通にやったんだと時間がかかるから。 それに、こういうのって他の事にも応用が出来ると思うから、一応、考えておこうと思って」
ふむふむ、なんかよく分からないが、とりあえず役に立つものらしいぜ!! ちょっと興味が出てきて、スズネは細かく聞いてみる。
「ふーん。 ……これって、具体的に、どういう意味?」
「これは、言葉を手振りで伝えようと思って、どうやるか考えてて」
言葉を手振りで伝える……? きょとんとしていると、横で研究員が、実際に腕を使ってやって見せた。
「例えば『よろしく』なら、よ・ろ・し・く……みたいな」
「あー、なるほど!」
「ユメー」
3人が話していると、アマネの声がした。 振り向くと、さっきの紙が積まれたところは、ぐちゃぐちゃになっていた。 床にまで散らばって、大変だ!
「あーちょっと! ……まあいいや」
研究員は慌てたように叫んだが、すぐに諦めるように力を抜いた。 まあ、しょうがないか。 アマネのことは知っているから、何も言う気になれないのだ。
ユメはその場を離れて、ぐちゃぐちゃになった書類の山のほうへ歩いていく。 目的の書類は、見つかったかな。
「あった?」
「いや、無い」
アマネは首を振ってそう言いながら、紙束を元の形に戻そうとしている。 どうやっても、元の形には戻らなそうだけど。
「あれ、無かったか。 確か、記録したけどなぁ……」
背後で研究員は、不思議そうに呟いている。 ユメはしょうがないというように、鼻息を吐き出した。 まあ、50年前だしね。 そんなに期待はしてなかったけど。 そう思いながら、研究員に謝る。
「じゃあいいや。 ……ごめん、汚くなったけど」
目の前では、アマネはまだ紙束を整理しているようだ。 でも、どんどん汚くなっていくように見える。
「アマネ、それぐらいでいいよ」
声をかけると、アマネは振り返り、紙束を放り投げていった。 素早く部屋の中を走って、外へ向かっていく。
床に並べられた紙の海を、結構うまく走り抜けたが、最後の1枚だけ破れて、その辺に飛んでいく。 相変わらず元気だなあ。
「これ、どうする?」
研究員が、掲示板のほうを指して聞いてきた。 手信号は、どうしようか。 割と分かりやすく作ってるみたいだし、とりあえず採用してみるかな。 ユメは掲示板を見ながら、頷いた。
「とりあえず、やってみるか。 えーっと……あ、どうしよう」
そっか、憶え屋に記録したいけど、そのためにはまず自分で憶えていかなきゃいけないじゃん。 幽霊って、ホント不便ね。 こういう時も、全部憶えなきゃいけない。
どんよりした気分でいると、きょとんとした顔で、研究員が聞いてくる。
「憶え屋に記録しとけば?」
「いや、憶え屋に記録するために、そこまで私が憶えて、持って行かなきゃいけないから……」
「あぁ、そっかw」
掲示板をじっと見つめていたスズネが、気になったように聞いてきた。
「……もしかして、ユメ、憶えるの、苦手なの?」
「うん」
「あ、じゃあ、私が憶えておこうか? ……うわ、でも結構多いね」
掲示板の中には、かなりの量の絵が描かれている。 なにせ、発音分だけあるのだ。
「いや、いいよ。 別に得意な人、後で連れてくるから」
ユメはくるっと背を向けていき、部屋の外へと向かっていった。 相変わらず足元の紙を無視して、スタスタと紙の上を歩いていく。 スズネは慌てて、追うように言った。
「いや、ちょっと待って。 ……あ、ユメ!」
掲示板を睨むように見つめながら、スズネは迷うようにしていたが、やがて慌ててその場を離れていった。
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